表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使突抜ッ! ~可憐な運び屋の危険な日常~  作者: JUNA
mission1: 最強最速の天使 ~コトリバコを輸送せよ!~
8/95

8. 丸太町チェイス


 ポケットからスマホを取り出した澪の手を、碧はがっちりとつかんだ。

 突然のことに驚く彼女の顔を、しっかりと見据えて。


 「この仕事、キャンセルする方が危ないかもしれない」

 「え?」


 どういう意味なのか。

 見てみ、と言わんばかりに、碧は顎でクイっと、車の後ろを指示した。

 ルームミラーを覗くと、20メートルほど後方だろうか、同じようにハザードを焚いて路肩に停車する白い車があった。

 セダンタイプのメルセデスベンツ。

 円の中に星の輝くあのエンブレムは、車を知らずとも“ベンツ”と分かるというもんだ。


 「あのメルセデス、寺を出てから、ずっとついてきてる」

 「偶然?」

 「にしては、スタリオンが止まるのとおんなじタイミングで、路肩に止まるってのは、ちょいと妙だねぇ」

 「警察かヤクザ?」

 「尾行の仕方が下手すぎる。 トーシロだよ」


 澪の腕をつかんでいた手を離すと、再度ハンドルを握り、出発の準備を始めた。


 「碧、まさか、あのメルセデスをずうっと見てたから、無言だったの?」

 「君も、この世界で生き残りたかったら、もうちっと用心した方がいいよぉ」

 「相棒にいわれちゃあ、面目ないわね。 引き締めるわ」

 「いい心掛けだ」


 ミラーと目視で、後続の車を確認。

 ブレーキを解くと、碧の運転するスタリオンは京都御苑を離れ、丸太町通りを走り始めた。

 チラリとルームミラーを見てみれば、あのメルセデスも同じように、あとをついてくる。


 「子犬ならともかく、どこの馬の骨とも分からん奴に追い回されるってのは、いい気分じゃないねぇ」

 「言えてるわね。 私も同じよ、碧。

  ま、ワンちゃんだろうと、後追いかけられること自体、好きじゃないかな。 私の場合」

 「へぇ~、意外だねぇ」


 澪も、サイドミラーで確認した。

 軽自動車を2台挟んだ後方。

 白いメルセデスの姿がちらつく。

 やはり、尾行されてる。


 「で、どうするのよ」

 「万に一つ、いや、億に一つの可能性がある。

  次の河原町交差点を過ぎてもついてくるようなら、鴨川を超えたところで仕掛ける。 いいね?」

 「うん」


 そんなことを話している間に、車は交差点に差し掛かる。

 河原町丸太町交差点。

 読んで文字の通り、河原町かわらまち通りと丸太町まるたまち通り、交通量の多い道路が交わる場所だ。

 交差点を右折し南下すれば、京都市役所や七条しちじょう、第二京阪道路のインターへと向かう。

 メルセデスが単に変な行動をとっているだけ、という線も限りなく薄くはあるが、否定できない。


 この辺りは高級ホテルや飲食店が立ち並ぶ、観光客に人気のスポット。

 歩道に目をやれば、楽しそうに歩くカップルや、キャリーケースをひく外国人の姿もある。

 スタリオンは何も気づいていないように装って、交差点をそのまま直進。

 ―― メルセデスも同じだった。

 右折レーンに入ることが無いどころか、曲がる素振りすら見せない。

 金魚の糞の如く、ひたすらついてくる。

 

 「なるほどねぇ……澪、仕掛けるよ!」

 「オッケー!」


 2人の目が鋭く、本気になった。

 碧も澪も、眼前の道路に神経を集中させ、口をつぐんだ。

 

 交差点を抜けてすぐ、スタリオンは橋に差し掛かった。

 丸太町橋。

 鴨川に架かるこの橋を渡るとすぐ、川端丸太町交差点だ。

 南北に走る川端通と交わるここは、地下に京阪電車の神宮丸太町駅がある。


 前方の信号は青。 

 スタリオンはゆっくりと、流れるまま、前の車に従って直進レーンを走っていく。

 メルセデスにも変化はない。

 橋上に出た途端、両端に並んでいたビルは途切れ、綺麗な午後の空が一面に広がってくる。


 などと悠長に構えていた―― その刹那!


 「……っ!」


 碧がギアを入れ替え、ハンドルを思いっきり右に回した。

 同時にアクセル全開!

 前を走る車を追い越すどころか、右折レーン、中央線をも跨ぎ、反対車線に飛び出したではないか。

 車内が一瞬、激しく揺れたところで、今度はより強めな左横への重力。

 スタリオンが、前を走る車を逆走しながら追い越し、交差点でドリフト。

 信号が変わるまで待っていた車列を割り込み、豪快にお尻を振りながら右折したのだ。


 こんなことをして、巻き込まれた車はないのか。

 これこそ、碧の計略だった。

 

 彼女はハンドルを握りながら、左前方、川端通に沿って植えられた街路樹の間に目を凝らしていたのだ。

 そう、歩行者信号機が点滅する瞬間。

 交差点に車が一台もいなくなる時を狙って、碧は勝負に出たという訳なのだ。


 狙いは大成功。

 右折待ちをしていた車からクラクションを鳴らされ、通行人が何事かとぎょっとした目を向けたが、そんなことはお構いなし。

 一方のメルセデスも、遅れながらもスタリオンと同じく、反対車線に出てスピードを上げた。

 が――。

 

 パーッ!!


 すぐに川端通の信号が青に。

 交差点に飛び込んだメルセデスは、発進し始めたタクシーと、あわや衝突。

 急ブレーキをかけ、そのまま立ち往生してしまった。


 ルームミラーで一部始終を見ていた澪は、白のメルセデスが段々米粒になっていくのを見送ってから、碧に声をかける。

 

 「ナイスハンドリング」

 「あんがと~」


 追手が来ていないことが分かり、碧はゆっくりとアクセルから足を離した。

 スタリオンの速度が、だんだんと落ち、制限速度まで戻っていった。

 澪は大きくため息をひとつ。


 「これではっきりしたわね。 あの車、私たちを尾行していたってのが」

 「嘘をつかれるのは癪だけど、なんだか面白い展開にはなってきたねぇ。

  いったん、あの寺について調べてみるとしますか。

  といっても、私も瑞奉寺なんて初めて聞いたし、どこまでの情報が集まるか分からないけど」


 すると、澪は言った。


 「私の知り合いで、京都日報に勤めてる人がいるから、それとなく聞いてみるわ。

  地元紙の記者なら、なにか分かるかも」

 「なるほどねぇ。 じゃあ、よろしく頼むよ、澪。

  私は、死んだって言う檀家の線から洗ってみるよ。

  万念は、調べたら出てくるって大見得切ってたからね」


 2人を乗せたスタリオンは、向きを西へと変えた。

 寄り道は終わり。 天使突抜の事務所へと急ぐ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ