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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第十六章 魔城島 二の丸編

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第百四十四話 向天吐唾 Ⅶ

 ライメは天才と呼ぶに相応しい。


 フラメナと同じ年齢で君級にはなれなかったが、

 二十歳という若さで君級になるのも異常だ。


 氷魔法の威力や魔法技術の高さ。

 加えて転移魔法という唯一無二の強みを持っている。


 魔法使いとして近接戦での俊敏さは必要ではない、

 だがこう言った強敵との戦いではそれが必要となってくる。


 ライメは運動神経には恵まれていない。

 フラメナや*エルトレ、ゲルトラが倒れればライメがエルドレに勝てる未来は存在しない。


 それ故にこの戦いが始まる前、

 ライメは皆へとある策を伝えていた。


「僕やノルメラは近接戦ができない。

 色欲のエルドレは情報が正しければ、

 近接戦を好む戦闘スタイルだって聞いてる」


 ライメはそれに続けて話す。


「だから近接戦闘要員のみんなが倒されると、

 一気に勝機は消える。そこで僕は一つ策を案じた」


 ライメの出した策、それは――


「フラメナを確実に生かす」


「わ、私? でも再生するって言っても限度はあるわよ……出血が多すぎたら全然私も死ぬわ」


 ライメは一枚の魔法陣が描かれた紙を取り出す。


「君級魔法使いの癒王が残した君級治癒魔法陣。

 エテルノ王国が厳重に管理するほどの代物さ」

「ついに窃盗か……」


 *エルトレがため息をついた。


「ちっちがうよ! ネルさんのコネで貰えたのさ!

 魔王側近に特効を持つフラメナが死んだら、この戦争は勝ち目がなくなるって……この治癒魔法陣が描かれた紙はもう、世界に二枚しかない。

 その二つを僕たちは譲り受けている」


 ライメは紙を見た後、フラメナへと視線を向ける。


「君級治癒魔法はほぼ全ての傷を癒す。

 対象が死んでいなければどうにかできる。

 フラメナにはこの二枚が託されたんだ。

 それだけ、今の世界はフラメナを認めているんだよ」


 そう言われたフラメナは、少し唇を震わせながらも立ち上がってガッツポーズを取る。


「任せなさい! 私が全部ぶっ倒してやるわ!!」

「ふふっ、その意気で頼んだよ」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 こいつを殺すのは僕じゃなくていい。

 フラメナはまだ死んでいない……フラメナが完全に死ぬまでに魔法を発動させればいいんだ!


 できるか……? こいつを相手にしてそんなことが、僕たちにはできるのか……?


『不安なんてないわよ。

 やる時はやるしかないの、いつだってそうだった。

 旅でよく経験したでしょ? ライメは大丈夫。

 そう言った無理難題を全部こなしてきたんだから』


 フラメナの言葉がライメの脳内を過った。


「ふっー……*エルトレ、前を頼むよ。

 僕が全部どうにかする」

「……あたしが死んだらデコピンね」


 *エルトレが前へと走り出した。


「あははははぁっ!! 邪魔者がいない戦いは大好きだァ!! 一方的な方が僕には似合ってるやァ!!」


 エルドレは赤黒い水を腕に纏い、

 *エルトレへと水の針に加え、電撃を放った。


 水の針を避けた先にある電撃。


 ***


 転移が発動してそれを*エルトレは避けた。


 エルドレの横へと転移した*エルトレ。

 それに対してエルドレが放つ尻尾の突き。


「っ!」


 *エルトレは片手で尻尾を上から叩くと、

 跳び箱を跳ぶように跳ね上がってエルドレを越えていく。


「?」

火兎(カフルラ)!」


 *エルトレを思わず目で追ったエルドレ、

 その一瞬の隙にノルメラの火魔法が放たれた。

 それは兎のような火が何十も作り出され、跳躍しながらエルドレを囲むものだった。


「こんな魔法で! 一体何ができるって言うんだい」


 エルドレは手を横に振るうと一瞬で火を消した。


 火が消えて視界に入る光景。

 それはエルドレの予測を大きく越えたもの。


 どうせ魔法の準備だとか、

 まさに切り掛かる剣士だろうと思っていた。


転移(エクリプス)!」


 わけがわからなかった。

 近くには転移用の氷塊も作り出されておらず、

 その転移魔法の発動はあまりにも奇怪。


 フラメナを転移させるつもりなのか?

 否、そんなことをすればエルドレの攻撃によって、

 フラメナは更にダメージを受ける。


 ならばどうするか?


 現れる新たな人影。


 それは妙に見たことがある顔つき。

 本人ではない、おそらく子孫だ。


 エルドレが認めた天を裂く一撃を持つ剣士。


 ヨルバ・ドットジャークの子。

 ユルダス・ドットジャークが戦場へと現れる。


「ここにきて加勢?」


 エルドレは困惑気味にそう聞くと、

 隻腕のユルダスは剣を抜き、姿勢を低くしてエルドレを睨みつける。


 ライメのもう一つの策。

 それはユルダスの加勢である。


 転移魔法で魔城島上陸付近からここまで転移するには、エルドレの転移阻害結界を乗り越えなければいけない。


 それを成すためには大きな隙が出来てしまう。


 *エルトレとノルメラの時間稼ぎ、

 それによって現れた将級剣士ユルダス。


 閃滅と呼ばれる彼は、隻腕という大きなハンデを背負いながらも戦う。



『ユルダスには途中から参戦してほしい。

 片腕のユルダスがあの怪物に最も優位に出れる状況は、後先考えない全力だ』

『後先考えない全力……?』


『隻腕ってなるとやっぱり、近接戦は圧倒的に不利になる。だったら相手がユルダスに慣れる前に全てをぶつけるんだ。ユルダスはすごい早いでしょ?』

『まぁ……確かにそうだな』


『魔王側近は相手の魔力を無くせばこっちが勝つ』


 ライメ、本当にその通りだな。

 今の俺じゃ、こんな怪物と片腕で長く戦えない。


「ライメ、策通り行くぞ」

「任せたよ……ノルメラはフラメナを!」

「了解っす!」


 エルドレはユルダスをそう警戒していなかった。

 君級ではない剣士であり、加えて片腕。

 出来ることには限りがあるはずだ。


「!?」


 だが、ユルダスはその予測を容易に越えてきた。


 咄嗟に腕を前に突き出したエルドレ。

 それが一瞬で真っ二つに切り裂かれ、ユルダスの姿が目の前から消えていた。


 ユルダスの強みはスピードである。


 龍刃流として当たり前のように聞こえるが。

 もう少し掘り下げると、正確には瞬間的な速度だ。


 龍刃流の剣士は基本的に常に早い。

 しかし、ユルダスはあえてその部分を捨て、瞬間的な速さ、言わば踏み込んでから前に出る速度を極限まで極めたのだ。


 水が辺りに舞い、エルドレの反応速度を越えかかるユルダスは、一瞬にして大量の深傷を与えた。


凍放(レイアル)!」


 ライメは魔法を呼称すると、辺りに舞っていた水を全て凍らせ、ユルダスがライメの下に帰ってくると、

 一気にそれらをエルドレへと向けて襲わせる。


 大量の氷塊がエルドレを押し潰し、

 姿がそれによって見えなくなってしまった。


「はぁっ……はぁ、さすがに疲れる」

「……もう一回行けない?」


 すると突如氷塊が爆発し、電撃がフラメナへと駆け寄るノルメラを貫く。


「がぁっあ!」


「随分良い気になって切ってくれたけど、

 結局のところ再生にはそんなに力使わないんだよ。

 僕のこと切りまくってもさぁ、少し痛いくらいで君たちは勝てないってのぉ!」


「ノルメラさん……!」


 ライメは電撃に貫かれたノルメラを見て、

 苦汁を飲まされたような気持ちになり、氷塊から出てきたエルドレへと視線を戻す。


「あれ……?」

「マズい! 逃げろノルメラさん!」


 ライメは困惑した。

 一瞬目を離した瞬間に、エルドレがその場から消えていたのだ。


 ユルダスはノルメラへと視線を向けていた。

 エルドレは確実に一人を持っていこうと、ノルメラへと接近する。


「マジかよッ……!」


 ライメは判断を誤った。

 ノルメラをすぐに転移させなかったこと、

 視線をエルドレへと向けてしまったこと。


 *エルトレが走り出すが間に合うわけもない。

 転移魔法も発動が間に合わない。


 以上の二つをノルメラはそれを理解している。



 刹那、何かを貫く音と共に、

 見たくなかった光景が皆の目に映る。


「はいお終い」

「っが……あ」


 尻尾で腹部を貫かれたノルメラ。

 少し上へと持ち上げられた状態で、

 ライメはノルメラの手が動くのを見た。


「っ! 転移(エクリプス)!」


 フラメナがライメの下へと転移した。


 治癒魔法の紙は二つある。


 ノルメラが一つ持ち、

 エルトレがもう一つ持っているのだ。


 転移したフラメナを見たエルドレ。

 尻尾を振るってノルメラを投げようとするが、

 全く尻尾から離れなかった。


「は?」


「離さねえよ……俺は弱いから……まだ一つも、活躍してない。でも、今理解した……」


「エルトレ! フラメナをっ!」

「あたしが発動しても大丈夫なの!?」


 エルトレが駆け寄ってきて魔法陣が描かれた紙を、

 フラメナの頭に乗せる。


「大丈夫! 魔力を流せばどうにかなる……!」


 危機迫る顔で話すライメたち、

 ノルメラは確信した。フラメナが復活すると。


爆陽殺(ヘブラフンバ)……お前に送る最後の魔法だぜ」


 ノルメラは最後に笑った。


 そして辺りが眩しく光ると共に、

 ライメが氷の壁で皆を囲む。


 その壁が立った瞬間。

 外側で轟音と共に爆発が起きた。



 ライメはノルメラの最期を知っていた。

 事前にノルメラはこうなるならば自爆すると、

 ライメに伝えていたのだ。


「ノルメラさん……できることなら、

 あなたにも生きててほしかった……」


 まるで死ぬ前提の作戦。

 だが、現実というのは非情で、ノルメラがこの戦いを生きて帰れる保証など全くなく、自爆の作戦はあるべきものだったのだ。



「……夢」


 フラメナが目を開けた。


「フラメナ……ノルメラさんが死んだ」


 ライメが戦況を伝えると、

 フラメナは起き上がる。


「……ノルメラ、約束全部破るのやめてよ。

 ほんと、ごめんね私がヘマして。

 もうヘマしない。あいつの殺し方を覚えたから」


 ノルメラが確信した先にある勝利。

 彼のためにも現実にして見せよう。


 フラメナは再び、髪の末端が真っ赤に染まり、

 瞳が桃色に変色すると手足が薄く白くなる。



 氷の壁が崩れ、再生を終えかけるエルドレを見るフラメナ。エルドレは口角を上げた。


「雑魚らしく理にかなった死に方だよ。

 自爆されたせいで君が復活しちゃった」

「……ノルメラを殺してどう思った?」


 エルドレはそう聞かれると、

 少し微笑んで答える。


「楽しいなって思ったよ」

「そう……なら……」


 白炎が崩壊しかける二の丸を駆け巡り、

 戦場へ再び白き熱気が漂う。


「地獄に行く前に体験させてあげるわよ」

「大口ばっかでダサいね……ははっやってみろよ」


 ピリッとした雰囲気の中、戦いが再開する。

 両者これが最後のぶつかり合いだと察している。


 エルドレとの戦いは遂に終盤戦を迎えた。

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