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前座と処刑

「処刑の前に一つ前座としてゲームをしましょうか。」

「ゲーム……?」

 いやな予感しかせず、自然と声がこわばる。空気がひりついた。

「そんなに警戒しないでください。簡単なゲームですから、何の犠牲も出さずにクリアできるかもしれませんよ。」

 そういうドゥの顔は相変わらず笑顔のままだ。何一つ、信用ができない。

「今から何人かに簡単な質問を一つずつします。イエスかノーかで答えていただければ結構です。正解ならなんのペナルティもありませんが、間違っていればソウルゲージの数値を5、削らせていただきます。」

 死ぬわけではないが、間違えていたら『あれ』をもう一度受けなくてはならないようだ。先程の休憩のおかげで、ソウルゲージは76.8まで回復している。それでももうあんな思いはしたくない。

何人か、ということは選ばれない可能性もある。本当に簡単な質問なら問題ないが、選ばれないに越したことはないだろう。

「ルールは簡単ですから、確認は必要ありませんよね?解答者は鳥井さま、佐久間さま、高宮さまの御三方です。どうぞこちらへ。」

 ドゥの合図で、前に三つの証言台が出現する。

 自分が選ばれたことに若干不安を感じた。花梨さんも佐久間さんも驚いたような、怖がっているような表情をしている。だがあれはお願いではなく命令なのだ。行かなくてはならない。

 覚悟を決めて立つと、マリアちゃんが心配そうな顔で手を握ってくれた。

「大丈夫だよ。」

 マリアちゃんに言ったのか、それとも自分に言い聞かせたのか、自分自身でさえ分からなかったが、マリアちゃんのおかげで少なからず落ち着くことができた。

 座っていた席の関係で自然と花梨さんが左側、佐久間さんが真ん中、私が右側の証言台に立つ。

「では始めましょうか。まずは鳥井さまからですね。」

 花梨さんが立っていた証言台が照らされる。

「あなたは犬飼真人のことが好き。イエス・オア・ノー?」

 一瞬にして空気がざわつく。花梨さんは青ざめ、犬飼先生も眉を潜める。

「ふざけんな!どういう意味だよそれ!?」

 竜貴さんがドゥに向かって怒鳴る。当然だろう。付き合っている人が目の前の別の男のことを好きかどうか聞かれたのだ。

「そのままの意味ですよ?それに貴方には発言権はありません。黙っていてください。さぁ、鳥井さま、アンサーをどうぞ?」

 かすかに震えたまま、口を開いたり閉じたりしている。何かを言いたいけれど、言えないような、そんな様子で。

「……たしかに、中学生の時は好きでした。でも卒業式のあとに振られてからはもう諦めています。今はこうして竜貴にも出会えたし……でもこんなところで再会するだなんて……」

「ふむ。求めていた答えとは違いますが、まぁ良いでしょう。」

 花梨さんを照らしていたライトが消え、今度は佐久間さんを照らす。

「お次は佐久間さまですね。貴方は長期に渡り詐欺に加担して、大金を得ていた。イエス・オア・ノー?」

 今度は更にざわつきが大きくなる。佐久間さんの顔も花梨さんより真っ青になっていた。むしろ青色を通り越して真っ白だ。わなわなと震えている。

 だから桐生さんとの会話を早々に切り上げ、目を合わせようとしなかったのだろう。

「……イエス、です。俺は詐欺だとわかっていて受け子をやっていました。」

「――あぁ、思い出した。キミ、この前特殊詐欺の受け子容疑出てなかった?たしか証拠がなくて捜査断念したって聞いた気がするけど。」

「ええ、一度つかまりかけました。が、証拠不十分で逮捕には至らなかったようで……許されることではないのは重々承知の上です。でも、それでも俺には金が必要なんです。育ててくれた祖母の病気を治すのにお金がなくて……会社はリストラされるわ、仕事は見つからないわ、生活保護は受けられないわで、頭の悪い俺に選べる選択肢なんて犯罪しか見つからなかったんです。」

「それで他人が同じような状況に陥ったとしても?」

「……はい。俺は俺の祖母以外を切り捨てました。そんなことは最初のころにさんざん悩みましたよ。でもみんなそうでしょう!?赤の他人よりも自分の大切な人を優先させるに決まっているじゃないですか!!俺は、俺が守りたいものを守るために他人を思いやることなんてできなかった。……ここで死んでも文句は言えませんね。もうすぐ、だったんですけどね……お金貯まるの。」

 自らを嘲るように笑い、力なくうつむいた。ただ、佐久間さんの考えも理解できてしまった。自分の大切な人を守るためにその人以外を切り捨てる。その中には佐久間さん自身も入っているはずで。

 佐久間さんの着ている服はくたびれていて、贅沢をしているようには見えない。本当に、おばあさんのためにお金を貯めていたのだろう。

 犯罪なのは分かっているが、大切な人を助けるために手段を選ばないのは本当に悪なのだろうか。

「まぁあなたが死ぬことが決まったわけではありません。生き残った暁には主様に病気を治してほしいと願ったらどうです?お金もかかりませんし幸せに暮らせることでしょう。では最後に高宮さまですね。」

 佐久間さんを照らしていたライトが消え、今度は私を照らす。逆光でドゥの顔が見えづらくなる。変わらず笑っているのだろうけど。


「高宮さま、あなたは人を殺したことがある。イエス・オア・ノー?」


 あぁ、やはり、それなのか。

 不思議と冷静な自分が居た。心のどこかでそれを聞かれるような気がしていた。これは私たちを晒上げているのだ。みんなの前で、知られたくなかったことをさらされている。佐久間さんのあとが私の番なのならこれ以上の秘密はない。

「……そうだよ。私は人を殺したことがある。正確には私のせいで死んだ、だけど。私が殺したようなもの。だから答えはイエス。」

「違う!!あれは!あれは美桜ちゃんのせいじゃないでしょう!?なんで美桜ちゃんも認めてるの!?おかしいでしょう、絶対に!!まだそんなこと考えてたの!?悪いのはあの人でしょ!!?」

 私が言い切った瞬間、マリアちゃんが声を荒げる。私よりも怒っていた。マリアちゃんがそこまで怒る必要はないのに。

「あの人が勝手に死んだだけじゃん!私のことをいじめてきて、美桜ちゃんが、みんなが味方になったとたん逃げるように自殺した。それのどこが美桜ちゃんのせいなの!?美桜ちゃんが守ってくれなかったら私が自殺してた可能性だってあるのに?」

 違う。あの人は自業自得だと思う。言い方は悪いが罪も償わずに逃げた卑怯者だとすら思った時期があったほどに。

 でも『それ』じゃないんだ。マリアちゃんも知らないこと。あの人以上に私が原因で死んだ人がいるのだ。

「違う……違うんだよマリアちゃん……マリアちゃんにも、まだ言ってないことがあるの……」

「それでも美桜ちゃんが殺したことになるのはおかしいよ。絶対に。美桜ちゃんが悪いわけない。」

 マリアちゃんの目が、まっすぐ見つめてくる。でも、私はマリアちゃんの目を見れなかった。

 だって、怖かったから。マリアちゃんに言われなくても分かっている。分かってはいるのだ。私は悪くない。悪いのは犯人だ。あの人たちを殺した、犯人なのだ。

 でも、それでも。心のどこかで私のせいだと思ってしまうのだ。だって、私があんなことをしなければ、あの人たちは死ななかったのだ。

 だから、私のせいでもある。犯人は無差別のようだった。誰でも良かったのなら、本当に無差別だったのならあの人たちが選ばれたのは私のせいだ。私が、殺したのだ。

「はいはい、話し合いはあとで行ってくださいね。所詮これは前座なのですから。御三方とも正解とします。席に戻っていいですよ。」

 戻っていいですよ、と言ってはいるものの、早く戻れと言われているような圧を感じた。先程のことで混乱していたが、私たちは所詮前座に過ぎないのだ。本命は、霧花さんと茜さんの処刑だ。

 さっきまでざわついていた空気が、張り詰めたものに変わる。嘘でも冗談でもなんでもない。今から目の前で二人が殺されるのだ。

「では移動しましょうか。」

 ドゥが毎度の如く指を鳴らすと椅子ごと霧花さんと茜さんが消えた。それと同時に大きなモニターが現れた。モニターは真っ暗で何も映っていない。しばらく待っていると急に明るくなった。

 画面にはギロチン台に乗せられた二人の姿が映っていた。もちろん頭上には大きなギロチンが付いていて、ギロチンにつながれているロープが切れてしまえば、二人の首を容赦なく切断することだろう。

「は~い、皆さん見えていますね。それではこれから本城さま、入澤さまの処刑を開始します。」

 ギロチンをつなぎとめているロープの下に炎が現れた。じわじわと少しづつロープを焼いていく。

「どうです?今のお気持ちは。何か最後に言葉でも残しておくのはどうでしょう?」

「……参ったわね。今までずっと生きていても楽しいことなど何もないと思っていたのに。ここにきて、茜さんや美桜ちゃんたちのおかげで、少しだけ楽しかったわ。美桜ちゃんが人殺しかなんて私には分からないけれど、真相なんてどうでもいいと思うの。ただただ楽しかったわ。出会ったのがこんなところじゃなかったらもっとお話ししていたかったのに。」

「私も、楽しかったです。とても。皆さんのおかげで最後にいい思い出ができました。漫画家にはなれなかったけど、あの人たちの思い通りにならなかっただけ、私は満足です。……ごめんね、霧花ちゃん。私と死なせてしまって。本当に、ごめ――」

 ギロチンの落ちる音が轟いた。ロープが、焼き切れたのだ。二人の首が、同時に落ちる。が、地面につく直前に画面が暗転し、ドゥが戻ってきた。画質がそこまで良くなかったおかげで、断面までは見えることはなかったが、確実に二人とも、死んでしまった。

 胃から何かがせりあがる感覚がした。口の中が、酸っぱい。胃液だ。ミニに魔法をかけてもらったおかげ、といっては何だが、魔法のおかげで食べ物が上がってくることはなかった。吐き出すわけにいかないので半ば反射で飲み込んだ。胃液を飲み込んでも不快感はまとわりついて消えない。

「お待たせしました。では次のフロアへお進みください。」

 私たちの顔色など気にも留めずにそう淡々と言ってのけた。反抗する気など起きなかったが、動く気も起きない。

「動かなくて大丈夫ですよ。勝手に転送しますので。ではご武運を。せいぜい足掻いてくださいね。」

 また視界がぐにゃりと曲がる。テレポートだ。最後に見えたドゥの顔は、目を開いて嗤っていたような気がした。




「我を呼んだか、人間よ。」

「あんたが悪魔!?」

「あぁ、お前の願いを叶えてやろう。」

「この子を……お腹の赤ちゃんの顔をかわいくしてほしいの!!」

「ほう?産まれてもいない赤子の顔を、か?」

「私、整形してるんだけど、旦那に言ってなくて……バレる前にこの子の顔を、今の私くらい……ううん、私以上にかわいくして!!旦那にバレないように、誰もがほめたたえるようなかわいい子に!」

「……代償はどうする気だ。お前が魂を譲渡するとは到底思えんが。魂の貢ができるのは血縁者だけだぞ?」

「血縁者なんて私を蔑ろにしてきたあいつらだけ。あんな奴ら死んでも構わない。むしろあいつらまで消えてくれるならせいせいするわ。」

「……そうか。お前の願い、確かに聞き入れた。代償はしばらく待つことにしよう。」

「ありがとう!あいつらならいつ死んでもいいからよろしくね。とびきりかわいい子にしてね。私がなりたかったモデルになれるくらいに。」

「あぁ、楽しみにしておけ。」




「我を呼んだのは貴様らか。」

「嘘!?ほんとに出てきた!?」

「ガチじゃねぇか、すげぇ!!」

「願いはなんだ。」

「金だ金!!金をよこせ!」

「一生遊んで暮らせるくらいのお金をちょうだい!!」

「ほう、これはまたよくある願いだな。」

「茜のやつ、今まで育ててきてやった恩を忘れて出ていきやがった。おかげで俺らは食うのにも困ってる。」

「あの子が漫画家になるなんて馬鹿な事言ってないでちゃんと就職していればこんなうさんくさい悪魔になんて頼らずに済んだのに。」

「……なるほどな。ちなみに代償はどうする気だ。」

「そんなの恩知らずの茜で十分だろ。」

「そうね。あの子ならいなくなっても誰も困らないでしょう。あの子を生贄に。」

「……そうか、お前たちの願い、確かに聞き入れた。」

「すげぇ金の雨だ!!」

「これで大金持ちよ!あの子も最後くらい役に立ってくれるものね。」

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