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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第十五章 魔城島 三の丸編

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第百三十五話 鬼凶の方位 Ⅳ

 切り札であるネルのフル強化魔法を避けたフェゴ。


 直撃し続けなかったのには理由があった。

 それは火と水による混合魔法失敗による、爆発を活かした回避である。


 体の真横で爆発を起こし、

 人間離れした速度で回避を行う。


 それ故にフェゴはネルの大技により死に至らなかったのだ。


 まだまだフェゴは本気を出していない。


「ネル……お主妾を頼るんじゃない」

「え?」

「本気なのは認めるがのう、妾の策頼りで動きが型にはまりすぎておるぞ。もっと自由にやるんじゃ」


 この戦いで指示を出していたのはユマバナだ。

 最強が指示に従い続けることは弱いことだ。


 最強ならば、もっと自己中心的であるべきなのだ。


 世界最強という肩書きを持つ彼女が最も強い場面、

 それは彼女一人の時である。


「でも……」

「妾を気にするな。もう全部ぶっ壊すばよいのじゃ!

 小細工もよいが、たまには真っ向勝負じゃ!」


 ユマバナの発言は弟子たちにも引き継がれている。


 がむしゃらでもいいから本気で潰しにいく。 

 ネルはその意図を汲み取り、指示を待つ存在ではなく、自身から戦いに行く戦士へと姿を変える。



「……ならやりたい放題やっちゃうわよ」


 ネルの瞳が輝き、フェゴはネルから突如溢れ出す圧倒的な魔力量に身を少し退いた。


 場の空気が張り詰める。

 静寂と共に緊張感がフェゴを襲えば、瞬きを一度行っただけで眼前へと風の斬撃が迫ってきた。


 フェゴはそれをギリギリで避けると、

 足を踏み鳴らし、再び特殊な魔法陣を展開する。


九星紋(アリメルハ)


 これよりネルの魔法は全て無効化される。


 はずだった。


「えっ……?」


 フェゴはネルの放った火球により右腕を燃やされる。確かに魔法陣から青い光線は出たはずだった。


 それにもかかわらず、フェゴはネルの魔法をその身に受けてしまったのだ。


「やっぱりね……貴女の魔法よりも威力を高くしてしまえば、防御は突き破れる」


 フェゴは困惑しながらも体を再生し、

 ネルから溢れ出す魔力を凝視する。


「なるほどなー……一撃にとんでもない魔力を込めてるんだな? さすがに驚いたぞーこんなの初めてだ」


 ネルは大技レベルの魔力量をただの基礎技に込めている。


 魔法は本来、魔力量に応じて規模が大きくなるものだが、ネルはそれを技術力で封じ込め、小さく強大な魔法を生み出している。


 これを神業と言わずしてなんと言うか。


「ならもう防御はいらないなー」


 フェゴは防御が破られたことにより、

 九星紋の内容を変化させる。


破壊殺(メラドガルア)!」


 フェゴがそう呼称すれば再び放たれる火球。

 四人はその魔法をかなり警戒していたが、いざ発動されるとやはり成す術は少ない。


 ネルは眼前に迫る弾幕のような火球を視界に入れると、自身の体の周りに水を纏い前へと走り出す。


 他三人が魔法で火球を防ぐ中、ネルは前に出た。


 もちろん被弾は避けられず、水が消え皮膚が焼ける。だが焼ければ瞬時に治癒魔法を発動し、再生しながらフェゴへと接近していくのだ。


 この行動にはフェゴもドン引きだ。


「うぉー……痛くないのか?」

「めちゃくちゃ痛いわよ……!」


 至近距離から放たれる電撃。

 それはフェゴの肩を貫くと、ネルは続けて水の球を生成し、フェゴへと勢いよく叩きつけた。


 水に濡れ、電撃を受けた直後のフェゴは感電する。


「っ!」


 再生を即座に行いながらもフェゴはネルから離れると、杖をネルへと向け巨大な火の針を生成して放つ。


 ネルは水の斬撃を杖から放ち、

 それを真っ二つにする。


「なんか……強くなったかー?」


 フェゴは内心少し混乱していた。



 戦う前はこのくらいの強さだと思ってたけど……

 いざ戦ったらあんま足したことなかったのに、今になって想像通りの強さになったぞー


 なにが怖いって欠片なしでこの強さってことだなー


 フェゴが考えているうちに、ネルは次々と魔法を放って攻撃を行う。


歳破(カルナゼア)


 フェゴは大量の火の針と水の剣を作り出し、

 ネルへと向けてそれを放つ。


 今の状態のネルであれば突っ込んでくるだろう。

 フェゴはそれに対しても対策をしていた。



「っぐぁ?」


 魔法が消える。


 フェゴの体中に水の矢が刺さっており、

 矢が炸裂して闇が溢れ出す。


「やるんじゃクラテオ!」


水滅冥(アグラザタン)!」


 君級水魔法、水滅冥。

 それは超高水圧の水を大量に作り出す魔法。


 そしてこの魔法は使用者によって攻撃内容が変わる。自由度も威力も水魔法最強である。


 クラテオの水滅冥は四方から水をぶつけ、

 圧によって何もかも押しつぶす魔法。


 単純ながら一撃必殺とも言える。


「がっぁ……!」


 フェゴの体は闇に呑まれ大量の傷を負い、

 再生よりも早く傷が作り出されていく。


 完全に油断していたのだ。

 目の前に立つ世界最強の魔法使いに気を取られたが故の悪手、そうしてフェゴはユマバナの策を察した。



 あの魔法使いを自由に動かせるのも策のうち……

 全てを使って私を殺しにきてるのかー……!


 驚いたぞ……ナメてたー


「ネル!」

虹宙(フアウリド)……!」



 その時だった。


 ネルが呼称を終える前に、

 とてつもない寒気が四人を襲った。


 体から熱が消えたかと思うほどの寒気。


 空気が固まったかのように体が動かない。

 脳内を何度も過ぎる″死″の予感。


 水の中でフェゴの体が紫に光り、

 紫の線が模様として刻まれる。


五黄殺(カルゼハトラ)!」


 実はフェゴが移動した際、魔法陣は消えていなかったのだ。九星紋が刻まれた床が紫に激しく光る。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 三の丸が崩壊した。

 建物が完全に崩れ、辺りには瓦礫が散らばり、

 跡地にてたった一人が立っている。


 その人影は欠損した部位を再生していき、

 たちまち傷が全て治癒する。


「面倒くさいなぁ……この姿なんていつぶりだろ」


 怠惰のフェゴ・ガルステッドは、

 ついに自身の力を全て引き出すに至る。


 四人は瓦礫の上で倒れたり埋もれたりなど、

 全員が致命傷を受けていた。


 特に重傷なのはネルだ。

 左腕から首にかけて大きな火傷が出来ており、

 左手の指が二本ほど燃え尽きていた。


「なにが起きたんじゃ……」


 理解が出来なかった。

 あまりにも一瞬すぎてなにが起きたかわからなかった。


 フェゴはゆっくりと歩いて魔法陣の上へと戻っていくと、ため息をついて杖を上へと向ける。


 動かなければと思いユマバナは立ち上がると、

 ネルが先に立ち上がって三人へと帥級治癒魔法を発動し、ある程度の怪我を癒す。


「ネル……ありがとの」

「っ……ユマバナ、なにが起きたかわからない?」

「妾もわからん……でも一つわかることは、

 あやつが本気になったことくらいじゃ」


 フェゴを見ながらそう言うユマバナ。

 ネルは唇を噛み締め、悔しそうに前を向いて話す。


「もう……体力はほとんどないし、魔力も余裕があるかと言われるとあんまりないの……」


「どうしようもないのう……

 現にあやつ、また何かしようとしておるしのう」


 皆は薄々気がついていた。


 勝てない。


 フェゴに勝てないのだ。


 確かにフェゴの魔力はかなり減っている。

 それでも殺せぬのならば結局は同じ末路。


 クラテオやユマバナ、二人は魔力がまだ残っているが、二人だけじゃフェゴを追い越すことは出来ない。


 ネルとレイテンがいて初めて対等。

 それなのにその二人はもう魔力がほとんど残っていない。


「詰みじゃな……」

「……」


 ユマバナは苦笑いをしてそう吐き捨て、

 フェゴの魔法が発動される。


暗殺剣(ルナザメドラ)


 魔法陣の中心の円を除いた八つの円から、

 水の剣たちが溢れ出していく。

 その水の剣たちは黒くも青色が混じっており、

 とても魔力濃度が高いことが見てわかる。


 切られてしまえば命に間違いなく影響するだろう。


 皆魔法で応戦しようとはするが、

 どこか諦めがついたような雰囲気であった。



「……ネル?」

「やっぱりこの方法しか思いつかないわ。

 ユマバナ、あとは色々頼んだわよ」


 ネルが走り出した。



 なんで走り出したんじゃ。

 その怪我でそんなことしたら自殺行為じゃろ……!


 いや……違う……ネル待つんじゃ……!

 待て……まさかネルお主!


 ユマバナはネルが全属性扱えることを知っており、

 ある一つの魔法が脳内に浮かび上がる。


「待てネルやめるんじゃぁっ!!」


 必死に叫ぶユマバナ、迫る水の剣をネルは氷魔法で全て凍りつかせる。


 そんな威力の氷魔法を扱えば、体への負担はかなり大きいだろう。ネルの腕が凍りついてしまった。


 それでも減速する様子はなく、

 むしろ風魔法を使って加速するネル。


 フェゴは咄嗟に体を退き、水の壁を作り出すとネルの接近を妨げるが、ネルはそれを草魔法で全て吸収し、一気に距離を詰める。


 誰がどう見たって距離を詰めすぎだ。


 フェゴはそんな想定外の動きをするネルに対応しきれず、腕を掴まれてしまった。


「なっ……」


 なにをされるのだろうか。

 燃やされる? 水で潰される?

 風で切られるか、木の根で突き刺される?

 土で埋められるのか、雷撃を喰らうか凍らされる?


 否、その予想は全て外れる。


 フェゴは目にする。

 命が潰えることを覚悟した者の魔法をーー


「ネル!!」


 必死に叫ぶユマバナ、それにネルは振り返り、

 無言で少し口角を上げる。


 それがユマバナが見た最後のネルの顔だった。



闇星(ミダヤホシ)……」


 闇魔法には全てを呑み込み、破壊する。

 何もかも呑み込んでしまう底知れぬ強さ。


 その性質を最大限活かした″道連れの一手″


 ネルを中心に黒い球体が作り上げられ、

 軽いものであればほとんど呑み込まれていき、

 至近距離のフェゴは抵抗する間もなく中へと呑み込まれてしまった。



 ネルは死んだ。

 世界最強の魔法使いの最期は道連れであった。


 戦場に静寂が充満し、

 黒い球体が徐々に消えていく。


 ユマバナは膝をついてその光景を目にしており、

 クラテオやレイテンも息を忘れるほどのものだった。

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