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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第十二章 純白魔法使い 強欲編
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第百十話 長く短い夜行 Ⅰ

 恐怖、歓喜、激怒が敗北。

 驚嘆を冠するユーラルの尻尾が再生し、六本から九本へと変わる。


「ライメ、他に加勢って来るかしら?」

「置いてきちゃったけどエルトレが来るよ。

 多分もうすぐ来ると思う」


 フラメナが加勢を心配する理由、

 それは驚嘆のオーラが悲嘆に比べて非常に大きいからである。


 まだ傲慢ほどのオーラではないが、君級邪族と呼ぶに相応しい力だ。


 フラメナは自分を最強だとは思っていない。


 確かに魔王側近への特攻持ちの魔法や、治癒魔法ではない欠片による再生など、そこにフラメナの実力が加わればずば抜けて強い魔法使いではある。


 だが仲間が多くいるのであればその者たちと戦った方がいい。フラメナはいつだって慎重だ。


「ライメ、体に異常とかって感じる?」

「特にはないけど……どうかしたの?」


 フラメナは驚嘆を見ながら話す。


「さっきあいつは領域魔法を使った。

 だから何かしらフィールドが出来上がってるわ。

 それなのに、私たちにはなんにも影響がない。

 少し変だとは思わない?」


 ライメはそう言われ、確かにと共感する。


 領域魔法の用途は様々だ。

 基本的には魔力増強や、敵へのデバフ。

 領域を経由しても魔法発動だったり、使用者によって領域の内容は大きく変わる。


 だが驚嘆が使った領域は、未だ効果が発動していないように思える。


「お主ら驚いているのかのう?

 そんなに領域が気になってしょうがないか」


 驚嘆は指を鳴らすと自身の横に悲嘆が作り出した召喚体を再度召喚し、地面の土が盛り上がって谷のような地形が出来上がる。


「なっ、なによこれ!」


 あまりの規模の土魔法にフラメナが驚くと、

 驚嘆は口角を上げながら指を向ける。


「妾の驚天動地(トブシラトルデ)は地形生成、

 シンプルにただそれだけじゃ」

「親切に説明なんてしてくれるんだね……」


 ライメがそう言うと、驚嘆は拳を構え二人を見つめる。


「一度知られれば驚きは冷めていく。

 ならばもう隠す必要もなしじゃろう?

 妾は隠し事が嫌いでなぁ、正々堂々戦おうぞ」


 驚嘆から一気に圧のようなものが放たれた。


 完璧な構え、隙がなく美しさまで感じてしまい、

 この驚嘆がいかに拳術を極めたかが分かる。


「ゆくぞォ!」


 一気にダンっと音を鳴らし、地面が砕けて高速でこちらへと飛び込んでくる驚嘆、狙いはライメ。


 ライメはこの二年であることにのみ集中していた。


「っ!」


 次の瞬間、驚嘆の前にいたライメがフラメナへと変わり、白い電撃が驚嘆の体を貫いた。


「っは……」


 そのまま追撃にて火を放ったフラメナだが、

 それは召喚体によって吸収されてしまい、驚嘆が距離をこちらから離すことに成功してしまう。


「なんだ今のは……?」


 驚いた表情の驚嘆、シューッと腹部から白煙が上がりながらも再生を終える。


「今のは転移魔法で位置を変えただけさ」

「そんなことは知っておる! なぜ魔法陣も呼称も無しで入れ替われた?」


 ライメは親切に驚嘆へと種明かしを行った。


「無呼称、無陣で発動しただけだよ。

 親切のお返しは済んだ。これで平等だね」


 驚嘆は非常に驚いた。

 人族でありながらもこうも誠実であり、

 こちらのこだわりに向き合ってきた者が初めてだった。


 そしてもう一つ、過去三名の転移魔法使いのうち、

 短縮発動で転移魔法を扱えた者は存在しない。


 ライメが転移魔法使いなことは知っていたが、

 まさか短縮発動にて扱えるなど完全なる想定外。


 驚嘆は興奮したように拳を構え、足元に魔法陣が展開される。


「ははははっ!! 想定を優に超える戦士たちなど、

 二度目の経験だァ! 興奮が収まらぬのう!」


 そう言って拳を前に突き出す驚嘆。

 その瞬間、衝撃波のようなものがライメを吹き飛ばし、後方の土の谷へと叩きつける。


 フラメナは少しの不安を抱えながらも、振り返ることはせず、追撃にてすぐさま放たれる衝撃波へ白い火を纏った手で弾き、走り出して驚嘆の魔法陣に足を踏み入れた。


「がっぁ!」


 突如、フラメナの腹部へと大きな衝撃が入り、

 後ろへと地面に背中を擦りながら倒れ、思わず口から唾液が溢れる。


「ははっ! どうした。妾の魔法陣に入った瞬間吹き飛んで驚いてるようじゃのう!」


 フラメナは腹部を再生し、内臓へのダメージを回復するとジンジンと痛む腹を片手で押さえる。


 そうしてる間にもフラメナには衝撃波が迫る。


 だがフラメナは動かなかった。

 ライメを信じているからである。


 次の瞬間フラメナが転移し、ある者が入れ替わりで現れ、斧のような武器が衝撃波を弾く。


「誰だお主!?」

「エルレット・ミシカゴール。

 エルトレと呼ばれてるあの二人の親友さ……ッ!」


 犬の子剣士。大武器振り回し現れる。

 突然の攻撃に驚嘆は反応しきれず、斧が胸を切り裂いた。


 血飛沫が舞う中、エルトレの腹部へと衝撃が走り、

 後方へと立った状態のまま後退していく。

 

 ライメはフラメナの手を掴み、立ち上がることをサポートすると、エルトレの方へと歩いていく。


「さすがに転移は厄介じゃ、

 加えて剣士も加わって益々驚きの連続。

 最高の戦いじゃぁ!」


 驚嘆は両腕を引いて一気に血管が浮き上がると、

 三人は危機を感じ取り、ライメは大量の氷の壁を作り出し、フラメナは白い土の壁を建てる。


 エルトレは特に魔法が使えないので、とりあえず斧状に変形した武器を立てて影に入る。


六震流(ドラクルユ)!」


 次の瞬間、四方八方へと拳の衝撃波が放たれ、

 領域にて作り出された土の谷が崩壊し、地面が揺れて大地が割れていく。


 フラメナは揺れる大地の上、迫る土の雪崩を見て跳び上がる。


「ライメ! 氷の壁で自分たちを覆いなさい!」


 そう言われて氷の壁が出来上がると、フラメナは白い火を一気に纏い、不完全な覚醒状態であるはずが一瞬、両手が白く光る。


天炎星(イデアリーエルト)ッ!!」


 フラメナを中心に巨大な白い火の球体が出来上がり、それが四方八方へと放たれる。


 悲嘆の召喚体がそれを呑み込もうとするが、

 明らかに限界を超えており、そのまま消え去ってしまう。


 向かってくる土に向かって白い火がぶつかり、

 全てを押し返すと、驚嘆は跳び上がってその場から逃れる。


 一連の魔法が全て消滅した後、焼け野原と化した領域内にて、フラメナは息を荒くしながら着地し、ライメとエルトレが氷の壁の中から出てきて安心する。


 フラメナはかなり限界が近かった。


 不完全な覚醒状態の維持、度重なる再生。

 大技の使用や連戦に次ぐ連戦。


 魔力はすでに底が見え始め、休憩をしなければどこかで倒れてしまうだろう。


「フラメナ……一旦転移でここ離れて休憩する?」

「そんなのダメだわ……他の三人の方にあいつが行ったら最悪よ……死闘を乗り越えて勝ってるはずだわ。

 私たちが戻ってくるまで耐えれるわけがない」


 フラメナは汗を顎から一滴垂らすと、それが地面に落ちる前に驚嘆が一気に横から突っ込んでくる。


 驚嘆は拳を放ち、フラメナは咄嗟に腕でその拳を防ぐと骨が砕け、そのまま地面を滑って吹き飛ぶ。


 エルトレとライメは無言ですぐさま反応し、

 ライメの氷魔法にて作られた氷柱と、エルトレの斧状だった武器が変形し、剣が驚嘆へと向かっていく。


 驚嘆はその二つを両手で掴んで血を垂らしながら防ぎ、エルトレの剣を地面に叩きつけ、回し蹴りを横腹に打ち込んで距離を離すと、ライメへと顔を向ける。


「っ!」

「まずはお主からじゃっ!!」


 ライメの眼前へと迫る拳、その瞬間転移が発動。

 驚嘆の背後へと転移したライメ、だがそれは読まれていたようで蹴りが飛んでくる。


「……?」

「僕の方が一枚上手だよっ!」


 ライメは二回転移を発動していた。

 故に最初の位置へと戻っており、拳を避け、驚嘆の腹部へ手を当てる。

 そして一気に氷の魔力を流し込み凍てつかせると、

 驚嘆を後方へと転移させた。


 凍った腹部の細胞を自ら破壊し、再生を行おうとした瞬間、血を吐きながらエルトレが丸腰の状態で突っ込んでくる。


 驚嘆は困惑をしながらも再生を終えて拳を突き出そうとすると、ある考えが脳裏を過ぎる。



 まさか、転移で天理の欠片と入れ替わるつもりか!

 かからんぞぉ! 妾はそう容易くないわ!


 驚嘆はニヤッとしてあえてフラメナが吹き飛んだ方へと向かって走り、拳の衝撃波を飛ばす。


 だが、転移は発動しなかった。


 それにより、エルトレの拳が驚嘆の横腹へと突き刺さり、衝撃により少し横へと体がずらされる。


 眩しい。

 そんな感想が脳内に浮き出てくる。


白帝元(ホワルトゾメラ)ァッ!」


 放たれる純白魔法、白炎は螺旋を描きながら驚嘆へと一気に放たれ、拳の衝撃波も打ち消され正面から直撃してしまう。



 全身へと与えられる猛毒の魔法。

 驚嘆は火の中で白目を剥き、領域が崩壊する。


「っはぁっ! はぁ……はぁ!」


 フラメナは激しく息切れを起こし、不完全な覚醒状態が解けて瞳と髪の色が元に戻ってしまった。



「はぇぇ……興味深いなぁ。

 驚嘆がやられるなんて、すごく久しぶりだよ」


 現れる新たな人格。

 髪の毛が橙色に染まり、瞳が真っ赤に燃えるような赤へと染まる。


「次から次へと……!」


 フラメナがうんざりしたように言うと、新しい人格を冠するユーラルが一瞬でフラメナへと接近し、火魔法にて作られた剣がフラメナの首に入り込みかけた。


 その瞬間エルトレが剣と首の間に自身の剣を置き、

 思い切り押し返すと、ユーラルは後退する。


「ありがとうエルトレ……」

「もしかしてこれってマズい?

 あたし的には絶望なんだけど」

「……えぇ、結構マズいわ」


 ユーラルは火炎の剣をくるくると回し、

 自身が何者か名乗る。


「妾は関心を冠する人格さ。

 久しぶりに戦えそうで楽しみだよ〜」


 貼り付けたような笑顔、関心から放たれる魔力量は驚嘆よりも多く、明らかに一段ずつ強さが上がっていっている。



 フラメナは魔力切れ。

 ルルスやユルダス、ヨルバなども死闘後であり、

 エルトレとライメでは敵わない相手。


 どうしようかと思っている時、

 フラメナの肌を刺激する懐かしい魔力。


 街の方から鐘のなる音が聞こえ、辺りに風が吹き始めた。


 次の瞬間、関心へと向かって放たれる風の斬撃。

 それはフラメナたちの背後から放たれたものであり、関心は余裕の表情でそれを弾き返す。


「へぇ、ここにて加勢なんて熱いねぇ」


 ライメとフラメナの目が輝く。


「クランツ!」

「クランツ先生!」


 恩師クランツ・ヘクアメール。

 またの名を、死鐘(ししょう)のクランツ。


 戦場にて現れる新たな戦力。


「お待たせ致しました。

 あとはお任せください。このクランツ、死ぬ気で皆様をお守りさせていただきます」

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