第百一話 新世代
「フラメナ様、私たちと戦ってください!」
邪族の討伐が終わり、夕暮れ時の学校前にて、
フラメナはライメのある生徒四人にそう話しかけられた。
「戦ってどうするの?」
フラメナがそう聞けば、ピカロト・シクルアという者が返答した。
「私たち勝てない事はわかってます。
でも、それでも一度戦ってみたいんです!」
フラメナはそう言われ他三人の顔を見ると、
満場一致で自身と戦いたがっていることを知る。
だがフラメナとて自分の力を知らない魔法使いではない。普通に戦ったら殺してしまうかもしれない。
「……なら条件よ!
あなたたちは魔法、私は素手。
私の勝利条件は全員を地面に寝かせること、
そっちの勝利条件は私に魔法を出させること。
勝ったらそうね……あなたたちが勝ってから決めるわ!」
圧倒的に不利なハンデを背負うフラメナ、
生徒四人は嫌でも力の差を理解させられる。
「戦いは明日にしましょ。
今日はゆっくり休んで明日に備えなさい!」
フラメナがそう言えば四人とも返事をし、
生徒四人たちとも別れ、ルルスも途中で家に帰り、
ライメとフラメナは帰路を行く中、あの四人について話していた。
「ライメ、あの四人の中じゃ誰が一番強いの?」
フラメナがそう聞けば、夜空へと染まり始める空の下、ライメはそれに答える。
「エクドラ・ハテルマド、今は間違いなくこの子が一番強いね。十四歳で無呼称魔法、イタズラ好きだけど実力は確かな男の子だよ」
「水魔法使いの子? オーラが少し周りより多くて私も目をつけてたのよね」
ハテルマドはライメの初出勤時に水をぶっかけようとした問題児。だが水魔法をあっさりライメに防がれてからは大人しい。
彼は間違いなく天才。
クラスの中でもずば抜けて強く、魔法使いとしては一級ほどの強さは持っている。
「あの子はまだまだ伸びるよ。
まだ挫折を経験したことがないから、そこら辺はフラメナに任せちゃおうかな」
微笑みながらそう言うライメ、
フラメナはそれを聞いて声を大きくして言う。
「任せなさい! ボコボコにして泣かせてやるわ!」
「そこまではしなくても……」
苦笑いするライメ、その日も二人で宿に帰る。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
虹剣1689年1月19日。
「さぁかかってきなさい!」
雪が積もる平原の中、ぽっかりと雪が溶けた範囲があった。そこはフラメナと生徒たちが手合わせをするための場所である。
フラメナの四方に散らばる生徒たち。
戦いの合図となった言葉に反応し、各々が魔法陣を展開する。
だが一人だけ発生が異常に早かった。
そう、ハテルマドだ。
無呼称による魔法の発動。
水の槍が大量に空中に作り出され、フラメナへとそれが飛んでいく。
「嘘っ!?」
ハテルマドが驚きながら後退すると、
フラメナが水の槍を横へと走って避け、
そのまま距離を一気に詰めて殴りかかってくる。
本来、魔法使いはここまで動けないものだ。
なぜなら中遠距離戦しか行わない魔法使いに、
近距離での俊敏性はあまり必要ないからだ。
ハテルマドへとフラメナの拳が迫った瞬間、
フラメナは死角から腹部に迫る氷柱を片手で掴み、
そのままそれをピカロトの方へと投げつける。
ピカロトは高速でこちらへと飛んでくる氷柱を雷魔法で破壊する。ピカロトは内心ドン引きだった。
なんで今のが見えてるんですか……!
明らかに死角……フラメナ様は肌で魔力を感じ取るのがうますぎますね。
ピカロトへと反撃したフラメナ、それにより一瞬隙ができたのでハテルマドは後退する。
再び距離を離されるフラメナ、するとフラメナは横へとあえて倒れ、地面に手をついて立っていた場所へと放たれる火魔法を避ける。
「発動する瞬間がわかりやすすぎるわ。
魔力量が一番多いんだから余計バレバレよ!」
フラメナへと火魔法を放ったのは、マルレキ・ハマエッユ。
魔力量が上級並の魔法使い。
魔法の技術はまだ中級ほどだが、魔力量の高さ故に適当に魔法を放っても高威力となる。
フラメナは地面に手をついた状態で逆立ちし、
そのまま跳び上がって空中へと身を晒す。
「火破血!」
中級魔法、爆発するように一気に火を放出するポピュラーな魔法。それを繰り出したのは、呼称のみで魔法を発動するホワラル・ウルムエラ。
フラメナは空中へと高速で迫る火に対し、
空中にて体を反らして魔法を避ける。
「タイミングはいいけれど、魔法が散らばりすぎて私に当たってないわよ!」
フラメナは着地し、体を伸ばして周りを見る。
「……みんな強いけど、そんなの邪族には通用しないわ。魔法使いは剣士に守られ剣士を守る存在。
でもいつかそれには限界が訪れるの、
みんな足を動かしなさい!
この私を倒すには足を使うしかないわよ!」
四人はそれを聞いてつくづく思った。
足を使うってどうやって?
なんでそんなに魔法がどこにくるかわかるの?
近接特化の魔法使いなんて……
真似できない……これが、これが……
″君級魔法使い″
フラメナと四人の戦いはフラメナの圧勝だった。
全員魔力切れで地面に寝かせられたのだ。
「もう少し手加減くらいしてあげなよ」
ライメがやってきた。
フラメナは戦いが終わる頃を予想し、
この時間に来てほしいと頼んでおいたのだ。
「これでも手加減したほうよ」
「はぁ……皆さん立てますか?」
生徒四人が首を横に振る。
ライメはフラメナへと鋭い視線を向けると、
フラメナは目を逸らした。
ライメは再びため息をつき、転移魔法陣を展開して帰路を用意する。
「さっ、帰りますよ」
すると突如、フラメナの背筋に悪寒が走った。
それはライメも同じであり、二人は咄嗟に身を屈めた。
次の瞬間、二人が立っていれば顔が吹き飛んでいたであろう位置を、真っ黒な光線が通っていく。
「なに!?」
「フラメナ! 前方から邪族だ!」
ライメが見る方向へと見える邪族。
「目玉……?」
フラメナが思わずそう言葉を漏らすと、
その邪族は目玉が体の全てであり、手も足も胴もない。目玉がただ空に浮かびこちらを見ている。
フラメナは魔眼でオーラを見ると、
目玉は真っ黒なオーラを纏っており、オーラの大きさ自体は小さかった。
「ライメ、生徒たちを守りなさい!」
「あの邪族は任せるよ!」
フラメナはその言葉に頷くと、地面を踏み込んで一気に目玉へと接近し、手へと纏わせた白い火を放つ。
「ライメ先生、あれってなんですか……?」
不思議そうに聞いてくるピカロト。
ライメはその言葉にうまく答えを返せなかった。
「僕もわからない……あんなの初めてだよ。
魔族……なのかな?」
一方フラメナが放った白炎は直撃し、呆気なく目玉は塵となり消滅した。
「えぇ?」
呆気なさすぎてそんな声が思わず出てしまう。
一体なんだったのだろうか、それがひたすらに気になる。
フラメナは辺りを見渡しながらライメの下に駆け寄る。
「なんだったのかしら」
「わからない……とりあえず早く帰ろう」
フラメナが頷くとライメは転移魔法陣を展開し直し、そのまま魔法学校前に転移した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「てかさー、よかったの?
ユーラルちゃん南大陸に行かせてさぁ」
魔城島、黒城最上階にて。
魔王側近が集まる中、雑談が交わされていた。
「魔理様の決定でしょ? いいんじゃないの」
色欲のエルドレにそう返す嫉妬のレアルト。
そんな二人へと怠惰のフェゴが話しかける。
「多分だけど監視役だろー。
天理の欠片が今どれだけ強いかはわからない。
もしかしたら予想よりも強くなってる可能性だってあるしな〜」
憤怒のドラシルが三人へと話す。
「魔理様がなにを思って、南大陸へとユーラルを向かわせたのかは我にもわからない。リスクが大きい行為であることは確かだ。
だが、ユーラルとて強くはある。
うまくやれば南大陸を滅ぼすことも可能だ」
エルドレがドラシルへと馴れ馴れしく問う。
「随分とユーラルちゃんのことを好評するじゃん。
結構お気に入りなの?」
「まだ120年ほどしか生きていない者が、
あれほどまでに強いのが目に留まるだけだ」
エルドレは顎に手を当て、肘を立てて言う。
「まさに新世代って感じだね」
フラメナ達が去った後の平原にて、
魔王側近、強欲のユーラルはその場に立って魔力を肌で感じていた。
「……天理の欠片かぁ」
強欲のユーラル。
彼女の一番の特徴は強大な召喚魔法。
たった一人から大量の軍勢が生み出される。
過去にそれで西黎大陸の王都が消えたことがある。
強さでは四番目のユーラル。
その強さは傲慢とは比較にならないほど厄介。
なんとしてでも勝とうとする彼女に、復興後の南大陸へと初めて危機が訪れる。
だがその話はまだ先の話である。
迫る影は着実と大きくなり続けているのだ。
第十一章 恋する魔法使い 魔法学校編 ー完ー
次章前
幕間 恋果ての魔法使い