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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第十六章 魔城島 二の丸編

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第百四十六話 向天吐唾 Ⅸ

 水の幻像と言えど、それは有象無象ではない。

 一体一体が自立した動きをするものなのだ。


 数十、数百とも言える幻像の軍勢。


 それらをフラメナたちは、

 どう対処するか分かっている。


「水っていうなら、雷はよく通すわよね」


 フラメナは白い電撃を放出すると、前線の水の幻像に直撃した瞬間、連鎖的に次々と幻像を破壊する。


 赤黒い水が舞う中、雷で作られた大鎌を構え、

 エルドレはフラメナへと切り掛かる。


氷剣(レイアスト)!」


 ライメがそう呼称すると、

 巨大な氷の剣がエルドレとフラメナを隔てる。


 その氷の剣に向けフラメナは両手をつき、

 火力を一箇所に集中させて貫通させると、エルドレは突如放出された白炎に耳を焼かれた。


 耳を焼かれたエルドレは、燃える箇所を切り落として即座に再生すると、足元から大量の水の幻像を放出する。


 ***


 転移が発動しフラメナと、

 ライメの位置が替わった。


 水の幻像へと放たれる冷気。


 それは前方を凍てつかせ、

 幻像の動きを全て止めてみせた。


 フラメナはライメの背後から走ってエルドレへと向かうと、横を高速で通り過ぎていくユルダス。


 ユルダスの最高速度は本気のエルドレであっても、

 避けることは容易ではない。


「ッチ」


 エルドレはユルダスからすれ違いざまに腹部を切られると、一瞬で再生して後続のフラメナを直視する。


血撃(ブラゲルア)!」


 エルドレが前方へと手を横に振るうと、

 大量に赤黒い水の針が作り出され、フラメナに襲いかかる。


「ははっ! モロで喰らってんじゃん!」


 フラメナは正面から針を全て喰らった。

 しかし、それは命を刈り取るほどのものでもない。


 もはや彼女の足を止めるには、死、以外ないのだ。


 フラメナは針が消えた瞬間全てを再生し、

 一瞬で距離を詰めてエルドレの腹部へと燃える拳を突き出す。


「してくることくらいわかってんだよ……!」


 エルドレは身体を大きく反らして避け、

 そのままバク転して後ろへと跳んで下がる。


「バーカ、ならその先を考えなさいよ」


 フラメナは頭から流れる血で顔の上半分が真っ赤に染まる中、エルドレを見てそう言うと小さな火球を放った。


 ***


「ブゥッルファアッ!!?」


 斧がエルドレの身体を貫く。


 火球と入れ替わるように、

 *エルトレの武器がエルドレを貫いたのだ。


 撃墜されたエルドレは再生しようとするが、

 フラメナがすぐに迫ってくる。



 血霊天領罰(ブラルラ・リュウラメ)の領域効果は、水の幻像を即座に作り出せることだけではない。


 魔力を扱う際の精密性の上昇など、

 魔力関連に関する強化がエルドレに与えられる。


 だが、それも本領ではない。


 では一体、なにがこの領域の本領なのか?


 魔法は基本的に規模が大きくなるほど発動まで時間がかかり、相手に対策されたり発動を阻止されたりしてしまう。


 だからこそ大技は扱いが難しい。


 エルドレはフラメナとほとんど同じ戦い方だ。

 それ故にフラメナの動きはなんとなくわかる。


 それでも、周りの者によって隙を作り出されてしまうのだ。


 制限ありの大技たち、それらから制限を取ってみたらどうなるのだろうか。


 そう、四人は察する。

 この領域の本当の効果というものを。



「……血裂罅(ブライアメス)


 エルドレを中心に領域内の空間にヒビが入る。


 血霊天領罰の真の効果。

 それは、一度限りエルドレの魔法を即座に発動させることである。


 領域に付与された大量の魔力を扱い、

 魔法陣を領域で完結させ呼称のみで魔法を放つ。


 至極単純な仕組み。

 しかし、それはこの状況では強すぎるものだ。


 血裂罅はエルドレの持つ魔法の中でも、

 全方位へと真っ赤な水の斬撃を放ち、黒い電撃をそこら中へと放出する魔法。


 一度の発動でかなりの魔力が持っていかれるが、

 それは領域の魔力で済ませたのでノーデメリット。


 彼が魔力消耗の節約を極めたと自負するだけはある。この攻撃によって四人全員が致命傷を負った。


 領域が崩壊する。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 二の丸があったはずの場所はすでに更地であり、

 その真ん中で立ち尽くすエルドレ。


 フラメナたちは血を流しながら倒れていた。


 反応したところで防御も回避も無意味。

 攻撃範囲と密度が桁違いなのだ。


 ***


 転移が発動して皆が一箇所に集まる。


白癒(ヒチロホリア)……」


 皆を治す治癒魔法、それでも致命傷を多く喰らった皆の身体が、完全に再生し切ることはない。


 フラメナ以外、もう動ける身体じゃないのだ。


 魔力の消耗に疲労の蓄積。

 深すぎる傷によって完治は不可。


 治癒魔法の効き目を見てフラメナは立ち上がる。



 もうみんな動けない。

 私の背中には幾つの思いが乗ってる?


 ……大丈夫、私ならできる。


 ちゃんとできる。


 継いだ思いのためにも……

 もう戻らない人たちのためにも……

 

 私のためにもなんて言えないわね。

 どうせ死ぬ運命らしいから……


 でも、こいつだけは私が倒す。


 集中するのよフラメナ。

 絶対に倒せる相手、絶対に勝つ。



「……やぁっと一対一だね」

「随分と嬉しそうね」

「そりゃあそうさ、転移に妙に動きの良い剣士。

 鬱陶しくてしょうがないやつばかり……」


 エルドレは赤黒い水を手から溢れさせながら歩く。


「魔力も切れかけで、身体も動かない。

 もう僕を邪魔するものはいない……」

「それで負けたら言い訳もできないわね」

「言ってくれるじゃん……」


 赤黒い水がエルドレを纏い始め、

 姿が少し変化していく。


 手足などが赤黒く変色し、髪は水のようになって靡き始め、辺りにバチバチと電気が漂い始める。


「……!?」


 エルドレは目を見開いた。

 それは何かを感じ取ったようだった。


「マジで……? フェゴちゃんが負けた?」


 エルドレからもう一つ、

 馴染みのある魔力が感じられなくなった。


 嫉妬と怠惰の敗北。

 エルドレは内心驚いていた。


 レアルトもフェゴも常軌を逸した強さ。

 君級戦士たちとその他は、それを超えてきたのだ。


「……どうやら、あなたの仲間は良い結果じゃなかったみたいね」


 少し挑発的にニヤけるフラメナ。


「……だからどうしたってんだ。

 この戦いには関係ない……僕たちは僕たちでやろう。待たされてうずうずしてるんだ」


 エルドレは真顔だった。

 真剣な表情、彼も仲間の死には少し思うことがあるのだろう。


「……!」


 フラメナが眼前から消えた。


 白い火を纏いながら接近してきたフラメナ、

 エルドレは後ろへとステップして距離を取ると、

 巨大な赤黒い水の斬撃を横向きに放つ。


 フラメナはそれをスライディングして避け、

 足に力を入れて跳び上がり、白炎を放つとそれはエルドレの足元へと突き刺さる。


「へぇ」


 瞬きするうちに爆発が起きるが、

 エルドレは予めその場から離れており、翼を広げて跳び上がり、空中から大量の電撃を放つ。


 高速で空を駆け回るエルドレ。

 フラメナは電撃を避けながら上を確認し、

 手を向けて魔法を呼称する。


天覆(ホルレオバ)!」


 大量の電撃が一気に上へと向けて放たれると、

 エルドレの電撃と相殺しながら、

 魔法によって辺りに閃光を走らせ続ける。


 眩しい光に思わず目を閉じてしまいたくなる中、

 フラメナが跳び上がった。


「にぃいっ!!」


 それに合わせて横から飛び蹴りしてくるエルドレ、

 フラメナはそれを腹部に喰らいながらも足を掴み、

 そのまま手から火を放出する。


「ッ!」

白球(フラホワ)!!」


 フラメナの有する魔法の中で最弱の魔法。

 しかし、それは最速を冠する魔法でもある。


 回転がかかった白き火球がエルドレの足を貫いた。


 空中にてエルドレはフラメナを振り落とし、

 貫かれた足をゆっくりと再生させていく。


「……マジッでッ!?」


 振り落とされたフラメナは足元で爆発を起こし、

 そのまま勢いによって再びエルドレの前に現れると、蹴りを横腹へと打ち込む。


「ぐっは!」

「まだまだぁっ!」


 白い火を縄のようにしてフラメナは放ち、

 エルドレの首を縛って引き寄せると、地面へとエルドレを叩きつけ、その上に火を纏いながら着地する。


「カッハァ……!」

「うぁっ!」


 血を吐くエルドレ、フラメナは落ちる寸前にエルドレが放った水の針で腹部に刺されてしまった。


 白目を剥きかけながらもフラメナを上から退かし、

 指をパチンと鳴らして怯むフラメナに、

 電撃を放って直撃させると一気に後退する。


「が……ぅ」


 血を吐いて腕を痙攣させるフラメナ。

 地面に四つん這いになりながらも雑に再生を終えると、一気に辺りの熱気が強くなり、髪の色が変わる。


「イメチェンかよ……」


 エルドレが思わずそう言うと。

 フラメナは血を吐きながらも立ち上がる。


 フラメナは髪が光り輝くような赤色に染まり、

 瞳の色が白へと変わった。


 明らかに魔力量含めフラメナの雰囲気が変わる。

 エルドレは思わず笑みが溢れると、フラメナもそれに応じて口角を上げた。


 エルドレのガクガクと震える足。

 それを叩いて治めるエルドレ。


 フラメナの息は荒く、肩が毎度動くほどだ。


「残り少々、楽しくなってキタァア!!」


 エルドレは完全にハイになって走り出し、

 もはや黒くなった水を大量に放出して全てを針にすると、それら全てをフラメナへと放つ。


 極限集中、フラメナはそれらを正面から避けることにし、隙間を通ってすべて避けてしまった。


「案外イケるわね!」

「マジかよォ!」


 エルドレは笑いながら雷の大鎌を作り出すと、

 それを振って雷の斬撃を放つ。


 眼前に迫る斬撃を間一髪避け、フラメナは地面を踏み込んで走り、大量の火をエルドレへと放出。


 あえてエルドレは翼を盾にし、

 溶けた翼越しに黒い水の槍でフラメナを突き刺す。


 肩を貫かれたフラメナ、

 苦しそうな顔をしながらもそのまま突き進み、

 お構いなしにエルドレへと拳を突き出した。


 それは想定を越えてエルドレの頬を激しく殴りつけ、後方へと吹き飛ばす。


「ブッゥハッ……!」


 槍を引き抜いてフラメナはその場で倒れ掛かる。


「っふー……ふーっ」


 フラメナは辛そうに踏ん張って耐えてみせた。


「っはははは! ははっはははぁ……!

 こんな戦い初めてさぁ……」


 エルドレが笑いながら悦に浸る中、

 フラメナは膝に手をついて少し血を吐くと、

 姿勢を直してエルドレへと視線を向けた。



「どっちも……イカれてるな」


 ユルダスがそう言うと、ライメは言う。


「フラメナは昔からずっとああだよ。

 覚悟を決めたフラメナは誰よりも強い……

 なんだってやる。それが……フラメナなんだ」


「……でも、先に尽きるのはフラメナでしょ?

 いずれこれじゃ……」


 *エルトレの不安にライメが反応する。


「大丈夫、僕とフラメナの切り札がある。

 フラメナはそれを絶対に最後に持ってくる。

 あとは僕次第だ」


 ライメもフラメナ同様、覚悟を決めていた。



 これより78秒後――


 勝敗が決する。

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