表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第十二章 純白魔法使い 強欲編
116/117

第百九話 御祭り騒ぎ Ⅳ

 ユルダスの水魔法によって足元を掬われた恐怖。

 それにより剣の連撃にて再生に集中し、身動きが出来なくなっていく。


 魔王側近といえど再生力に限界はある。

 加えて複製体、再生力は高くはなく、一瞬でも気を緩めれば恐怖はその身を滅ぼす。



*ユーラルの強みは?


「どう考えたってあの多重発動だよ。

 だって、僕ちゃんでも出来ないも〜ん」


「九回も戦い方が変わったり、複製体が出せるのは強いけど〜、やっぱり多重発動でしょ?」

「あれなー、やろうと思って出来るもんじゃないぞ」


 色欲に嫉妬、怠惰はそう強欲を評価している。


 これは怠惰の部下であるケルメトのインタビュー結果だ。



 恐怖の目がじっとユルダスを見つめ、

 辺りに魔力が満ちた瞬間、二人の間の空間に衝撃波が発生し、距離が離される。


 段々と再生を終える恐怖、そのまま一気に魔法陣を幾つも作り出し、腕を向ける。


「妾の残る魔力全てを使ってお主を殺す。

 役目はお主の殺害……恐怖していいよ。

 恐ろしくて泣いてしまうほどの攻撃を見せてあげるからさ……!」


 全ての魔法陣が一箇所へと集まり、黒い渦が出来始める。


 召喚魔法は基本一つの魔法陣から出現させる。

 だがこの幾つもの魔法陣が一箇所へと集まった状態で、個々から召喚体が出てくればどうなるだろうか。


喪心(キマズウ)……!」


 黒い渦に大量の召喚体が閉じ込められ、圧縮されていき、ユルダスはそれを見て咄嗟に走り出す。


 一刻も早く逃げなければただでは済まない。

 だが、その判断はすでに遅かった。


 大量の召喚体が一気に放出され、黒い光線のようなものがユルダスへと向かっていく。



 ……人族は怖いんだ。

 あいつらは平気で誰かを蔑む。


 どれだけその人がいい人でも、一つのミスで一気に牙を向けてくる。


 獣族なんかよりも鋭い牙、それで心を抉ってくる。

 妾はそれが怖い、そんな経験したくない。


 だから殺す。不安なことは解決するべきなんだ。

 殺したらすぐ解決する……すごく単純なこと。


 でも殺せなかったらどうなる?

 妾は恐怖として痛みを感じながら死に、また新しく元の体へと戻り再生する。


 死ぬ時のあの感覚、怖くてしかたない。

 妾は、この世界に生まれたことが怖い。


 一個人の別人格、主導権は握れない。

 神様、なんで妾に体をくれなかったんですか?


「……耐えるんだ。ははは……人族は怖いなぁ」


 ユルダスは左腕が完全に消し飛ばされていながらも、右手で剣を持ち立っており、傷口は圧倒的な質量で焼け切れ、運良く出血はしていなかった。


「腕がやられた。想定外だった。

 怖かったぜ……さすがに死ぬかと思った」

「人も……死ぬのは怖いんだね」

「怖いに決まってるだろ……」


 恐怖は少し笑うと体が塵となっていく。


「なんだ……人族にも心はあるんだね」


 そう言って体が崩壊し、恐怖はユルダスに敗れた。


「腕……抱っこが難しくなっちまったなぁ……」


 ユルダスは上を向きながら剣を納める。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「早いのう! 本当にお主将級なのかァ!?」

「あっははは、褒めてくれて嬉しいです〜!」


 ルルスと歓喜を冠するユーラルは、互いに笑いながら高速で戦闘を行っていた。


「じゃが、速度じゃ負けんぞォ!」

「っぐ!」


 歓喜はルルスを上回る速度で回し蹴りを放ち、

 それを肩で受けたルルスは勢い良く吹き飛ぶ。


 歓喜の特徴は圧倒的なスピードから放たれる打撃、

 電撃を纏うそれは致命傷に容易く至る。


 ルルスは痛みを気にせず体勢を立て直し、

 一気に踏み込んで歓喜へと切り掛かる。


「ちと鈍くなったか?」

「あえてですよ」


 ルルスは剣を避けられると、そのまま歓喜を通り過ぎて走り抜け、歓喜からどんどんと遠ざかっていく。


 一瞬逃亡したのかと思うほど離れるルルス。

 歓喜が一歩前に踏み出した瞬間、豪速でルルスがいきなり吹き飛んできて、歓喜の腹部を切断する。


「!?」


 訳のわからない攻撃に困惑が隠せない歓喜。

 ルルスはあまりの速度に地面を転がりながら着地するも、立ち上がって剣を構える。


「なんだ今のは……!?」

「ツタで一気に吹き飛んだんですよ。

 見えてなかったんです〜?」


 ルルスは自身の足にツタを巻き付けており、

 それを伸ばし続け、引っ張りが最大になった瞬間ツタを切って飛んだのだ。


 歓喜は切断部位を再生して、口角を上げる。


「面白いのう! 喜ばしいのう!

 楽しくてしょうがない戦いじゃぁ!」


 ルルスが立ち上がった瞬間、

 眼前へと歓喜の電撃纏う拳が迫る。



 ルルスは今将級剣士の中で最も君級に近いだろう。

 龍刃流らしい素早い剣術、自由な発想からくる戦術の多彩さ、そして傷を受けても怯まない狂気。


 枠組みを越え規格外となるには十分な要素が多い、

 きっかけさえあれば、その実力は飛躍的に向上するだろう。



 ルルスは歓喜の拳を剣で弾き、そのまま後退すると追撃が放たれ、ルルスは一方的に攻撃され続けて剣での防御に徹する。


「どうしたァ! まだまだ妾を楽しませるんじゃ!」

「楽しませてあげますよ〜」


 ルルスは姿勢を低くしてそのまま歓喜の横を通り過ぎると、歓喜が振り返るよりも早くルルスは折り返し、混乱させるように辺りを走り回る。


「ちょこまかと鬱陶しいのう!」


 歓喜は笑いながら電撃を四方八方に放ち、

 辺りを見渡してルルスがどこにいるか探す。


 だが電撃が放たれたはずの辺りにルルスはおらず、

 歓喜が困惑していると、背後からルルスの魔力を感じ取って振り返り際に拳を放つ。


「?」


 草の魔力によって作り出された草の人形。

 それはルルスの魔力が込められており、歓喜はそれを拳で貫いただけだった。


「あっ」


 歓喜が何かを察して動こうとした瞬間、

 ルルスが一気に遠くから突っ込んできて首と胴を切断し、蹴り飛ばすと歓喜は三つに分かれて地面に転がる。


 しかし、このような攻撃でも死なないのが魔王側近の体、一気に歓喜は再生を終えると口角を上げたまま、ルルスの腹へと蹴りを放つ。


 大きな衝撃が故にルルスは少し後退すると、

 息を整えながら前を見て剣を構える。


「驚いた。完全に騙されたんじゃ。

 素晴らしいのう! お主本当に強いじゃなァ!」


 歓喜は電撃を放出しながら走り出し、一直線にルルスへと突っ込んできた。



 ルルスは一つ気づいたことがある。


 歓喜と自分のスピードでは一段歓喜の方が上。

 だが、ルルスのような複雑な動きをするとなると、

 歓喜はスピードが少し落ちる。


 その際のスピード対決ではルルスが上だろう。


 これが勝利の鍵となる。



 ルルスは一直線に突っ込んできた歓喜を大きく離して避けると、一息でまたもやこちらに向かってくる歓喜を見て何かを思いつく。


 その何かとはそう、勝利の一手だ。


 歓喜の戦い方は知っている。

 そしてこの者が油断をしやすいことも。


 ならば攻撃をあえて限界まで引き付ける。

 極限まで集中して直前で避ける。


 致命傷を与える攻撃が確実なものとなった時、

 歓喜が油断することに全てを賭けるのだ。


 ルルスは考えを即座に実行した。


 動きの止まったルルス。

 歓喜はそれを見て迷いもなく切り掛かる。


 その速度は凄まじいものだ。

 電撃纏う拳がルルスの顔面へと迫る。



 鼻先へと迫る拳。

 バチバチとした拳が電撃を散らしながら顔を照らし、目を瞑ってしまいそうになる。それでもルルスは絶対的な覚悟の下、拳を見続け限界まで引き付けた。


 まだ。まだまだ。


 もう拳が当たってしまいそうだ。

 それでもルルスは避けない。


 歓喜の顔に笑みが浮かんだ。


 「!」


 その一瞬の気の緩み、ルルスはそれを待ってましたと言わんばかりに反応し、頬を激しく切らせながら顔を横に反らして避ける。


「なっぁ!?」

「……自分の勝ちです」


 無邪気なルルスの笑顔が歓喜を包み、

 片方の拳を放つ前に両腕が切断され、胸ぐらを掴まれて地面へと倒されると、ルルスの剣が胸に突き刺さる。


「かはっ……」


 歓喜はこのルルスという剣士を侮っていた。

 ここまでのことをやる剣士なんているわけがない。


 そう思っていた。


 リスクが大きすぎる行動。

 それ故に成功した時のメリットは非常に大きく、

 歓喜は身動きが取れなくなる。



*ルルスの強みは?


「そんなのあの戦い方に決まってるわ!

 一見めちゃくちゃだけど、ちゃんと考えて戦ってる。そんな相手敵に来たら絶望ね!」

「ルルスさんはとにかく自由だよね。

 戦い方も自分の命の賭け方も自由。

 だから強いんだと思うよ」


「ルルス様は昔からそうですが……

 剣士の中で一番狂っていると思います。

 今も昔も、わたくしが戦ったら負けますよ」


 これはノルメラがフラメナとライメ、クランツに聞いた内容である。



 戦場にて塵が舞い、歓喜は胸を突き刺されたままルルスへと問う。


「少しでもミスったら死ぬ。

 なぜそれでも尚、お主は楽しそうなんじゃ?

 死は喜ばしくないじゃろう……」

「自分からしたら、楽しいと思うことで負けるなら、

 死も怖くないんですよ……だから自分はいつの勝つんです〜」


 ルルスは立ち上がってそう言って剣を引き抜き、

 歓喜から離れる。


 歓喜はルルスに声を荒げて言った。


「楽しかったァ! 負けたのにここまで楽しかった戦いは初めてじゃァ! 喜ばしいのぉう!!」


 ルルスは少し振り返って歓喜を見ると、

 ニコニコとしながら塵となった歓喜に背を向けて、

 その場を去っていった。


 ーーー


「む……驚いたのう。三人とも負けたな。

 久しく驚きの連続じゃ」


 フラメナとライメと対する驚嘆を冠するユーラル。

 そう言いながら話す驚嘆。


 戦いはついに後半戦へと突入する。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ