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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第十二章 純白魔法使い 強欲編
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第百十二話 長く短い夜行 Ⅲ

 ルルスやユルダス、ヨルバ達は複製体を討伐し終え、各々がこれからの動向を決めていた。


 ルルスはまだ軽傷のため戦いを続行。

 ヨルバも同じく怪我自体は少ないため、加勢しようと動いていた。


 だがユルダスは重傷である。

 左腕が消し飛ばされており、出血こそ止まっているものの、体に蓄積されたダメージは相当なものだ。


「……大きな魔力ですね」


 ルルスは溢れんばかりの魔力量を肌で感じ取り、

 それが発せられる方へと顔を向ける。


 一方街では、フリラメは預かったパフラナをガルドンと行動を共にし、街の東側へと避難していた。


「フリラメお嬢様……どうかされましたか?」


 いつもは勢いのある喋り方と妙に女性っぽいガルドンだが、この日の彼は頼れる男のような雰囲気であり、色々と状況を察しているようだった。


 フリラメは自分たちが向かう方向とは反対の、後ろを見て言う。


「この魔力……魔王側近のよね?

 こんなところまで……」

「魔王側近は強敵……

 我々はただ祈ることしか出来ませぬ」


 フリラメは唇を噛み締め、皆が勝つことを願う。


 ーーーーーーーーーーー


 どれだけ努力をしてきただろうか。

 誰よりも努力してきたつもりだ。


 俺は心底負けず嫌いで、とにかく負けたくない。

 才能なんてないのに魔法が好きになって、強くなるにはひたすらに努力するしかない。


 何度も挫折しかけた。

 何度も死にかけた。

 何度も嫌いになりかけた。


 でも俺は魔法が大好きだ。



「先の攻撃でまだ死なぬか?

 依然不愉快、死ぬなら早う死ね」


 嫌悪が吐き捨てるようにそう言うと、

 クランツは嫌悪の少し先で倒れていた。


 頭からは血を流し、腕や腹には切り傷。

 誰がどう見ても重傷でもう動けない状態。


 それでも彼は立ち上がる。


「まだ……殺されてたまるものですか……

 わたくしには愛弟子が三人います。

 そして今、そのうちの二人は休憩している。

 わたくしは師として……まだまだカッコつけさせてもらいますよ……!」


 クランツは魔法陣を大きく展開し、

 辺りに強い風が吹き始める。


「だからなんだ。妾には関係のないことだ」


 嫌悪は手をクランツへと向ける。


「えぇ、関係ないでしょう。

 ですが、戦いなんてのは押し付け合いですよ」

「よっぽどその魔法に自信があるんじゃな。

 よいよい、死に際は花を飾れい」


 クランツは魔力を身体中に巡らせ、

 極限まで集中力を高めると、辺りの風もどんどんと強くなり続け、嫌悪はただひたすらそれを見つめるのみであった。


 将級風魔法。

 それの規模は災害と肩を並べるほどである。


極風(フエルント)ッ!」


黒雲渦(ブラッデイメ)


 クランツの杖から放たれる風魔法。

 それは超高速で嫌悪へと向かっていき、地面を抉ってしまうほどの魔法。


 対して嫌悪は真っ黒な渦を作り出し、

 正面からその魔法を渦で受ける。


「中々よい魔法じゃ、じゃが取るに足らん」


 黒い渦がクランツの風魔法を呑み込み、

 完全に魔法が消えてしまうと、嫌悪の前からクランツが消えていた。


「……?」

極風・斬(フエルント・イラル)!!」


 クランツは上空へと足から風を出して移動しており、その場から先の魔法の派生を放つ。


 それは元の極風とは桁違いなまでに殺傷力が上がった一撃、巨大な風の斬撃が高速で放たれ、嫌悪の肩から切り込みが入り、胴体を斜めに切断する。


 クランツはその一撃が当たったのを見ると、

 空中からふらふらと降りてきて、そのまま地面に座り込むと、再生を行う嫌悪を見て苦笑いする。


「羨ましい限りですよ。

 致命傷を喰らっても尚……そうして動ける」

「だから妾たちは魔王側近なのじゃ。

 人族の魔法使いよ。一撃妾に入れたことは褒めてやる。それを誇りに死ぬがよい」


 嫌悪が再生を終え、闇魔法によって作り出された黒い槍がクランツへと向かって放たれる。


「残念ですが、死ぬのは貴方です」


 その瞬間クランツの目の前に白い火が現れ、

 黒い槍が何者かの手に取られると、その槍は溶けて消えてしまう。


 なにもない空間から現れた四人の人影。


 嫌悪は舌打ちをして言う。


「加勢か……不愉快極まれり!」


「クランツ、待たせたわね。

 あとは任せてちょうだい」


 純白、フラメナ・カルレット・エイトール。

 ライメ、エルトレ、ラテラを連れ戦場に再起。


「情けないところを見られましたね」

「あいつの姿が一つ変わってるってことは倒したんでしょ? それだけで十分よ」


 フラメナは瞳の色が桃色に変わり、髪の毛の末端が赤く染まる。


「げほっ……クランツさん僕と一緒に街へ向かいましょう」


 ラテラは非常に体調が悪そうだった。

 持病が悪化し始めているのだろう。


 ラテラがクランツを連れて下がると、

 嫌悪と三人が正面から対することとなり、先に口を開くのは嫌悪だった。


「いい気になりおって……人が増えたからなんじゃ。

 まとめて殺してくれるわ」


 嫌悪は黒い霧を纏い始め、魔法陣が展開され始める。


「ライメ、エルトレ。作戦通りに行くわよ」

「任せて」

「わかってる」


 フラメナは白い火を手から溢れ出させ、

 一歩ずつ前へと歩いていくと、嫌悪の黒い霧が固まってフラメナへと向かっていく。


 白い火を纏った手がそれを弾いた瞬間、

 それを合図に戦いの火蓋が切られ、嫌悪の周りから大量の闇が溢れ出す。


 その闇は斬撃へと変化していき、一気にフラメナへと向かっていく。


 ライメは嫌悪の闇属性を見て特性を思い出す。



 闇魔法は他の魔法を打ち消す力がある……

 もちろん打ち消しにも限度はあるし、万能ってわけでもない。でも闇魔法の本領は攻撃面……


 被弾箇所には闇魔法の吸い込みが派生して傷口が広がるから、それが起きててもフラメナは再生できるのかな……もし出来なかったら……



 ライメはフラメナが再生出来なくなった時のことを考え、少し手に力が入る。


 フラメナも闇属性には警戒していた。

 彼女もまたこの属性の特性を知っている。


 フラメナは闇の斬撃を避け、そのまま嫌悪へと手を向けると白い電撃を放つ。


「至極単純、本当に君級なのじゃ?」


 嫌悪は手を電撃へと向けると黒い渦が一気にそれを呑み込み、一瞬にして斬撃へと変わってフラメナへと向かっていく。


 だがその斬撃は一つの武器によって弾かれる。


「ほう……!」

「ほんっと、なんでも呑み込んじゃうんだね!」


 転移して現れるのは武器を振り下ろすエルトレ、

 それが闇の斬撃へと直撃すると、斬撃自体は弾かれるがエルトレの武器へと闇が少しこびりつく。


 エルトレは振り終わりの隙に嫌悪の闇の斬撃が放たれる。その瞬間再度転移が発動し、魔法を放つ瞬間のフラメナが現れた。


 嫌悪は恐怖から今に至るまでの戦いを見てきている。


 故にこの三人の戦い方は熟知している。

 フラメナという一撃必殺持ちを中心に転移により相手を惑わし、着実にダメージを与え続ける。


 嫌悪はフラメナを見て口角を上げる。


「何度も嬉々として転移するでない。

 ほれ、闇が迫ってきたぞ」


 悪寒が三人へと襲いかかる。

 フラメナは魔法を放って闇の斬撃を打ち消した瞬間、嫌悪が魔法を呼称した。


滅淵月(メラダルトス)


 四方八方へと放たれる巨大な闇の斬撃。


 それは避けることができない規模である。

 フラメナは正面から白い火を一気に放ち、背後の二人を守ろうとした。


 闇が徐々に白い火を侵食し、まさに斬撃がフラメナを切り付けようとした瞬間、嫌悪の横にエルトレの武器が飛んできた。


「?」


 嫌悪が追撃を放とうとした時、思わずそれへと目を向ける。だが転移してくるかと思いきや、転移は発動せず、嫌悪は視線を正面へと戻した。


「なっ……!」


 闇の斬撃が消えた瞬間、見える姿は武器を持ったエルトレ。


 まさかと思い、急いで武器があった方へと嫌悪は目を向けると、そこにはフラメナがおらずライメがいた。


 それにより益々困惑が深まる。

 だが、フラメナがどこにいるかはすぐにわかった。


 背後とて至近距離。

 フラメナは嫌悪の背中に手をすでに当てており、

 何をしても無駄な状況。


「驚いた。策勝ちされるとは……」

「さっきのはやばかったけど、おかげでここまで接近できた。あなたの負けよ!」


 フラメナが白い火を一気に放つと、それは体を貫いていく。


「……離れろ」


 今までユーラルが人格を変える際、空気が重たくなるような感覚があったが、今回ばかりはなにも感じられなかった。


 ユーラルの髪が白く染まり、

 真っ白な尻尾がうねり出した。


 その瞬間、フラメナは首元に迫る氷柱を間一髪で察知し、後ろへ跳んで避ける。


 辺りに冷気が満ち、一気に空気が重たくなると、

 新たな人格を宿したユーラルが一言。


「構えろ……かかってこい」


 名乗りもしない新たな人格。

 九つの人格による九度の戦いの変化、

 それもついに残すところ二つとなった。


 ついに強欲のユーラルの本領が発揮される。


 魔王側近序列四位の力。

 それは常軌を逸したものであった。

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