第十二話 これからの苦労
フラメナとクランツがゼーレ王国を去って三日後。
ライメはすっかりユルダスと仲良くなっており、魔法の練習を一緒に行っていた。
「ユルダスが魔法の練習に誘うだなんて珍しいね」
「……まぁちょっとした気の迷いかな。なんだか落ち着かなくて」
「ふふ、僕もそんな感じ……よし!魔法練習しよう!」
「昔に比べて明るくなりましたね」
「……フラメナちゃんのおかげだよ」
時は進みウラトニ港にて。
朝食を終え二人が店を出てすぐに、クランツは考え事を始めた。
さて、どうしようか。早速今からパスィオン王国に向かうが…
馬車移動でも最低十日、徒歩じゃ一か月半はかかる。
だがまあ、絶賛旅に大興奮中のフラメナお嬢様は徒歩を選ぶだろうな。
それで楽しんでくれるなら良いんだが、いつまで続くだろうか。
「クランツ?何してるの、早く行くわよ!」
「……いえ少し考え事をしていただけです。フラメナ様、パスィオン王国には馬車で十日、徒歩で一か月半かかります。どちらがいいですか?」
「徒歩が良いわ!」
「やはりそちらを選びますよね」
「旅は楽しまないと!」
「えぇ全くその通りです」
そうして徒歩での移動が始まった。
ウラトニ港を抜ければ広がるは茶色の草が生える平原、遠くに見える山脈は”剣王山脈”
剣王山脈と呼ばれる所以。そこは昔、今で言う君級レベルの黒竜の群れが住んでおり、東勢大陸は禁足地となっていた。
だがある時代の無名の剣士が群れをたった一人で壊滅させたと言われている。
その者がどれほど強かったかは、誰も知らない。
剣王伝説と呼ばれ、山脈の至る所に剣で切ったかのような地形が存在しており、本来パスィオン王国と北部は山脈で境界線が出来ているが、ある一か所だけ真っ二つに山が分かれている。
ほぼ記録がないが、伝説として東勢大陸に広く知れ渡るものとなった。
「フラメナ様、ここから二日ほど歩くと村があります。そこまでは特になにもないので、授業をしながら歩きましょうか」
「歩きながら授業だなんて面白いわね!」
「旅をするうえで地理を知ることは大切です。東勢大陸の地理をわたくしが教えましょう」
クランツが指さす山脈は、剣王山脈。いくらフラメナでもそれくらいは知っている。
バカにされたのかと少し思うフラメナだが、クランツが口を開き誤解が解けた。
「剣王山脈の先にある土地を知っていますか?」
「え!そんなところがあるの?」
「断崖絶壁ではないのですよ。剣王山脈に沿って森が存在しております。その森は四星級パーティでなければ立ち入ることすら許可されない、暗黒の森。上級以上の邪族で溢れており、君級魔法使いや君級剣士が修行のためによく使っていますね」
「君級って……頭おかしいのかしら?」
フラメナは引き気味でそう言うとクランツは頷く。
「どこかしら狂ってなければなれないのですかね」
「私もいつかおかしくなっちゃうのね!」
「確実におかしくなるわけではないですよ。おかしい人が多いってだけで……」
「一回会ってみたいわね!」
「会えたらいいですね。東勢大陸に君級は二人いますから」
「私知ってるわよ!本で調べたもの!」
クランツはそれを聞いてフラメナへと聞く。
「では二名の名前と異名をお願いします」
「海王、クラテオ・カルナルバと凍獄、エクワナ・ヒョルドシアでしょ!」
「おぉ、正解ですよ。海王はパスィオン王国に所属する魔法使いですが、凍獄は東勢大陸を放浪しているので会えるかもしれませんね」
フラメナはワクワクとしながらステップして道を進んでいく。
はしゃぐフラメナに置いていかれないように、少し早歩きになるクランツであった。
パスィオン王国領土内、ガレイルにて。
「ですからパーティを組まないと依頼は受けられません!」
「え~なんでです~?自分は強いのです~」
色白な肌を持つ彼は、常に子供のような笑顔を浮かべており、受付へと一人で依頼に行かせてくれと粘っていた。
「二級剣士様では単独の依頼は不可能ですので!」
「そこをなんとかさ~、自分と組んでくれる人いなくって~あははは~」
二級剣士が自分を過信することは稀だ。
故に周りからの視線は冷めている。
「おいオマエ、うちのパーティに来いよ」
「んへ?いいのです~?」
「強いんだろ?口だけじゃないなら良いぜ」
「うへへ~ありがとです~」
二星級パーティのリーダーである男は、受付へと懇願している哀れな男をパーティへと入れ、そのパーティは早速依頼を受ける。
「そのありがとうございます……」
受付の女性がそう言うとリーダーの男がこっそりと言う。
「依頼は失敗する。あいつを囮にして俺たちは帰ってくるからよ……なんかサービスしてくれよ」
「……わかりました」
「よろしく~」
色白な男はピースを目に当ててウィンクしながらそう挨拶する。
リーダーの男はそんな挨拶を見て思う。
軽率。
そんな言葉はこいつのためにあるのか?
ニヤニヤとふざけたような言動や所作、そりゃパーティは組めねえよ。
わりぃが俺たちの仕事場を邪魔する奴には、消えてもらわなきゃならならねえ。
何も悪くねえよな?だってこいつは邪族に殺されるだけなんだから。
「あはっ!手ごたえがないよ~リーダーぁ……もっと強い依頼が欲しいです」
ルルスはそのブレード状の剣を片手に持ち、驚異的な速度で邪族の群れをへと突っ込んだかと思えば、草魔法を織り交ぜた剣術で邪族をたった一人で壊滅させ、しばらくして返り血を浴びながらも戻ってくる。
嘘だろ……この依頼邪族の級は一級だぞ……しかも群れだ!俺たちが本気でやっても勝てない。なのにこいつは……!たった一人で!
ルルス・パラメルノ、龍刃流の草二級剣士である。
真っ黒な瞳に真っ黒な髪の毛、色白で少し女性っぽい印象があるが男性だ。
彼に師はいない、故に適当に剣士を見つけては級認定試験を受けている。
だが帥級以上の剣士はそう多くない、ルルスは今まで一級程度の剣士としか会っておらず、実力は二級以上だが級としては二級と認められている。
ルルスが試験を頼む相手は、ルルスより弱い。
故に正当な級が付いていないのだ。
「オマエ……なんで!」
「ん~?いやぁ~相手を斬れば勝ちじゃないですかぁ~簡単ですよぉ~」
ニコニコとした笑顔は、もはや気味が悪い。
ブレード状の剣に付着した魔族の血を草魔法で拭うと、ルルスは一人で勝手に帰り始める。
パーティの皆は唖然として少しの間動けなかった。
虹剣1681年4月5日、午後10:08。
フラメナとクランツは、クランツの土魔法によってドーム状の仮拠点が建てられ、その中で夜を越していた。フラメナはもうぐっすりと眠っており、たまに寝返りを打ったりする。
クランツは自身の持つ手帳をめくりながら過去のことを思い出していた。
クランツは十五歳で旅に出た。
彼も最初は東勢大陸に向かい、ウラトニ港から北上して行った。
北部はまだ領土戦争の雰囲気はなく、表面上ではあるが平和であった。
この世界には六つの大陸が存在する。
下の順にある大陸ほど大きい。
北峰大陸
中央大陸
南大陸
東勢大陸
西黎大陸
邪統大陸
クランツはその全ての大陸で旅を行い、南大陸へと帰ってきた。
彼が博識な理由は以上のことから考えられるだろう。
クランツの手帳はその時の旅の記録、写真も挟んでおり旧友と笑い合う姿などが写っている。
クランツは写真から目を背け、毛布にくるまり寝顔をこちらへと向けるフラメナを見て思う。
このフラメナお嬢様を連れての旅はいつまで続くかわからない、最低でも三年はかかる。
そうなれば東勢大陸だけでは時間の無駄だ。俺の役目はフラメナお嬢様の身を守り、南大陸へと帰れる日まで側にいること。だがそれは、メイン目標であってサブの目標は多くある。
フラメナお嬢様が願うように、強い魔法使いに育て上げること。
……世界ってのは少しばかり残酷だ。多分……いや確実にフラメナお嬢様は拒絶される。
この世界の生命は変化が嫌いだ。自身の魔法と大きく異なる魔法を見てどう言ってくる?
ライメやユルダスが、その魔法に嫌悪の眼差しを向けることは一度もなかった。
でも子供は周りに染まりやすい、たまたまあの二人には魔法の常識が多くなかった。
これは旅だ、様々な種族と関わることが多い。
確実にパーティのメンバー探しで苦労するだろうな。
フラメナお嬢様が気を病まなきゃいいが…
クランツはそんなことを思いながらも、ランタンに灯していた火属性魔法を消して暗闇の中、眠りにつく。