プロローグ
2025/7/31 微細な修正
なんで私だけ……?
いつだってそう思うことばっかり……
わたしの魔法は、“白い”
普通の魔法が使えなければ、
この世界では生きていけない。
つまり、わたしは――生きてないも同じってこと。
フラメナ・カルレット・エイトール。
ゼーレ王国という南大陸最大規模の王国に生まれた少女。
貴族というのは基本的に長男・長女以外は、
当主の座を引き継げない。
ならばそれ以降に生まれた兄弟はどうなるのか?
この世界は長い間魔法全盛の時代であり、
当主にならない者たちは、全員魔法の英才教育を受ける。
なぜならこの世界は、魔法が″全て″であるからだ。
人族、魔族、獣族、霊族。
これら全ての種族に共通しているのは、
魔法こそ人生。
剣士であっても、魔法を剣術に織り交ぜなければ、
戦いは極めて不利となる。
何をするにしてもある程度魔力を扱えなければ、
この世界では戦えず、職も手に出来ない。
事業を成功させて大金を手にした貴族が一番にすることは、名高い魔法使いを雇うこと。
貴族の家から必ず強い魔法使いが生まれるわけもなく、魔法使いを有さない貴族は大金で魔法使いを雇うのだ。
フラメナは真っ白な髪の毛で赤い瞳を持ち、
エイトール家の次女である。
故に魔法使いになることが運命。
フラメナは魔法が大嫌いだ。
そんな彼女は魔法の学校も嫌いだ。
「ねえフラメナさん、基本魔法はそろそろできないと授業に追いつかないわよ」
教師である魔法使いにそう言われる。
「見ろよまだこんな魔法も使えないんだぜ?」
同級生はそう言ってくる。
「なにそれ..変な魔法」
友達に思い切って自身の魔法のことを話して、
いざ魔法を使い、拒絶された。
うるさい...うるさいうるさい!!
「あついぃいい!!」
真っ白に燃え上がる火がフラメナの手から放たれ、
同級生の男の子の腕へと巻き付き火傷させる。
彼女が七歳の頃、魔法学校へと通い始めて二ヶ月。
ちっとも魔法が扱えないフラメナは同級生に馬鹿にされカッとなり、禁止されている彼女だけが扱える魔法で怪我をさせてしまった。
黒い長髪の女性、フラメナの母親である”フラレイ”はフラメナを叱る。
「なんでお友達を焼いたの...?ねえフラメナ?
なんでそんなことしちゃったの?」
「だって!みんなわたしを馬鹿にしたんだもん!」
「だからって燃やしちゃダメでしょう!」
「だって、だってぇ……」
ただ魔法が使えれば良い、それだけならフラメナが悩むことはないだろう。
だが特異な力とは、恐怖しかない。
普通の魔法じゃなければ認められないのだ。
声にならない泣き声、幼いながらもフラメナは、
自分がなぜ好きなように魔法を使えないのか思っていた。
なぜ自分だけ普通の魔法が扱えない?
なぜ自分の魔法は誰にも求められない?
フラメナの父親、フライレットは母親のフラレイと共に、フラメナのことについて話す。
「なんであんな魔法しか扱えないのかしら……」
真っ白な髪と髭を持つ父親のフライレットは、
いつも通りの固い表情をしながら話を続ける。
「あらゆる魔法使いに見せても初めて見ると言われる魔法、異質な魔法を伸ばすべきか?
だが、もし名を上げたとき畏怖の対象にならないだろうか」
そんな悩みにフラレイは自身の考えを伝える。
「でもこれ以上強制しても……」
同級生の男の子は下級貴族であり最上級貴族のエリトール家には逆らえない、これがもし逆の立場であれば一家ごと滅ぼされる件だ。
もちろん、その同級生がフラメナを馬鹿にしていたことはバレており、教育不足として厳重注意されている。
事の結末としては、治癒魔法の使い手がその子を治癒し、火傷の跡を最小限にとどめ、一件落着した。
だがエリトール家はトラブルを避けるためフラメナを退学させ、魔法使いの家庭教師を家に呼び魔法を学ばせることにする。
その者は、非常に名高い魔法使いであり、
長い間放浪していた。
彼の生き方は、各地の邪族討伐依頼を行っては、金を稼いで生きる。
邪族は人、魔、獣、霊の種族が悪事を犯した際や、
人への危害を与えた際に定められる族。
いわば犯罪者、そう言った者たちは討伐対象として追われる身となる。
彼は貴族からのどんな頼み事も断っていたが、突如としてエイトール家の頼みを承諾した。
しかも報酬金はほかの貴族が提示した金額よりも一段下のもの
なぜこの者が頼みごとを承諾したのか。
「クランツ・ヘクアメール先生だ。
フラメナ、挨拶をしなさい」
「本日からフラメナお嬢様に魔法をご指導申し上げます。クランツ・ヘクアメールでございます」
クランツ・ヘクアメール、真っ黒な髪で目は糸目。
ものすごく怪しい顔をしている高身長の男で、
南大陸元五星級パーティ所属の魔法使い。
五星級パーティとは各地に点在する”ガレイル”という邪族討伐依頼を取り扱う機関の中で、最も優れたパーティに与えられる称号。
「……よろしく」
フラメナが怪しみながらそう言えば、
フライレットは、クランツの経歴を言う。
「クランツ先生は元五星級パーティの魔法使い、
邪族の討伐量は数え切れん。
先生としては魔法学校よりも劣るかもしれないが、
実力じゃトップレベルだ」
フラメナはこの男が放つ胡散臭いオーラに警戒しながらも、差し出してきた手を小さなその手で握手する。
フラメナは父親が言った五星級だとかをあまり理解はしておらず、その日のうちにクランツの授業が始まる。
「まずは、フラメナお嬢様の魔法のレベルを拝見したいので、試しに魔法を使っていただけますか?」
クランツはそう言って魔法の杖をフラメナへと渡そうとした。
「いらないわ、わたしは手で十分なの!」
フラメナは自信満々にそう言うと、クランツは後ろに下がってフラメナの魔法を見守る。
実はフラメナ、
クランツと授業を始める前に父親から、
自分の魔法を鍛えろと言われたのでえらい上機嫌。
魔法学の基礎
呼称、魔法陣。
魔法を扱うには基本、呼称によって名を言い、
魔法陣を経由して魔法を放つ。
呼称=スイッチ 魔力を流す
魔法陣=回路 魔力を巡らせ魔法を作る
そこに杖や魔導書、魔法球などが加わり、
完成した魔法を放つ。
クランツは自身の考えが確信になる瞬間を見た。
異質な魔法を使う子の教育と言われ、承諾したこの仕事。
異質なんて言葉じゃ表せないほどの才能。
フラメナの手から放たれる真っ白な火は少し燃え上がり1mほど伸びたのちに激しく揺らぎ消える。
「お嬢様……」
「お嬢様じゃなくていい!フラメナでいいの、
それと言葉遣いをもっと柔らかくして!」
マシンガンのようにそう要求を伝えるフラメナ、
クランツはそう言われて少し間を取り話し出す。
「ではフラメナ様、呼称と魔法陣なしに加えて手からの魔法放出がいつも通りですか?」
「?……そうよ、これが当たり前よね!」
フラメナは初めて自身を認められたような、
期待されているような。
今までとは違う目で魔法を見られたことが嬉しくなり心躍らせる。
「そうですか、フラメナ様は世界でも少数の魔法使いしか成せない、”無呼称魔法”と”無陣魔法”をすでに習得しておられます」
無呼称、無陣魔法。
名を呼ばず魔法陣を展開しない発動法。
体内で既に回路を完成させ、
スイッチを使わずに魔力を流し魔法を放つ。
魔法学における超技巧技。
フラメナは生まれながらにして魔法の才能にあふれている。
だがその才能を潰すかの如く異質な魔力が与えられた。
クランツは思う。
才能がない子じゃない、この異質な魔力が彼女の評価を下げているだけであり、魔法自体の才能は高い。
なら、普通じゃなくたって良い。
くだらない評価を気にしないように俺が導く。
これがクランツの感じた使命だ。
「それってどういうこと?」
「つまりフラメナ様は、すでに特定の技術レベルではそこらの魔法使いよりも圧倒的に上。
魔法のレベルがその歳にしては、高すぎるのです」
フラメナは初めて、自分の魔法が“認められた”と感じた。
誰からも変だと怖がられ、制御しろと怒られ続けてきた魔法が、期待の目で見られている。
「わたしはすごいのね!」
大興奮したようにそう言うフラメナ。
クランツは、その手にまだ残っていた微細な魔力の揺らぎを見ながら、ふっと笑った。
少女、純白につき異質。
――これは一人の魔法使いが世界を否定する物語。