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5話 ケンイチワールド:はじめての命

 ふわりと風が吹き抜けた。


 目を開けると、またあの草原だった。澄んだ青空。揺れる草。遠くで鳥のようなものが小さく鳴いている。夢ではない、“ケンイチワールド”――僕だけの心の世界。


 「戻ってこれた……」


 目覚めの感覚が全然違う。現実のだるさが嘘みたいに消えて、身体が軽い。腕も、足も、しっかり動くし、呼吸も楽だ。すっかりクセになりそうだ。


 昨日、ここで《鑑定》を覚えてMPを使い切ったはずだけど……今は、どうなんだろう?


 自然と、ステータス画面が浮かび上がる。



名前:ケンイチ 種族:人間 Lv1

職業:寝人 職業Lv1

称号:寝る人

HP:10/10 MP:2/2

腕力:2 体力:2 敏捷:2

器用:2 知力:30

職業スキル:即睡眠:LvMAX

種族スキル:なし

一般スキル:鑑定:Lv1、精神耐性Lv1

ユニークスキル:ケンイチワールド作成

装備:なし



 「……MPが、1→2に増えてる!」


 思わず声が出た。そういえば、現実で目覚めてから一晩経ってる。つまり、ここに来るたびに、MPの上限が1ずつ上がるってことか?


 「1日1MP増加か……地味だけど、確実に強くなってるってことだよな」


 なんだか嬉しくて、胸がポカポカしてくる。毎日寝れば、それだけで成長できる。まさに寝人の特権……いや、職業だ。


 ――そういえば、この“寝人”って職業、なんなんだ?


 気になって、手をかざして自分自身に《鑑定》を使ってみた。



職業:寝人

説明:1日のほとんどを寝ている人に送られる称号。

特性:職業スキル《即睡眠》を獲得。睡眠時、MPが全回復する。

備考:意外と有能だが、働かない。



職業スキル:即睡眠 Lv.MAX

効果:どんな環境でも、瞬時に睡眠可能。精神的・魔力的回復効率が高い。



 「……うわあ……」


 思わず草の上にぺたんと座り込む。シュールすぎて、笑うしかなかった。


 「“働かない”って……まあ、否定できないけどさ……」


 でも、MP全回復は地味に強い。精神的にも魔力的にも回復効率がいいなら、毎回ケンイチワールドに来るたびに、次の準備ができるってことになる。


 「……ってことはさ、職業が変わったら、スキルも変わるのか? それとも、スキルレベルがMAXだったら、持ち越せるのか……?」


 こういうゲーム的な仕様の考察、大好きだ。自分のステータスを覗き込んで、変化の兆しを見つけていくのって、まるで宝探しみたいだ。


 今のところ使えるスキルは、《鑑定》と《即睡眠》と《ケンイチワールド作成》。ユニークスキルの《ケンイチワールド作成》、名前からして、すごそうだけど……どう使うんだろう?


「ケンイチワールド作成か……」


目を凝らすと、ユニークスキルの文字が少しだけ煌めいたように見えた。その瞬間、頭の中に説明が流れ込んでくる。



《ケンイチワールド作成》:

ユーザーの心の世界に、異世界ユーランドのエネルギーを流し込み、構築・拡張するスキル。MPを消費することで、新たなスキルを習得したり、モンスター・植物・地形・建築物などを召喚、生成できる。ただし、自然法則・生態系の整合性がとれていないものは召喚不可。


【例】

・水場がない状態で魚類は召喚できない

・食物連鎖を乱す肉食獣は、餌が存在しないと召喚されない

・火山や洞窟など、地形オブジェクトは段階的に拡張可能


このスキルは、成長とともに展開される“もうひとつの世界”を創造する力である。



「……なるほど。つまり、ここはゲームでいう自分の“マイワールド”ってわけか」


ケンイチは、草の上に寝転がった。天高く伸びた雲の形をぼんやり眺めながら、ひとり呟く。


 「……MP、2もあるし……なんか作れないかな?」


 ぽつりとつぶやくと、ふいに空間に青白いウィンドウが広がった。まるで魔法のショップメニューのような、作成リストだ。



《使用可能エネルギー:MP 2》

《現在の地形:草原/水域なし/木々:低密度/動物:不在》

《生態系:成立度 低》


【作成可能オブジェクト一覧】


・ミニレッサースライム(MP1)

・ふわふわ草(MP1)

※他のオブジェクトは生態系条件未達のため非表示



 「……少なっ!」


 思わずつっこんでしまった。でも、生態系が成立していないなら、当然か。水がなければ魚は無理だし、草しかなければ肉食獣は飢える。それに、環境に合ったものしか出せないって、むしろリアルだ。


 けれどその中に、ひとつだけ気になる名前があった。


 「ミニレッサースライム……スライムか、やっぱ異世界といえばコレだよな」


 MPも1で足りるし、召喚してみるにはちょうどいい。迷わず選択して、手をかざす。


 「《ケンイチワールド作成》、発動……ミニレッサースライム!」


 草原の中央、うっすらと光の粒が舞い上がる。その中心に、ぷるん、とした何かが現れた。



名称:ミニレッサースライム

種族:スライム系(下級)

レア度:1 親和度:中立

HP:3 MP:0

特徴:やわらかい体を持ち、環境変化に強い。

性格:好奇心旺盛、従順。

成長要素:食事、魔力付与、環境刺激により変異・進化の可能性あり



 「……ちっちゃ……でも、かわいい!」


 ぷるぷると揺れながら、ミニレッサースライムが僕の方へぴょこ、ぴょこっと跳ねて近づいてくる。透明なゼリーのような体が太陽の光を受けて、虹色に光っていた。


 「……お前、なんか……いいな」


 話しかけてみると、ぴょんと一度高く跳ねて、まるで応えるかのようにくるりと一回転する。感情があるのかはわからないけど、なんだかとても愛らしい。



 しばらくスライムと一緒に草原を歩いた。スライムは勝手に動き回って、草の匂いを嗅いだり、地面に潜り込んでみたり、時には僕の足にくっついてきたり。ひとりでいたときの草原が、ぐっと賑やかになった気がした。


 「これからどうなるんだろうな……お前、進化するのかな。分裂したり、変な色になったり……火を吐くようになったり……?」


 妄想が膨らむ。草原に、木を植えたら? 小川を流したら? ほかのスライムも増えたら? 肉食獣は? 料理の素材は? 人間とか、仲間とか……?


 「ふふっ……ふふふふ……」


 顔が、自然とゆるんでいた。楽しい。自分の世界を、少しずつ育てていく感覚。これはただの夢なんかじゃない。ちゃんと“生きてる”世界だ。


 「お前と一緒に、いろいろやっていこうな……!」


 ミニレッサースライムがまた、ぴょんと跳ねて答える。


 草原の空は、今日も晴れている。

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