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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第十六章 魔城島 二の丸編

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第百四十三話 向天吐唾 Ⅵ

 色欲のエルドレは今まで何人殺してきたのだろう。


 それは本人も覚えていないほどであり、

 彼に蓄積した恨みは相当なものだ。


「お前は……なんで善良な者たちを殺すんだッ!!」


 こんなことをよく言われる。


 戦いの末に致命傷を喰らった戦士は、

 エルドレの人格を否定し始める。


「なんでって……楽しいからさ」


 戦いによって生まれる愉悦。

 それがエルドレにとっては最も魅力的な蜜なのだ。



 700年、長い間僕は人を殺してきた。

 何千何万何十万も……でも殺すたびに心の底から湧き上がってくるあの幸福感が忘れられない。


 僕はこうすることでしか幸せを味わえないんだ。


 ーーー


 エルドレは邪統大陸生まれである。

 父親は蠍族で母親は悪魔族。


 邪統大陸は魔王軍が出来るまでは、

 一人の王が統治していたとされる。


 それはエルドレの父親、ジャルカラ・メラデウス。

 その時代の君級邪族は六名。


 ジャルカラは頂点に君臨するほどの邪族だった。

 同時代にいたドラシル・メドメアスも、彼に対しては下手に攻撃を仕掛けなかったそうだ。


 現に二人は三度の戦いで引き分けを三回起こしている。


「エルドレ、殺しは悪じゃない。

 オマエが生きたいように生きて、誰かが死ぬのならそれは世界が定めた仕組みの一つに過ぎん。

 弱い者は淘汰される。オマエは強い、好きに生きる権利があるのだから、胸を張って貪欲に生きろ」


 この言葉は今でもエルドレの心に残っている。


 ジャルカラは圧倒的なまでに強く、

 悪と呼ばれるに相応しい暴君ぶりだった。


 敵味方関係なしに暴れる姿は怪物。

 誰も彼に勝とうとはしなかった。



 だが、ジャルカラは死んだ。

 突如襲来した無名の邪族。


 容姿は人族であるが圧倒的なまでに魔力量が多い。

 それはジャルカラなどを大きく超えたもの。


 エルドレは十九歳の頃にそれを目に入れ、

 父親の死などはどうでも良くなるくらいに、

 その者の強さへと魅入ってしまった。


「邪族の頂点はさすがに強いな……」


「おじさん。なんでそんな強いの?」


 エルドレは父親の亡骸を前にしても、目を輝かせ親の仇でもある者にそう聞いた。


「……私がこの″世界″だからだ」


「僕を連れてって。絶対に後悔させないよ」


 そう言うエルドレに父親を殺した者は少し驚き、

 笑いながらそれを承諾する。


「ははははッ! イカれてるなぁ。

 仲間意識の欠片もない子供、気に入った良いぞ。

 だが、この力に耐えられたらの話だがな」


 その者はエルドレへと近づき、胸に手を当てる。


「お前は強い。深く考えずとも強き力を持っていることがわかる。さぁ死んでくれるなよ」


 心音が跳ね上がった気がした。

 次の瞬間、エルドレの身体中の血管が浮き上がり、

 口と鼻と耳から血を吹き出して、悶絶する。


「ぁっ……がっ、はぁっ、ぅうっ!」


「私の名はトイフェル。後悔させてくれるなよ」


 エルドレは大量の血を吐きながら笑みを浮かべる。


 こうして700年続く悪夢の実体が生まれた。


 トイフェルという男には二人の仲間がいた。

 零命(れいめい)、ドラシル・メドメアス。

 陽月(ようげつ)、フェゴ・ガルステッド。

 

 新しい異名が付けられるのは少し先の話だ。


「ジャルカラの子か……奴は死んだのだな」

「あはは〜トイフェル様が殺しちゃった〜」

「どう言う感情なんだお前ー」


 居心地は悪くない。

 親が敵対していただけで、ドラシルはエルドレのことを嫌っていないようだった。



「エルドレェェエッ!!」

「そんな叫ばなくてもちゃんと聞こえてるよぉッ!」


 エルドレは君級剣士を単独で撃破した。

 これは異常事態だ。


 君級邪族はそもそも、ドラシルのような何百年に一度レベルの者でなければ、君級戦士を単独で撃破など非常に難しいことである。


 それをエルドレは成してしまったのだ。


「これが力ねぇ……案外良いじゃん」


 エルドレは父親譲りの毒、母親譲りの戦いの自由さを引き継いでおり、非常に強い存在だった。

 そこに与えられた魔理の欠片。


 彼を止められる戦士などその時代にはいなかった。


 ーーー


 生命は愚かで醜い。


 命は屍の上に成り立つ最も罪な存在。

 誰だって罪を背負って生きてるんだ。


 そんな者同士で正義だとか悪だとか、

 二極な決めつけは正直、命に失礼だよ。


 僕ちゃん的にこの世界はさ、

 常に平等になるように作られてると思う。


 悪いことした奴には不幸が返ってくる。

 良いことした奴には幸せが返ってくる。


 でも、たまーにだけど上手くそれが起きない時もある。僕ちゃんはそこで気づいたんだ。


 運命は個々の力次第で変えられるってね。


 だから僕ちゃんはこうして生きている。


 みんなから悪だと言われ恨まれても、

 こうして僕ちゃんは生きているんだ。


 でももし、一つ願いが叶うのならば……

 僕ちゃんは笑い合いの戦いをしてみたい


 魔理様はそれを叶えてくれると言った。

 僕ちゃんはそれを信じる。


 だから、こんなところで死ぬような運命は受け付けてない。欲にまみれてこそ人生だ。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「*エルトレとノルメラ、ライメを守ってあげて」


 フラメナが振り返ってそう言うと、

 二人は頷き、フラメナから溢れる熱気とも言える魔力の圧で髪の毛が靡いた。


 ライメは転移魔法へと極限集中した。

 フラメナが指示したことつまり、本気で正面から一対一で戦うということ。


 だが、フラメナも一人では勝てないことを理解している。そこでライメなのだ。


 二人の絶対的な信頼関係の上で行われる魔法の合わせ、それを成すためには*エルトレとノルメラの力が必要だ。


 フラメナは冷静だった。


 この戦いは単なる正面衝突では勝てない。

 ならば何か細工を加える必要がある。


 幼少期、クランツから教えてもらった魔法の知識は、今でも使えるものばかりだ。


 脳内を過ぎる幼き頃の記憶。



 魔法使いは基本一人じゃ戦わない……

 誰かと一緒に戦うのよね。わかってるわ。

 そう言うことは旅でよーく理解したもの……

 

 私に足りないのは身体での連携じゃなくて、

 魔法同士の掛け合わせ……


 ライメの転移魔法と私の魔法でこいつを倒し切る。


 混合魔法も全部使って倒す。


 なんとしてでも倒す。


 絶対に、倒す。



 フラメナの瞳が上半分は真っ赤に染まり、

 下半分は桃色に染まって輝きを得る。


極血水(ダガ・ブラアルテ)!」

白月針(ホニフラト)……!」


 エルドレは赤黒い水を纏い、

 フラメナは真っ白に燃える長い針を手に持つ。


 両者の吐く息がぴったり合わさった瞬間、

 床のタイルが剥がれるほどの衝撃で踏み込みが行われ、豪速で間合いを詰める。


 赤黒い水は針のように変形し、それをフラメナが白炎の針で貫くと、エルドレの尻尾が突き出される。


 ***


「!」


 転移が行われてエルドレの背後へと周ったフラメナ。大きすぎる隙を前にフラメナは白き電撃を放ってエルドレの身体を貫かせた。


血雷扇(ブライルファ)!」


 エルドレの翼が広げられ、バサっと音が鳴ると、

 赤い電撃が翼から大量に放たれ、フラメナへと直撃した。


「ぐっ……ぅ」


 痺れによって動きが止まるフラメナ。

 すぐさまエルドレは尻尾を突き出して腹部を貫こうとしたが――


 ***


 転移が発動した。


 エルドレの頭上へと転移したフラメナ。

 足から火を放出して体勢を直し、下にいるエルドレへと向けて両手を向けた。


天覆(ホルレオバ)!」


 およそ五十は超えるほどの白き電撃が床へと向けて放たれると、エルドレはそれを防ぐために水を上へと向けて大量に放出する。


 閃光。


 真っ白な閃光が走ると、空気が揺れて一瞬音が消えたのちに大爆発が起きる。


「ぁっがあああ!?」


 エルドレは致命傷を負って吹き飛び、

 壁を貫いてそのまま奥の部屋にて倒れた。


「電撃の先に火を混ぜたなぁ……

 だから爆発したのかぁ……ッ!」


 エルドレは再生を終えて立ち上がり、

 フラメナへと向かって走り出した。


 赤黒い水の針が五つ作り出され、それが放たれるとフラメナは上手く身体を動かして全て避けると、目の前に来ていたはずのエルドレが水となって消えた。


「!?」


 ***


 転移が発動しフラメナはその場から離れると、

 背後から気配がしてフラメナは咄嗟の振り返って火を放った。


「まさかっ!」


 その背後にいた存在さえ水の幻像。


 完全なる隙が生まれ、エルドレはフラメナの背後から尻尾で腹部を貫く。


「あがっ……!!」


「再生はさぁ……貫かれた状態じゃ行えないよねぇ」


 尻尾を抜かずにフラメナの首を掴むエルドレ。


 エルドレは片手に赤黒い水の剣を作り出し、

 肩を数回突き刺したのちに背中を一気に切りつけ、

 そのまま腕の筋を切り刻んで終いに、首の太い血管を突き刺して下へと剣を引いた。


「っぁ……」


 大量の血が溢れ出し力が抜けて倒れるフラメナ。

 いくら欠片があろうとこの傷は死に至るものだ。


 意識が遠のき、血溜まりが床へとどんどん広がっていく。



「転移の弱点も知ってるし、こいつが転移頼りなのも僕は知っている。たった一手が死に至るんだよ。

 まぁ、生き返ってきそうで怖いけどね。

 だからぁ……その前にそこの三人全員ぶっ殺す」


 エルドレは恍惚な表情を浮かべて、三人へと指を向ける。


 フラメナの目は虚だった。


「っ……ぶっ殺してやるッ!!」


 ライメの怒気の籠った声。

 今のライメにいつもの優しく可愛げのある顔はない。怒り真っ黒、全身の血管が破裂しそうだ。


 辺りに冷気が満ちる。

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