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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第十七章 魔城島 本丸編

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第百五十話 また星群の麓で Ⅲ

 ルルス、パラトア、オルテッドの三人は、

 イグレットを負かしたドラシルへと各々武器を向け、臨戦状態へと行動を移す。


「剣塵様ってまだ死んでないんだよね」


 オルテッドがそう言うと二人は頷く。


「……もうお話はいいでしょ、とっとと戦うよ」


 パラトアは白き刃を携えた剣を握り締め、

 水が彼女の周りを漂い始める。



 戦闘開始の合図はパラトアの透明化だ。


透明(アスラージュ)……」


 それと同時にドラシルは魔法陣を展開した。


「あれが例の……」

「魔法ってよりは……魔力をただ地面に張り巡らせた陣……でも完全自動の防御魔法とかでもない」


 オルテッドがそう言うとルルスは陣を凝視した。


「……まぁよくわかんないですけど、

 とりあえず攻撃を仕掛けてみますか〜」


 ドラシルは一見的外れな斬撃を放つが、

 それは透明化状態のパラトアへと襲いかかる。


 なにもないところで火花が散ると、足音だけが響き渡り、パラトアが移動しているのがわかった。



 やっぱり私の透明化はほぼ無意味……

 なんで透明化を見抜けるの? 

 音を出さなくてもバレてる理由はなに……?


 いや……バレてるならバレてるでいい。

 さすがに集中しないとあいつでも見つけるのは苦労してるはず、なら私の集中させてればいい。


 ルルスさんとか、オルテッドさんとかもいる。


 私一人の戦いじゃないんだから



 パラトアは透明化の状態のまま、

 ドラシルへと向けて斬撃を放つ。


 その斬撃は青く、一直線にドラシルへと向かっていくとそれは双剣によって防がれた。


「!」

「後ろです〜」


 ルルスはドラシルが認識するよりも早く、

 得意のスピードを活かして背後へと周っていた。


 ルルスのブレード状の剣がドラシルの背中に触れる瞬間、ドラシルが眼前から消えた。


「こっち来るんだ……!」


 ドラシルはどうやら踏み込みによって前に飛び出し、オルテッドへと斬りかかる。


 その二対の剣はオルテッドに迫る中、

 ドラシルは背中に剣が触れる感触があり、

 咄嗟に横へとなりふり構わず跳ぶ。


「なるほど……」


 ドラシルは体勢を直して立ち上がり、

 双剣を再び作り上げて前を向いて話す。


「正直驚いている。剣塵の言葉は本当だった。

 それにダガーの貴様を除いたその二人、過去に比べ見違えるほど強くなっている」


 ルルスはそう言われてニコニコと返答する。


「覚えてくれてたんですねぇ〜」


「忘れもせぬわ。あの時、貴様らを殺していればこのような戦争は起きなかったのだからな」


 ドラシルは過去にフラメナたちと出会っており、

 その時はフラメナを殺す命令を下っておらず、

 あまりにも弱い相手のため見逃す選択をした。


「後悔した方がいいですよ〜

 あの時殺さなかったせいで、今からあなたも死ぬんです〜……」


 ルルスはそう言って剣を構えると、ドラシルは口角を上げ額に血管を隆起させた。


「誰が、死ぬと? 自惚れるな」


 ドラシルは多少イライラした様子で双剣を逆手に持ち、一呼吸の後に一瞬で姿を消す。


「!」


 ルルスは気がつけば自身の顔の横に剣がある状況であり、咄嗟に上を向いて膝を曲げると、額を薄皮一枚削がれるが致命傷を避けた。


 大きく体勢を崩したルルス、

 そんなルルスをカバーするようにオルテッドが、

 ドラシルの背後からダガーを突き立てる。


 双剣を捨ててドラシルは回し蹴りをオルテッドに放ち、続けて透明化のパラトアが放つ斬撃を避ける。


 そうして流れるように双剣を再び作り出して、

 跳び上がって斬撃を地へと向けて大量に放った。


「バケモノめ……」


 パラトアはそう言うと、

 大量の斬撃から逃げるように避け続ける。


 一方二人も同じ行動をとっており、

 着地したドラシルはルルスへと目を向け、走って急接近していく。


 ルルスはドラシルに気がつくと剣を握り直す。


「えっ」


 ルルスは驚いた。


 少し遠い場所にいたはずのドラシルは、

 すでにこちらの間合いを攻略しており、

 二対の剣がルルスへと迫っている。


 誰もルルスをカバーすることはできない。


 喰らえば死ぬか戦闘不能。

 ルルスはビリビリする感覚に襲われると、

 一つの言葉が脳裏に浮かび上がる。



 ある日のクランツとルルスの会話。


『ルルス様は真の龍刃流に近いですね』

『なんですそれー?』


『龍刃流は元々龍族しか扱えない流派だったんですけど、時の流れと共に多種族でも扱えるようになった。

 その関係で広く知れ渡っている龍刃流は一応、

 本物というわけではないんですよ』

『そうなんですね〜』


『龍族でもないのに本当の龍刃流を扱える剣士は、

 過去を見ても数えるほどしかいない。それと現三界の剣塵イグレットも本当の龍刃流使いです』

『偽物と本物なにが違うんです〜?』


『速度です。本物の龍刃流はとにかく早い。

 それを可能としているのは異常なまでの低姿勢。

 ルルス様はそれができる才能があります。

 有効に活用してみてくださいね』



 ……異常なまでの低姿勢。

 クランツさんは物知りですね〜……



 ルルスは一気に姿勢を低くし、

 限界までそれを行うと足に大きく力を入れた。


「……!」


 姿勢を一気に低くした関係で攻撃を避けたルルス。

 本来ならばルルスの行動はその場しのぎに感じられる。


 だが、ドラシルは低姿勢すぎるルルスを見て、

 それが後先考えない動きだとは思わなかった。


 ルルスは床を踏み込み、神速かのような速度でドラシルの腹部を大きく切りつけると、そのまま勢いがついたまま床を転がっていく。


「ゴフッ……」

「うぅあっ」


 ドラシルは吐血しながらもゆっくり再生する中、

 ルルスは左肩を大きく切り裂かれていた。


 ドラシルの目はルルスを一瞬のみ捉え、

 その一瞬により攻撃を与えることに成功。


 神業同士のぶつかり合いが故に、

 両者傷を負うこととなった。


 ドラシルは再生を行う中で背後に気配を感じ、

 咄嗟に振り返るとパラトアの魔力気配を大きく感じ取って、双剣を高速で振るう。


「まさか……」


 ドラシルの攻撃は空を裂いた。

 すると突如、背中の産毛が全て立つような悪寒に襲われ、氷の魔力を背中から放出。


「へへ、無駄だよぉ!」


 オルテッドのダガーがドラシルの肩を背後から突き刺し、そのまま一気に切り裂こうとすると、ドラシルはオルテッドの目の前から消えた。


「え、マジ?」


 氷の魔力によって少しばかり身体が凍ったオルテッド、ドラシルは背中の傷を治しながらもオルテッドの背後へと回る。


 大きな隙を晒すオルテッド。


 ドラシルの双剣は彼を逃さない。


 まさにオルテッドの背中をクロスに切りつける瞬間、透明状態のパラトアがドラシルの剣を防いだ。


「ふっ」


 ドラシルは笑った。

 パラトアはその笑みに悪寒を感じ、

 どうしようもなく身体がこわばる。


「みんな逃げ――」

嵐傘(らんさん)ッ!」


 ドラシルは跳び上がって回転すると、

 氷の斬撃が今まで見たこともないレベルで降り注ぎ、避けることは不可能。


 三人は迫る斬撃へと向け、

 各々が傷を抑えるために剣を振るう。


 ーーー


 数十秒もした後に斬撃が止むと、

 三人全員が床に倒れていた。


 あの量の斬撃を防ぐことなど不可能。


 ルルスは肩と脇腹を大きく負傷。


 パラトアは太ももを切られ、あと少しで大きな血管に当たり死ぬところであった。


 オルテッドは耳と腹を切られ、

 一番の重傷者でもある。


「……強すぎる」


 パラトアは自身の弱さに腹が立っていた。

 恩師の仇でもある敵が目の前にいるのに、全く有効打を与えられない。


「なんで透明化見えてんの……バカ野郎」


 ドラシルはパラトアへと助言する。


「それに頼る間は弱いままだ。

 己の剣を信じん者に勝利など論外」


 ドラシルは息を深く吐き、

 歩き出してトドメを刺そうと双剣を逆手に持つ。



「なんだと……」


 ドラシルは振り返った。


 黒い風が靡く。


「なぜ、生きて……」


 ドラシルは目にする。

 概念に愛されし超越した者の脈動を。


「……イグレットさん?」


 ルルスが困惑気味に言う。


 剣塵、イグレット・アルトリエは、

 あの傷から立ち上がったのだ。


「傷もない……それにその圧……

 ははははっ!! まさか! まさかだッ!

 剣塵! 一体貴様は我をどこまで楽しませてくれるんだッ!? 宿しているなァ! ″欠片″をォッ!」


 黒い風が強くなり、イグレットの目が赤く染まる。

 加えて髪は激しくゆらめき、緑色のオーラを纏っていた。


「……魔王側近、まだまだ俺は戦い足りないらしい。

 死から這い上がってきたぞ……この俺がなァア!」


 イグレットは完全にハイになっていた。

 気のせいだろうか、彼の顔は若く見える。


 ドラシルはそんなイグレットを見て、

 全身の肌がピリつき、自然と口角が上がってしまう。


 信じられない光景だ。

 死にかけだったイグレットが完全に再生し、

 身体的な全盛期を取り戻している。


 現実の出来事なのだろうか、

 三人はそう感じていた。



「フィナーレを飾ろうぜ」

「はっはっはっ……亡霊め、成仏させてやろう」


 再び最強同士の剣がぶつかり合う。

 戦場には黒い風が強く吹き続けていた。

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― 新着の感想 ―
ドラシルが一度も勝敗付かなかった相手…気になりますが、かつて存在した剣王の可能性は…?(彼が600年前にいたのかは分かりませんが) そしてイグレットさん!?一体何の欠片なんでしょう…? 続きが気になり…
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