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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
第十二章 純白魔法使い 強欲編
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第百四話 時の流れ

「おぎゃああああああ!!」

「あぁっごめんごめん……嫌だったよね」


 豪邸に鳴り響く赤子の鳴き声。

 ライメが非常に困ったようにその赤子をあやす。


 パフラナ・カルレット・エイトール。

 彼女は三ヶ月前に産まれたフラメナとライメの子供だ。


 虹剣1691年8月17日。

 フラメナは二十歳に、ライメももうすぐ二十歳。


 二人は子供を授かり、連日豪邸には泣き声がこだましている。


「貸しなさいライメ! 私がやれば一瞬よ!」


 泣き喚くパフラナを前に二人はオムツ交換をする。

 だがどちらも育児に手こずっており、非常に困っていた。


「っぎゃあああああ!!」

「……私のオムツ交換はライメより嫌いらしいわ」


 少しがっかりしながらそう言うフラメナ、

 ライメへと再び交換を任して、フラメナは隣でじっと見ている。


「よし! 終わったぁ……」


 ライメは額の汗を腕で拭うと、泣き止んだパフラナを見てフラメナが言う。


「育児って大変ね……でも可愛いわ!

 さすが私たちの子供って感じよ」

「とんでもないくらい可愛いから助かるよ……

 大変だけど、成長が楽しみだよね」


 パフラナの髪の毛は白混じりの薄めな赤であり、

 瞳は赤が強めな紫であった。


「早くこの子に魔法を教えたいわね〜!」

「気が早すぎるよ。後3年くらいは待たなくちゃ」


 二人が騒いでいると、廊下からクランツとフリラメが現れる。


「フラメナ、泣き声が響いてたけど大丈夫?」

「お姉様! えぇ、もう泣き止んだわ!」


 フリラメは二十七歳であり、未だ独身。

 少しフラメナが羨ましいが、恋愛をしている時間もなく、生涯独身を貫こうとしている。


「それにしても本当に可愛いわね……」


 近寄ってパフラナを見つめるフリラメ。

 クランツとヨルバも近寄ってきて、顔を覗くとパフラナは少し嬉しそうに笑った。


「笑ったわよ……きゃー! 私好かれちゃった?」


 フリラメがそう反応するとフラメナが呆れながら言う。


「そんなわけないでしょ……だって視線はクランツに釘つけよ?」


 パフラナの視線は確かにクランツへと向いており、

 クランツは少し不思議そうに見つめ返していた。


「もしかして、クランツ先生みたいな顔がタイプ?」

「……うちの子は渡さないわよ!」

「狙うわけないじゃないですか、それにわたくしの歳をなんだと思って……」


 クランツは少し後退すると、ライメが聞く。


「あれ、何歳でしたっけ?」

「四十歳ですよ」

「老けたわね〜!」


 クランツは四十歳になり、人族が故にそろそろ寿命が近い。


 だがまあこの通りクランツは元気ピンピンで、

 顔も老けていくと言うよりは熟されていくような、

 渋いオーラを醸し出す方向へと進んでいた。



「あれ、なんか今日は人が多いね」


 エルトレがやってきた。

 十七歳となった彼女は元から大人びた雰囲気を纏ってはいたが、最近はより大人らしくなっている。


「エルトレ、ラテラは最近どう?」


 フラメナがそう言って近況を聞くと、

 先にエルトレは頼まれた料理が入った袋を渡し、

 フラメナへと答えを返した。


「最近は少し良くないよ。吐血もし始めたし……

 あと2年くらいとは言われた」


 やりきれないと言う表情のエルトレ、

 フラメナは肩を触って慰める。


「大丈夫よ。ラテラって案外図太いから長生きしちゃうかもよ?」


 絶対にそんなことにはならない。

 だがエルトレはそう言われ、少しだけ心が軽くなった。


 ラテラの持病は悪化しており、最近は外へ出歩くことさえキツいそうだ。


「ありがとフラメナ、じゃあ……料理も届けたし帰るね。仕事も残ってるからさ」


 エルトレはそう言ってその場から去っていった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 この2年はあまり大きい出来事もない中で、

 皆が少し変わった2年でもあった。


 エルトレ達は相変わらず商売繁盛。


 ルルスとノルメラはガレイルでパーティーを結成。

 日々邪族を狩っているらしいわ。


 クランツやお姉様は研究と国の管理、

 ヨルバやガルドンはその周りの手伝い。


 ユルダス達も子供が一年前に産まれたらしくて、

 最近は私たちに育児の先輩として色々教えてくれる。


 ライメの生徒たちも今年で卒業を控えており、

 最初の頃に目をつけた四人は見違えるほど強くなっていた。


 そしてもう一つ、執理政運命のシノの研究。

 ライメがなにをするのかと気になっていたけど、

 始めてみれば驚くほど簡単なことばかり。


 それは月に一回、転移魔法の陣が描かれた紙を渡せばいいもの。


 なにをしているのかは話してくれず、

 秘密ばかりを抱える彼女は、たまにふらっと現れて私たちの様子を見て満足そうに帰っていく。


 執理政ってのはやっぱり不思議な存在なのよね。



 あっ、そうそう。

 クランツとお姉様の研究に進展があったの。


 南大陸滅亡の原因。

 それについての大雑把な結論が出たらしいわ。


 結局自然的な災害じゃないらしく、

 何者かの魔法ってことが確定したのよね。


 誰がそんなことしたかはわからないし、

 一体なんのためなのかもわからない。


 南大陸滅亡の原因はこれからも研究されていくだろうけど、またしばらくは進展がなさそうね。


 ……私は一つ気になってる。


 シノが言っていた魔王側近の襲来。


 それに備えて出産が終わった後から、私は自分の魔法を鍛えてる。


 混合魔法の使い方とか、魔力操作の精密性とかね。

 まだまだ強くなれる……そんな思いがずっとある。


 私の魔法は白い。


 だからこそできることもある。


 現存する君級戦士は十名。

 私はその一員でいざとなったら頼られる存在。


 2年前にあんなに一気に君級が亡くなったのだから、強くなって損なんてあるわけがない。


 

 ーーー


「フラメナ、パフラナ寝たよ」

「ん……いつもありがと」


 ソファにて魔法辞典を膝に置き、座りながら読んでいるフラメナの隣にライメが座る。


「魔法にばっか時間使っちゃって申し訳ないわ」

「いいんだよ。フラメナがそうしたいなら僕が負担する。仕事も慣れたしこれくらいへっちゃらさ」


 ライメはそう言ってフラメナに肩をくっつけ、

 リラックスするようにソファに寄りかかる。


「やっぱり、魔王側近のこと?」

「バレちゃった? そうよ。シノさんが言ってたことがもし本当に起きるなら……もういつ来たっておかしくないもの……備えなきゃ」


 フラメナは目を少し擦ってページを捲る。


「眠いんじゃない? そろそろ寝たら?」

「もうちょっとだけ……」


 ライメはそう言われるとソファから立ち上がり、

 フラメナを無理矢理抱っこして歩き出す。


「ちょっ、ちょっと!」

「睡眠は大事だよ〜。また明日やればいいさ。

 今日は早く寝て明日頑張ろう?

 いつも頑張ってるし今日くらい大丈夫だよ」


 フラメナはそう言われ、少し考えてから納得してライメに抱っこされた状態で寝室へと入る。


「夜泣きは……」

「僕がどうにかしておくから大丈夫、体調は戻ったといえど、まだ安静にね。僕に任せてよ」


 過保護なライメ、フラメナはライメの体を心配しながら問う。


「ライメの体は大丈夫なの?」

「僕かい? 大丈夫だよ。これくらいどうってことないし、いざって時はちゃんと頼るよ」


 そう言うライメ、嘘はないだろう。

 フラメナはその言葉を聞いて少し安心する。


 夜泣きはライメが対処してくれたおかげでぐっすり眠れた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 虹剣1691年8月20日、午後21:56。


「楽しいなァ……妾この時を待ってたんだァ!」


 魔王側近、強欲のユーラル・マルモン。

 九つの尻尾を持つ妖狐であり人族の彼女は、

 120年生きるまだまだ若い妖狐だ。


 妖狐族は狐族の希少種。

 突然変異とも言われる者たちだが、寿命がとんでもなく長く、4000年は生きることができるらしい。


 最長は約3200年らしいが、戦死したらしく、

 寿命では亡くなったわけではないそうだ。


 間違いなく全種族の中で最も長生きする者たち、

 ユーラルは百二十歳と人族に直せば一歳程度。


「2年も焦らされて、痒かったなァ。

 なんで虚無はそんなに慎重になるんだか……」


 ユーラルは多くの人格を持っている。

 九つの人格、各々が一つの感情に対して強く特化しており、一人ずつ扱う力も変わる。


 その特異性は九つの尻尾によるものだろう。


「怖いなぁ……死んだらどうしよう」


 ユーラルは独り言がまるで会話のように変わっていき、先ほどの興奮した人格とは真逆の怯えた気弱な人格が出てくる。


 恐怖、それはユーラルの九つの人格の中で、

 召喚魔法を最も上手く扱える人格。


「百鬼夜行……一幕、御祭り騒ぎ」


 そう彼女が唱えると、魔法陣が大量に出現し、

 そこから溢れるように召喚体が現れる。


 召喚体達は黒い霧を纏っており、とても生物とは思えないようなバケモノばかりだった。


 目から牙が生え、口に目がある個体や、

 顔から足が生えて耳から手が生えている者、

 大きな口を持ち目も鼻もない個体。


 魑魅魍魎とした召喚体たちは一つの群となり、

 ある場所を目指して歩き始めた。


「夜は長い……ゼーレ王国で祭りをしよう。

 それがいい、さぁみんな今夜は踊り狂おう」


 ユーラルは大量の召喚体の中の一つに乗り、

 一緒になってゼーレ王国へと向かった。

 

 月が昇り、街の光は段々と消え始める。

 そんな中一つの騒がしくも命へと危機を知らせる音が鳴り響く。


 鐘が激しく鳴らされ、民は何事かと外へと出た。


「西から邪族の大群だぁああああ!!!」


 夜の平原に赤い眼光がたくさん見えた。

 悪夢が具現化したようだ。



 魔王側近、強欲のユーラル・マルモン、襲来。

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