第百話 実戦授業
邪族討伐依頼。
それは南大陸に新しく出来たガレイルからのもの。
ルルスは南大陸に帰ってきてからも、相変わらず散歩と言って邪族を狩り続けている。
もちろんあまりよろしい行為ではないのだが、
ルルスはかなり強くなっており、邪族を討伐しているだけなので、咎める者もいない状態。
おそらく南大陸で一番の自由人だ。
そんなルルスはライメの下にやってきて、一緒に邪族を狩らないかと誘ってくる。
「久しぶりにそう言うのも悪くないですけど、
生憎仕事と被ってしまってまして……
フラメナなら行くんじゃないですかね?」
ルルスはそう言われてニコニコとしながら言う。
「フラメナさんは来てくれそうですねぇ〜。
ちなみにライメさんはどんなお仕事を?」
「僕は魔法教師ですよ。今は魔法学校で働いてます」
ルルスはその返しにくねくねとしながら頷き、
「いいですねぇ〜」と言ってきた。
二人が会話していると、手から魔力にて温風を放ち、髪を解かしているフラメナがやってくる。
「あっ! ルルスじゃない!」
「お久しぶりですぅ〜」
フラメナはルルスと久しぶりに会え、
少し嬉しそうにしながらライメの横に立つ。
「なんの話してたの?」
フラメナがそう聞けば、ライメが先の話をした。
それを聞いたフラメナはルルスの誘いに乗る。
「暇だから行くわ!」
「うへへ〜心強いですねぇ〜」
フラメナはそうして意思を示すと、ライメへと一つ提案をする。
「せっかくだし学校の授業に利用しちゃえば?」
「えぇ? そんなの許されるかな?」
ライメが不安そうに返すと、フラメナが言う。
「君級魔法使いと将級剣士に将級魔法使い。
安全面じゃこれ以上ないはずよ!
魔法は使ってこそ上達するんだから、
生徒たちの経験値にしちゃいましょ!」
確かに悪くない話かも……
邪族討伐の依頼書を見る限り、帥級程度。
正直フラメナとルルスさんがいたら余裕だ。
上に相談して実戦授業をしてみても良いかも……
帥級とかの邪族は一度目にしておくといいし、
今後の人生でも役に立つはず……
「……ちょっと上に相談してみるよ。
フラメナとルルスさんがいたら安全面は大丈夫そうだしね」
そうしてライメとフラメナはルルスの誘いに乗り、
一週間後邪族討伐依頼へと向かうことになった。
ライメも学校側へとその話を持ちかけると、
君級と将級がいるおかげか、すんなりと受け入れられた。
そして一週間後、邪族討伐依頼の日がやってきた。
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虹剣1689年1月18日。
フラメナとルルス、ライメとライメの生徒十三名で邪族討伐依頼へと向かう。
向かうは南防山脈側の平原。
冬の南大陸は気温も低く、雪も降り積もる寒さだ。
そんな雪積もる平原へと邪族が出現したらしく、
等級は帥級程度、並の戦士じゃ歯が立たない。
「えーっと……今日は実戦授業です。
ほとんど見学ではありますが、皆さんにも少しは戦ってもらいますよ」
ライメはそう言ってフラメナとルルスを紹介し始める。
「安全面はご心配なく、今回は助っ人として君級魔法使いのフラメナ様と、将級剣士のルルス様に来てもらっています」
フラメナとルルスは南大陸でも有名な人物。
フラメナは王族と君級が故の知名度、
ルルスは単純に君級に近い将級剣士として有名だ。
フラメナとルルスの紹介も終わり、
早速一行は邪族討伐へと向かう。
「ライメ、私もみんなのことは守るように動くけど、全部は無理だからちゃんと守るのよ」
「任せてよ。僕も少しは強い魔法使いではあるから」
生徒たちからすれば珍妙な光景だ。
王族と自身の先生が親しく会話しているのだ。
まぁどういう関係かはバレ始めている。
道中は特に襲撃もなく、目的地へと到着した。
「ここからは邪族が出てきます。
皆さんも後方から魔法を放つんですよ」
そのライメの声に皆が返事をし、
ルルスは剣を構え、フラメナは腕を捲り、
ライメは杖を手に持って戦う準備を整える。
「邪族来たわよ!」
フラメナのその声と共に、前方から白熊の群れが走ってきた。
白熊単体の強さは上級。
群れとなれば帥級程度だ。
「フラメナさん、10秒経ったら魔法お願いします〜」
「任せなさい!」
ルルスはそう言って地面を踏み込み、
積もった雪を散らし、一瞬にして白熊の群れへと突っ込んでいく。
ライメやフラメナはその動きを視認できるが、
生徒たちからすれば目にも止まらぬ速さだ。
ルルスが群れの先頭にいる白熊を切り裂くと、
一撃にて絶命させ、次々と迫る爪の攻撃を避け、
10秒経った瞬間後ろへと下がり、フラメナの白い魔法が雪を溶かしながら白熊たちを焼き尽くす。
「すごい……」
そう言葉を漏らす生徒たちにライメが後ろから話しかける。
「さぁ、皆さんも好きに魔法を放ってください。
前線の二人は勝手に避けてくれますから」
そんな言葉に不安を感じながらも、
生徒たちは次々と魔法を放ち始め、弱った白熊たちへと様々な色の魔法が直撃し始める。
「ルルス、剣に火いる?」
「お願いしますぅ〜」
ルルスは剣を横へと突き出し、フラメナが白い魔法を放つと剣へとそれがまとわりつく。
ルルスは剣を振るい、再び地面を踏み込んで前へと飛び出る。
動き方は一直線ながらも速すぎるせいなのか、
白熊たちは反応する様子もなく、何体か一気に切り裂かれた。
剣を振るうと火が斬撃となって放たれ、
そのまま狼狽える白熊たちへとルルスはひたすらに距離を詰め続け、彼特有の踊るような切り方で攻撃を避けながら切り裂き続ける。
ルルスの異常さは生徒たちにも伝わっている。
なぜ大量の魔法が飛び交う中恐れることなく動き、
白熊たちの攻撃も避けていられるのか。
確かに君級に近いと言われると頷ける。
ライメはルルスの動きに頭に手を当て、
少し困ってしまう。
実戦授業なのに、これじゃ剣士の見学じゃないか。
はは……ちょっと強すぎるよ。
フラメナはライメへと視線を向けると、
困った顔を見て察し、ルルスへと声をかける。
「ルルス! 私と交代よ!」
「おっけぇで〜す!」
ルルスは姿勢を低くして後ろへと跳ぶと、
入れ替わるようにフラメナが大量の白い火を纏い飛び出す。
フラメナは自身の魔法に向き合う時間の中で、
自身を救ってくれた覚醒状態のことを調べた。
あれが発動する条件は瀕死時のみ。
だがおそらくそれは、自主的な発動ではなく自然的な発動によるもの。
ならば自主的な発動はどうすればいいか。
シンプルなことだ。
体内の魔力の流れを魔法にのみ集中させればいい。
これより発現する姿は不完全なもの。
フラメナの髪の毛の末端が赤く染まり、
瞳が桃色に変色する。
手足は肌色のままで不完全なことを現していたが、
十分君級と呼ぶに相応しい姿。
ライメもその姿は初見なので少し驚いた。
魔力が圧として放たれるほどの魔力量。
背筋が少しゾクゾクとした感覚に襲われる。
「ライメの生徒たち! これが君級魔法使いよ!
ちゃぁんと目に焼き付けて帰りなさい!」
白熊たちの群れは後方になるほど体が大きく、
傷がたくさんついた個体が親玉だろう。
フラメナの呼びかけに生徒たちは応え、
視線がフラメナへと集中し魔法が止む。
白熊が口を開いて噛みつこうとすれば、
フラメナは鼻の部分へと手を当てて逆立ちし、
そのままバク宙して火を円状に放って着地した。
火を喰らいながらも突進してくる白熊へとフラメナは手を向け、白炎を光線のように放つ。
それは体を貫き、衝撃波と共に白熊を吹き飛ばす。
次々と襲いかかる白熊たち、フラメナは手をパンと叩き、自身の周りにバチバチと電撃が唸り始める。
「白雷獄」
次の瞬間、電撃が四方八方に広がり、
地から空へと雷撃が放たれ、白い火が爆発するように広がり白熊たちを一気に殲滅した。
残るは親玉のみ、フラメナは右手を向け、
魔法陣を展開し呼称する。
「白靂緋玉!」
フラメナの右手から白炎の球体が放出され、
白熊へと向かって急速に加速し始めると、
白熊はそれに恐れて逃げ始める。
その白炎の球体は追尾型であり、
すぐに白熊へと追いついて直撃してしまう。
直撃した瞬間、辺り一帯が白く光ったと思えば、
とても大きな落雷の音と共に、白熊は真っ黒に変色し、焼き焦げて地面へと倒れていた。
白熊の邪族たちはこれにて討伐完了である。
「ライメ先生、フラメナ様ってあんなに強いの?」
息を吐きながら髪の毛の色や、瞳の色が元に戻っていくフラメナをライメは見ながら、質問してきたホワラルへと返答する。
「フラメナはすごく強いよ。
もう誰も追いつけないくらいには……」
帰りはライメの転移魔法で一瞬だった。
学校にて生徒たちは解散させ、ライメとフラメナ、ルルスは三人で少し話していた。
「ルルスさんが全部倒してしまいそうで焦りましたけど、フラメナがそこをカバーしてくれて助かったよ」
「ルルスったら戦いに熱中しすぎよ」
「うへへぇ、すみませんです〜」
すると三人が会話している元に四人の生徒が尋ねてきた。
マルレキ・ハマエッユ
ピカロト・シクルア
エクドラ・ハテルマド
ホワラル・ウルムエラ
この四人はライメが目をつけている生徒たちだ。
一体なんの用だろうか?
四人が口にする事は衝撃的なものだった。