第百十四話 革命 後編
フラメナたちが転移で帰還してから、
およそ13分間の間にて戦士2500名のうち、
678名が鏖殺。
強欲のユーラルは八人へと姿を増やしており、
その八人の強さはそれぞれが君級邪族並みだ。
街の入口付近では血が多く流れ、
ノルメラは瀕死の状態で仲間の死体の上で横たわっていた。
街へとユーラルたちが入ってくる。
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地獄絵図が描かれた街の入口付近だが、
フラメナとライメが現在いる場所はそこから少し離れたところだ。
フラメナは転移してきた時よりも顔色が悪く、
残された時間は少ないように見える。
ライメは近くに座り込んで手を握る中、
街へとユーラルが入ってきたことを察した。
強大な魔力がこちらへと向かってきている。
「……フラメナ」
そんな二人の下にエルトレが帰ってくる。
やってきたのはラテラとクランツ。
偶然見つけられたらしく、エルトレは少し不安そうな顔をしてラテラの手を握っていた。
「ラテ……ラ、魔法を使っ……たら」
フラメナはこの期に及んで他人の心配をしており、
ラテラがそれを聞いて咳き込みながら言う。
「げほっ! フラメナさんが、死んじゃったらどのみちこの大陸は終わりなんです!
だからっ! っ……僕がたとえここで死んだって、
僕は最期まで魔法を使ってサポートします!」
その目には覚悟決まりし者の輝きがあった。
フラメナはそんなラテラを見て返す言葉もなくなり、無言になるとラテラが早速フラメへと近づく。
「……癒風!」
ラテラの手から緑の光が放たれ、
フラメナの大きな腹の傷が少しだけ塞がる。
そこからはフラメナ自身が持つ再生力で、傷がだんだんと埋まっていった。
「うっ……げほっ! がっぁ……」
ラテラは反動により顔を下に向け、
口から大量の血が流れる。
そんな光景をエルトレが唇を噛み締め、目を瞑って顔を横へと向けてしまう。
フラメナの傷はまだ治りきってはおらず、
後二回はラテラの治癒魔法が必要だ。
そんな中、クランツが後方から放たれる強烈な魔力に反応し、振り返るとゆっくりと歩いてくるユーラルたちが見えた。
「なっ……まさかもうここまで!」
「クソっ……あたしたちで止めるしかない!」
ライメとエルトレ、クランツがユーラルたちへと体を向ける。
「やっぱり生きてた」
「はは不愉快だなぁ……」
「驚きだよ……あれで生きてたなんて」
白い毛を持つユーラル本体、それに加えて嫌悪と驚嘆がそう言うと、歓喜が笑いながら三人へと走り出していく。
「あっはっはっは! 血祭りじゃ!
こんなにもいい機会はないじゃろう!」
エルトレはここで気がついた。
「……武器っ!?」
武器を置いてきてしまった。
転移する際、余裕がなさすぎたがゆえの失態。
どうしようかと考えていると、咄嗟に辺りに落ちてる棒を拾い、それを歓喜へと向けて投げつける。
歓喜はそれが肩へと当たって失速すると、
クランツの風の斬撃とライメの氷柱が眼前に迫り、
急いで後方へと跳んで避ける。
「あたし……武器ないや」
「クランツ先生……」
ライメがエルトレの武器のことに反応すると、
クランツはライメの顔を見て頷く。
ライメは氷の塊を剣のように作り上げ、
持ち手の部分にクランツの草魔法でツルを作り出し、持っても冷たくない剣が完成する。
「すごっ……魔法ってやっぱ最高だね」
「ま……まぁね」
ライメはそう言ってユーラルたちへと向き直す。
「悲しいなぁ……何やってももうダメなのに」
「怖いよ……なんでまだ諦めないんだろう」
「っ……あの魔法使いいるじゃん。
戦いたくない……」
悲嘆と恐怖、関心はあまり戦いたいようではなく、
後方で少しもじもじしているだけだった。
だがそれ以外の五人だけで戦力としては十分。
嫌悪は闇の斬撃を放ち、驚嘆は魔法陣を展開し拳を構えて踏み込んで、エルトレへと突っ込む。
エルトレが突っ込んでくる驚嘆を押し返すと、
嫌悪の闇の斬撃をクランツとライメが魔法で相殺。
だがその瞬間、ユーラル本体から氷の斬撃が大量に放たれ、一瞬にして三人の体へと傷がつけられる。
「やはり……あの白い者だけ別格ですね」
クランツは本体へと目をやり、傷を押さえながら話していた。
「っぐぁああ!?」
突如ユーラルたちの後方から叫び声が聞こえた。
何が起きたかと全員が視線を向ければ、恐怖を切り裂くルルスの姿がそこにあった。
「散々人殺して……随分とさっきは楽しそうでしたねぇ〜」
ルルスは血塗れの状態で笑みを浮かべているが、
内心激怒しているようだった。
先の街入口付近での戦闘。
ルルスは仲間に庇われて物陰へと身を潜めていた。
死んでいった仲間たちとは何度か会話を交わし、
親しくなった者もいた。
仲間たちの遺言。
『奴らを後ろからぶっ殺してやれ』
ルルスはそれを胸に刻み、怒りが顕現する。
「全員まとめて……あの世逝きです……」
関心は火炎の剣を作り出して斬りかかろうとしたが、それよりも早くルルスが腕を切り落とし、続けて悲嘆の腹部を一気に切り裂いていく。
一瞬にして三人の複製体の動きが抑えられ、
ルルスは眼前へと迫る激怒の拳をギリギリで避け、頬を切られながらも首を切断し、驚嘆へと向かっていく。
「まるでバケモノだなぁ!」
拳を突き出す驚嘆、それに合わせてルルスは拳に対して剣を突き刺し、空中でバク宙しながら驚嘆の首を切り裂いて着地する。
「ルルスさんがなんか知らないけど……めちゃくちゃ強いので今のうちに僕たちも合わせましょう!」
ライメがそう言うと、後ろを振り向いた状態のユーラルたちへと、クランツは風の斬撃を纏わせた竜巻を放った。
「嫌悪……後ろは任せた」
「不愉快だが……まぁよい」
嫌悪は闇の斬撃を放ち、竜巻を闇で吸い込み、
魔法を消滅させるとすぐさま斬撃を十字に放ち、
エルトレが前に出てその斬撃を受け止める。
ルルスは五人の複製体を切り裂いたのち、
歓喜と再び対する。
「またお主かぁ! 先よりも圧倒的に強い……
なにか細工でもしてきたのかァ!」
「えぇそうですねぇ……ただの怒りですよ」
ルルスは歓喜の放つ拳を切り裂き、そのまま全身を切り刻んでは地面を踏み込み、ユーラル本体へと向かっていく。
本来、複製体たちはそう弱くはない。
だが度重なる戦闘によりユーラルの魔力もかなり減ってきた。それが故に弱いのだろう。
ユーラル本体は依然強さを保ったままである。
「っぐ!?」
ルルスはギリギリユーラルの動きを視認し、
氷の斬撃を剣で防ぐと後方へと吹き飛ばされる。
吹き飛んだユーラルへと放たれる追撃の氷の礫、
それは容易く避けられるものではなく、このままいけばルルスは重傷を負うだろう。
だがその攻撃は、二つの斬撃によって防がれた。
「ヨルバさんにユルダスさん……」
ルルスは振り返るとその二人の姿が見え、ユルダスは包帯を巻いており、左腕が欠損していることがわかる。
揃う南大陸の精鋭の戦士たち。
ユーラルは関心と恐怖、悲嘆と歓喜の顕現を解除し、驚嘆と激怒の傷を再生させる。
察するに残った四名が精鋭なのだろう。
「嫌悪が三人を抑えている。
今のうちに潰すよ」
本体がそう言えば驚嘆と激怒は頷き、両者近接型が故に走って三人へと突っ込んでいく。
一方ラテラは治癒を終えようとしていた。
「フラメナさん……! もう治りますから!」
「ラテラ……もう大丈夫だからっ」
ラテラは鼻血や吐血を繰り返し、今にも倒れそうな状況。フラメナはほぼ傷が治った状態だった。
「……っ……終わりました」
「ラテラ……エルトレと一緒に今すぐここを離れなさい。もう十分助かったわ。あとは任せて」
フラメナがラテラの肩を触り、前へと歩いていく姿を見ながら少し、ラテラは寂しそうな顔をしていた。
「エルトレ、代わるわ。ラテラを連れて逃げなさい」
「……無理しないでよ」
「無理しないと勝てないわ」
エルトレはそれを聞くと、少し躊躇いながらもフラメナと位置を替え、ラテラを抱えて戦場を跡にする。
強欲と南大陸の戦いはついに死闘へと突入する。
はずだった。
フラメナは辺り一面凍てついた光景を見て、
なにが起きたかと確認しするため、体を起こそうとしたが、激痛によって立ち上がれない。
身体中寒く、痛みがジンジンと襲ってくる。
「……言ったはずだ妾たちは勝ちにきている」
ユーラルの複製体たちは消えており、
本体のみが戦場に立っていた。
皆瀕死の状況、体が再生するフラメナのみが少し動ける程度であった。
「なにが起きたか知りたいか?」
「……なんで」
本体は簡潔に話す。
「自爆……複製体たちに自爆させた。
氷の爆発はお主らを襲い、至近距離にいたものはじきに死ぬ」
想定外、まさか自爆だなんて誰が予測できる。
「っ……ほんっと、勝つためならなんでもするのね」
「うん。だって負けたらそこで終わり、
死ぬことは敗北の中の敗北。
二度と戦うことすら許されない」
ユーラルは氷の剣を作り出しフラメナに近づきながら言う。
「……お主はもう妾には勝てない」
逃げ道なんてない。
もうこれ以上、策もなかった。
フラメナがどう頑張ってもここから一人で勝てるわけがない。
詰み。
そんな言葉がフラメナの頭を過ぎる。
運命というのは常に平等である。
フラメナの運命は右肩下がりだった。
運命、それが今転じて天へと昇る。
戦場へと二人の戦士が舞い戻ってきた。
「フラメナさん!」
ラテラを担ぐエルトレ。
戦力としては微力だが、フラメナは一つの策を思い出し、喜びと共に悲しみが溢れた。
ユーラルは目にする。
絆というものによって紡がれる勝利への道を。