第百六話 御祭り騒ぎ Ⅰ
歓喜を司る姿となったユーラル。
戦い方も魔力量も全て変わっている。
「魔王側近ってのは黄金が好きなのかしら?
みんなピカピカしてるわよね……」
「意識したことはないんじゃがのう。
お主は金ピカは嫌いか?」
フラメナは魔法陣を展開して言う。
「別に嫌いじゃないけど、いい思い出はないわ」
「そうか……残念じゃ。お主にとって金ピカは生涯邪的存在になってしまうのう」
電撃がユーラルの拳へと纏わりつき始める。
「属性が変わっ……」
「遅いのうゥ!!」
電撃纏う拳がフラメナの腹部を強く殴り飛ばし、
一気にフラメナは後方へと吹き飛んでヨルバたちの下に戻される。
少し震えながらも立ち上がり、鋭い目つきで奥に見える電撃を纏ったユーラルを見つめる。
「フラメナ様! 大丈夫ですか」
ヨルバが心配そうにそう言うと、フラメナは笑顔を見せて「大丈夫」と言い、ユーラルの情報を伝える。
「あいつ、九回も戦い方が変わるらしいわよ……
それにさっきまでの強さとは比にならないわ。
三人とも力を貸してちょうだい」
フラメナがそう言うと、ヨルバ、ルルス、ユルダスは了承し、四人でユーラルへと向かっていく。
「よくもぶん殴ってくれたわね。百倍返しで泡吹かせてやるわ!」
ユーラルは違和感を感じていた。
さっきの殴りであまりダメージが入ってない?
おかしい。いくらなんでも内臓くらいは破裂してるはずじゃ……再生した様子もない。
ユーラルは自身の拳を見て少し驚いた。
血……まさか咄嗟に何かを挟んだのじゃ?
「やっと気づいたのね? あなたたちは再生ばっかしてるから痛覚が乏しいのかしら? 殴られた時に咄嗟に拳を土魔法で防いだのよ」
ユーラルはそう言われ、嬉しそうに口角を上げた。
「あっはははっ! やっぱりだ!
全然弱くない、むしろ脅威的な強さ……
愉快だっ! もっと妾を喜ばせよ!」
ユーラルは拳を一瞬で再生し、電撃の跡が残るほどの速度で四人へと突っ込んでくる。
速度は凄まじく、ヨルバを除いた三人は目で追うのがやっと、拳を弾き返したのはヨルバだった。
「目がいいんじゃのう……」
ユーラルはヨルバから離れようとした瞬間、
肩から腰にかけて切り裂かれ、流血しながら後退りする。
「は……?」
「そうやって油断してるから切られるんだぞ」
いつの間にかユーラルの背後に立っていたユルダス、ユーラルが振り返って電撃を放とうとした瞬間、
再度その傷口から水の斬撃が生み出され、深傷をその身に受ける。
「っぐう! 小細工が達者なのか!」
ユーラルがそう言って即座に再生を終えると、
ユルダスへと攻撃を仕掛ける前に首元へと刃が迫る。
それを間一髪姿勢を低くして避けると、足へと何かが絡まる感触と共に地面へと転ぶ。
転ぶ際に見えたルルスの腕から伸びるツタ。
それが自身を転ばせたと理解する。
「まずっ……!」
背中を無様に晒すユーラルへと横一文字に斬撃を放つヨルバ、それによって胴が切断され、地面が一直線に割れる。
思わず血を吐き、再生を行おうとすると、
ヨルバに再び背中を切りつけられ、再生が途絶え、
フラメナがこちらへと走ってくる音がする。
「ヨルバ! 退いて!」
ヨルバがそう言われて後ろに跳ぶと、
フラメナが白い火を纏った手ユーラルへと向ける。
「まっ!!」
次の瞬間、背中へとフラメナの手が当たった瞬間、
巨大な白き火柱が天へと昇り、辺りの召喚体の黄金の輝きが消えて黒色へと戻る。
フラメナはユーラルから離れると、
まだ警戒を解かずに煙を見つめる。
「やっぱり生きてるわよね……!」
先ほどまでとは違い、青い瞳に変わったユーラルが煙から出てくる。
予想するにまた人格が変わったのだろう。
「あーぁ……悲しいなぁ。
油断するなって言ったのにぃ……」
歓喜の雰囲気はパタリと消え、今にも泣きそうな声で話し出すユーラル、暗い雰囲気が辺りに充満する。
「フラメナ様、九回倒せばこちらの勝ちなんでしょうか、見たところ……魔力量が毎度変わってる気が……」
「わからないわ……でもとりあえず倒し続ければいいだけよ。私たちなら勝てる敵だわ!」
フラメナがそう言うとユーラルは自身の尻尾を三本掴み、無理矢理引きちぎる。
「うへぇいきなり何してるんです〜?」
ルルスがいきなり自傷行為を始めるユーラルへとそう言うと、ユーラルは語った。
「妾たちは勝ちにきてるんだぁ……
だからね、少しは策を使わせてもらうよ」
そうユーラルが言った瞬間、辺りに冷気が漂う。
背筋を撫でる不快感、ユーラルの持つ尻尾が妙にうねりだし、地面へと置かれる。
「恐怖、歓喜、激怒、出番だよ」
そう言った瞬間辺りへと一気に充満する強大な魔力。
「まさか……」
ユルダスが察するこれからの戦況、それは他の三人もある程度理解していた。
「そうだよ……妾たちは何も一体一体でしか出てきてないわけじゃない。四対四、平等に行こう」
地面に置かれた尻尾たちが人型へと姿を変えていき、赤、黄、緑の体毛に変化したユーラルが現れる。
「増えすぎじゃないかしら……?」
ユーラルがなぜ序列四位なのか、
ここで初めてフラメナは理解できた。
確かに単体での力は魔王側近の中じゃ最弱かもしれない。だが自身の複製が作れるのならば話が変わる。
いくら弱いとて君級ほどの力は持つユーラル。
それが四人一気に襲いかかってくれば、地獄絵図など容易く描ける。
一対一で全員が勝たねばならない。
「もうちょっと休みたかった……怖いよぉ」
「早く殺し合おうぞ、待ち切れぬ」
「あーあ、さっきは喜ばしくない死に方したなぁ」
「悲しいね……妾たちはちっとも弱くない。
お主たちを本気で殺しにきたんだ。覚悟してね」
それと同時、一気にユーラルたち四人が動き出して、各々の一人ずつ相手取る。
ガキンと音を立てて後退するヨルバ、
相手には激怒がやってきた。
ルルスへと電撃を放つ歓喜、それを避けながらルルスは皆がいる場所から離れていくと、ルルスと歓喜の姿が見えなくなった。
フラメナへと放たれる超高速の水の斬撃、
それは悲嘆を冠するユーラルの攻撃であり、フラメナは脇腹から出血するもすぐに再生を行う。
固まって戦うのはフラメナからしても不利であり、
あえてその場から走って悲嘆を別の場所へと誘き出す。
ユルダスは恐怖を冠する複製体と向き合っており、
大量の召喚体が目の前に出てきて苦笑いをする。
こうして戦う相手が全員見つかった。
これにて戦場へと多くの魔力が散り始める。
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悲嘆と対するフラメナ。
とてつもない早さで繰り出される水の斬撃に、フラメナは只々苦戦していた。
今のフラメナではほぼ目視が不可能なほどであり、
どんどんとフラメナの体が切り裂かれては再生する負のループへと陥る。
「悲しいよね……見えないってのは辛いよね」
「同情してないってことは煽ってるのね……いい度胸だわ。真正面から叩き潰してあげる……っ!」
そう言った瞬間、フラメナの肩が切り裂かれる。
「でもさ……このままじゃ勝てないよね」
「あーっ本当にイライラするわね!!
煽ってくんじゃないわよっ!」
フラメナは白い火球を大量に作り出して飛ばすと、
悲嘆は水の壁を多く作り出し、正面から全て防ぎ切る。
「嘘っ、どんだけ魔力込めてるのよ」
フラメナの火球は短縮発動であったとしても、
そこらの将級魔法使い並みの威力は持っている。
「防御は完璧にしないと……痛いのは悲しいから」
悲しいと言うより辛いの方が正しそうだが、
フラメナがそう疑問を抱く前に水の斬撃が大量に飛んでくる。
「っ……まだ使いたくなかったけど!」
「あぁ……使うんだ」
フラメナは腕を横へと突き出すと腕の上を白い火が走り、瞳が桃色に変化して髪の毛の末端が赤く染まり、手足が少しだけ白く染まる。
瀕死時に見られる完全な状態ではないが、
自主的に発動できるこの状態の練度も2年で上がり、不完全ながらも非常に強くなっていた。
この状態で特に強化されるのは視力と魔力。
魔眼、魔彩の目によりフラメナは相手のオーラを見ることができる。
そこが強化されれば攻撃の予測が可能となる。
微かなオーラの動き、それが予測の要なのだ。
悲嘆は変わらず水の斬撃を放つと、それを避けて走ってくるフラメナに追加で何発も斬撃を放つ。
「それが最高速度なの? それじゃあ遅いわね!」
それすら避けられ、悲嘆はフラメナから放たれる火球を腕に受けてしまい、自主的に腕を切断して再生する。
「悲しいこと言うなぁ……確かに強いね。
腕落とす羽目になってるし……でもさ、少し優勢になったと思ってない? それ勘違いだよ」
次の瞬間、空を切り裂く轟音が響く。
それと同時に一瞬でフラメナの胸を大きく切り裂く水の斬撃、速度は先ほどのものを容易く超えており、
何が起きたのかもわからずフラメナは吹き飛んで倒れる。
本能的な動きで深傷にはならなかったが、
目視はほとんど出来なかった。
集中して少し見えるかと言うほどである。
「がっぁ……」
「なんだか勘違いしてるみたいだから言っておくけど……妾たちは君級なんて強さじゃない。
″魔王側近っていう別枠の強さなんだ″」
フラメナ以外の三人も苦戦していた。
ルルスの剣は見切られ、
ヨルバの刀は殴打に押し返され、
ユルダスは湧き出る召喚体に埋もれかけていた。
歓喜はルルスを凌駕する近接の速度。
激怒はヨルバの斬撃よりも威力の高い殴打。
恐怖はユルダスを圧倒する量の召喚体。
悲嘆はフラメナが認識できない速度の魔法。
「誰一人死なずに終われるわけないよ。
悲しいよね……でもそれが現実、この世界なんだ」
フラメナは傷を再生して立ち上がる。
「随分ナメてくれるのね。
私たちだって簡単に勝てるとは思ってないわ。
でもね……なにがなんでも勝つ気よ」
真っ直ぐなフラメナの視線。
悲嘆は舌打ちをして魔法陣を大量に展開する。
「悲しくないな……死んでもらいたくなったよ。
何度でも言うけど妾たちは勝ちにきてる」
「ならこっちも言ってやるわ。
あなたたちなんか負かしてやる」
魔王側近との乱闘が始まる。
個々での勝利が全体の勝利へと繋がる戦い、
だが戦士は彼らだけではない。
この魔王側近襲来は明確な南大陸の危機。
集え戦士、守るのだ、この南大陸を。