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純白魔法 -魔法に拒絶された魔法使い-  作者: ガリガリワン
幕間 恋果ての魔法使い
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第百二話 僕が月になる

 虹剣1689年2月5日。


 ついに家が完成した。

 はちゃめちゃに大きい豪邸、ここまで大きいとフラメナとライメだけでは持て余してしまう。


「やっとこれで一緒に暮らせるわね」

「まぁ、家が出来る前からほぼ一緒にいたけどね」


 フラメナとライメは完成した豪邸の中へと入る。


「広いわね!!」


 確かに広い。

 二人で住むにはあまりにも大きい。


「ここまで広いと全部部屋使えるかな……」

「絶対無理ね!」


 二人は歩幅を合わせ、一緒に豪邸の中を歩き始める。


 とにかく大きい家。

 広い廊下に広い部屋。

 窓から差し込む陽光。

 新築の家にてほのかに香る木の匂い。


 それら全てが二人の期待を上回り、フラメナに関してはとても満足しているようだった。


「……なんだか不思議な気分だよ。

 幼い頃の僕はこんな未来考えてもなかった」

「それを言ったら私だってそうよ。

 こうして今があるのはやっぱり……クランツのおかげかしら」


 クランツは二人の人生を大きく変えた人物だ。

 強く賢く優しい恩師、二人から見ると完璧なんて言葉が似合う人物だ。


 肉親と同じくらいにはクランツは大事な存在。


「クランツ先生はすごいよ……あの人は弱さを絶対に見せない。僕たちの前では必ず強くいてくれる。

 将級になった今でも超えられる気がしないな……」

「私だってそうよ。魔法じゃ超えてるかもだけど、

 判断力とか考え方だったりは超えられないわ」


 フラメナとライメはクランツを超えている。


 魔法使いとして二人は強くなった。

 この二人が共に戦えば敵なしと言えるほどだ。


 だがそれは単なる力での結果である。

 脳を隅々まで使って勝ちに行く点では、

 まだまだクランツの方が上だ。


「砂塵の時も、クランツがいればもっとうまくいったのかしら? 傲慢の時だって……」

「うまくはいっただろうけど、勝てるかはわからないよ。その邪族達は規格外だからさ」


 フラメナはライメに寄りかかりながら歩く。


「私はこの体に宿る欠片に頼ってるのよね。

 この欠片がなきゃとっくに死んでる。

 この前会った執理政の人が、そのうち魔王側近が来るって言ってたのよ。正直、自信がないの」


 フラメナ続けて話す。


「こうして幸せを手に入れて余計守りたくなった。

 傲慢の時はイグレットさんがいたから勝てたってところもあるし、あんまり自信がないのよね」


 珍しく弱気なフラメナ。

 基本的にフラメナの弱気な姿は見る機会がない。

 こうしてフラメナが弱音を吐くのはライメの前だけだろう。


 フラメナは今や一人でなんでもできる存在。

 だからこそ支えてあげなければいけない。


「僕とフラメナが一緒に戦えば大丈夫だよ。

 それに南大陸だって今じゃ強い戦士達がいる。

 ヨルバさんやルルスさん……エルドレさ……エルドレやラテラもだし、クランツ先生だっている。

 フラメナが一人になることはないよ」


 フラメナはそう言われ、その場に立ち止まる。


「……そんなこと言われたら、私依存しちゃうわよ」

「依存してくれて構わないよ」


 完成した豪邸の中を歩く二人、

 その日はいつも以上に距離が近かった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 研究所にて。


「フリラメ様、フラメナ様からお手紙です」

「あら、近いんだから直接来ればいいのに……」


 新築の酒場にて。


「手紙? ラテラ宛とかじゃなくて私たちに?」

「うん、フラメナさんからのだよ」


 定住型の宿にて。


「うへぇ、遂にですね〜」


 ある一軒家にて。


「は〜、フラメナさんも遂にっすか……」


 東勢大陸にて。


「師匠、ちょっと南大陸に行ってくる」

「久しぶりに会いたくなったんだね?」

「……まぁそれもそうだけど、招待された」


 虹剣1689年2月10日。

 

 この日、フラメナの知り合いほぼ全てにあることへの招待状が届く。


 結婚式への招待だ。


 一般的に結婚は家で行う。

 式場などは中央大陸にしか存在せず、ほとんどの夫婦が住まう家にて誓いを結ぶのだ。


 結婚。

 それを行えば遂にフラメナとライメは家族になる。

 ライメ・カルレット・エイトール、少しだけ違和感があるがこれが名となるのだ。


「私の誕生日に結婚だなんて最高よ!」

「てっきりそれに合わせてるかと思ってたよ」


 二人は豪邸内を飾りつけながらそう話す。


 結婚式の形式は大陸ごとによって変わる。


 北峰大陸は雪原の中で誓いを結び、

 西黎大陸は夫婦になる二人が踊り誓いを結ぶ。


 中央大陸は白いドレスを着て、

 お姫様抱っこをするのが定番だ。


 東勢大陸は店などで宴会を開き、

 その中で結婚式を行う。


 南大陸はいつも通りの服で落ち着いたパーティーを行い、ゆったりとした空間で誓いを結ぶ。


「結婚式は私の誕生日、

 いっぱい人が来るといいわね!」

「来るはずだよ。フラメナから誘われたんだから」


 すると豪邸に鳴り響く呼び鈴の音。

 ライメが手を止めて玄関へと向かっていった。



 ライメが扉を開ければ、ユルダスがいた。


「うわーー!? やっと来たんだ。

 めちゃくちゃ遅かったね……」

「すごい驚くんだな……まぁ色々あってな。

 イグレット様に泣きつかれてちょっと遅れた」


 ユルダスは苦笑いしながらそう言うと、

 ライメは微笑み、中へと入るように扉を大きく開ける。


「なぁライメ、フラメナと結婚って本当か?」

「……本当だよ。ちょっと意外?」

「いいやまったく、昔っからそんな気はしてたし、

 やっと結ばれたようで安心した」


 ユルダスはライメの横へと行くと、

 二人で豪邸の中へと入る。


「それにしても広いな。部屋全部使えるのか?」

「絶対無理だね……フラメナが大きい家がいいって言ってたから任せてたんだけど、まさかここまでとは……正直驚いてるよ」


 ユルダスはライメへと聞く。


「ライメはなんでフラメナが好きなんだ?」

「えぇ……言わなきゃダメ?」

「ははっ聞かせろよ。ライメなら言えるはずだろ?」


 ライメは少し照れながらも話す。


「フラメナは……やっぱり元気いっぱいだからさ、

 いつだって一人で大丈夫だなんて思われてる。

 でも彼女は案外、挫ける時は挫けるし、

 いつだって無敵なわけじゃないんだ」


 ライメは続けて語る。


「僕はフラメナに憧れていると同時に、心底惚れ込んでるよ。だってあんなに元気いっぱいの姿を毎日見て、幸せになれないわけがないじゃないか」


「相当好きなんだな……」

「大好きに決まってるじゃないか、

 あんまり言わせないでよ……恥ずかしいんだから」


 するとライメの方が指で突かれた。

 背後にいたのはフラメナ。


 二人を驚かそうと後ろをついてきたのだろう。


 フラメナはすごく恥ずかしそうな顔で、

 振り返るライメの顔を見つめる。


「あっ……」

「……」


「……あーっ、そのなんだ。

 久しぶりだな……フラメナ、俺は一旦帰る。

 また来るからそん時長く話そうぜ」


 無言のまま頷くフラメナ。

 ユルダスはそそくさとその場を去り、ライメとフラメナは向き合ったまま止まっていた。


「えっと……聴いてた?」

「全部……っ」


 フラメナがライメへと抱きつく。

 身長差があまりないのもあって、ライメの肩へとフラメナの顎が乗る。


「もう……恥ずかしくないの?

 ユルダスだからって……言いすぎよ」


 声が少し震えており、ライメの背中を掴む手は力を増していった。


「その……ごめ」

「謝んないで! その、嬉しかったから……」


「フラメナはどうなの……?」

「え?」

「僕の聴いちゃったんだし、フラメナからも聴きたいなって……ダメ?」


 フラメナはそれを聞き、内心ズルいと感じながらも話し出す。


「私だって……大好きよ。ライメの底が見えないくらい優しいところとか……私一番で考えてくれるところとかも……それに、可愛いし」

「男なんだけどね……」


 フラメナはライメから少し離れ、顔を見つめる。


「でも……ライメの顔、私は大好きよ。

 いつもは可愛いけど、仕事してる時とか魔法を使ってる時はかっこいいもの」


 そう言われるとライメは視線をフラメナから逸らす。


「ちょっと恥ずかしいよ……」

「今日の夜は覚悟しなさいよ。容赦しないんだから」


 フラメナはそう言うと足早にライメから離れて、

 飾りつけの作業へと戻った。



 フラメナが太陽なら僕は月が良い。

 彼女は一人じゃ生きてけないほど寂しがり屋。


 こう決めつけるのも少し烏滸がましいけど、

 大勢が納得することではあると思う。


 僕はフラメナの側に居続けたい。


 いつだってフラメナのことを考えてしまうほど、

 僕はフラメナが好きだ。



 僕は幸せ者だ。

 何者にもなれなかったかもしれない僕を救ってくれたフラメナ、そんな彼女と僕は結ばれている。


 ……自然と笑みが溢れてしまいそうだよ。

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