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プロローグ

「美桜ちゃん?次の曲入れ忘れてるよ?」

 カタンッと小さく響いた金属音で我に返る。マリアちゃんがマイクを置いた音だった。顔を上げると、アリアちゃんが心配そうな顔でこちらを見ていた。

 急いで心配させてしまったことを謝り、デンモクを手に取る。

「……美桜ちゃん、もう一曲歌ったら帰ろっか。もう暗くなってきてるはずだし。」

 気を使わせてしまったことを申し訳なく思い、せめて二人で歌おうと某映画のデュエット曲を予約した。すぐにMVとイントロが流れ始める。


 今日は進学先の合格発表日だった。 国内でも有数と言われている財閥が運営している進学校で、幼稚園から大学まで一貫の柏桜学院。中学校までは別の私立に通っていたが、二人揃って受験、合格したのである。そのまま久しぶりのカラオケにきていた。家に帰れば藍原一家と共に食事会の予定だ。 

 マリアちゃんは家族ぐるみで仲のいい幼馴染だ。十年前、私たちがマリアちゃんたちの近所に引っ越してから幼稚園、小学校、中学校までずっと一緒にいる。そのうえ高校まで二人で入学できるとなって、まだ二人で学校に通えるということが正直、柏桜学院……柏学に合格したことよりも嬉しかった。

 一緒に登下校して寄り道していっぱい遊んで青春する。これからも、二人で一緒に。


「やっぱりこの曲、二人で歌うと楽しいね。」

 最後の一曲はあっという間に曲が終わった。帰り支度をしてカラオケをあとにする。

 外に出るとやはりもう暗くなっていた。顔に冷たい風が当たり、二人で身震いをした。

「寒いね……。今日はタクシーで帰ろっか。」

 たまたま近くにいたタクシーを呼び止めて乗り込んだ。じんわりと暖かい空気の膜に包まれる。家の近くの建物を告げると静かに走り出した。カラオケから家まで約十五分程かかる。

 タクシーの振動と暖かい空気のせいか、だんだんと瞼が重くなってきてしまった。横目で見ると、マリアちゃんも眠そうにしている。というかもうほとんど目が開いていない。

「お客さん、ついたら起こしますので眠ちゃって大丈夫ですよ。」

 女性の運転手さんが優しく言ってくれたのもあり、私たちはそのまま意識を手放した。



 ――――お――い――きろ――いおき――おい起きろ!!」

 誰かが起こそうとしている。まだ眠いけど――

「……まりあちゃん……?」

「まりあっていうのはそこの女の子のことかな?」

 半分寝ぼけながら目を開けると、そこにいたのはマリアちゃんじゃなかった。目の前に高校生くらいの人と、少し後ろに小学生くらいの子。どちらも知らない人だ。

 寝起きの頭でなにが起きているのか、把握ができない。私はさっきまでマリアちゃんとタクシーに乗って家に帰ろうとしていたはず……

「そうだマリアちゃん!マリアちゃんは……」

「金髪の子ならそこで寝てるよ。」

 高校生くらいの人が私の横を指さす。

「マリアちゃん!?」

 横を見るとマリアちゃんが横たわっていた。慌てて抱き寄せて揺さぶって声をかけた。

 幸いマリアちゃんはすぐに目を覚ました。私と同じく、ただ眠らされているだけだったようだ。お互いけがも無いようだし、ひとまず状況の確認をすることにした。

「あなたたちは……いや、あなたたちも連れ去られてきたんですか?ここはいったい……」

「わからない。ボクたちも連れ去られてきて、さっき起きたばかりなんだ。キミたち動けるかい?動けそうならみんなのところへ行こう。」

「みんな?」

 二人の背中に隠れていて気が付かなかったが、後ろを見てみると、少し離れたところで何人かが会話していた。どうやら他の人たちも連れ去られてきたようだ。私とマリアちゃんを合わせて十二人が集められていた。小学生くらいの子から二十代くらいの男女まで、一見すると共通点は見つからなかった。

 ただ一つ。ここに連れ去られたときにつけられたであろう首輪が全員の首に光っていること以外は。自分の首に手を当てると、ヒンヤリとした硬い首輪がつけられていた。この息苦しさは精神的なものだけではなかったようだ。

 とりあえずずっとここで座っているわけにもいかないので、マリアちゃんたちとともに皆のもとへ移動することにする。

 無意識に握ったマリアちゃんの手が震えていた。いや、マリアちゃんだけではない。私の手も震えている。当然だ。こんなところにいきなり連れてこられて、平気なわけがない。マリアちゃんがいなかったらと思うとゾッとする。

 一人じゃなくて本当に良かった。そう思うと同時に、先ほどの小学生くらいの子のことが気になった。猫耳のフードを深くかぶっていて性別すらわからなかったが、おそらく一人でここに連れてこられたのだろう。誰に対しても一定の距離を保っているように見えた。他の人たちも気にしてはいるようだが、どうすればいいのか分からなさそうだった。

「……ねぇ、キミ――」

「おはようございます。」

 その子に声をかけた瞬間。耳元で女性の声がした。反射的に前へ踏み込み、その足を軸にして振り返りつつ数歩後ろに下がる。

 私の後ろは壁で、誰もいなかった。扉などもなかったのでいきなり現れたとしか思えない。

 ニコニコと考えがわからない笑みを浮かべている女性だった。ダークシルバーの髪を上品にまとめており、シンプルな黒のワンピースに黒のブーツを履いている。そして、首輪をしていない。

「あんた……僕たちをここに攫ってきた犯人か?何が目的だ。」

「犯人、というと少し違いますね。連れてきた者を犯人とするのであれば、ワタクシは犯人の部下といったところでしょうか。皆様を招待した理由は主様からのメッセージをお聞きください。」

 そう言いながら宝石のようなものを掌に乗せた。何かが振動するような音がして映像が空中に浮かぶ。映画でよくある王座の椅子に腰かけた人物が映っている。下半身のみしか見えないが、子供のように見えた。

『生贄候補の諸君、はじめまして。いきなりだが、キミたちにはこれからデスゲームをしてもらう。デスゲームが終わるのは候補者が一人になったときだけ。死んだ者の魂は僕の贄になる。生き残った者には一つだけ願いを叶えてやろう。せいぜい足掻いてくれ。では健闘を祈る。』

 再び何かが振動するような音がして映像が途絶えた。

「……は?」

 誰かの口から吐息にも思えるような声が零れ落ちた。

 生贄。デスゲーム。魂。意味は分かるが理解ができない単語が反芻される。

「どういう、こと……?意味が、分からない。デスゲームとか生贄とか……というか、その映像を映してた石みたいなの、今の技術力でできるものじゃないよね?この首輪もそう。これなんなの?」

「ふむ……まぁ当然の疑問ですよね。皆様最初はそういう反応をされます。ご安心ください。言葉足らずな主様の代わりにワタクシが説明させていただきます。……――ですがその前に。どうです?生贄候補同士、自己紹介でも。」

 変わらずニコニコとしながら、淡々と述べる。確かにこの混乱したまま説明されても、さらに混乱するとしか思えなかった。一旦落ち着く時間を得るためにも、少しでも情報を得るためにも、自己紹介は聞いておきたかった。

「皆様賛成のようですね。ではどうぞごゆるりと。」

 女性がそういった瞬間、音もなく円形のテーブルとデスクチェアが現れた。全員で恐る恐る座る。女性もいつの間にか近くで英国風のアンティークチェアに座っていた。

 終わるまでは関わる気は無いと言わんばかりに微動だにしない。

 誰も何も発せずにいると、私の右斜め前に居る銀髪でアイスブルーの瞳をした男性が、口を開いた。

「……仕方ない。ずっと黙っていても進展しなさそうだ。ここは僕たち大人が手本にならなきゃね。」



~一人目、古谷桐生~


「僕の名前はコタニキリュウ。職業は警察官で、今年二十八歳。多分この中じゃ一番年上かな。呼び方はなんでもいいよ。よろしく、でいいのかな。――じゃあ次アンタね。」


 桐生さんが右隣にいる男性に視線を向ける。

「えっ、僕ですか。」

「年齢順だよ。次アンタだろ?」

「まぁそうですけど……よくわかりましたね?」

 警戒しているのか、いぶかしげな眼で桐生さんを見つめ返す。それに対して桐生さんは何も気にしていないようだ。にこりと笑ってあっけらかんとしていた。

「僕の特技。職業柄、結構役に立つんだよ。」

 男性はそうですか、と言いつつ若干警戒を解いた様子で立ち上がった。



~二人目、犬飼真人~


「僕はイヌカイマコトといいます。中学で数学教師をしています。二十七歳です。僕も呼び方はなんでも大丈夫です。学校じゃありませんしね。よろしくお願いします。」


 犬飼先生は会釈して椅子に座りなおした。確かに言われてみれば、雰囲気が学校の先生たちに共通するものがあるように思えた。

「じゃあ次は俺ですかね。」

 私と犬飼先生の間に座っていた人が、そう言いながら立つ。



~三人目、嶋倉翼~


「俺はシマクラタスク。翼と書いてたすく、です。歳は二十五歳で、職業は……まぁ、いわゆるゲーム実況者、ってやつですかね。よろしくお願いします。」


 ゲーム実況者、か。確かマリアちゃんはゲーム実況好きだったはず。

 そう思って横目でマリアちゃんを見ると、目を見開いて驚愕の表情を浮かべている。もっと言うといきなり推しに出会ったオタクの顔だ。ということは――

「ツバサさんだぁ……」

「俺のこと知ってくれてるんだ?うれしいなぁ。」

「大ファンです!!初期からずっと見てます!こんな状況じゃなかったらサインほしいくらいです。」

 完全にいつものマリアちゃんだ。リラックスできたようで安心したにはしたけど、これでいいのだろうか。まぁ緊張するよりかはいいか。

 あとで時間があったらゆっくり話そうと、二人が約束したところで自己紹介は次の人へとまわった。

「次は俺……ですかね。」

 今度は私の二つ右に座る男性だ。髪はよくあるダークブラウンだが、メガネのレンズから見える瞳のセルリアンブルーがとても綺麗だった。



~四人目、佐久間陵~


「俺はサクマリョウといいます。俺も二十五歳で、えっと……失業者といいますか……就活中です。よろしくお願いします。」


 佐久間さんは伏し目がちに少し早口で言って座る。別に失業者だろうと後ろめたいことではないと思うのだが……

「ねぇ、キミ。僕たちどこかであったことある?なーんか見たことあるような気がするんだけど、思い出せないんだよね。」

 桐生さんの眼が光ったように見えた。まるでアニメで見るような、取り調べ中の刑事さんのようだ。

 ただその表情を見て、なぜか私も桐生さんとどこかで会ったことがあるような気がした。全く思い出せないので気のせいだろう。

「……気のせいじゃないですか……?あいにく俺の知り合いに警察官はいないので……」

「……そっか。変なこと言ってごめん。――次は、キミかな。どうぞ。」

 


~五人目、入澤茜~

「わ、私は、イリサワ、アカネです……。二十三歳で、漫画家のアシスタントを、やらせていただいてます。……よろしくお願いします。」


 佐久間さんとは真逆にゆっくりと言い終えて座った茜さんは、名前のとおり綺麗な茜色をした髪の先を指でいじっていた。おそらく落ち着かせるために無意識にやっているのだろう。身体も少し震えているように見えた。

「次は私ね。」

 茜さんの右に座っていた女性が立つ。



~六人目、本城霧花~


「私はホンジョウキリカといいます。職業はモデルをやらせていただいていて、二十二歳です。よろしくお願いします。」


 知ってる。この人だけは名前を聞く前から分かっていた。ここ最近話題のモデル。演技までできるモデルだとネットで騒がれていた。やはり何人かは知っているようで、かすかにやっぱりという声が聞こえた。

「次の方、どうぞ。」

 聞こえているのかいないのか、霧花さんは次へ促す。

「じゃあ次は俺たちだな。」

 翼さんと犬飼先生に挟まれた男女二人が立つ。



 ~七人目、猿渡竜貴~


「俺はサルワタリタツキ。今年十九歳で、今は大学に通ってます。よろしくお願いします。」


 

~八人目、鳥井花梨~


「私はトリイカリンです。竜貴と同い年で、学部は違うけど大学も同じです。よろしくお願いします。」


 二人は同時にお辞儀をして座った。何も言わなかったが、恋人同士なのだろう。おそろいのマフラーを巻いていた。

「んじゃ次はボクだね。」



~九人目、柏木柏~


「ボクの名前はカシワギハク。カシワもハクも同じ漢字だよ。高校二年生です。よろしく。」


 さっき私を起こしてくれた人だった。制服は着ておらず、私服を着て、短い髪をハーフアップにしている。パッと見は綺麗な男性のように見えるが、声は中性的だ。じっと見ていたせいか、柏木さんと目があった。

「もしかしてどっちか悩んでる?こう見えて女なんだ。ごめんね。」

 かすかに笑ってそういった。ほとんどの人が気づいていなかったようで、みんな驚愕の表情を浮かべている。ただ一人、桐生さんだけは気づいていたようで、微動だにしなかった。

「こちらこそじろじろ見てしまってすみません……」

 私は立ってお辞儀をした。次は私たちの番だったのでそのまま自己紹介に入る。



~十人目、高宮美桜~


「私はタカミヤミオです。中学三年生で……えっと、アニメと運動が好きです。よろしくお願いします。」


 もう一度お辞儀をして今度は着席する。少し短かったので好きなものを付け加えたが、クラス替え後の自己紹介のようになってしまった。だが他に言うこともないし、受験や就職の面接試験ではないからいいか、と自分を納得させた。

 次はマリアちゃんの番だ。



~十一人目、藍原マリア~


「私の名前はアイハラマリアです。美桜ちゃんと同い年、同じ学校です。えっと、母がイギリス人なので日英のハーフ、です。よろしくお願いします。」


 マリアちゃんもお辞儀をして座る。お辞儀の勢いで高い位置で結ばれた金髪が揺れた。

 少し間をあけて、面倒くさそうに最後の子、フードを目深にかぶった小学生くらいの子が立つ。ゆっくりとフードを脱いだ。そこに居たのは小学生くらいの男の子だった。瞬間、間違いなく全員が目を見開いた。まるで炎のような綺麗な赤色の髪があらわになったのだ。そしてそれ以上に目を引かれたのは左右で色の違う瞳だった。右眼は髪と同じ赤で、左眼はこれもまた炎のようなオレンジ色だった。

 男の子は私たちの反応を分かっていたのか、気にかけずにそのまま続ける。



 ~十二人目、津摩焔~


「オレはツマホムラ。小六。よろしく。」


 短くそれだけ言って座る。自己紹介をするためだけにとったのだろう。先程のように顔が見えない程ではないものの、またフードをかぶってしまった。

 ひとまず全員の自己紹介が終わった。少し時間が経ったこともあり、みんなも幾分か落ち着いたようだ。

 今度はずっと身動きをしなかった女性が立った。

「これで皆様の自己紹介が終わりましたね。最後はワタクシの紹介をさせていただきます。皆様の案内人を務めます、ドゥクトゥスと申します。長いのでドゥと、そうお呼びください。それでは早速デスゲームの案内を開始させていただきます。」

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