第十四話 かわいそうな子
虹剣1681年5月14日。
この日は記念すべき、初仕事。
ガレイルにて三人はルルスと合流する。
「おはようルルス!」
フラメナは気持ちの良い挨拶でルルスの肩を触ると、ルルスはニコニコと相変わらずの表情で振り返って挨拶を返してくる。
「おはようです~」
そう言われ、クランツとリクスが続いてルルスへと挨拶する。
その挨拶に対してもルルスは軽いノリで返すと、一番にルルスはあることに言及した。
「昨日解散した後気づいたんです〜、″自己紹介″まだでした〜、なんならあなた達の名前も知りません〜」
フラメナはそれを聞かされて非常に驚いた、そう言えば自己紹介などしておらず。ただノリで少し会話して解散したのだ。
「私はフラメナ・カルレット・エイトールよ!」
「クランツ・ヘクアメールです」
「リクス・テルマドール……」
三人が軽く名前を言うとルルスは頷きながら話す。
「やっと知れましたぁ〜、これで気になることは0です〜」
ニマニマと嬉しそうに頷くルルス。そして間を置いてクランツがこれからのことを話す。
「まずパーティ名を決めましょう」
「パーティ名なんてあるの!?」
「えぇありますよ」
リクスが手を上げてパーティ名を言う。
「″最強″が良い」
「流石に率直すぎますよ」
「リクスは中々良い線を行くわね…なら私は究極混沌神最強パーティが良いわ!」
「何が良い線ーー」
「なによ!」
「ん″ん″!……フラメナ様、流石にそのネーミングは後悔するかと」
残るはルルスだけ、クランツは期待せずに目を向けると、ルルスがその目線に気づいてパーティの名前を言ってくる。
「異強パーティとかどうです〜?」
「悪くありませんが、意味とかはあります?」
「クランツさん以外みーんな嫌われ者、異質な集まりだけど、結局強いから″異強″ですぅ〜」
案外悪くない。そんな言葉がクランツの脳内に浮かぶ
「……それにしましょうか」
クランツは少し考えてそう言うと、パーティ名が「異強」に決まった。フラメナは少し不服そうにしながらも渋々それを受け入れる。
受付にてパーティの結成を終え、早速依頼を受注する。依頼内容は剣王山脈麓の森、そこにて出没する下級から中級を冠する鳥の邪族狩り。
「クランツは戦わないのよね?」
「リクス様の側で観戦させていただきます。もちろん危険な状況になれば助けますが」
「ふふ、悪いけどクランツの出番なんてないわ!」
威勢よくそう言うフラメナ。
しばらくして一行は馬車を使って目的地へと向かう。相変わらずクランツは気分が悪そうである。
目的地に2時間ほどで到着すると、そこは普通の見た目をした森であり、微かに魔力を感じる程度で、戦う相手がそう強くないことを示唆していた。
早速森へと入って数十分、接敵は急なもので遠くから木々を抜けて大きめな鳥が襲いかかってくる。
フラメナは手を向けると短縮発動で白い火を放ち鳥を撃墜する。口ほどにもない相手に少々物足りなさを感じていると、奥から大量の鳥がやってきた。
「フラメナお嬢様〜これって全部倒しても良い〜?」
「少しくらい残しなさいよ、私も戦いたいから!」
「はぁ〜い」
ルルスはニコニコとブレード状の剣を抜いて一気に跳び上がると、木々を蹴っては加速し鳥の大群へと突っ込むと、一体ずつ確実に切り裂いて、舞うように狩り始めていく。
邪族を切り裂く際のルルスは相変わらずニコニコしていたが、その笑みはどちらかと言うと愉悦、邪族を殺すことを楽しむかのような笑顔。
全て狩り終えてしまいそうではあったが、十体ほど残してこちらへと帰ってくる。
「すっごい強いのね!」
それ見てフラメナは嬉しそうに、ルルスへと視線を向けた。
「ありがとです〜」
フラメナはそう言うと、ニコニコとしたルルスから視線を外して鳥達へと目を向けると、魔法陣を展開し手を向ける。
「白球」
フラメナの手から放たれる真っ白な火球、それは前方に迫る鳥達へと一直線に放たれ、直撃すると爆発かのように火が溢れ、一気に壊滅する。
「綺麗ですね〜」
「余裕ね!」
フラメナは腰に手を当ててそう言うと、クランツが後ろから風の斬撃を放ち、最後の生き残りを逃さず排除した。
「余裕ですが見落としもありますよ」
「あっ……ま、まあ!結果オーライよ!」
誤魔化すようにそう言うフラメナ、するとルルスがクランツへと質問してくる。
「これで終わりですか〜?」
「一星級の依頼じゃ物足りないようですが、これで終わりです」
「ふへへ〜呆気ないです〜」
「そうね!もっと強いのと戦いたいわ!」
そうは言うがどうしようも出来ない、こればっかりは依頼をこなすしかないのである。
リクスが三人へと話しかけた。
「お前ら強いんだな」
そうリクスは言う。少し感心しているのだろうか。
その瞳に少しだけ輝きが見えていた。
初仕事は呆気なくも終わりだ。
このくらいがちょうどいい。初仕事からキツい内容では、今後のやる気に響いてしまうからな。
クランツはそう思いながらも、この依頼で色々わかったことがあり頭の中でまとめていた。
フラメナお嬢様はもうスムーズに戦えるレベルにはなってる。二級一級程度なら一人で勝てるライン…
だが一番驚いたのは、ルルスの実力だ。
あの踏み込みは龍刃流と言えどかなり早い、上級程度は余裕で達してる。
それにいくら低級と言えど一瞬であそこまで数を減らす剣術、指示さえ出せば連携も取れる。
案外まともなのか?
四人は依頼完了を伝えて報酬金を貰う。
「報酬の陸貨、銀貨一枚です」
陸貨、それは全大陸で使われる通貨。
銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨と六種類存在している。
報酬金を貰った後はまだ昼過ぎだったので早速食事をしに、王国内のレストランへと向かった。
パスィオン王国の料理はフィエルテ王国に比べて、パンと何かを合わせて食べるのが主流だ。
料理を注文して四人は早速会話を始める。
「ねえルルスってこの大陸出身なのよね」
「そぉ〜ですよ。自分は生まれも育ちも東勢大陸ですぅ〜」
「何歳なんだ?」
リクスが率直に歳を聞くと、ルルスはそれに嫌な反応もせずに答えた。
「十七歳ですよ〜、村の外に出たのは一ヶ月前です〜」
「なんで村の外に出たのですか?旅をしている雰囲気もなかったですし……」
クランツがそう言うとルルスはニコニコしながら答えた。
「追い出されたんだ〜」
「ええ!?なんでよ!」
フラメナがそう言って驚くと共に困惑する。
ルルスは淡々と語り出す。
「自分の村は邪族を崇拝してたんですよ〜知性なき者を殺めるのは罪だと、でも邪族はお構いなしに村を襲う。ってなれば殺すじゃないですか〜、殺したら追い出されましたぁ〜」
自分の頭に手を当てて「あちゃ〜」という雰囲気を出すが、他三人からすれば胸糞も悪い話である。
「なにそれ、ルルスがいなかったら村が壊滅してたじゃない!」
「それが本望らしいですよ〜」
「バッカみたい!」
クランツがルルスへと聞いた。
「剣術の師はいないようですが……どうやって学んだんです?」
「本を見て真似してただけです〜」
「真似してあそこまで強くなるなんて凄いですね」
「それほどでも〜」
それを聞いてクランツは、ルルスの実力がどれほどか考え始める。
ルルスの実力は恐らく上級の中でも帥級に後一歩程度、話を聞く限り村を一人で守ってた可能性もある。そうなればここまで強いことにも納得がいくな。決して悪い奴じゃないが……不憫だな。
「ルルスってこれからどうするの?」
フラメナお嬢様の率直な疑問。
それもそうだ。ルルスは村を追い出されてこれからどうしていく?どうやって生きていくつもりなんだ?
「貴方達のパーティに寄生させてもらいますぅ〜」
「言い方がちょっと変ね!寄生じゃなくて、私たちと一緒にパーティを組んだ仲間よ!」
「うへへ〜フラメナお嬢様には恩を売りつけられてばっかりです〜」
「お嬢様は要らないわ、固いのは仲間らしくないじゃない!」
「クランツさんは固いですけどね〜」
「クランツはちょっと…直せないのよ!」
よく言うよ。
まあこの言葉遣いをやめたらマジで戻れる気がしなくなるから、半分合ってるな。
「ん〜〜……じゃあフラメナさんはダメです?」
「まぁ、良いわよ!」
「ありがとうです〜」
おかしいな、フラメナお嬢様の方が七歳も年下なはずなんだが……こうなんか、ああ言うタイプとフラメナお嬢様は相性が良いのか?
「あっそう言えば〜リクスさんに聞きたいことがあったんですよぉ〜」
「ん……俺?」
「霊族に″紫の目″を持つ人っていませんか〜?」
「聞いたことない、見たことも。霊族は目の色が青って聞いてるけど、紫なんているのか?」
ルルスは紫の目を持つ霊族の話を始めた。
「自分の育て親は〜紫の瞳を持つ霊族なんですよぉ〜、自分が十二歳の頃に追い出されちゃってそれ以来行方がわからないんです〜」
「また追い出された話?その村は随分と追放が大好きなのね……!」
あまりにも理不尽な村の行いに、他人の境遇ながらも怒りを隠せないフラメナ。ルルスは変わらずニコニコとしながら話を進める。
「自分は何もすることがないので〜基本的にはこのパーティにいますけど〜何年も経ったら育て親を探しに行こうと思います〜」
「色々と大変ですね……」
クランツが同情するようにそう言うとーー
「あははは〜そうですね〜でも楽しいんで大丈夫ですよぉ〜、こうしてパーティも組めて物事は絶好調に進んでますから〜」
ルルスは嬉しそうにそう語った。
ルルスを除いた三人は楽観的だと思う反面、彼の人生はかなり過酷なものであり、少し同情してしまう。
「ルルス安心しなさい!私たちが絶好調を長続きさせてあげるわ!」
「本当です〜?もし本当なら自分は運がいいですね〜良いパーティに入れて良かったですぅ〜」
別に生活費では困らない、王国から渡された大金貨の量は凄まじい、正直一生これで暮らせる気もする。
だがこんなに大金貨を渡されたのは、フライレット国王様がフラメナに苦しい生活をさせたくないのと、俺に対する信頼からだろう。
なんだかんだパーティも上手く組めたし、これからの依頼にも特段不安はない、風は良い方向に吹いてる。
何も心配することなんてない。
クランツはそう考えながらも三人の会話する姿を見て、どこかホッとしたように肩が緩くなった。