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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第十五章 魔城島 三の丸編

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第百三十一話 天変地異 Ⅳ

 レアルトはそれほど多くの魔力は所有していない。


 その魔力量としては魔王側近最低値だろう。

 致命傷を何度も喰らえば底が見える。


 現にこの戦闘で負った傷や放った魔法により、

 レアルトは七割以上の魔力を消費している。


 レアルトは魔王側近として長い間生きてきた。

 だがエクワナのような戦士は初めてなのだろう。


 雑で慎重、単純で複雑。

 エクワナは常にその矛盾を抱きながら、

 魔法を使ってこちらを殺そうとしてくる。


 非常に戦いにくい相手である。


 それに加えて想定外の転移魔法。

 転移魔法がなければレアルトは今頃、エクワナたちを亡き者へとすることが出来たはずだ。


 ギリギリのところで運命を変えてくる。

 煩わしく、不愉快な戦いだ。


 レアルトは岩石の杖を手に持つと、

 足元に魔法陣を展開する。


土変(ドザイア)


 何度聞いただろうか、

 同じ呼称にて新たな魔法がまた放たれる。


「ここにきて地形生成かい……!」


 エクワナがそう言うと、辺りの地面が盛り上がって断崖絶壁が出来上がる。

 谷の中心にいるような状態、もはや領域魔法の一種とも捉えられる規模だ。


「エクワナさん……俺が前に出ます」


 サルメトはそう言って右腕で剣を握って、

 大量の火を剣へと纏わせた。


 それを見た瞬間、エクワナの脳内によみがえる魔法学の知識。


「いや! サルメトは後ろで待機、

 おじいちゃんと固まって待っててくれないかい?

 あたしの合図で適当に火をあいつに放ってほしいんだ」


「え? あ、わかりました」


 エクワナはサルメトの承諾を聞き、

 リクスへと声をかけて前を向く。


「さぁ来るよリクス、勝利の鍵はあたしたちにある」


 リクスが頷くとレアルトは杖を振り、左右の土の壁から岩石を生やして四人へと向かってそれを放った。


 先端が鋭く尖り、枝分かれして岩石が伸び、

 四人の眼前へと迫る頃には棘の壁のようになっていた。


「今!! 二人とも頼んだよ!」

「えっ! 今っすか!?」

「大体察してはおったわ」


 メルカトは魔法陣を展開し、呼称を省略して雷魔法を放つと、サルメトがそれに向かって魔力をただ放出し、火を放った。


 電気へと火が混ざり中心が青白く光った瞬間、

 爆音と共に爆風が辺りを包み込み、大爆発が岩石を破壊した。


「それを狙ってたのね……!」


 レアルトは火と雷の中に一瞬、氷が入っていくのが見えた。それがこの爆発の素なのだろう。


 爆音と爆風、一時的だがエクワナを見失ってしまった。レアルトは自身の足元から高台を作り出し、不意打ちの危険性を極端に下げる。


「近接を恐れた魔法使いはそうするに決まってるよね。だって近距離は怖いものねぇ!」


 レアルトの背後に現れるエクワナ。


 エクワナはリクスの土魔法により、

 レアルトへと接近したのだろう。


 焦ったように振り返るレアルトだが、エクワナの手がレアルトの腕を掴んだ。



「つかまえたぁ!」

「っ離しなさ……」


 レアルトが掴まれてない方の手から岩石の棘を作り出し、それをエクワナに突き刺そうとした瞬間、レアルトは横から石の壁に勢いよく突き飛ばされた。


 リクスの土魔法だ。


「おじいちゃん!」

堕雲岸(ライダルノス)!」


 堕雲岸、雷魔法に属する君級魔法だ。

 その魔法内容は非常にシンプル。


 自身の持つ魔力の八割を消費して落雷を起こす。


 使用者の魔力が多いほどその威力は跳ね上がるが、

 非常に扱いが難しいので君級魔法とされている。


 低等級の魔法使いは自爆用として、

 がむしゃらにこの魔法を放つこともある。


 それほど威力は絶大なのだ。


 曇天を貫き、青白く光った雷がレアルトを正確に貫く。その落雷によって地面に叩きつけられたレアルトは、大地が割れると裂け目に落ちていった。


 吐血して倒れるメルカト。

 もう動けないほどに魔力を消耗してしまった。


 一方、エクワナは空中にて魔法陣を展開し、

 リクスもそれに合わせて魔法陣を展開する。


氷鋭(アイクスル)!」

地龍冥(ドレイトラース)


 穴へと向かって放たれる巨大な氷柱と巨大な岩石の竜。それが裂け目の底に到達したのか大きな衝撃波が裂け目から放出された。


「……死んではないけど、確実に魔力は削れた。

 リクス、油断するんじゃないよ!」


 エクワナはリクスへと目を向けた瞬間、

 リクスの胸へと岩石が突き刺さるのを目撃する。


 それと同時だった。


 大量の岩石が裂け目を中心に弾幕のように放たれ、

 体中に激痛が走った。四人は衝撃波で四方へと吹き飛び、建物に激突して激しく負傷する。


「ぐっぁ……」


 リクスは何が起きたかわからないまま、

 ただ胸に突き刺さった岩石により吐血してしまう。


 他の三人も一気に致命傷を受けてしまった。

 メルカトは横腹を激しく負傷しており、サルメトは左足へと岩石が突き刺さっていた。


 エクワナは右腕が岩石によって削ぎ落とされ、

 頭から血をダラダラと流し、その場に座り込んでしまう。


「っ……確かに途中まではよかったわね。

 でも……私は土魔法使いよ?

 土に囲まれちゃあ圧倒的に優位なの……

 頑張ってたみたいだけど、貴方たちの負けよ」


 裂け目から火傷を再生しながら出てきたレアルト。


「……っ」


 エクワナの頭の中ではぐるぐると記憶が巡り巡っていた。


 幼い頃、祖父のカイメと剣術を学んだ日々。

 魔法使いになると言ってカイメと大喧嘩した時、

 両親と離れた時、ユマバナに弟子入りした時。


 邪族に殺されかけ、魔法の修行で死にかけた事。

 兄弟子であるレストに、喧嘩をふっかけてボコボコにされた記憶も巡ってくる。


 色んな記憶が巡っていく。


 走馬灯。


 体が死へと向かっていっている。


『……妾はのう。

 長い間ずぅっと一人で生きてきて、

 ひたすらに魔法を学んできたんじゃ。

 正直寂しくてしょうがなかったんじゃぞ?』


 記憶の中のユマバナ。

 いつかの日、ユマバナは弱みを吐露してくれた。

 だがそれすら学びとして教えてくれた。


『エクワナ、レスト。

 お主らは互いに強い魔法使いになった。

 君級だってそのうちなれるじゃろ……

 もし教え子を持ったりしたときは、寂しくさせるんじゃないぞ……孤独は辛いからのう』


 あたしは……死ぬのか?

 待って待って待って……ならリクスは?

 あたしが死んだらどうなる? みんなどうなる?


『死にかけたときはどうすればいい?

 変なこと聞くんじゃな。潔く死ねい!

 ……と言いたいところじゃが、妾はある方法で窮地を乗り越えてきたんじゃ』


 師匠……それなに?

 教えてよ……


『……根性じゃ! ふざけとらんぞ?

 結局、極まった戦闘の勝者は意地の強い頑固者だけじゃ、″絶対に負けたくない理由を作るんじゃ″』


 ……本当にさぁ……そう言うの遺伝しちゃったよ。

 師匠……あたしやるよ。リクスは一人じゃない……

 だったらあたしがするのはただ一つさ。


『死なせないよ二人とも、妾はお主らの師匠じゃ』


 あたしの愛弟子も、戦友も死なせない。

 だってあたしは凍獄のエクワナ・ヒョルドシアだから……絶対に勝ってやる。


 ーーー


「絶対に……勝ってやる」


 エクワナはボロボロの体を起き上がらせ、

 血まみれの顔面をレアルトへと向け、強く睨む。


「……まだ立ち上がるなんて本当に人族?」


 レアルトが気味悪そうにそう言うと、

 エクワナは白い息を吐いて脱力する。


 皆の視線がエクワナに集中した。


 するとエクワナは出血部位を凍らせ止血すると、

 魔法球を手にすることもなく、地面を踏み込んで走ってレアルトへと向かっていく。


土変(ドザイア)!」


 レアルトの左右から放たれる二体の複製体。


 エクワナはその二体が繰り出すダガーを避け、

 すれ違いざまに腹部を手で触れて凍結させる。


「なんで……なんでその傷でまだ動けるの!

 なにが貴女をそこまで動かすのよ!」

「幸せを壊されたくないから……!」


 エクワナが手をレアルトへと突き出すと、

 レアルトはそれを避け、至近距離で岩石をエクワナへと向けて放つ。


「幸せって……ふざけるな!

 私の前で幸せを謳歌するなぁ!」


 エクワナは頬を切らせながら岩石を避け、

 レアルトへと再び超接近する。


 ただ前へと出てくるエクワナに対し、

 レアルトは地面から岩石を作り出して的確に、エクワナを貫こうとした。


「師匠っ……!!」


 リクスの土魔法がエクワナを横へと少し突き飛ばした。それにより岩石が空振り、レアルトの想定を超えた動きへと変化する。


「無理でしょ……あんな可愛い愛弟子がいるんだ。

 あの子の幸せ守りきれずになにが師匠だっ……!

 だからこそあたしは……」


 エクワナはレアルトの胸ぐらを掴む。


「ここで負けるわけにはいかないんだよぉっ!!」


 女性らしからぬ野蛮な頭突き。

 それは強烈なものでレアルトは目眩を起こし、

 一瞬力が抜けてしまった。


「っ! こんなっ……!」

「地獄は一人じゃ寂しいかい?

 ならあたしがついていってやるわよ……!」


 エクワナはレアルトを抱きしめる。


「なにをっして!」

「我慢比べしようかぁ!」


 エクワナは一気に自身の魔力を放出し、

 辺りの地面が凍てつき始め、レアルトとエクワナの体がどんどんと凍りついていく。


「離せっ!」


 エクワナは死ぬつもりだ。

 リクスはそう感じ、足を必死に動かして冷気の中へと走っていく。


「離せぇええっ!!」

「やだやだぁ! 離したら殺されちゃうじゃぁん!」


 中心に向かうほど冷気が強い。

 リクスの体も少し凍ってきた。


「こんなぁっ! こんな負け方なんてっ!!」


 レアルトは魔法陣を足元に展開し、

 岩石を作り出そうとした。


 それを阻止するリクスの足。

 二人の横からやってきてレアルトの足元を、

 リクスは自身の魔力で覆い尽くす。


「リクスっ!! なにしてるんだ離れなっ!」

「師匠……!! ……俺は、まだ死んでほしくない!

 まだ俺は師匠と一緒にいたい!」


 リクスは拳を振り上げ、力を込める。


幸せ(師匠)を……返せッ!!」


 リクスの拳がレアルトの横腹に突き刺さると、

 上半身が脆く砕け散り、空中にてレアルトはバラバラになって舞う。


 その瞬間エクワナは冷気の放出を止めると、

 レアルトは必死に叫びながら地面へと倒れた。


「あぁぁぁああっ!! 死ぬなんていやよ!!

 私はまだ幸せになれてないのにっ!!」


 察していたのだろう。

 次の致命傷は死に直結すると。


 レアルトはその予想通り体の再生が止まり、

 バラバラになった状態で徐々に塵へと姿を変えていく。


「ただっ! 私は生まれて幸せになりたかったのに!

 なのになんでこんな目に遭わなきゃいけないの!

 理解できない! こんなの理不尽よぉ!」


 子供のように泣きながら理不尽を訴えるレアルト。


「憎い憎い! 妬ましいっ!

 私はなんのために生まれてきたのよっ!」


 ボロボロと涙を流しながら、首まで塵へと変わり始めたレアルト。


 するとエクワナがレアルトの頭のそばに座り、

 力いっぱいに頬をビンタした。


「っ!」


「幸せになりたかったのなら……

 他人を殺しちゃダメでしょ……!

 全部自業自得で自己中に他人の幸せを奪っているから、あんたは魔王側近なの!

 バカみたいに自分を正当化するなクソ女ッ!」


 レアルトはそれを聞き、怒り狂ったように言い返そうとするが、一言喋ったところで喉が塵となってしまい喋れなくなる。



「私のことなんか! なんにも知らないくせに!!」



 そこからレアルトは無言のまま涙をボロボロと流し、四人に見守られる静寂の中、塵となって長い幸せなき人生に幕を閉じた。


 嫉妬のレアルト・デルデアン。

 死闘の末に敗北。

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