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第九十四話 夢のあと

 憤怒のドラシルとの戦いが始まりそうな時、

 ガルダバがパラトアへと指示を出した。


「パラトア、逃げるんじゃ」


 パラトアはその言葉が納得できない。


「なっ……なんで! 私も戦います!」

「お主はまだこのレベルに達しておらん。

 それになにも二人も死ぬ必要はないんじゃ」


 ドラシルは二人が話す姿を見て歩みを止め、

 話が終わるのを待ち始めた。


 余裕、それを見せつけられるガルダバ。


「パラトアよ。あやつに勝つイメージはできるか?」

「っ……でも、師匠と一緒なら」

「わしゃぁ勝つイメージが湧かん。

 お主と二人でも勝てる気がせん」


 ガルダバは人差し指につける指輪を取り外し、

 振り返らずにパラトアへとそれを投げる。


「それはお守りじゃ。頼む、わかってくれ。

 こういう困難は老耄が引き受けるべきなんじゃ」


 パラトアは後退りしながら顔が引き攣り、

 嫌だ嫌だと叫び出したくなる体を、無理矢理動かしその場から去ろうとするが、歩みが止まってしまう。


「っは、ぅぅっ……」


 心の底から現実を否定したい。

 どうにか、助ける方法はないのだろうか。



「とっとと行かんか、バカモンッ!!!」

「ひっ……師匠……私、絶対戻ってきますから!」


 ガルダバの声はパラトアの体へと電源を入れ、

 パラトアは走って王都の方へと向かっていく。


「……待たせたのう」

「あぁ待った。だが貴様は賢明だな。

 確かにあの女は凄まじく弱い、それでも才は溢れている。生きていれば強くなるだろう。」


 ガルダバは自信満々に笑った。


「ふぉははははっ! お主が強くなると言うか。

 ならばわしの願いは叶いそうじゃ。

 パラトア・シーファという剣士が必ず、

 お主を殺しにやってくる」


 ドラシルはそれを聞いて少し口角を上げた。


「あの者が我を切るか、面白い。

 貴様のその言葉を70年は覚えておいてやる」


 ドラシルの規格外の魔力量から放たれる冷気と、

 ガルダバの練り上げられた熱気が冷気とぶつかる。


 今、戦いが始まる。


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 一定の距離を保つ二人。

 先に動いたのはドラシルだった。


 接近時、双剣を振るいながら斬撃を放ち、

 自身の周りへとそれを纏わせ、ガルダバへと突っ込んでくる。


 手数の多い双剣をカウンターし切れるかはわからないが、ガルダバの目に不安はなかった。


 双剣とガルダバの刀が触れた瞬間、

 ガキィンと金属が叩かれる音がして次の瞬間、

 ドラシルへと縦一文字に斬撃が放たれる。


 ドラシルは双剣を片方刀へとぶつけ、

 速度を落としたその一瞬の隙に少し後退。

 それにより反撃を回避した。


 ガルダバの振り終わりのその姿勢、それは到底ドラシルの攻撃をどうにか出来るものではなく、このまま背中を突き刺されてしまうのがオチだ。


 ドラシルは容赦なく双剣突き立てて振り下ろし、

 ガルダバの背中へと突き刺さる瞬間、ドラシルは目を疑った。


「小刀だとッ!」

「いつわしが一刀流と言った?」


 ドラシルは縦一文字に斬撃を放つ際、

 それを片腕のみで完結させていた。

 それ故に余った腕の手に、懐から取り出した小刀を持って今に至る。


 ドラシルの双剣を小刀で軌道をずらし、

 ガルダバは横へと飛び出して完全に攻撃を避ける。


「……反撃の手段があるからといえど、

 今の攻撃を無傷とは……やはり未来を見ているな」

「だから見とらん。そもそもそれはなんなのじゃ」


 ドラシルは自身の目を指さして言う。


「剣士とは近接戦をする中で、

 長い間生物の筋肉の動きを見る。

 歴戦の剣士ほどそれは練られており、ある一定のラインを超えた時、その剣士は未来を見るのだ。

 相手がどう動くかを全て予測する。

 それを貴様は成しているのだ」


「未来を見るってよりは、どう動くかの予測を極めたってことじゃな? ややこしい言い方せんでおくれ」


「理解はできたか? 再開するぞ」

「せっかちさんじゃな……」



 ガルダバとドラシルの斬り合いは互角だった。


 ガルダバは基本的にカウンターのみで戦い、

 ドラシルはガルダバの反撃を避けて攻撃を放つ。


 ドラシルは魔王側近であり、他と同じく並外れた治癒能力を持っているはずだ。

 だが彼は怪我を負いながら攻撃することはせず、

 剣士としてガルダバへと対等に接し、正々堂々真正面からぶつかり合っていた。


 だが現実は厳しいかな。

 ガルダバとドラシルの実力差は大きい。


 一度反撃が成功したとて、それに至るまでガルダバは十以上の失敗を経験する。


「六度、我が貴様から受けた斬撃の数だ。

 だがどれも致命傷ではない。

 老体が故に貴様はもう限界か?」


 失望したような、退屈そうな声がガルダバの耳へと入ってきた。


 その言葉にガルダバは心の底から苛立った。


「わしゃぁ歳をとりすぎたみっともない老人!

 じゃがなぁ! お主に限界を決められるほど軟弱じゃないわッ! ナメるなよぉ魔王側近ッ!」


 啖呵を切るガルダバ。

 すると初めてガルダバから先手が放たれた。


「ほう? ならば見せてみろ。

 貴様がただの老耄じゃないことをなァッ!」


 ガルダバの斬撃はシンプルながらも研ぎ澄まされたものであり、防ごうと双剣を片方突き出すドラシル。


 その動きから予測されるは、余る片方の双剣による追撃。互いに動きの予測は出来る状態。


 ガルダバの刀を握る手に感じたことのない、

 とんでもないほどの圧力がかかり握力として変換される。


 それは氷の双剣を切るというよりは、

 叩き割ったような感じだ。


 想定外。

 ドラシルはまさかただの斬撃で双剣が破壊されるとは思っておらず、勢いをつけたまま放たれた斬撃に少し胸を切られた。


 ガルダバはすぐに体勢を立て直すと、

 すでに眼前へとドラシルの余る双剣が迫っている。


 だがガルダバの刀はそれを防ぐのに間に合った。

 大きな金属音と共に双剣が防がれる。


 するとドラシルは破壊された双剣を作り直し、

 そのままガルダバの刀へと連撃を放ち始めた。


 一振りが一撃必殺並みのドラシルの攻撃、

 双剣だからこそ出来るこの猛攻。

 ガルダバは必死に攻撃を防ぎ続け、

 汗がダラダラと溢れ出してきた。


「腹がガラ空きだぞ」


 ドラシルの蹴りがガルダバの腹を直撃し、

 空気が振動するほどの速度で吹き飛ばされ、凍てついている草の上に寝転がる。


 たった一撃で血が口から溢れ出した。

 感覚的にわかるが、何かが潰れている。


 骨を折れただろうか、血が止まらず、

 体の震えと激痛が絶えず襲いかかる。


 なにをやっても勝てないのは知っている。

 だが、それでも。ガルダバは立ち上がった。


「ゴフッ、老人は……大切にせんか」

「……もう終わりだな。

 骨も臓器も損傷している。到底我の攻撃についてこられる状態ではない。勝負は終わりだ」


 ガルダバには最後の策があった。


 たとえこれが直撃したとて、ドラシルという者を死に至らしめることはできない。


 それでもこの一撃で、生涯を賭けた一撃で、

 圧倒的な余裕を持つこの男を焦らせてみたい。


「最後の願い……叶える時がきた」


 ガルダバは刀を振り上げ、目を閉じる。

 血に塗れたいつもの服、傷だらけの体。


 歴戦を示す古傷が疼き、ガルダバの最期を飾る。


「……獄門(フゼイメウト)ッ!!」


 一気に刀から赤黒いオーラが浮かび上がり、

 一つの平原に赤黒い光の柱が出来る。


 全てを焼き尽くすかのような熱気、

 平原を凍てつかせていた氷は全て溶け、雑草たちが枯れていく。


 ドラシルは笑った。


「前言撤回だ。貴様はつまらなくなどない!

 誇れ老耄よ……この我を楽しませたのは貴様で100年ぶりだァッ!!」


 ドラシルから魔力が溢れ出し、

 冷気が熱気とぶつかり合う。



 ドラシルの攻撃によって蓄積されたダメージ。

 それが今全て反撃へと転ずる。


 この赤黒い光は全てが斬撃。

 ガルダバは全身全霊、最期の一撃を放った。


 平原に真っ赤な閃光が走る。



 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 ……悔しい。

 この剣技は未だ完璧とは言えない。


 もっと時間があれば……もっと体が元気だったら。

 人族が故に寿命は早い。じゃがわしがここまでなれたのも人族が故のこと。


 人族は短い人生で多くのものを得る。

 短期で見違えるほどに強くなるのが人族だ。


 限界か、わしの人生ではこれが限界じゃった。

 これ以上強くなれない。

 剣を振るう度、老いを感じるのじゃ。


 じゃが、死ぬにはいい最期じゃった。


 限界に達し老いる剣士として、

 若き有望な剣士へと繋ぎが出来た。


 わしの思いは途切れん。

 いつか必ずこやつを討つ者が現れる。


 強いていうのであれば……パラトア。

 あの子がこやつを討つ姿を、わしは空から見よう。


 まったく……わがままで申し訳ない。

 誠に勝手ながら申すと、わしは幸せじゃった!



 ガルダバ・ホールラーデ。

 焼き尽くされた平原にて横たわり、

 青空を視界に入れながら口角を上げていた。


 刀は折れて、ガルダバの腹は大きく裂かれ、

 もう助かることなどない状況。


 五感が消えていく。


 そんな中、額から少しの血を流すドラシルが、

 ガルダバへと賞賛を投げかけてきた。


「いい剣術だ。記憶に残る最期だった。

 戦士よ、静かに眠れ」


 そう言われ、ガルダバの視界が消える。


 平原は焼き尽くされ、枯れた草たちが凍っていた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 君級三名が亡くなった。


 失ったものが大きすぎる。


 虹剣1688年10月3日。


 大陸新聞を見ていたフラメナとライメ。

 彼らもまたこの災禍に巻き込まれるだろう。


 全大陸を巻き込む大きな戦い。

 それはいずれ起こる。



「ここではどんな御祭りが出来るかな」


 南大陸にある者が訪れていた。


 九つの尻尾、それだけでわかること。

 魔王側近、強欲のユーラル・マルモン。


 幸せというのは長続きしないのだろうか?

 一瞬だからこそ幸せなのだろうか?


 否、幸せは勝ち取るものだ。


 迫る魔王側近。

 南大陸の者たちはまだ知ることはないだろう。

第十章 君級魔法使い ー完ー


次章

第十一章 恋する魔法使い 魔法学校編

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― 新着の感想 ―
他の魔王側近がペアを組んでるのに対して、ドラシルだけ単身なのは別格感が出てますね! いずれ来るかもしれないパラトアとの再戦にも期待大です! 続きも楽しみに読ませて頂きます。
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