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天使突抜ッ! ~可憐な運び屋の危険な日常~  作者: JUNA
mission3: トーテム・フェーズ ~荷物に隠れた秘密の暴露~
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24, 警察からの条件

 そう言われ、西川刑事から無線を受け取ると、向こう側から聞きなれた声が聞こえてくる。

 

 「はい」

 『神崎か?』

 「そうです」

 『朝倉は、どうだ?』

 「無事に保護しました。 腕を縛られていましたが、軽傷です。

  例の秘密の暴露も、こっちで押さえまして、今、機捜に引き継ぎました」

 『栃尾は?』

 「逃がしました。

  逃走車は手配しているケンメリGT-Rと同一で、どこへ向かったかはわかりません」

 

 そこまで聞くと、鷹村はそうか、と難しそうな声色でうなった。

 こんな報告、県警本部から上がるだろうに、何故?


 「どうしたんです?」


 わざわざ無線で呼び出した理由は、このあと判明する。


 『ついさっき大阪府警から、犯人逮捕に関して、俺宛に指示が出た。

  連続殺人犯、栃尾滉一を殺さずに逮捕し、大阪府警へ突き出せ。

  昏睡状態にすること、重傷を負わすことも、同様に許さない。

  同じ轍を踏んだ時には、我々はその責任の全てを、京都府警 広域犯罪特捜課にあるとして、上層部に報告する。

  無論、特捜課長と犯罪集団の癒着に関する暴露も、だ』


 碧は耳を疑う。

 それは一種の脅迫だった。


 「そんな……じゃあ、栃尾が腕の骨一本でも折れば、私たち終わりってことですか!?」

 「そういうことだ」

 「そんな……」

 「君たちが、嘘をついた依頼主に制裁を加えるのは、私も知っているし、ある程度黙認しているところもある。

  私が止めずとも、この後すぐに、栃尾を追いかけるだろう。

  だが、無傷で奴を捉えて欲しい。

  これは私たちだけでなく、君たちのためでもあるんだ」


 自己利益だけの願いは、聞き流す主義の碧だが、今回はそうとはいかない。

 断れば、自分たちの首が締まる。

 もどかしさに、碧は天を仰いだ。


 「でも、なんで? 先日の、有珠雅教事件の当てつけですか?」

 「それもあるが……この指示を出してきた大阪府警捜査一課長、菅原すがわら 満州次郎ますじろうっていうのがな、俺の同期なんだ。

  元々広域捜査課は、大阪府警に作られて、彼がリーダーになる予定だった。

  ところが、ある事件で菅原は重大なミスを犯し、その話は立ち消え。 結局、第二候補だった京都府警につくられたのさ」


 つまり、私怨か。

 段々、碧はそれ以上の話を聞きたく無くなってきた。


 「そこに、有珠雅教の事件ときた。

  あの時の銃撃戦とカーチェイスで、幹部を含め8名が死亡。 教祖万念は、今も意識不明でICUに入ってる。

  公安に、こっぴどく絞られたとも聞いてるよ。

  ここまで顔に泥を塗られ、更に大阪府警が威信をかけて捜査していて連続殺人犯を、俺たちが追っている。

  ヤツの不愉快ゲージはマックス。 溶接の吹っ飛んだボイラーみたいな状態なのさ」

 「つまり、栃尾を手土産に、大阪府警の顔を立てれば、私も警部も、首の皮がつながると、こういう訳ですか」

 「そうだ」

 「これだから、警察って……」


 舌打ちをひとつ、文句を垂れる彼女に、鷹村は落ち着け、となだめる。


 「ともかく、天使同盟はまだ生きてる。 滋賀県警にも通達済みだ。

  警察に混じって追跡してもいいが、くれぐれもヤツは殺すな。 生け捕りにするんだ」

 「分かりました。 流石に警察も、私たちに協力してくれますよね?

  いかんせん、犯人逮捕は警察そっちのお仕事、なんですから」

 「当たり前だ」

 「了解、追跡に入ります」


 そう言って、無線を切ろうとした時だ。

 暫しの沈黙ののち、周波数が変わり、別の無線が彼女の耳に飛び込んでくる。

 自動車警ら隊のパトカーからだ!


 『至急至急! 守山24から滋賀本部!

  手配中の逃走車両を発見しました!

  ナンバー、京都二文字 533、 リンゴのり 2X- 3T。 シルバーのハコスカ!

  現在、志那しな漁港を通過し、小道を右折。 更に右折し……さざなみ街道を北上中!』

 

 碧は、頭の中に地図を呼び起こし、ハコスカが今どこを走ってるのか、見当をつけた。


 「このマリーナの近くだ!」

 

 澪を監禁していた廃マリーナ周辺は、田畑が広がり、小さな集落が点在している。

 おそらく栃尾は、警察を撒くために、田舎道をぐるぐる回っていたのだろう。

 どうあがいても、目立つ車なのに。


 「澪っ!」


 大急ぎで、刑事に事情を聞かれていた相棒の名を呼ぶ。

 驚いて振り返った彼女に、碧は声を張り上げる。


 「栃尾が見つかった! この近くだ!

  生け捕りにしろって、警部からのオーダー付きでな!」

 「そんなの……」

 「こいつを破ったら、大阪府警が私らの関係を暴露するらしい!」

 「ええっ!? なんで?」

 「コトリバコの呪いってやつさ。

  車2台で動く! 澪は自分の車で、私の後を!」

 「分かった!」


 2人は互いの愛車に飛び乗り、エンジンをスタート。

 土煙をあげて、マリーナを去る碧のクワトロの後ろを、バックでゆっくり倉庫から出てきた澪のロードスターが後を追う。

 カラスの飛び交う田舎道を走り、栃尾のハコスカが走る琵琶湖畔の道へと、向かうのだった。

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