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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第十五章 魔城島 三の丸編

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第百三十三話 鬼凶の方位 Ⅱ

 フェゴ・ガルステッド。

 彼女は700年生きる鬼族と熊族のハーフだ。

 人族に近い見た目なのは鬼族だからであろう。


 真っ赤な角に少し褐色気味の肌、

 茶色の髪に真っ黒な瞳で少女ほどの身長の彼女は、

 人生で本気を出したことがほとんどない。


 一応、一度だけあるようだ。


 フェゴの強みは魔法技術の高さと、

 火魔法の威力と水魔法の自由度。

 全てが高水準な魔法使いであり他を圧倒している。


 ゆえに魔王側近、最強の魔法使いである。


 ーーー


 そんな彼女の人生は極平凡なものだった。


 東勢大陸のソレイユ王国の東にある小さな村にて、

 鬼族の父と熊族の母の間に生まれたフェゴ。


 どちらも強靭な剣士であった。


「見ろ! この子はきっと強い剣士になる!

 はははっ! いいぞフェゴ!!」


 父親は剣士としては上級程度。

 村一番の剣士でかなり強かった。


 フェゴ自体、幼い頃から剣術の才能はあり、

 将来の夢は両親のような強い剣士になること。


 700年前は魔法全盛期前の時代。

 剣士は今より数が多く、君級剣士の方が君級魔法使いより多かった。


 フェゴが十五歳を越える頃には、一級剣士として活躍していた。


「フェゴはお父さんを越えちまうな〜」

「あはは〜私じゃまだ無理だよ〜」


 邪族を狩るようになってパーティーリーダーからそう言われると、良い笑顔を見せながら照れるフェゴ。


 彼女は全力で生きてきた。

 剣術の鍛錬は怠らず、常に明日のことを考え今を生きる。何をするにしても活力が溢れていた。



「ん″ん″ーッ″!!」


 世界は残酷だ。


 彼女の人生は一度、ここで終わりを迎える。

 その原因は、のちに最強の邪族とも呼ばれるようになる、魔王側近異名憤怒を宿す男。


 ドラシル・メドメアスに殺されてしまうのだ。


「剣士としては平均よりは強い。

 それを凌駕するほど魔法の才能の方が大きいがな」


 村は凍りつき、何人も凍らされた状態で死んでいる。怖くて怖くて仕方がない。泣き出してしまいそうな恐怖の中、フェゴはドラシルに口を掴まれ持ち上げられていた。


「……生き方を間違えたな。

 魔法使いになり、高みを目指すためにこんな場から離れていれば、貴様は生きていられた」


 ドラシルはフェゴの腹を氷の剣で貫き、

 地面へと振り落としてボロ雑巾のように扱う。


 氷の双剣を捨てそれが溶けていくと、

 ドラシルはフェゴへと背を向けて歩き出した。


 死者が蘇る魔法は存在しない。

 腹に穴が出来てしまうと治癒魔法でも治すことは困難極める。


「……なんだと」


 ドラシルは思わず振り返った。

 フェゴが立っているのだ。


「なぜだ……?」


 フェゴの傷は完治していた。

 血溜まりの上で立ち尽くす姿はまさに亡霊。

 それでもフェゴはちゃんと生きている。


 理解が出来ない。

 治癒魔法の範疇を大きく越えているのだ。


「なんだそれは……」


 ドラシルはこの頃、まだ魔理とは出会っていない。

 ゆえに誰も欠片の存在は知らない。


「……誰だお前ー」


 フェゴは眠たそうな顔でそうドラシルへと問うた。

 溢れ出す大量の魔力、圧倒的なまでの圧。

 それは君級に匹敵するものであった。


「我は貴様を一度殺した者だ」


 ドラシルの口角が上がる。


 彼の生きる意味は強者との戦いのみ。

 溢れ出す強敵のオーラにドラシルは興奮したのだ。


 フェゴは辺りを見渡し、状況を理解する。


「……そうかー」

「我が憎くはないのか?」

「知らない。今起きたことしか覚えてないぞー……」


 記憶も活力も喪失してしまった。

 フェゴの心も一度死んでいるのだ。


「貴様、この我と戦え。

 今の貴様は先よりも圧倒的に強い」

「どうでもいい……戦いだとか、そういうの面倒くさいんだー。私は一度死んだんだろー? じゃあお前の勝ちでいいじゃないかー」


 ドラシルの腕の血管が浮き上がる。


「黙れ、拒否権があるとなぜ勘違いしている?」

「うるさいなー……なら私をもっと強くしろー

 戦い方なんて知らない。お前みたいな奴は弱い奴と戦うのは趣味じゃないんだろーなら私を強くしろー」


 ドラシルはそう言われると、少し悩んだ。

 確かにフェゴとここで戦えば勝つのはドラシルだ。


 ので、フェゴの提案は悪くはなかった。


「貴様……この我に世話をしろと?」

「まぁ……そうなるなー」


 ドラシルはため息をつき、小さく笑う。


「……初めてだ。貴様のような奴はな。

 今際の際から生還しこの我に強くしろと申すか、

 悪くない……面白い奴だな」


 ドラシルの機嫌は良かった。

 生まれて初めて自身へと生意気を言う者が現れた。


 凍りついた村の中でたった二人。

 フェゴとドラシルは奇妙な関係を築いた。


 そうしてフェゴはドラシルと共に行動し、

 魔法を学んで魔法使いとして成長し始める。



 ドラシルは不思議な感覚だった。

 憎まれるはずの相手から感謝されている気がするのだ。明らかに人格が変わっている。



「ドラシルは、なんで戦うんだー?」

「強者との戦いに飢えているからだ」


 二人は夜の森の中で焚き火を囲み、

 焼いた肉を食いながら会話する。


「何百、何千の戦士を殺してきた。

 だが結局我を楽しませた者はたったの二人。

 ギリギリの勝利というものを我は知らない。

 同時に敗北もだ。我は全てを味わって死にたい」


 ドラシルは頭から爪先まで戦いの愉悦に浸かっている。常に強者を求める姿は修羅とも言えるだろう。


「なら私がお前を負かしてやるー」

「……図に乗るな、半人前が」


 そう言うドラシルだが、少しだけ笑っていた。


 側から見れば気持ち悪い関係だ。

 自身を殺した相手と仲良くするフェゴ。

 一度殺した相手と普通に会話するドラシル。


 どちらもイカれている。



 だがある日、ドラシルが負けた。


「……貴様は一体」

「最強の邪族、さすがに中々強いが、

 私を殺すほどの強さではないな」


 トイフェルという魔法使いに負けた。


 ドラシルはその強き魔法使いに敗北し、

 その者の考えによって服従させられた。


 となればフェゴも流れで服従することとなる。



 フェゴを見てトイフェルは驚いた。


「お前……なぜ欠片を持っている?」

「欠片ってなんだー?」


 フェゴは首を傾げると、

 トイフェルは嬉しそうに肩を触る。


「なるほど、魔力に選ばれた者か!

 素晴らしい……! お前は私に必要だッ!」

「そうかー」


 フェゴは退屈そうな顔をしながら聞き流す。


 フェゴは未だに欠片を手にする前の記憶を知らない。彼女が子供が好きな理由、それはひたすらに純粋なところに憧れているからだ。


 フェゴはいつだって″面倒くさい″という理由で、

 全てから一歩下がって取り組む。


 なんにもやる気が起きないのだ。

 彼女の心は常に空っぽ、満たされることはなく、

 一時の幸せのみを啜りながら700年生きてきた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「かかってこないのかー?」


 フェゴは手を後ろで組み、

 眠たそうな目で四人へとそう言う。


 フェゴは強い。


 ツートップの魔法使いが集っているのにも関わらず、フェゴには一度も致命傷が与えられていない。


「まぁ待て、妾たちも少し考えたいんじゃよ」


 ユマバナが苦笑いしながらそう言い返すと、

 フェゴは攻撃を仕掛ける気がないのか、床にあぐらをかいて座り込み、床を指でなぞっていた。


「終わったら言ってくれー」


 その隙に四人は集まって作戦を考える。


「ねぇユマバナ、怠惰ってあんな強かったの?」

「しらんわ……妾が戦った時も本気は出さんかったからのう……底知れない強さなんじゃよ」


 レイテンが床を弄るフェゴをチラッと見て、

 三人へと向けて話す。


「あいつ……元々序列四位ですよネ?

 下手したら色欲と憤怒並みに強くないです?」


 フェゴは本気を出さないので、

 そもそも力の底がわからない。


 手を抜いた状態で序列四位。


「結局のところ私たちが勝手に序列を定めただけで、

 魔王側近側では明確に序列がないのよね……」


 ネルが困ったように言えば、クラテオが怠惰について話す。


「一応……俺は歴史書を読み漁ってた時期があるので、怠惰のことも色々調べたことがあるんです。

 でもどの本でも扱う属性と種族くらいで、

 肝心の強さに関してはほとんど書かれてなかった」


 ユマバナが「ほとんど」という言葉に反応する。


「……一つあったのか?」

「一つだけ……あります」


 クラテオは間を取ったのちにそのことを話した。


「400年前の全面戦争で怠惰のフェゴ・ガルステッドは、一度本気を出したようなんですけど……

 海が割れ、地は焦土と化し、天は黒く染まる。

 歴史書にはそう書かれてたんです」


 ユマバナは髪の毛をくるくると指で回し、

 それに対して真剣な顔で言及する。


「さすがに誇張しとるじゃろ……

 じゃが……そこまで書かれるくらいには凄まじかったんじゃな。現に今のあやつを見ると不可能じゃないとも考えられるしのう……」


 レイテンがフェゴの特徴をまとめる。


「火魔法と水魔法の混合魔法と、当たり前のように無呼称、無陣は完璧。それ以外の高等技術も全て網羅していて、魔力も実力の底も謎。

 これ勝ち目ありますかネ……?」


 レイテンは絶望したように話すと、

 ユマバナが人差し指を立てて提案する。


「小細工が通用する相手でもない。

 それにさっき使っていた謎の魔法陣、魔法が陣の上に入った瞬間、自動で魔法を相殺していた。

 つまりじゃ、あやつの弱点は″拳″じゃ」


 ネルがそれを聞いて困惑する。


「拳って……どうやって怠惰を殴るんです?

 近づく前に殺されちゃいますよ」

「ふっふっふっ、このエルフの知恵をナメるでない。

 すでに方法は思いついておる」


 クラテオがその方法を聞く。


「方法って……まさか特攻とか言わないですよね」

「言わんわ! いいか、よく聞けい。

 まずこの戦いの鍵はレイテン、お主じゃ」


「え? あたい?」

「お主の特殊な水魔法、それが鍵なんじゃ」



 告げられるレイテンへの重役宣言。

 まさか自分が鍵になるとは思っておらず、

 非常に驚いているようだ。


 怠惰のフェゴは四人が話しているのを、

 少し離れた場所から見つめていた。


「……うへぇー、本気だねー」


 自身を討とうと本気の四人に、

 フェゴはニヤけながら床に寝転がる。


 少しして戦いが再開される。

 第二フェーズだ。

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