2話 だるさの原因
「こっちへ来て。全部、教えてあげる」
その言葉に導かれるように、僕はユリの後を追った。霧の向こうに進むたび、草原の景色が少しずつ鮮やかに、濃くなっていくのがわかった。風の音が強くなり、空には光が差し込んでくる。まるで、この世界が目覚め始めたみたいに。
「ここは、あなたの“心の世界”――現実と、異世界ユーランドのはざまにある場所なの」
「……僕の、心?」
「うん。あなたの魂には、ユーランドとの強い親和性がある。だからここまで来られたのよ」
僕は何も言えなかった。ただ、彼女の言葉を受け止めることで精一杯だった。
ユリは足を止め、こちらを向いた。真剣な瞳で、僕を見つめる。
「あなたが、ずっと身体が重くて苦しかったのは、現実世界に魔力がないから。魔力を持つあなたの魂は、あの世界では常に“魔力不足”の状態にあるの」
「……魔力……?」
信じられない言葉だった。でも、どこか納得できる自分がいた。原因不明だと言われ続けた体調不良。医学では説明できなかったこの身体の重さ。その答えが、ここにあるような気がして。
「ここを通じて、ユーランドの魔力が、あなたの中に少しずつ流れ込んでいく。そうすれば、あなたは現実でも元気になれる。体も、心も」
「それって……僕は、治るってこと?」
「ええ。でもそれだけじゃないの。あなたは、ユーランドの未来を変える鍵でもあるの」
そう言って、ユリは空を見上げた。遠く、空の彼方に、うっすらと浮かぶもうひとつの世界。まるで絵のように、城や森、空を飛ぶ何かの影が見えた。
「ユーランドは今、停滞しているの。進化も成長も止まってしまった世界。だけど、あなたのように、異なる価値観と意志を持つ魂が交わることで、世界は動き出す。あなたの力が、必要なの」
「僕に、そんな力があるの?」
「あるわ。でも、いきなり向こうに転移させるわけにはいかない。完全に移るには、身体も魂も作り直さないといけないし、それではあなたが“あなた”じゃなくなってしまうから」
……つまり、今の僕のままじゃ行けない。でも、少しずつ、力を育てれば――。
「この草原は、あなたの心。そして、魔力の流れる通路。あなたの力が強くなれば、この世界も広がって、ユーランドとの行き来ができるようになる。モンスターや植物が現れたり、異世界の現象がここで起きたりもする」
ユリは、優しく微笑んだ。
「少しずつでいいの。まずは、魔力を溜めて。心の世界を育てて。そして、いつか本当に――あなた自身の意思で、ユーランドに来て」
気がつくと、僕の身体の奥底に、小さくあたたかな光が灯っていた。まるで、息を吹き返したみたいに。
そのときだった。
――ピピッ。
「……ケンイチくん、起きて。朝の検温の時間よ」
僕は、ベッドの上で目を覚ました。
あれは、夢だったのか? でも、胸の奥には、確かにあの温もりが残っていた。
身体が……少し、軽い。
夢じゃない。何かが、始まってる。
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