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除霊

いっぱつヤリ処の壁を見ると「コンドーム、今度産む」という低俗な落書きがあった。流石は田舎に佇む廃墟のようなラブホテル。随分下世話なおもてなしだ。

「ふっ…」

余りにも低俗なもんで思わず笑ってしまった。

「霊媒師派遣サービスから来ましたー、穂波ですー」

俺が声をかけると、いっぱつヤリ処のボロい門扉は開かれた。

「あー!霊媒師さん!待ってたんですよぉ、さあさあ」

出てきたのは妙に小綺麗な顔をした男性だった、もっと小太りで髭と頭髪の量が逆のおじさんでも出てくるのかと思っていたので拍子抜けした。

「早速お邪魔しますね」

廃墟のような見た目だったが中身は割と普通のホテルだった、説明も無しに連れてこられたらここがラブホテルだとは分からないだろう。

だが、白い壁には寄せ書きのように大量の落書きがあった。

「…祝卒業」

俺は思わず壁にあった落書きを読んでしまった。

「卒アルの最後のページみたいですよね、どっちの卒業なんだって言う」

ここのオーナーであり霊媒師である俺に救いを求めた男・阿部公房は喉を震わせて笑いながら言った。

裏のスタッフルームに案内され、ついて行くとソファに座るよう促された。

「あっ、改めまして、穂波一誠です」

俺は霊媒師派遣サービスオンネン・ガ・オンネンと書かれた名刺を渡した。

「凄いですね、字のフォントまで拘ってるんや」

「なるべくおどろおどろしい感じで仕上げたんですよ」

「これ、俺の名刺です、阿部公房と申します。よろしくお願いしますね」

渡された名刺には、いっぱつヤリ処と書かれていた。正直何度も店名を疑ったが名刺にまで書かれていたらもう疑いようがない、俺はそれを有難く頂戴した。

「俺もいっぱつヤリ処の後ろにハートマークでも付けようかな」

「いいですね、ファンシーで…」

会話も程々に俺は立ち上がって窓を見つめた。

「ここの噂はちょくちょく聞いてたんですよ…なんかいました?ついさっき」

「分かるんですか?丁度さっき窓に女の人みたいなのがうつってて、でも開けたら誰もいなかったんですよ…」

「えぇ。凄い嫌な気が残ってます。早速除霊に入りましょうか、なるべく早い方がいいんで。」

俺はギターケースの中からバットを取り出した。

え?バット?と言いたげな顔のオーナーを軽く無視。そしてお気に入りの時計を外してケースにしまい、代わりにポケットから数珠を取りだし、腕につけて十字斬りをした。

「部屋をひとつお借りします、あと除霊中は中に入らないようにお願い致します」

「分かりました…」

オーナーから潮騒の間と書かれた鍵を受け取り、部屋に入った。部屋はこじんまりとしていていた。

布団が一つ置かれていて、ソファと冷蔵庫、空気清浄機と花瓶に浄水器、マッサージチェア。

確かにsexする為だけの部屋なんだなと思いながら除霊の準備を進めた。

BGMはお経や祝詞、ではなくばりばりのHIPHOP。俺の好きな曲。スマホが出せる最大音量で事に及んだ。

「うおぉぉぉぉぉおおおお!!」

俺は雄叫びと共にまずは1番目立つ空気清浄機に向かってバットを振り下ろした。

「らぁぁぁぁぁあ!!!!!」

空気清浄機ってこんなに硬いのか、何度も何度もバットを振ってやっと少しヒビが入った。

「硬っ!うぉおおおらあああああ!!」

すると、ドアを強くノックする音が聞こえた。

「穂波さん、大丈夫ですか!?」

「うおぉぉおおお!!」

大丈夫ってなんだ?これが除霊なのに。

「穂波さん!何が起きてるんですか!?」

俺は壁の落書きに気を取られながらも次々に物を壊した。

「うぉぉぉぉ!」

マッサージチェアってどこから壊したらいいんだ。

「え!?取り憑かれた?!」

するとオーナーが潮騒の間の扉を開けた、眉を顰め口をあんぐり開けた顔は滑稽で笑いそうになったが何とか堪えた。

「…何やってるんすか!」

「…え?」

「え?やなくて…取り憑かれたんですか!?」

オーナーは俺の肩を掴んで揺らした。まさか、嫌な予感がする。

「…穂波ですよ」

「…じゃあ、なんですかこれ」

「あれ、聞いてないんですか?」

俺はけたましく鳴り響くHIPHOPを止めて、

「これが俺のスタイルです。」

と、言った。




「じゃあ、空気清浄機が壊れてるのは霊の仕業でもなんでもなくて穂波さんのせいなんですね?」

「はい…」

俺はあの後大急ぎで会社に電話をした、そしてクライアントであるオーナーに俺の除霊の方法が正しく伝わっていなかったというミスが発覚した。

つまり、オーナーの中で俺は突然取り憑かれたように物を壊しはじめた様子のおかしい人、という訳だ。

「…すみません、上の伝達不足で」

「ほ、保証はどうなりますか…電気屋行って、除霊のせいで壊れたって言っても…ね…」

「保証のことはまた会社の者と話し合いますんで…」

「穂波さんを責めるつもりはありませんが、これはあまりにも酷いですよ…10万もしたのに…」

「申し訳ございません…」

俺はバットを持ったまま謝るのは良くないと気づき、壁に立掛けた。

「ほんとに申し訳ございませんでした」

「…お金でなんとかしろとは言いませんが…ただ誠意を見せて頂きたいんです」

「はい、もちろん除霊は無償で」

「穂波さん、うちでバイトとして働いてください。そしたら、今回の件は無かったことにしますから」

俺は自分の耳を疑った。何故かオーナーの大きな瞳には光が宿ってキラキラしている。

「…売買?人身?」

「そんな、反社じゃないんだから…まぁ、詳しい話は控え室で」

「ちょ、ちょっと待ってください」

俺はオーナーを追いかけた。

「さ、座って座って…。いいんですよ。10万した空気清浄機がボロボロになったとはいえ、バイトとして、穂波さんがここで働いてくれればチャラにしますから。」

「いえ、10万払いますよ…」

俺は座る訳にも行かず立ち上がったまま、ヤリ処でバイトは嫌だと遠回しにアピールした。

「10万なんて大金払う必要はないんです。1ヶ月ここでバイトしながら除霊してくれたらそれで済む話なんです」

「ですが、俺の除霊を求めている利用者さんもいらっしゃいますので…」

「なんだっけ、穂波さんの会社、ガオンネンネンネンでしたっけ」

「いえ、オンネン・ガ・オンネンです」

「オンネンさんに確認しますね」

オーナーは足早にスタッフルームから出ていった。

数分もしない内にキラキラとした笑顔で戻ってきた。

「許可は頂きました。これで、穂波さんは1ヶ月うちのバイトです。」

「…俺を売ったんですか?オンネンが?」

「そんな、人聞きが悪いですね。…てかもうバイトやから敬語いらんよね。よろしくね、穂波君」

ドスンとオーナーがソファに座った。

「ほら、座んな」

「一旦待ってください」

「いやー助かるわ、流石に俺1人でここの運営は厳しいしねー。」

「俺は良いと言ってないんですけど!」

「空気清浄機浄水器時計マッサージチェア花瓶」

「うっ」

「穂波さんが壊したあの部屋ね、ヤリ処唯一のスイートやったんよ」

もうyesと言わざるを得ない。口の形をNoにしながらYesと答えた。

「分かりました、バイト、します…」

「ありがとう!」

オーナーは俺の手を取り握手をしてきた。

「よーし。じゃまず軽くヤリ処の生い立ちでも話そっか?」

いや、大丈夫ですと言う訳にもいかず、とりあえず頷いた。

「ここは、俺の叔父がたてたラブホなんやけど」

オーナーは立ち上がって窓の向こうを指さした。

「見ての通り田んぼしかないやろ。娯楽もクソも無いんよ。そしたらやっぱり人はsexするしかないんよ。昔は少子化とは無縁の地域やってさ、もうそこら中でパンパンパン!」

パンパンパン!と力強く手を叩くその様はまるで権力者の演説のようだ。

「は、はぁ…」

「でもヤるとなったら実家か外しかなくてね。それで青姦が横行してて、流石に教育に悪いって思った俺の叔父が立ち上がって…あっ、変な意味やないよ。持ってた土地使ってヤリ処を建てたんよ」

「そ、そうですか…」

「でさぁ」

オーナーは大きな瞳を真っ直ぐにこちらに向けて歩み寄ってきた。思わず後ろにのけぞってしまった。

「…穂波君は、ラブホ行ったことある?」

「えっと、まぁ、人並みには…」

「そうなんや。じゃあ分かると思うけど、最近のラブホってちょっとしたテーマパークみたいやない?」

「そー、うですね…」

少し前の記憶を引っ張り出してみる、言われてみれば確かに様々なオプションがあってほとんどテーマパークのようだった。

「色々あるやん、コスプレグッズとか、泡出る風呂とかね、でもうちはそんなもん一切無い!」

「あ、無いんですね…」

「うん、ただヤる為だけの施設ってコンセプトやから、名前がいっぱつヤリ処なんよね。」

「ただ、ヤる為だけの施設…」

「そう、励んだら即出て行ってもらうんよ。ちなみにシャワーとかもないから。夏はキツいんやないかな。掃除する側は楽やけどね。」

「は、はぁ…」

「難しい事は何一つないから、安心して。1週間もしたらエプロン届くと思うから。」

「え、エプロン…」

「うん、ヤリ処のユニフォーム。本当はなーここ」

オーナーは自分が着ている紺色のTシャツを指さした。

「胸のちょい下にいっぱつヤリ処って入れたかったんやけどそれしたらプラス500円も取られるんよ。なんかアホらしいやろ」

「あ、あはは…」

「穂波さんは今日どっから来た?」

「東京の…方から」

「それやったら遠いな、うちの離れに下宿していいよ。明日荷物持っておいで」

「えっ…あ…いや、それはちょっと…」

「逃げようとか思わんでな!オンネンさんにチクるで!」

そして押し切られるように俺のヤリ処アルバイターとしての生活が始まってしまった。

これ映画にしたいんすよ

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