24話 ケンイチワールド:異世界ユーランドの扉出現
今日の朝、目を覚ました瞬間から、ずっと胸がそわそわしていた。
なぜなら――
「MPが、ついに……11!」
そう。ついに、あの“扉”を召喚する準備が整ったのだ。
異世界ユーランドへの扉。これまで女神ユリ様と約束し、目指してきた第一歩。
必要なMP10を超えて、ようやく条件を満たした。
けれど、その扉がどんなものなのか――
僕はまだ、なにも知らない。
「うーん……サイズとか、どれくらいなんだろう」
「ずっと開いたままなのかな?」
「……向こうから勝手に誰か来ちゃったりしたら、ヤバくない?」
一度気になりだすと止まらない。
こんな時は、頼りになるあの方に聞くしかない。
――スキル発動。
「精霊・神霊交信」
空に意識を向け、心を澄ませると……。
『……あ。やっと呼んでくれたのね、ケンイチくん』
ふんわりと柔らかく、でもどこか拗ねたような声が響いた。
『もう、全然呼んでくれないんだもん。寂しかったんだから』
「ご、ごめんなさい! いや、本当に! 忙しかったっていうか、なんていうか……!」
慌てて謝る僕に、女神ユリ様はふふっと笑う。
『冗談よ。ふふ、でも……ちょっとだけ本当だったかも?』
女神様は相変わらずだ。
心配もするけど、優しくて、ちょっと意地悪。だけどやっぱり、頼もしい。
『それで? 異世界ユーランドへの扉について、でしょ?』
「はい。いよいよMPが溜まったので、詳細を知っておきたくて……!」
『うん、わかったわ。ちゃんと説明するから、よく聞いてね』
「はい、お願いします」
『まずね、この扉を召喚するにはMPが10必要なの。
今のケンイチくんなら、もう十分に足りてるわね。』
「そうですね。ずっとこのために頑張ってきましたから……!」
『ふふ、よく頑張ったわ。さて、召喚された扉だけど、普段は直径30センチくらいの透明な水晶玉の形をしているの』
「えっ、水晶玉? じゃあ、扉っていうより……丸い宝石みたいな感じですか?」
『そう。扉って言っても、ずっと開きっぱなしじゃないのよ。
ケンイチくんたち、つまりケンイチワールドの者が水晶玉に触れると、そこからホログラムのような光の扉が出現するの』
「なるほど……。じゃあ、僕やぷるんたちが触れば開くってことですね」
『そういうこと。でね、扉が出現してる間は、ユーランド側の存在もそれを認識できるし、通ることができるのよ。』
「……ってことは、扉を開けっぱなしにしてたら、向こうの誰かがこっちに来ちゃう可能性も?」
『正解。だから大事なのは、通ったあとは水晶玉にもう一度触れて、扉を閉じること。
閉じれば、もう向こうの者には扉は見えないし、触ることもできなくなるから安心して。』
「なるほど……水晶玉の状態なら完全に非表示モードって感じですね」
『うん、いい例えね。それから、今回の扉の行き先だけど――『捨てられの森』に設定してあるわ。』
「……えっ、捨てられ……? なんか怖い名前ですね、それ」
『ふふ、そうよね。でも名前に惑わされちゃだめ。
この場所、実は人の手があまり入ってなくて、自然環境がすごく豊かなの。
だから、ケンイチワールドの魔物たちが安心して暮らせる場所として、ちょうど良いのよ』
「なるほど……。でも、なんでそんな名前が?」
『それがね、あの森には人間に対して好戦的な魔物が多くて、下手に人間が入ると命が危ないの。
昔から人が森に入ると消える、つまり“殺される”ってことで、
注意喚起の意味も込めて『捨てられの森』って呼ばれるようになったのよ。』
「怖い……でも、そういう背景があるんですね。僕たち魔物側には安全だけど、人間が行くと危険、ってことか」
『その通り。魔物が動く分にはそこまで危険じゃないから、今のあなたたちにはぴったりのスタート地点よ。』
「分かりました。ちゃんと注意します。あと……この扉、壊れたりしないですよね?」
『もちろんよ。この扉は、私――女神ユリの神力で作られたもの。絶対に壊れないし、劣化もしないわ。』
「よかった……それなら安心して使えますね!」
『ふふ。それとね、もしももっと強くなったら、新しい行き先の水晶玉を召喚することもできるわよ。
そうやって、少しずつ世界を広げていくの』
「えっ……! それって、他の場所にも行けるってことですか?」
『もちろん。行き先もどんどん増えるわ。
でもそれは、ケンイチくんがもっともっと成長してからね』
「はい、絶対に強くなってみせます!」
『ふふ、楽しみにしてるわよ、ケンイチくん。』
⸻
そして、僕は準備を整え、何もない広場へと向かった。
ここなら周りに誰もいないし、扉を出しても邪魔にならない。
静かに目を閉じ、深呼吸。
この瞬間を、僕は何度も夢見てきた。
「……MP10、使用」
「召喚:異世界ユーランドへの扉(MP10使用)」
――ゴォォ……ン……
空間が静かに歪み、ゆらゆらとした光が一点に集まる。
やがてそこに現れたのは、まんまるの、水晶玉だった。
直径約30センチ。透明度が高く、内部には淡い光がゆらめいている。
そして、すぐに僕は手を伸ばし――
「行こう。新しい世界へ」
水晶玉に触れた。
すると、ぱあっと光が溢れ出し、まるでホログラムのような“扉”が現れた。
淡い青緑の光をまとい、まっすぐに立つその扉は、優しく風に揺れているようだった。
「……うわぁ……」
僕の隣で、ぷるんがぴょこぴょこ跳ねて喜び、花モグラが鼻をヒクヒクさせながら光を見上げている。
レッサー働きアントたちは、いつのまにか列を作って待っていた。
「これが……異世界ユーランドへの、扉……!」
⸻
■鑑定:異世界ユーランドへの扉(水晶玉状態)
名前:異世界ユーランドへの扉(捨てられの森)
レア度:ユニーク
サイズ:直径30cm(通常時)
特徴:触れることで、ホログラム状の扉が現れる。
効果:
・扉を通ることで、異世界ユーランドの「捨てられの森」へ転移可能。
・通常時は水晶玉状態。使用時にのみ扉が出現する。
・ケンイチワールドの存在が触れると起動し、ユーランドの存在にも可視化・通過可能となる。
・使用後は再び水晶玉に触れて閉じる必要あり。
・水晶玉状態では、ユーランドの存在は視認も接触もできない。
・女神ユリ様の力により、破壊・劣化なし。
⸻
「……ありがとう、ユリ様」
呟いたその時、不意にまた声が響く。
『ふふ。ちゃんと無事、召喚できたみたいね』
「はい。すごく綺麗で……感動してます」
『そう。じゃあ、しっかり使いなさい。扉の向こうには、きっとあなたの世界が広がってるわ』
「はい!」
そうして、僕は初めての異世界へと、第一歩を踏み出すのだった――
いよいよ異世界に行きます。
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