第十一話 東の大陸
東勢大陸。
六つの大陸の中で三番目に大きく、邪族の量は南大陸に次いで二番目に少ない。邪族と言っても人族の盗賊などが多い。
南大陸と東勢大陸は比較的田舎、
故にのどかな風景が多い。
王国は五つ存在しており、北部では大昔に一国が内部で三つに分かれ、現在三つの国が存在している。
近いうちに領土戦争が起こるとは言われているが、
もう五年も起きていない。
そんな東勢大陸へと向かう船に乗った二人。
この船はエイトール家が秘密裏に手配したものであり、奇襲の可能性は低いと伝えられている。
「私、船って初めてだわ!」
フラメナは十歳となり、王国にいた時と違って服装は冒険者らしいものになっていた。
動きやすい生地で出来たポロシャツのような服、
腰にはベルトをして相変わらず長ズボン。
今までと違う点はその身に羽織るローブだ。
魔法使いは自身の魔法から身を守るためにローブを羽織る。
クランツが買ってくれたのだろう。
フラメナはローブを気に入っている。
「このクランツ、船酔いするのでご理解お願いします」
「それって……」
航海が始まり、二時間も経てば暴君の叫び声の如く、声が甲板に響き渡る。
「クランツ……大丈夫?」
「心配……無用でございまっ!!」
また海へとクランツの虹がかかる。
フラメナは自身の師の情けない姿を哀れみの目で見ていた。
フラメナは乗り物酔いに強い、
思えばクランツは馬車の移動も嫌そうであった。
死鐘と呼ばれ恐れられる将級魔法使いを倒すなら今だろう。だがこの船内にそんなことをする者は居ない。
「っ……」
クランツは何度も治癒魔法で自身を回復する。
船旅とは、基本的に危険が付き纏う。
そのため、必ず船には護衛隊が乗船する。
南大陸と東勢大陸の間の海は、グレンツェ中央洋と呼ばれており、邪族の中でも最大将級レベルの魔族が出没する。
フラメナが気分を悪そうにしているクランツを横目に、海を眺めた。
海って初めて見るわ……ゼーレ王国から海まではかなり離れてるし、外は危険だって言われて行ったことはなかった。
お父様やお母様は海を見たことはあるのかしら?帰ったらいっぱい旅の話が出来るようにしなくちゃ!
「邪族です!」
甲板に響く声、護衛隊が船内から出てきて五、六名が杖や魔導書、魔法球を構える。
海から出てくる巨大な鯨のような邪族、恐らく階級は上級。
魔法使い達は魔法陣を展開して迎え撃つ準備を始める。
あの人たち……すっごく色が溢れ出てる!
赤、青、黄、茶……なんなのかしら?
クランツは薄い緑だし、ライメは水色で、ユルダスは青だった。
今まであんまり考えなかったけどこの色ってもしかして……
「火帝一手!」
赤色のオーラを纏う者が杖から火属性魔法を放つ。
「やっぱり……」
フラメナは確信した。
この溢れ出す色はその者が持つ属性を表している。
そしてこの色が見えるときは、いつも意識してみているときのみ。
これは自分にしかないものなのだろうか?
船旅が終わったらクランツに聞いてみようと思ったフラメナであった。
帥級火属性魔法が鯨へと直撃すると、そこに他の魔法使いたちが一気に魔法をぶつけ、一瞬にして鯨を沈めた。
それから六日間特に危険なことはなく、無事船旅を終えた。
「んーっ!!やっと着いたわね!」
虹剣1681年4月5日、午前9:38。
短めの船旅を終えて二人は、東勢大陸最南部のウラトニ港へと到着した。
「うっ……船は慣れませんね」
「弱すぎよクランツ!」
フラメナが微笑みながら背中をさすっていると、後ろからゼーレ王国の騎士が話しかけてくる。
「わたくし達は王国に戻りますので、お二方の武運を王国から祈っております。」
そうやって頭を下げる騎士に二人は感謝を告げると、間もなくして船は南大陸へと向かって出航した。
「さぁ!旅よ!……クランツ旅って何するのかしら?」
「そうですね。今のところわたくしたちの旅に目的はありません。領土戦争が始まって終わるか、領土戦争が起きる可能性が低くなれば自然と帰れます。」
「なら私が強くなる旅ってのはどうかしら!」
「それにしましょう。何もせず暮らすなど時間が無駄になってしまいますからね」
二人はそう言いながらも、歩き出して港町へと入る。
「なんだか……静かね」
「ここは東勢大陸の最南部、フィエルテ王国です。この大陸の中では一番貧しいですから、あまり余裕がないのでしょう」
「朝食でも取りましょうか」
「何があるのかしら? 私、お肉が食べたいわ!」
クランツはふと横にある店に目をつけ、フラメナを連れて中に入る。
「いらっしゃい、水はいるかい?」
「ええお願いします」
「私のはいっぱいでお願い!」
「あいよ」
店内はガラガラで数人程度が食事を黙々と行っていた。
店主は眠そうな目であり、丁寧とは言えない接客である。
クランツはメニュー表を見て料理を選ぶ。
「フラメナ様は何にいたします?」
「見せてちょうだい!」
フラメナはクランツが見せてきたメニュー表を見て選び始めた。
「……これが良いわ!」
クランツはそれを聞いて頷くと水を持ってきた店主に注文を伝える。
「これとこれで」
「あいよ、お嬢ちゃん、卵焼きにソースがかけれるがいるかい?」
「お願いするわ!」
大きなジョッキに水が入ったのがフラメナの前に置かれ、店主は厨房へと向かって行った。
「あのおじさん最高ね、お水がいっぱいよ!」
「静かですが温もりは感じられますね」
クランツが微笑みながらそう言うと。
喉が渇いていたのだろうか、フラメナはその大きなジョッキを両手で持って、ジョッキにつく水滴を少し垂らしながらも、ゴクゴクと水を飲み始めた。
「さて、料理を待つ間に詳しく今後を話しましょうか」
「ぷはっ……良いわね!」
クランツは地図を広げて指を指しながら話し出す。
「現在地はここです。魔法使いとして強くなるのであれば、やはり実戦が一番の成長の素。北部は領土戦争間近ということもありますので、今回は避けます。ので、ここフィエルテ王国を抜けてパスィオン王国に到着しましたら、一人剣士を雇いガレイルにて邪族討伐依頼を受けましょう」
「フィエルテ王国のガレイルじゃダメなの?」
「ここは小さい領土故に、ほぼ統治が行き届いております。それ故にあまり依頼が多くないので、山脈なども存在するパスィオン王国に行くのですよ」
「パスィオン王国付近には、どれくらい強い邪族が出るのかしら?」
「パスィオン王国周辺であれば最大でも上級、山脈となると標高が最大2500mほどあり、頂上付近には魔族の知性なし竜族が住んでいます。過去に戦いましたが基本、雄雌と行動を共にしており多くの場合二体相手となります。わたくしがいても勝てないでしょうね。竜族は知性がない代わりに超強力ですので成体であれば将級下位はあります。」
「はちゃめちゃに強いのね……」
「えぇ、はちゃめちゃに強いですよ」
「私って一級魔法使いなんでしょ?やっぱり一級の依頼を受けるのかしら?」
「いえ、パーティ結成時は一つ星パーティですので、下級から中級程度しか相手にしません」
「えー、そんなのじゃつまらないわ!」
「慢心はよくない癖になりますよ。フラメナ様は実戦経験が乏しいので下級、中級で十分です」
フラメナはふと思い出し、皆から溢れる色を思い出す。
「ねえクランツ、意識したらなのだけど、人から色が溢れてるのよね」
クランツは飲んでいた水を吹き出しそうになるが、何とか耐えて飲み込むと驚いたように言う。
「っ……それは”魔眼”ですよ!」
「魔眼?」
「魔眼は、魔力を多く含む目です。魔眼は生まれたころからか、どこかで発現するかの二択でしか持てません。種類は多くありますが、フラメナ様は”魔彩の目”と呼ばれるものでしょう」
魔力には色が八色存在する。
赤色・青色・薄緑色・緑色・茶色・水色・黄色・黒色
魔彩の目とは、空気に流れ出る魔力を見ることができる。
言わずもがな、戦う前に属性がわかるのは非常に有利。
相手が赤色のオーラを纏っていれば火属性、自分自身が草魔法使いであれば戦闘を避けたりとできる。
故に魔法使いにとっては喉から手が出るほど欲しい目である。
「つまり……すごいのね!」
「えぇ、非常に強力な目でございます。いつ頃から見えるようになりました?」
「確か私が攫われて…助けられた後に帥級剣士が居たじゃない?あの時から見えるようになったのよ!」
フラメナが七歳時に攫われたあの事件、フラメナは死にかけている。
「……大きなダメージを受けて覚醒したのかもしれませんね」
「覚醒?」
「魔法使いも剣士も、死にかける際に魔力が一気に増幅します。多くはまさに死ぬ間際で意味がないのですが、少しだけそれが早かったりすると溢れる魔力で反撃し、勝利するということもあります」
「そうなのね……」
「だからと言ってあの事件が良いとは言えませんが、良いものを手に入れましたね」
フラメナはくすっと笑いクランツへと言う。
「クランツはいっつも私のことばかりね!」
「当たり前ですよ…責任がありますから」
「どうせ義務じゃないでしょ!ふふありがとうねクランツ!」
そうやって談笑する二人の元に料理がやってきた。
フラメナはステーキに卵焼きと少しの野菜、クランツは野菜多めでハムを何枚か頼んでいた。
新天地での初めての食事、二人は美味しそうに食事を楽しむ。
まだ旅は始まったばかりである。