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第十話 またこの場所で

 フラメナお嬢様は九歳になった。


 ライメは八歳、ユルダスは十二歳。


 二年間魔法を学び続けた三人。

 ユルダスは週一だったが、頭が良いのもあって授業に置いていかれることは少なかった。


 二年前に混合魔法を完成させたフラメナを追うように、ライメはその年の翌月に混合魔法を完成させた。


 最近よく思う。

 フラメナお嬢様は確かに魔法の才能が凄まじい、

 だがライメも異常なほどに才能がある。


 六歳で混合魔法を完成させたなんて天才も良いところだ。


 ユルダスは混合魔法を完成させてはいないが、

 中級魔法の簡単なものなら使えるようになった。


 剣士学校には無事に入学できたようで、授業には月一程度にしか来なくなってしまったのが寂しいが、自分の道を進んでくれてなんだか安心する。 


 魔法を教える子たちが天才だと、

 自分は才能がないのかと感じてしまう。


 二年も授業を受けた二人は、もう十分普通のパーティーでも通用する魔法使いだ。



 俺は一週間前に国王のフライレット様に呼び出された。

 何かまずいことでもしたのかと思ったが、

 そんなことはなく、真剣なお悩み相談だった。


 二年もこの城で雇ってもらっているが、

 色々とわかったことがある。



 フライレット様は案外相談癖がある。

 フラメナお嬢様のお母様であるフラレイ様は、

 壊滅的なまでに育児が下手。


 ゼーレ王国は南大陸で一番戦力が高い国。



 そんなことは今はどうだっていい、

 今回は何を相談されるのだろう?


 軽い気持ちで少し身構えていたが内容は重かった。


「クランツ先生、フラメナが十歳になった翌月に旅に出てもらおうと思う。その護衛を任されてくれないか?もちろん旅にかかる代金はこちらで用意しよう」

「旅ですか……一応理由を聞いてもよろしいでしょうか」


 フライレットは少し息を詰まらせて、ため息をつくと理由を話し出した。


「わが国は今。ヴァイザー王国、レーツェル王国と両国から領土戦争を仕掛けられそうな状況である。

 それ故にフラメナをこの大陸から逃がしたい。

 クランツ先生が護衛につくのであれば、フラメナの身に心配は掛けずに済む」


「……わかりました。わたくしから伝えておきます」

「すまないな……」


 ……領土戦争、ああそうだ。

 起きないはずがない、逆に二年間も起きなかったのが不思議だ。

 いつ話そうか…


 まずい、フラメナお嬢様にどうやって説明したらいいかわからず、もう一週間も経ってしまった。


 言うか。



 虹剣(こうけん)1680年8月8日


「本日は授業の前にお伝えすることがあります」


 ユルダスの月一の授業参加、それが今日である。


「普段に増して固そうね!」

「なんだろう……」

「ついにやめるんですか?」


 ユルダスがそういうとフラメナが怒ったように反応する。


「バカ!冗談よしなさいよ!」

「あぁ!ごめんごめん!」


「……良いですか?かなり大事なことです。少なくともここ以外では口にしないように」


 クランツの雰囲気を察して場が静まる。


「結論から言いますと…一年後フラメナ様と私は旅に出ます」


「え?」


 一番驚いたのはフラメナだった。


「ので授業のペースを今日から……」

「待ちなさいよクランツ!

 それってどういうことなの!?」


「……フライレットお父様からの命令でございます」

「お父様…なんで!なんでよ!理由くらい知ってるんでしょ!」


 拒絶するように声を大きくしてそう言うフラメナ。


「……領土戦争、それが起きそうなのです」


 その言葉でクランツを除いた三人は固まる。


「……嘘」

「領土戦争って……」

「そんな……入学したばっかなのに」


「今すぐ起きるわけではありません。起きるかもしれないというだけでございます」


「そんなに緊張状態なんですか?」


 ユルダスがそう聞くとクランツはゆっくり頷く。


「嫌……嫌よ!わたしは離れたくない!」

「フラメナちゃん……」


 クランツはそう言うフラメナを見て思う。


 そんなことわかってるさ……でもわかってくれフラメナお嬢様。


 フラメナお嬢様は……

 いるだけでこっちの”弱点”なんだ。


「絶対に嫌よ!」

「フラメナ様、貴女様は王族です。身分は最上位、

 もしまた攫われたりなどしたらどういたします?

 次こそ私は助けに行けないかもしれません」


「そんな……魔法で!魔法で追い返してやるわ!」


 クランツは一瞬で杖を構え、短縮発動で風の斬撃をフラメナの横へと放つ。


「っ……!」

「……反応できませんね?そう言うことなのです。帥級剣士は基本今の斬撃より早く近づいてきて攻撃を外しません。

 今のフラメナ様が領土戦争に巻き込まれて生き残れるはずがありません。一般人であれば殺されることはあまりないですが……フラメナ様は王族なのです」


 クランツは現実をフラメナへと叩きつける。


「でも……!」

「授業を始めますよ。時間は多く残ってないのですから」


 クランツは「でも」と言うフラメナを冷たく突き放し授業を始める。


「フラメナちゃん……」


 心配そうに話しかけるライメ。

 フラメナは只々、悔しそうに拳を握りしめてうつむくだけであった。



 虹剣1681年3月3日。


「では、三人の試験を始めましょう。今から言う魔法を五回連続で成功させれば上級魔法使い、一回失敗するごとに一つ級が下がります」



 フラメナが旅に出るのは4月、クランツも同行するのでライメとユルダスの魔法教師はもういなくなる。

 この日はいつものようにライメの家近くにある平原での授業ではなく、ユタラ村のさらに奥、村を三個ほど超えた平原にて試験が始まる。


 この三人はまだ無級魔法使いだ。級が認められるには、自分自身よりも級が高いものに魔法を見てもらって、何かしらの証を貰えば認められる。


 だがこの制度は抜け穴が多くある。級を偽る者だったり、師と手を組んで偽る者などが存在する。


 魔法使いでも剣士でもその行為はタブーであり発覚すると、身体に刻印を刻まれ一生笑い者となる。

 それの効果なのかあまり偽る者はいない。


「最初は誰から行きます?」


 クランツがそういうとユルダスが前へと出て意思を示す。


「僕から行きます」

「では、ユルダス様の成功させなければいけない魔法を発表します」


 クランツは杖を取り出して大きな魔法陣を展開する。


水場(アクラテ)


 クランツが杖を向けた先に水が流れ地面の土と混ざり、沼のように変化する。


水場(アクラテ)は相手の足場を奪う魔法です。使いこなせれば剣士と言えど非常に役立つかと、ではお願いします」


 ユルダスは前へと出て杖を持ち、構えて魔力を高まらせていく。


水場(アクラテ)……!」


 ユルダスは魔法を放とうとするが、水が少し出たところで不発に終わる。


「っ……水場(アクラテ)!」


 二度、三度と繰り返すが不発に終わる。



 まずい…これじゃ…落ち着け…!習ったようにやればいいんだ!



 四度目の魔法、ユルダスはついに杖から水を放出し地面を沼のように変えた。

 そのままユルダスはもう一度魔法を成功させる。


「はぁ……はぁ」

「二回成功したので水中級(すいちゅうきゅう)魔法使いです。剣士を目指しながらも頑張りましたね」


 クランツがそう言って汗を頬から垂らすユルダスを褒めると、ライメが前へと出てくる。


「次は僕がやります……!」

「ではライメ様には、混合魔法の氷草濫(リスミラルト)をお願いします」


 クランツはユルダスの時と違いお手本として魔法を放たなかった。

 それはライメに対する期待であろう。


「いきます……!氷草濫(リスミラルト)!」


 魔法陣を展開したライメが持つ杖から、ツタのようなものが放たれ氷を纏い、棘のような形になると地面を削り取る。


 そこから二度目、三度目と成功し、いざ四度目にライメは失敗する。

 その失敗がトリガーとなったのか一気に落ち着きがなくなり、最後の一回も失敗で終わる。


「あっ……」

氷二級(ひにきゅう)魔法使いです。九歳にしては十分なものですよ」


 少し悔しそうにライメが後ろに下がると、最後にフラメナが前へと出てくる。


「フラメナ様、指定する魔法は白雷嶽(ホルトラフ)をお願いします」


「どうせそれにすると思ってたわ」


 フラメナは手を向けて魔法陣を足元に展開し、極度の集中状態に入る。


白雷嶽(ホルトラフ)!」


 そう呼称されて放たれる魔法、フラメナの手から大量の火が放たれ雷が火から発生し、空へと向かって昇って行く。


 続いて二度目、フラメナは頭の中でいろんなことが渦巻いていた。



 わたしは旅に出る。もうしばらくの間二人には会えない……



 フラメナは二度目の魔法を失敗した。



 でも嘆いたって……もう変わらないこと



 三度目の魔法は成功する。



 強くなって、帰ってきて、もう離れない



 四度目の魔法は先ほどよりも規模が大きかった。



 わたしが…強くならなきゃいけないんだ。

 この場所を守るために……!

 ()()()()()()()()()()使()()になるんだ!


白雷嶽(ホルトラフ)!!」


 五度目の魔法は、今までの魔法の中で一番威力が強く凄まじい魔法だった。


「……火一級(かいっきゅう)魔法使いです。今までで一番すごかったですよ」

「当然よ!私は……誰よりも強くなる魔法使いなんだから!」


 そうして試験が終わり、ユルダスは中級、ライメは二級、フラメナは一級。

 魔法使いとしてもう十分戦える。



 虹剣1681年3月30日。


 フラメナは両親に別れを告げていた。


「フラメナ、お前に負担をかけてすまない」

「本当にごめんね……」


「そんな顔しないでお母様お父様!すぐ強くなって戻ってくるわ!」


「……頑張れとしか言えん。フラメナ武運を祈っているぞ」


 フラメナは父親からのその声を聴き、何年ぶりだろうか両親へと抱きつく。

 しばらくして離れーー


「いってきます!」


 そう一言、フラメナは部屋の外にいるクランツの元へと走る。



「では、行きましょうか」

「……うん」


 城から城下町の外へと出て、ユタラ村へと向かうと、いつもの場所にライメとユルダスが居た。


「フラメナちゃん……」

「その……気を付けてくださいよ。

 クランツ先生が居ても危険な時は危険ですから」


 ユルダスが会った時以来の心配をしてくれた。

 フラメナはそんな言葉に、二っと口角を上げて答える。


「大丈夫、私はそんなドジじゃないわ!」

「ま、確かにそう言えますね」


 フラメナはライメへと向き直して手を差し出す。


「次会うときも私が上だからね……!」

「……!」


 ライメはフラメナの手を握り少し大きな声で言った。


「僕は、フラメナちゃんを追い越してみせるよ!」

「ふふ、なら越えてみなさい!」



 別れは済んだ。

 新たな旅立ち、笑顔で行こう。


「フラメナちゃーん!絶対!絶対にまたこの場所で!!」


 ユルダスたちが見えなくなりそうな時。

 ライメが今までで一番大きい声で、そう言いながら手をこちらへと振っていた。


「っ……!もちろんよっー!!」


 フラメナも手を振り返し返答する。

 そうすると片手で涙を拭うライメが見え、そのまま座り込んで、泣いてしまった。

 ユルダスが背中をさすりながらこちらを時折見てくる。


「良い友を持ちましたね」


 クランツがそう言うと、フラメナは涙を腕で拭い少し早歩きになる。


「……早く行くわよ!」

「かしこまりました」


 またこの場所で


 ただその言葉を胸に二人は平原を進む。

第一章 幼い魔法使い -完-


次章 

第二章 少女魔法使い 東勢大陸編

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― 新着の感想 ―
ひとまず第一章まで読ませていただきました。 クランツ先生いいキャラしてますね。主人公の師匠で教えるのが上手で強くて物騒で格好いい二つ名持ってるのすごく好きです!! みんなで旅に出るのかと思いました…
一章まで読ませて頂きました。 クランツ先生の死鐘って二つ名滅茶苦茶カッコよくてテンション上がっちゃいました。 メインキャラ皆キャラ立ってるしいい子だしでよかったです。 今後の展開に期待しつつ、ゆっくり…
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