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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第十六章 魔城島 二の丸編

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第百四十五話 向天吐唾 Ⅷ

「俺はぜってーに剣士にはならないから!」


 ノルメラ・イルデルス。

 彼は魔法が大好きな少年だ。


 生まれはスロアト港であり、両親は漁師と剣士。

 家も裕福というよりは一般的なレベルで、不自由が特にない生活を送っていた。


 彼は両親の影響もあってか剣士になることを勧められていたが、魔法が好きすぎるので結果的に魔法使いとして大成している。


 等級としては帥級、大多数の魔法使いより強いノルメラだ。死ぬことは稀である。


 だが彼は死んだ。


 帥級は結局のところ、将級や君級には敵わない。

 災害を防げるほどの力もない。


 枠内での最強地位であって、規格外の者たちには淘汰されてしまうのである。


 ノルメラはフラメナたちが羨ましかった。


 まだ二十歳を超えて間もない者たちが、

 将級を経験し君級となっていることに。


 もちろん君級になるまでの苦労は知っている。


 それでもノルメラだって努力の量じゃ負けてない。


 何度も本を読み返して、実践して、

 最善の策を考えることに特化してきた。


 だからこそ悔しかった。

 この魔王側近との戦いでは、彼が考える中で最も最善の策というのは、自爆以外なかったのである。


 どうせなら老けて死んでみたかった。

 戦士として生きている以上、贅沢な願いかもしれないが、ノルメラは老衰でこの世を去ってみたかった。


 フラメナに魔王側近と戦うことを強要されたわけじゃない。むしろノルメラの自身が希望した。


 ちっぽけな力でデカすぎる悪に立ち向かう。


 無謀だって笑われても良い。


 それでも、ノルメラはちっぽけな力でも大きな正義感を持つことは、悪いことじゃないと思っている。


 確実に死んだって良い。

 死んでも何かを貫きたい。


 ここで逃げてみんなが死んだらどう思うだろうか。


 皆が戦う中、食う飯は美味いのだろうか。



 んなわけねぇ……!

 俺は弱い、なら弱いなりに何かできるはずだ。


 明確な悪を討ち果たすために、俺は正義を胸に戦ってやる。小さな力でも無駄じゃないはずだ。


 明日食う飯がなくなったって、その飯を不味いと思いたくはないんだ……だから、俺は自分を貫く。


 どうせ魔王側近は死んでないし再生する。


 それでも……紡げたはずだ。


 皆が勝つ未来を……


 頼む、勝ってくれ……フラメナ。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 フラメナとエルドレ、両者向き合う中、

 先に動いたのはエルドレだった。


 するとフラメナは片手を上げて、

 後方の皆にあることを伝える。


「みんな私と一緒に戦って」


 迫るエルドレの尻尾。

 フラメナは上げた手を勢いよく振り下ろし、

 尻尾を地面へと叩きつけた。


 フラメナの言葉を聞いた三人。


 即座に皆、戦闘態勢になり、ライメが魔法を短縮発動でエルドレへと氷魔法の冷気を浴びせた。


 少しだけ身体に霜がついたエルドレ。

 赤黒い水の斬撃を前方に五つ作り出すと、そのまま即座に放ち、フラメナへとその斬撃が迫る。


 だが、それは二人の剣士によって防がれる。


 ユルダスと*エルトレの剣によって斬撃は防がれ、

 隙ができたエルドレへとフラメナは、白炎を両手に纏って急接近する。


 エルドレはそのフラメナの動きに合わせ、

 翼を大きく広げて電撃を放つ。



 この距離じゃ流石に避けるのは無理でしょ。

 転移だって発動したところでもう場所はわかる。


 確実に一撃入れられる……!!


 ***


 転移が発動した。


「ここだァッ!!」


 エルドレは背後に感じたライメの魔力を頼りに、

 振り返って思い切り拳を突き出す。


「は?」


 エルドレの拳は氷塊を破壊しただけであった。


 ***


 再度転移が発動し、フラメナがエルドレの横に現れる。


「騙されっ!」

「あなたが勝手に騙されたのよッ!!」


 フラメナの白炎を纏う拳が、

 エルドレの横腹を強く殴打し吹き飛ばす。


 床を転がった後に、必死に火を消すエルドレ。

 再生を少し雑に終えて立ち上がった瞬間、足の腱が切られ再び倒れてしまう。


「今だァ!」


 ユルダスの攻撃はエルドレを正確に捉え、

 交代で*エルトレが剣の武器を斧へと変形させながら接近し、エルドレの首を切断する。


 ***


 転移が発動して二人が下がると、

 入れ替わりでライメとフラメナが現れた。


「ライメ、いける?」

「余裕……!」


 ライメは倒れてまま再生を終えかけるエルドレに対し、とっておきの魔法を放つ。


氷極天嵐(レイアスメクラ)!!」


 氷魔法の中でも君級に属する魔法。


 ライメは戦争前にエクワナからこの魔法を教わっていた。


 前々から使える魔法ではあったが、切り札などにするほど出力も出せず、いまいち使うメリットがない魔法となっていた。


 しかし、エクワナの教えによってライメはその魔法を使いこなすに至る。


 絶対零度とは言えずとも、人体を凍らせるには十分な冷気が竜巻のように発生し、天井を破壊して瓦礫を呑み込みながらエルドレを持ち上げる。


天炎星(イデアリーエルト)!」


 巨大な氷の竜巻へと放たれたフラメナの白炎。


 それは太陽のように膨張し続け、

 氷の竜巻へとぶつかると中へと入っていき、

 中心に滞在するエルドレへを呑み込む。


 そして次の瞬間、中で炎が破裂した。

 球体が崩れ、そこら中に閃光が走る。


 ***


 フラメナたち五人は転移で二の丸の外へと出た。

 その瞬間、二の丸全体を吹き飛ばす大爆発が起き、

 辺りが更地へと一瞬で変化する。


「……二人ってやっぱ君級なんだね」


 *エルトレがそう言うとフラメナは少し笑って話す。


「私たち二人で戦ったら君級以上。

 *エルトレとユルダスも入れたら最強よ」


 ユルダスは倒れていたゲルトラを背負い、

 ライメへと聞く。


「んで……まだあいつは生きてんだろ?」

「まぁね……まだ生きてる。

 でもかなり魔力は消耗したはずだし、

 こっちだって反撃ができてないわけじゃない」


 更地となった二の丸を覆う煙が晴れていき、

 ボロボロのエルドレが再生を終えようとしていた。


「私、いつも気になるんだけど、

 魔王側近って服ごと再生してるわよね」


 フラメナがそう言うと、ライメがそれに反応する。


「さすがに全裸は嫌なんじゃない?」

「あっははは、ちゃんとそう言うところは考えてるのね。まぁ服が再生してもしなくてもどうでもいいわ」


 フラメナは再び熱気を辺りへと漂わせた。


「あいつが死ぬまで、私たちは攻撃するだけ」



 エルドレはボーッとしていた。

 どうすればこの四人を殺せるか。



 格段に動きの練度が上がった。

 策を練りに練ってきたな……僕ちゃんここまで追い詰められたの二回目……あー、あの時はどうやって勝った? さすがに思い出せなさそうだなぁ……


 じゃあ新しく勝ち方を見出すしかないなぁ……


 あいつらを確実に殺す魔法……


 領域……聖海血染(グラドンメルツェア)は無意味だし……いや待てよ。


 じゃあもう一個作り出せばいいんじゃないかな。


 魔法は呼称する名によって強さも決まる。

 どれだけ効果内容を名に入れるかで強さも変わる。


 あいつらを殺すための……とっておきの領域。


 ははっ……すごいなぁ、レアルトちゃんはこうやってずうっと考えながら戦うんだ。


 さっきの爆発が起きた時……レアルトちゃんは死んだ。魔力が感じられなくなった。


 多分負けちゃったんだ。


 あんなに僕より才能があるのに負けるなんて、

 正直言って信じられないし、敵をナメてた。


 僕ちゃんもそうさ、こいつらをナメてた。


 でも、もう油断しない。

 本気で潰す。僕ちゃんだって少しくらい生きる意味は持ってるのさ。


 ーーー


 ユルダスはゲルトラを*エルトレへと預け、

 フラメナと共に前へと走り出す。


「領域魔法……血霊天領罰(ブラルラ・リュウラメ)


 それは一か八か、領域魔法の発動である。

 赤黒い結界が球状に更地を覆い、薄暗い空間にてフラメナたちとエルドレは対する。


「なによこの領域……」

「こんなの情報にはなかった……」


 フラメナとライメがそう言うと、エルドレは手を広げて翼を羽ばたかせて話し始める。


「そりゃあ今作った魔法だもん!!

 僕にもできるんだなぁ!」


 エルドレの辺りから大量の赤黒い水の幻像が生まれ始め、ゆっくりと皆の方へと歩き始める。



 ここでやり切れなかったらいよいよ僕ちゃん負けそう。でも今ならできるよね。


 気持ち良くなってきた。

 こう言うのだよこう言うの!!


 こう言う土壇場で成功するみたいなのが、

 いっっちばん気持ち良いんだッ!!


 あぁ脳汁が溢れるなぁぁ!

 最っ高に良い気分だ!!


「君たちさぁ! テンション上げてけよぉッ!

 僕も賭けるもの賭けたんだ!!

 さぁフィナーレを飾ろうッ!!」


 エルドレは満面の笑みを浮かべ、

 水の幻像が走り始めた。



 エルドレはハイになっている。

 傍から見れば気持ち悪い状態だ。


 戦いに終わりが見え始める。

 領域魔法によって魔力は大幅に消耗されていっている。領域が崩壊した時、それはエルドレの魔力が微々たる量しか残っていないという証だ。


 勝つのは正義か悪か。

 全て背負いし四人の戦士と、欲に従う悪魔。


「みんな、勝つわよ」


 士気は十分。

 フラメナたちに恐れはない。

 あるのは希望だけだ。

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