第九十七話 運命の欠片
虹剣1689年1月9日。
ライメはあの金髪の少女のことが気になっていた。
何者なのだろうか、あの日以来見かけていないが、
普段はどこにいるのだろうか?
徹底的に調べてみたいが、それほど親しくもない少女を必死に探し始めれば、さすがに不審者扱いだ。
フラメナに失望されそうで、
想像するだけでゾッとする。
「ライメ先生! これどうやってやるんですか!」
「……んっ? あぁごめんごめん、これはね……」
まぁ今はあまり気にしないようにしよう。
ライメはそう思い、魔法について質問してきた生徒へと答えを返した。
ライメが魔法学校にて授業をする中、
フラメナは自身の魔法をひたすらに研究していた。
研究所にてクランツやフリラメ、
執事のガルドンと共に同じ空間で研究をする。
「……クランツ的にはそう思うの?」
「えぇ、フラメナ様の魔力操作は雑すぎます。
混合魔法もあまり使えてないのはそれが原因ですよ」
フラメナは頷きながら魔法書を眺める。
「確かに……適当にぶっ放してたわ」
「よくそれで戦ってこれましたね……」
「大技とかの時はちゃんと集中してたわよ!」
クランツはフラメナの放つ、
溢れ出す魔力を見て思うことがあった。
「フラメナ様は、魔力量が多いですね。
常に溢れ出しちゃってるのは良くないですよ」
「私そんな溢れ出してるの? そんな感覚ないけど、
クランツがそう言うなら溢れ出してるのね……」
フラメナは君級魔法使いの中でも、
トップレベルの魔力量を誇る。
実力じゃまだ劣る部分はあるが、
魔力量だけじゃ誰にも負けないレベルだ。
だがそのずば抜けた魔力量を持っていても、
フラメナは常に全開で放ってしまうので、結果的に底が見えるのが早い。
「フラメナ様はまず、魔力量を調整する訓練から始めてみましょう。小さな魔力で大きな魔法を放つことができれば、長期戦だって成せるようになりますよ」
「そうなったら最強ね! よしやるわよ!
クランツ! 私にやり方を教えてちょうだい!」
フラメナがそう言えばクランツは頷く。
早速、訓練を始めようとすると、研究所の呼び鈴が鳴り、フリラメがガルドンへと声をかける。
「ガルドン、相手してきてくれるかしら?」
「御意、あてくしにお任せを」
相変わらずの奇抜な雰囲気を漂わせるガルドン。
フラメナはまだあの空気感には慣れていない。
「フラメナ様ァッー! お客様ですぞ」
ガルドンの声がフラメナを少し驚かせながらも、
フラメナは自分を尋ねに来た者と出会うため、玄関の方へと小走りで向かった。
「えっと……誰かしら?」
「初めましてかしら? 私は″シノ″」
金髪に金の瞳を持つ少女。
それを見てフラメナは鳥肌が立った。
「ガルドン……ちょっと戻ってて」
「……? 御意!」
息遣いが少し荒くなり、フラメナはその少女を見下ろしながらもじっと瞳を見続ける。
「なんで……」
「正体はもう知っているのね。博識なことは偉いわ。
そう、私は″執理政、運命のシノ″
嘘つきだと思ってもらっても構わないわ」
嘘つきなわけがない。
この少女は明らかに雰囲気が違う。
生物じゃないのだ。
概念的なもの、そんな存在がただ人として立っているだけである。
「私になんの用よ……」
「運命を教えに来たの。本当は禁止行為であるのだけれど、ある契約が発動して三回だけ運命を教えられることになったの」
なにを言っているか正直理解は出来ない。
「どう言うこと? 運命を教えるって……」
「天理の欠片を有するフラメナさん。
焦る必要はないわ。少し頼み事があるの。
一つ目の運命を教えるのはそれからよ」
一方的な要求、普通なら断りたいがフラメナは彼女が放つ圧に負け、要求を聞くことにした。
「……頼み事って?」
「ライメさんと会わせてくれないかしら?」
要求はあまりにも簡単なものだった。
「べつにいいけれど……なんでライメなんかに?」
「研究したいことがあるのよ。フラメナさんに話しても理解できないでしょうから話しませんけど」
その言い方はこちらがバカだとでも言う感じだ。
フラメナは少しキレそうになるがグッと堪える。
「あーそう、なら早く会いに行くわよ。
くっ……なんで私はいつもバカ扱いなのよ!」
「ふふふ、こういう面だけはバカと呼ぶだけで、
他の面ではフラメナさんは賢いですよ」
「バカって言うなっー!」
シノは少し揶揄うように話していたが、
要求を受け入れられたことで一つ運命を教えることにした。
「じゃあ約束通り、一つ運命を教えましょう」
「その運命って……未来とかとは違うの?」
「未来は如何様にも変化する。
ですが運命はある程度決まっているのですよ」
運命と未来の違い。
シノは運命を冠するだけであり未来を見ることはできない。
「フラメナさん。貴女は3年後魔王側近と戦います」
一気に空気が重くなった。
魔王側近、嫌というほど聞いてきた存在。
「魔王側近の誰が……?」
「一度言えばそれは一つの運命。それが誰かは二つ目の運命となってしまいますから……」
「なによ、案外ケチなのね」
「概念にそう言われましても……」
シノは話を続けた。
「魔王側近とフラメナさんが戦う運命は既に避けられないものとなっています。必ず戦うと思っていて良いでしょう」
「……一つ質問いいかしら?」
「運命のこと以外ならば」
フラメナは自身の手を見ながら話す。
「天理の欠片ってなに?」
「まぁそうなりますよね。
魔王側近がフラメナさんを狙うのもそれが原因。
それに、魔理でさえもそれを狙っている」
フラメナはそれを聞くと視線をシノの瞳へと戻す。
「魔理って執理政の魔理よね?
魔王側近たちも魔理って言ってるんだけど、
一体誰なの? 本当にいるの?」
シノはそれに答える。
「魔理は魔王の別名ですよ」
「やっぱ生きてたのね……」
「魔理は執理政の反逆者。
6000年前に天理と魔理は戦い、魔理が勝利した。
天理は他の理を管理する者が故に、彼女が死んで魔理を制御する者が消え今に至るんです」
シノは伝説上の話をあたかも現実に起きたことのように話し、フラメナがそれについて真偽を問うた。
「ちょっと待って! 執理政伝説ってそっくりそのまま現実で起きたことだったの!?」
「えぇ、あれは私が書きましたから」
「貴女だったのね!?」
フラメナが驚き続ける中、シノはフラメナがここまで無知なことに少し驚いていた。
「案外なにも知らないのですね」
「だって詳しい人なんてほぼいないわよ?
それに伝説ってだけで……まさか本当に……」
「でもフラメナさんは私が執理政なことに疑いを持たなかった。それはなぜですか?」
フラメナはそう聞かれると、人じゃないものを見る目でシノへと答えを返した。
「だって貴女……オーラがまったくないし、
見た時に鳥肌が立ったのよ」
フラメナの魔眼、魔彩の目は誰であろうとオーラが必ず視認できる。
赤子であっても微弱なオーラは持っているのだ。
だがシノはオーラを一切持たない。
「……その目は極めて正確なのですね。
恐れる必要はありませんよ。貴女やその周りに危害を加えようものなら、運命へと背を向けてしまう。
私は常に運命に順従、今のところ危害は加えませんよ。フラメナ・カルレット・エイトールさん」
妙な雰囲気を漂わせ続けるシノ。
フラメナはそんなシノを見て話を切り上げ、
研究所の皆にライメの下に行くと伝えて二人で魔法中学校へと向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ライメ先生、お客様です」
「え? 僕ですか?」
ライメは授業中に事務の教員に呼び出され、
他の教員に授業を任せて自分を呼び出した者の下へと向かった。
客室の前にて扉をノックし、中へと入ると、
フラメナと金髪の少女が視界に入った。
「フラメ……」
「久しぶりね〜」
フラメナはライメがシノのことを見て驚いたことで、二人になにか関係があるのかと思い、ライメにそのことを聞いた。
「ライメはこの人知ってるの?」
「いや、知り合いじゃないけど、
この前の授業中に見かけてさ、目が合ったらから気になってたんだけど……」
シノはそう言われるとライメに自己紹介をした。
「執理政、運命のシノ。ライメさんよね。
会えて良かったわ」
平然と信じられないことを言うシノ。
ライメは当然信じなかった。
「執理政って……伝説上の存在ですよ。
フラメナもなんでこんな人の話を信じてるの?」
ライメは困惑したようにそう言い、フラメナがそれについて反論しようとすると、シノが立ち上がった。
「じゃあ証明が必要ね」
するとシノの体がいきなり成長し始め、
少女の姿から大人の姿へとなっていき、黄金の球体が彼女の周りに出現し弧を描くように浮遊し始める。
明らかに生物が成せることではなく、
ライメは嫌でもシノという者が、常軌を逸した存在だとわからせられた。
「どうやら信じてくれたみたいね」
「……疑ってすみませんでした」
ライメは頭を下げるとシノはくすくすと笑ってそれを許し、頭を上げるように言うと本題に入る。
「それで私が貴方に会いに来た理由、
貴方達もそれは気になっているでしょう?」
ライメが頷くとフラメナが一言。
「気になるっていうか……そっちが勝手に話に来たって感じじゃ」
「ん″ん″っ! いいから聞きなさい」
シノはそう場を制すると、理由を話し始める。
「私がここに来た理由。
それは転移迷宮の研究と、ライメさん。
貴方に宿る、″運命の欠片″の様子を見に来たのよ」
「え?」
告げられる真実。
ライメはその事実に驚きを隠せなかった。
欠片。
それは一体なぜ生物に宿るのだろうか。