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天使突抜ッ! ~可憐な運び屋の危険な日常~  作者: JUNA
mission3: トーテム・フェーズ ~荷物に隠れた秘密の暴露~
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23, 秘密の暴露

 碧が倉庫に飛び込むとそこに広がっていたのは、乗り捨てられたロードスターと、無造作に置かれたジュラルミンケース。 そして――

 

 「碧っ!」


 両腕を縛られながらも、万遍の笑みで迎えてくれた相棒の姿。

 大きく息を吐き、安堵した碧。

 すぐに彼女に駆け寄り、ケガの有無を確認する。


 「ケガないか?」

 「ええ」


 幸い、大きな傷は無い。

 腕が少し傷付いているが、長く縛られたための負傷だろう。

 澪は結束バンドを外されながらも、少しだけ悪態をつく。


 「ちゃんとSOS出したのに、来るの遅いんじゃない?」

 「コメダで茶しばいててな、スマホ見てなかった」

 「そっかぁ……首絞めていい?」

 「ハハ~」


 ジョークを返せる余裕がある。

 それだけで碧の心は、ようやく最悪の状況で縛られていた苦しさから解放されたのだ。

 安堵という言葉で片づけられない、重く苦しい気持ちから。

 結束バンドを解くと、間髪入れず相棒を軽くギュッと抱きしめた。


 「とにかく無事でよかった」

 「うん……」

 

 澪も抱きしめ返す。

 お互い、心臓の鼓動とぬくもりを感じあい、これが夢でないことを確かめる。

 この数時間で、ようやくやってきた、落ち着ける時間。

 でも、こうしている暇はない。

 碧は澪を引っ張り上げて立たせると、鷹村警部から聞いた“秘密の暴露”について話し、澪もまた、彼が話した内容をかいつまんで説明した。

 

 「じゃあ、このケースには」

 「うん。 被害者の下着が入ってるんだと思う。 私もその中に加えようとして」


 ロードスターのグローブボックスから、手袋を二組取り出し互いにはめると、栃尾が運べと頼んだジュラルミンケースを、古ぼけた作業台の上へ。

 ドンと銀色のケースを置くと、埃が舞い上がる。

 ケースを開くと、京都のホテルで見たそれと同じ、スポンジに包まれたアメリカナマズの標本2体。

 かすかにしたアンモニア臭は、まだ漂う。


 「この標本を運べ、って言われたのよね。 私たち」

 「ああ。 鷹村警部が調べてくれたが、コイツは大学から盗まれたものだったんだ」

 「本当の荷物を隠すために……」


 碧はスポンジとケースの隙間に手を突っ込み、標本を傷つけないよう、ゆっくりと引き上げる。

 すると、アンモニア臭が更にしっかり臭ってきた。

 顔をわずかにしかめながらも、澪も手伝いながら、慎重にスポンジ部分をケースから引き揚げていく。

 慎重に、慎重に――


 ――深いケースの底が見えた時、本当の荷物が姿を現し、碧と澪は言葉を失う。

 女性ものの下着、パンティだ。

 レースのついた派手なものから、スポーツタイプまで、ファスナー付きのプラスチック・バックの中に入れて保存されていた。

 ラベルには、その下着をつけていた者の名前。

 臭いの正体も、判明した。

 【成瀬 レム】とラベリングされたバック、その中に白の下着。 水分を含んでバッグ全体が湿気ており、下着自体も黄色く変色している。


 「間違いないな。 昨日向日市で殺された女子校生の下着だ」

 「告白した女の子が、おもらししたって、アイツ言ってた」

 「被害者の下着が持ち去られていること、それに、向日市の被害者が死の間際失禁していたことは、警察関係者しか知り得ない、秘密の暴露だ。

  しかし―― いったい、何人殺したんだ!?」


 そう、下着が見つかったのはいいが、問題はその量だ。

 今朝新京極で殺害された女子校生を入れて、犠牲者は5人。

 しかし、ジュラルミンケースの底に重なるように入れられた下着は、軽く数えても10枚以上ある。

 中には女児が履いていたであろう、小さい白のコットンパンツ、それも10年前に放送されていた魔法少女アニメのキャラがプリントされたモノがあった。

 

 栃尾はいったいいつから、どれだけの女性を、愛の告白の名のもとに殺して下着を奪っていたのか……。


 「ダメだ、流石の私でも吐き気がしてきた」

 「いったん出ましょう」


 2人はそう言って、証拠物件をそのままに、倉庫の外へ。

 丁度、サイレンを鳴らして、覆面パトカーが一台、近づいてくるのが見えた。

 白のホンダ シビックからして、鷹村警部の車ではない。

 降りてきた2人の若い男性刑事は、手帳を見せながら、碧に話しかける。

 

 「滋賀県警 機動捜査隊の西川です」

 「同じく、機動捜査隊の灰猫はいねです」

 「おふたりについては、鷹村警部から話を聞いてます」


 相変わらず、根回しが早いことで。


 「分かりました。

  被害者、朝倉 澪は無事保護しました。 秘密の暴露は、あそこに。

  申し訳ありませんが、栃尾 滉一には逃げられました」


 碧は、ジュラルミンケースが置いてある作業台を指さした。

 更に、澪も加わる。


 「栃尾は、私を監禁していた最中、二件の女子校生殺害を告白していました。

  あと、血の付いたカッターナイフも所持しています」

 「なるほど、彼が犯人で間違いない、と言うことですか。

  で、犯人の逃走した方向は分かりますか?」


 碧が答える。


 「それが、彼女を助けるので精いっぱいで、どっちへ行ったかは……このマリーナは田舎道の奥まった場所で、周りも背の高い草に囲まれています」

 「ええ。 それに、すぐ近くの琵琶湖側を、幹線道路が走ってます。

  検問がまだ生きているとはいえ、二次被害を起こされたら厄介ですね」

 「逃走車両は、手配されているものと同じ、京都ナンバーのスカイラインです」

 「分かりました……灰猫! 証拠物件の保存を最優先! 俺は、県警本部に至急報告を入れる!」


 相方の刑事に指示を出した西川刑事。

 直後、車の無線が鳴り、二言三言喋ると、碧を手招きして呼び寄せる。


 「鷹村警部からです」

 

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