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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第十五章 魔城島 三の丸編

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第百三十話 天変地異 Ⅲ

「師匠、手紙です」

「あんがとね〜」


 時は全面戦争開戦前。

 エクワナの住まうハルドラ村へと一つの手紙が送られてきた。リクスが手紙を渡せばエクワナは早速それを読み始める。


「中央大陸……」


 手紙の内容は邪統大陸での防衛戦争に、

 参加してほしい旨を伝えるものであった。


「行きますか?」

「そりゃあ行かなきゃねぇ……防衛戦争でこっちが負けたら世界が終焉を迎えちゃうかもだからね」


 エクワナは椅子から立ち上がり背伸びする。


「それで旅で連れて帰ってきた女の子は、

 今日もぐっすり寝たままかい?」

「一向に目を覚ましません……」


 北峰大陸の迷宮にて見つかった女性。

 彼女は今も尚眠り続けている。


「ならおじいちゃんに世話を頼んで、あたしたちは戦いに行くよ」


 ーーー


「はぁ!? 全面戦争に変わった!?」


 東勢大陸から南大陸へと向かい、

 ケルエイ港にてその情報をリクスから聞いた。


「まさか生きてるうちに経験するなんて……」

「はぁ〜……まぁ確かにタイミングじゃ完璧……

 今の君級戦士は史上最多で最強だからね」


 ーーー


 魔城島に着いた二人。

 フラメナとは再会することが出来ず、代わりにライメと会うことが出来た。


「久しぶりリクス、エクワナさんもお久しぶりです」

「久しぶり、ちょっと背伸びたか?」


 ライメは苦笑いしながら首を横に振る。


「フラメナお嬢ちゃんとは上手くやってるのかい?」

「えぇ、毎日振り回されてますけど、

 なんだかんだ幸せに過ごしてますよ」


 ライメは振り回されているとは言うが、

 実際それを心底楽しんでいるのだろう。


「お熱いねぇ……まっ上手くやってて良かったよ。

 一応弟弟子だし? あたしも気になっちゃうのさ」


 そうして談笑しながらもエクワナは本題へと入る。


「ライメ、一つ頼み事があってね。

 聞いてくれるかい?」

「構いませんよ。頼み事ってなんですか?」


 エクワナは楽しそうな笑みを浮かべていた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 こんなんじゃ……策を実行する前に死んじゃうよ!

 魔王側近……師匠からもフラメナお嬢ちゃんからも話は聞いてたけどさぁ! こんなに強いの?


 エクワナは片目を潰されながらも氷魔法を放ち続け、手数が増えたレアルトの魔法を防いでいた。


 圧倒的劣勢。

 三人は着々と敗北色へと染まり始めていたのだ。


「顔に傷とか……あたしはまだお嫁さん行ってないんだけどなぁっ!」


「そっちの方が貴女にはお似合いよっ!」


 エクワナの首をかすめながら土の槍が通り過ぎていく、息を整えるように大きく空気を吸い込み、エクワナはそれを吐いて魔法球をレアルトへと向ける。


貝氷打(リスアメイス)!」


 魔法球から作り出される大量の氷の礫、

 それは空中で真っ二つに割れると、中からさらに礫を放って数が倍となる。


 弾幕のようなそれをレアルトは、

 一つの礫に対して一つの石を作り出し、

 一気にそれを放出して全てを相殺する。


 本気がゆえに成せる神業だ。

 精密動作が極まったレアルト、エクワナは冷や汗を垂らして距離を取る。


「エクワナ……君にばかり負担をかけてしまってすまない」

「おじいちゃんは休んでていいよ。

 今まともに動けるのあたしだけだし……」


 本気の魔王側近の前では、将級剣士など子供のような存在だ。サルメトは体中に怪我を負っており、左腕や肩は重傷である。


「自分がもっと動ければ……」

「ここは自責が多いなぁ!

 今集中してるから少し黙ってて!」


 エクワナはそう言って二人を黙らせ、

 必死に打開策を頭の中で練る。



 メルカトさんは体力切れに重傷……

 サルメトも最高速度で動けるのは限られてるだろうし、とうとう本当にピンチかもね……


 本気じゃなかったかもしれないけどさ……

 レストはこいつに加えて強欲も相手したんでしょ?

 やっぱめっちゃ強いよ……あたしなんか三番目の強さじゃない。


 死んでも兄弟子の偉大さを教えてくれるなんて、

 本当にお節介なありがたいご指導だこと……


 レストならどうする……あたしはレストには頭脳戦じゃ一回も勝てなかった。


 レストなら……レスト……



 エクワナはふとレストの顔を思い出してしまった。


 兄弟子のレスト、ひたすらに努力をしている尊敬できる兄弟子だった。


 そんなことを考えていると、眼前にレアルトの作り出した大量の尖った岩石が迫る。


 エクワナは舌打ちをしながらもそれを氷塊で相殺し、破片が腕に突き刺さりながらもレアルトを睨み続ける。


 レアルトの魔法自体単調な攻撃ばかりだ。

 結局のところ尖った岩石の形を変えてぶつけるのが主な攻撃方法、そんなシンプルな魔法も速度がつけば異常なほどに強く見える。



『エクワナは深く考えすぎだぜ?

 常に深く考えてちゃさぁ、いざって時にビックアイデアが降りてこないもんさ。

 どれだけ素が良くても何事も使い方次第さ、

 エクワナなら出来るって!』


 ……レスト。信じるよ。

 あたしその言葉信じるよ! これで死んだらあの世で笑い話にして酒でも呑もうか……!


「……?」

「ははっ! やっぱりこっちの方がいいやぁ!」


 エクワナは手を広げると、空中に大量の魔法陣を展開し、小細工なしの手数勝負へと踏み出した。


「脳がパンクしたの? そんな魔法通用しないわよ」


 大量の氷柱や氷塊、レアルトは単純な手数での勝負に出たエクワナに、呆れながら相殺するように土魔法を発動する。


 なんてことのない魔法。

 こんな雑に放出されただけの魔法に、レアルトは負けるわけがないと思っていた。


「?」


 なぜか一向に押し切れない。

 むしろレアルトが押され始めた。


「嘘っ!」


 凍獄のエクワナがなぜ現代の魔法使いで三番目に強いとされているのか?


 それは小難しい戦略や、駆け引きなどで優れているからではない。


 君級戦士はそれぞれ特筆すべき力を持っている。


 虹帝であれば全属性魔法使いや、枯星であれば闇属性など、その者だけの強みがある。


 エクワナは氷魔法のみを扱う魔法使いであり、

 周りにエクワナの強みはなにかと聞けば皆が口を揃えて言うだろう。


 魔法の発動速度。


「やっと……! その表情が崩れたわねぇ!」


 エクワナの魔法の発動速度は、短縮発動であれば誰よりも速いだろう。それに加えて威力も十分。

 無呼称、無陣の魔法使いとして頂点に立つ存在。


 レアルトの土魔法の防御が打ち破られた。

 防御が崩れたともに、氷塊や氷柱が一気にレアルトの体へと衝突し始める。


「っが! あっがぁっ!」


 視界いっぱいを埋め尽くす氷魔法の弾幕。

 エクワナは息を切らしながら魔法の発動を終える。


 レアルトは体中に穴が開き、強く唇を噛み締め、

 ボロボロの体を再生しながら口を開く。


「まさか……ここまで出来るなんて知らなかったわ!

 よくもボロボロにしてくれたわね……!!」


 レアルトがそう言うと、エクワナは嬉しそうに話し始めた。


「あんたの再生、少し遅くなったね。

 魔王側近といえど致命傷を何度も再生してちゃ、

 やっぱり底が見え始めてくるんだねぇ……!」


 エクワナは手を震わしながらそう言う。

 それを見てレアルトも汗を垂らしながら口角を上げた。


「その手の震え、魔力の使いすぎね?

 ふふっ……肝心の二人は使い物にならない……

 実質これじゃあ一対一、お互い元気いっぱいね」


「バーカ、いつあたしが対等にやるって言った?

 全部揃った……やっと勝ちにいける」


 エクワナから立ち上る魔力の圧、

 レアルトはそれを見て少しブルッと寒気を感じた。


「ほんっと……魔王側近ってのは強いし理不尽。

 致命傷でもお構いなしで困っちゃうよ。

 でもね……なにも勝てないわけじゃない。

 あんた、覚悟しなよ。こっからが本番さ」


「ちょっと攻撃が上手くいっただけで図に乗らないでちょうだい。依然私の方が優位よ」


 エクワナは元々、レイワレを除いた三人で勝つつもりでいた。


 レイワレはなんとしてでも、魔理の下に向かわせなければいけないので、策の中には入っていない。


 真っ向勝負したところで三人に勝ち目はない。


 エクワナは魔王側近がどれだけ強いかを、

 無知なりに徹底的に予測していた。


 ユマバナ流、格上相手に勝つコツ第一。


 ″一発逆転″


 一つの動きで全てを覆す。

 それだけで勝てるときがあるのだ。


 戦いは常に全力じゃ肝心な時に押し負けてしまう。


 メルカトの体力も多少回復し、

 サルメトも応急処置は終えた。


 レアルトはそれに気づいていない。


 エクワナが考えた確実に勝てる作戦。


「あぁそうかい。そうだといいねぇ」



 レアルトの足元に魔力が込められた氷が作り出される。それは攻撃にもならない魔法。レアルトはそんなものに気づくはずがなかった。


「あんたらはこの魔法を警戒してなさすぎだよ。

 さぁやっちゃいなぁあ!! ″リクス″っ!!!」

「いきなり叫んで……どうっ!?」


 レアルトの腹部が鋭く尖った岩石に貫かれた。


「師匠!」


「最高だよあたしの愛弟子ぃ!」

「なっ……なんでっ!」


 エクワナが全力ダッシュでレアルトへと走っていく、レアルトは吐血しながら動こうとするが貫かれた岩石のせいで体が動かない。

 

絶対零度(スメルドメシア)!」


 レアルトの体に触れたエクワナ。

 瞬時にレアルトは全身が凍りつき、リクスが背後から離れると、エクワナは巨大な氷塊で頭上から押しつぶす。


 もちろんまだレアルトは死なない。

 泥となって少し離れたところに体を再生させると、

 信じられないと言った表情だった。


「転移魔法、紙に写してもらったのさ」


 エクワナは魔法陣の描かれた紙を投げ捨てると、

 それは空中で焼き消える。


「転移魔法……古い魔法を使うのね……

 でも……倒せなかったことを後悔しなさい!

 加勢って言っても君級じゃない時点で、敗北色に染まり切ったままよ!」


 エクワナは人差し指を立てて言い返す。


「勝てる。もう全部完成してるの。

 あんたに勝つための舞台は出来上がったわ。

 役は十分、時も満ちた……どう? 完璧でしょ」



 再生を終えたレアルト。


 リクスが合流したことにより、

 これで四対一となる。


 依然不利なことには変わりないが、

 エクワナの策はリクスが出て終わりではない。

 作戦は今も実行され続けている。


 凍獄班、ついに反撃開始だ。


「さぁ寒い寒い、地獄へようこそ」


 エクワナに迷いはない。


 レストが敗北した相手を今から倒すと思うと、

 エクワナは笑みをこぼしてしまった。

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