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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第十二章 純白魔法使い 強欲編
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第百八話 御祭り騒ぎ Ⅲ

 ヨルバの刀身と激怒を冠するユーラルの硬い拳が、

 月光に照らされる戦場にて何度もぶつかり合う。


 二人の戦いは完全に互角、一度だけヨルバが力に押し負け、吹き飛ばされはしたが、激怒はその身に何度もヨルバの斬撃を喰らっている。


 二人は刀と拳でぶつかり合い、

 至近距離で刀と拳を境界にして激怒が話す。


「昨今の世はなんでも天才だと言いたがる。

 ありふれた天才は凡才だとは思わんか?」


 ヨルバは一気に力を込めて激怒を押し返すと、

 その問いに言葉を返した。


「いきなり語るなんて随分と余裕だな」

「天才と評される者が多すぎると思わないか?」


 激怒は押し返されたのちに後ろへと飛び、

 再びヨルバに向かって激怒は問う。


「今の時代天才は現に多い。

 俺のような老兵はもう引退時だ。

 だからこそ言える。明らかに今の時代の戦士は、

 ここ最近で一番レベルが高いと思う」


 ヨルバの言う通り今の時代は猛者が多い。


 君級は相変わらずだが、将級戦士が君級に迫る強さということが非常に多いのだ。


 君級は一騎当千の実力を持つ規格外の存在。

 将級はヒエラルキートップの存在。


 枠組みから外れるか中にいるか、

 それが君級と将級の違いだ。


「今の南大陸はどの大陸よりも強気だぞ。

 民全員が勝ちを祈っている。負けるのはお前だ」


 そのヨルバの言葉に激怒は火を纏って叫んだ。


「ふざけるなァ童がァ! 妾たちはお主らどもに勝ちにきている。負けなど言語道断だッ!!」


 激怒が地面が割れるほどの衝撃とともに踏み込み、

 一気にヨルバへと距離を詰めた。


 単純なストレート、それに速度が乗っていなければどれほど良かっただろうか、ヨルバは頬に拳をかすらせ、パックリと傷が出来上がる。


 だがそれにより懐がガラ空きになった。

 刀の弱点である超至近距離戦、それを補うべくヨルバはあえて激怒へとタックルする。


「!」


 それにより倒れる激怒、刀を一気にヨルバは引き抜き、倒れた激怒の胸を踏みつけ上から大量の斬撃を放つ。


 斬撃で地面が深く切り裂かれ、激怒は再生を行うも段々と再生が遅くなっていく。


 するとヨルバの腹部に強い衝撃を感じ、後方へと吹き飛ばされた。


「っ……クソ」


 ボロボロの激怒、再生を終えて拳を握り締めると、

 火を拳に纏わせ一気にヨルバへと接近する。


 早い。

 先ほどよりも早く突っ込んできたのだ。


 ヨルバは咄嗟に刀で拳を防ぐも、衝撃により吹き飛ばされ地面を転がり、勢いをつけた状態のまま立ち上がって激怒から離れる。


 少し先に見える激怒、一瞬にしてヨルバの視界から消えると、横から拳が顔面目掛けて飛んできた。


 ヨルバはその一撃にギリギリで反応し、

 振り終わりの激怒の腕を下から上へと刀で切り落とし、そのままヨルバは上から下へと刀を振るって激怒を切り裂く。


 痛手ではあるはずだが、激怒は至近距離で即座に再生し、ヨルバの腹部へと拳を放つ。


 その一撃はおそらく腹部を貫くほどのもの。

 ヨルバの振り終わりの無防備な姿に死が迫る。


「っぐぅうう!!」

「!? なにをしてッ!」


 ヨルバは拳を左手で掴み、衝撃を全身で受けながらも掴んでいるため、吹き飛ばされずにその場に残った。


 燃えるような拳を手で掴んだことで左手は火傷。

 だがここで死ぬよりは火傷を負い、反撃した方がマシである。


「だが刀じゃッ!」


 激怒はそう言って至近距離の状態にて、もう片方の拳を繰り出そうとすると、ヨルバが言う。


「やらせるわけがないだろッ!」


 次の瞬間、ヨルバは火傷した手から土の魔力にて発生させた大量の土で、激怒の体を固定する。


「なっ! 魔法も使えるのかァッ!」

「使えない。これはただ魔力を放出しただけだ。

 ひとまず、お前の負けだ」


 ヨルバは刀を片腕で振り上げ、彼なりの構えを取り一気に辺りの圧が重くなると、激怒は必死にもがいて土から逃れようとする。


 だがもう遅い。

 ヨルバの刀はすでに振り下ろされており、

 土と激怒をまとめて切り裂き、空間が裂けるような轟音とともに激怒はその身を滅ぼした。


 ヨルバはその場に座り込み、髪をかき上げて息を整える。


「ふっー……息切れ……もう歳か」


 ヨルバ・ドットジャーク。

 今年四十八歳になった君級剣士。


 彼は最近感じることがあった。

 今は亡きガルダバ・ホールラーデ、彼は六十歳を超えても現役で君級剣士として戦っていた。


 ヨルバは思う。


 この世界はバケモノばかりだ。

 俺には才能なんてない。たまたま環境がよくて、

 強くなれる機会があって、圧倒的格上と出会わずに今まで戦ってきた。


 気がついたら君級になっていた。

 だが最近つくづく思う。


 自分には才能なんてないと。

 

 他の君級を見ればバケモノとしか言えないほどの強さ、対して俺の全盛期はすでに終わり、体力も衰えてこうして息切れしている。


 複製体たった一人にここまで消耗させられた。


 イグレットはまだ全盛期なんだろうか……



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ユルダスは圧倒的な召喚体の量に苦戦していた。


 切っても切っても湧き出る召喚体。

 恐怖を冠するユーラルは明確に他の感情より弱い、

 それ故にユルダスは自身の無力さに苛立ちを覚える。


 召喚体自体の強さは二級以下。

 完全に数で押されている。


「クソっ!」


 ユルダスが剣を振るえば召喚体は切り裂かれ、

 消滅していくとそこにまた召喚体が湧く。


「怖いなぁ……来ないでほしいなぁ」


 剣士というのは基本的に大勢の対処は苦手だ。

 もちろんそれをなすことが出来る剣士もいる。


 それは剣塵と今は亡き斬嵐だ。


「怖いとか言うわりに、全然優勢じゃないか」


 ユルダスは水の斬撃を上へと放ち、

 剣を舞うように振り、姿勢を低くし、一気に踏み込んで恐怖へと接近していく。



 なんで斬撃を上に?

 なにか策があるのかなぁ……


 恐怖は両手を向けて大量に召喚体を出すと、

 またもや後ろへと退いていき、常に上を気にしながら召喚体でユルダスの接近を許さない。



 この魔王側近の複製体を倒す方法……

 本体自体に強さはない、なら一気に切り刻む……!


 ユルダスは召喚体を突き抜け、頭を踏みつけながら接近していき、異名閃滅に恥じぬ動きで一気に恐怖を間合いに捉える。


「っ!」


 恐怖は咄嗟に召喚体を塊のように作り出し、

 ユルダスを退かせると、ユルダスの口角が上がった。



 笑った? やっぱり上の斬撃っ!


 恐怖は読み合いに負けた。


「ははっ! 怯えすぎだろ」


 ユルダスは退いたと思わせながらも横に跳び、

 そこから踏み込んで直進してきた。


 水の斬撃はただ上に放っただけ、

 ユルダスは気を紛らわせることに成功し、彼の強烈な一撃が恐怖へと刻まれる。


 恐怖は肩から袈裟に切られ、一気に吹き飛んで倒れるとすぐさま起き上がって再生を行う。


「案外……頭脳派なの?」

「いいや、ただの脳筋だぞ」

「妾が戦う相手嘘ばっかりだ……」


 恐怖は召喚体を作り出し、大きな魔法陣を展開して黒い騎士を作り出す。



 本当に魔王側近ってのはずるいよな。

 ああやって致命傷を入れても奴らからすれば、一瞬で治る傷。


 あの攻撃をあと何回すれば倒せる?

 いや、あまり考えるな。俺がやらなきゃ誰がやる。


 ユルダスはそう思い、再び剣を構え姿勢を低くして恐怖の動きに注目する。


 この戦いでの勝利条件。

 それは恐怖の想定を幾度も越えて切り裂くこと。

 無限とも言える召喚体をどうにかしながら、本体である恐怖を倒す。


 困難極める戦い、だがユルダスは諦めはしない。


「これはどうかな……!」


 恐怖は召喚体を向かわせると魔法陣を展開し、

 棘のように尖った鳥を高速回転させ、一気に飛ばすとそれがユルダスの肩へと突き刺さった。


「ッぐ!?」

「ビンゴ……妾のこと少しナメてたね」


 ユルダスは左肩に突き刺さるそれを引き抜き、

 冷や汗をかきながら前を見て考える。



 これ……長期戦したら死ぬな。

 案外こいつ自身も強いじゃねえかよ……

 フラメナはほぼ無傷でこいつを……?


 ……もう遠いところまで行ったんだな。

 俺はこんなやつに圧勝なんて無理だ。


 怪我も痛い、どうすれば勝てる。

 切り刻めば確かに勝てるが、このまま戦ってやつに剣が触れられることなんてない。


 なにかあいつを騙して切るしかない。

 残る片腕がやられたら俺の負け……久しぶりだ。

 西黎大陸で死にかけた時が思い出される。


 ユルダスは息を整え、身を襲う激痛に耐えながら剣を握り走り出す。


「言っておくけど、属性魔法だって使えるよ」


 ユルダスの足元から草魔法によって作り出された木の根が生え、足元に絡みつく。

 その瞬間、先ほどと同じ尖った鳥が高速で飛んできた。次は頭を狙っている。


 ユルダスはそれに対して体を後ろに倒し、

 木の根を剣で切り裂き横に転がって立ち上がると、

 恐怖へと向かってジグザグに動きながら接近していく。


 ユルダスには策があった。

 それは幼き頃の記憶、クランツから教えてもらった自身が扱える唯一の魔法。


 地面を泥のようにして相手の足を呑み込む、

 剣士にとって圧倒的な優位を作り出せる魔法。


 その名をーー


水場(アクラテ)!」


 下級魔法のそれが恐怖の足を呑み込み、

 大きな隙が生まれる。


「なぁっ!? なんで魔法がっ!」

「幼い頃っ! 半ば強制で教えられてなぁ!

 今じゃ感謝してもしきれないよなぁ!」


 ユルダスは一気に恐怖を横一文字に切り裂き、

 がむしゃらに切り刻み始める。



 勝負ありかと思われた一手。

 だが恐怖を司るユーラルは、死を拒み抗う。


 複製体といえど魔王側近。

 その底力をユルダスは目にする。

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