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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第十七章 魔城島 本丸編

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第百四十八話 また星群の麓で Ⅰ

 魔王側近との戦いを終えた三班。


 皆の怪我は重傷と呼ぶに相応しいものばかり、

 各班の状況はこうだ。


 まずは凍獄班。


 リクスは切り傷などが深く、

 凍傷も酷いため戦闘不能状態。


 サルメトは左半身が壊死、回復の見込みは薄く、

 足も大きな怪我を負っている。


 そしてエクワナとメルカトだが、

 両者右腕を失い、大量の怪我に魔力の枯渇と、

 当然動ける状況ではなく凍獄班は全員が戦闘不能。



 そして虹帝班。


 レイテンは重傷ながらも、治癒魔法でほとんど治すことが出来たため、一応戦うことは可能だ。

 

 クラテオは両手を欠損している。

 怠惰の火を防ぐ際に焼け落ちてしまった。


 ユマバナは欠損こそないが、魔力枯渇に内臓の負傷、それに加えて粉砕骨折など内部のダメージが大きく、治癒したとて激しく動けないだろう。


 そして、虹帝ネルは戦死した。


 虹帝班はレイテンを除き全員が戦闘不能。

 ユマバナこそ魔液にて回復すれば戦えるかもしれないが、内臓のダメージも大きく激しくは動けない。



 最後に純白班。


 色欲との戦いを制したフラメナたち。


 意外にも欠損は少ない。

 *エルトレやゲルトラも傷は治癒魔法で癒やせ、

 ユルダスやライメもそう重症ではない。


 フラメナに関しては再生するので無傷。


 だが、疲労度や魔力枯渇、

 それらを加えると皆戦闘不能に近しい状況だ。


 そして、この戦いで二名が死亡している。


 レイワレとノルメラ。

 この二名の爪痕が色欲を負かす一手にもなった。


 純白班は魔液さえ与えられれば、

 ライメやフラメナはまだ動けるだろう。

 ゲルトラや*エルトレは疲労度などが大きく、

 ユルダスはまだまだ戦えるそうだ。



 戦える状況の戦士たちは前へと進む。

 大量の一般戦士たちが魔城島の低等級の邪族を討伐し、前線はどんどんと上がっていく。


 魔王の首まであと少し。


 しかし、最古にして最強の魔王側近。

 憤怒のドラシル・メドメアス。

 彼が立ちはだかる。


 剣塵率いる最強の剣士たちは、

 邪族の剣士の中で最強と呼ばれる彼を倒せるのだろうか? この世界は魔法全盛であり、魔王側近はドラシルを除いて全員が魔法使いであった。


 魔法を扱わないのはドラシルだけである。


 魔法全盛時代の前から生きる最強の剣士。


 冷気が本丸を包み込む。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 転移直後まで時を遡る。

 憤怒のドラシルと対する四人の剣士たち。


 剣塵イグレット、不視パラトア、笑死ルルス。

 そして将級剣士ではあるが東勢大陸一番と言われる、オルテッド・ラングトルア。


 火将級(かしょうきゅう)剣士の彼は、君級に劣らず強力な剣士である。


 四人から少し離れたところで床に座るドラシル。


「……かかってくるのならばいつでも来い。

 何人いようとそう結果は変わらん」


 明らかにこちらを格下と確信している発言。

 そんな言葉を聞いて穏やかでいられるメンバーではない。


 特にパラトアは恩師のガルダバを殺されている。

 あの出来事以来パラトアは変わった。


 甘い部分を全て無くし、ただ勝つためだけに剣を握って己を鍛え続ける。魔法頼りの剣術はやめ、人刃流(じんばりゅう)を名乗れるほどに極めたのだ。


 そんな彼女の瞳から光は消えている。


「随分とナメてくれるのね」

「……あの時以来か、貴様にはそう期待しておらん。

 我が唯一期待しているのは剣塵、貴様だけだ」


 ドラシルは鋭い目つきながらも指を差す。


「どうやら自分らは仲間外れみたいですね〜」


 ルルスはいつも通りニコニコとしており、

 イグレットはドラシルへと言葉を返す。


「あぁ助かるよ。俺もお前くらいしか期待できる敵がいなくて困ってたんだ」


 ドラシルはそれを聞いて口角を上げた。


「面白い返しだな。少し良い気分だ」



 ドラシルは獣族(鮫族)と魔族(光族)のハーフだ。


 鮫族は獣族でも強い部類であり、

 数も少なく大半が海で生涯を終える。


 光族はとても特殊な種族だ。

 よく悪魔族と対を成す種族とも言われている。


 彼ら光族はその者が得意とする属性に応じて、

 頭上にある光輪の色が変化するのだ。


 光輪は常に出ているわけではなく、

 強く魔力を放出したりなどすると出る。


 ドラシルは光族の血が多く、人型ながらも鮫の特徴を持っており、腕や足などにはヒレがついている。



「……好きなタイミングで来い。

 こちらから攻めることはないと思え」


 ドラシルのその発言に少し苛立つパラトア。

 オルテッドがドラシルを見て少し身震いした。


「あんな怪物と戦えるなんて……

 へへ、へへへっ、生涯悔いなしかもなぁ」


 オルテッドは黒紫の髪を持ち、瞳は青い。

 歳は二十一で霊族である彼は頭のネジが飛んでいる。


 小柄ながらもダガーを両手に持ち、

 ふらふらと横に揺れる彼には異名がある。


 拍双(はくそう)

 とにかく彼はテンポの良い戦い方をし、

 その動きで数多くの邪族を倒してきた。


「皆、先手は俺がやってもいいかな?」

「えー、僕も戦いたいですよぉう」


 イグレットの言葉につっかかるオルテッド、

 するとドラシルが立ち上がり、イグレットを指差した。


「ならん。剣塵が初手ならば多少は興が湧く。

 楽しめれば烏合の衆とも剣を交えてやろう」


 ドラシルは両腕を広げ、真っ青に染まった氷の双剣を作り出し、それを手に持って歩き始める。


 放たれる大量の圧、それは空気を重くし続け、

 冷気が屋内を包み込み、気温が下がっていく。



 向き合うイグレットとドラシル。

 黒い風が吹き始め、冷気を纏った風となり少し寒気を感じてしまうものだ。



 両者万全にて最強同士の斬り合いが始まる。


 抜刀したイグレットは、その場の三人が認識できない速度で斬りかかると、それを交差に構えたドラシルの双剣に防がれてしまう。


「なるほど、直線にて最高速度で斬りかかるか、

 悪くないが、少しだけ我には届かんようだな」


 ドラシルは剣を押してイグレットを後方に押し返すと、そのまま双剣を逆手に持ち替え、斬撃を放つ。


 高速で巨大な氷の斬撃を避けるイグレット。

 だが、その斬撃は何も必殺技ではない。


 眼前にあまりにも多すぎる氷の斬撃が現れる。


「マジかよ……」


 イグレットは刀で自身に当たりそうな斬撃を弾き、

 直撃を逃れるが結局のところ切り傷は、腕や足などに少し受けてしまう。


 後方の三人は斬撃を各自で防いでおり、

 今の攻撃で受けた傷はほとんどなかった。



 斬撃をただがむしゃらに放ったわけじゃない。

 俺を殺すために集中して放ったんだ……

 それを咄嗟に簡単に成すなんてイカれてる。


 魔王側近の頂点と言われる存在だが……

 いくらなんでも強すぎるだろ。


 ドラシルは双剣を構えながら歩き始め、

 口を開いて宣言する。


「次はこっちの番だ」


 ドラシルの体勢が一気に低くなり、

 超高速でイグレットへと向かってくる。


 その動きは龍刃流(りゅうじんりゅう)そのものだ。

 イグレットは足元に放たれる攻撃を跳んで避けると、風の魔力によって後方へと移動して着地。


 その瞬間、ドラシルが目の前に現れ、

 まさにクロス状にこちらを裂こうとしていた。


「……!」


 イグレットはその場でもう一度跳び上がり、

 風の魔力を使って滞空時間を短くして、一気にドラシルを頭上から刀で切り裂く。


 ドラシルは腕を上げて刀を受けると、

 その腕には氷が付着しており、切断にまで至らなかった。


 イグレットが着地して両者は再び向き合う。


 内心、イグレットは最悪な気分だった。



 今の攻撃すら防がれるってなると一体何が効くんだよ……俺みたいな中年でしかも後半に差し掛かったジジイが、こんなバケモノに勝てるかよ。


 ……だからって諦める理由にはならないけどよ。

 こんなに対応してくるもんなのか……?



 剣士ってのは初動の動き方だけで強さがわかる。


 ドラシルは紛れもなき強者。


 イグレットはそんな直感に少し絶望しながら、

 剣を握り直し前を見た。

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