15, 予想外の事実
最大の謎は、ここまでの仕掛けを施して、天使運輸に依頼を持ち込んだ理由だ。
嘘がバレれば最悪、死。
栃尾には、デメリットしかないように思えてならない。
それなのに、なんでこんな真似をしたのか。
とにかく、一連の推理は全て状況証拠に過ぎない。
アメリカナマズが持ち込まれ、標本にされたという出来事が本当に起きたのかどうか。
そして、環境テロリストが彩加大学を標的に、テロを起こす情報が、もたらされているのかどうか。
全てのピースを、可及的速やかに埋めるには、あの男に電話するしかない。
碧は本を返却用のカートに積むと、図書館を出て、鷹村に電話をかけた。
相手は明らかに不機嫌そうだ。
『冷やかしの電話なら、後にしてくれ。 こっちはものすごく忙しいんだ』
「10秒で終わるよ。 そんな邪険にしないで」
『なんだ』
「彩加大学に脅迫状のたぐいが届いてないか、至急調べて欲しいんですよ」
鷹村は、ため息混じりに突き放す。
『んな情報、入ってねぇよ。 切るぞ』
「待ってよ! もしかしたら、身内で処理しようとしてるかもしれないじゃん!
その大学にいる栃尾っていう研究員からの情報で――」
彼の名前を口にした途端、鷹村の声色が変わった。
『お前、今、誰って言った?』
「だから、栃尾 滉一っていう、その大学で生物研究してる人からの情報だよ。
指示に従わないと大学を爆破するって、環境テロリストからの脅迫文が届けられたって――」
瞬間、鷹村の声がうわずった。
『会ったのか? 栃尾と』
「そうだけど?」
要領を得ない碧。 鷹村の声は、鬼気迫るものへと変わる。
『まさか、依頼でもしてきたのか? お前らに』
「……いや、そのとおりだけど?」
『いつだ! いつやってきた!?』
「11時ちょっと過ぎだから、1時間くらい前」
『どこへ行けって言ったんだ?』
「長浜の国立琵琶湖生態研究所。 大事な標本を届けて欲しいって」
『……ってことは、今、お前の隣にいるのか?』
それだったら、どんだけよかったか。
やはり、邪魔だと言われたことを引きずっていたのか、碧は愚痴にも似た報告を、鷹村にぶつける。
「この私が、隣に依頼人がいるのに、ペラペラと中身喋るとおもいます!?
あの男、ブツを運ぼうとした途端、澪を指名してきたんですよ。 お前なんか不愉快だから用済みとか言って。
今は彼女と長浜に向かってますよ。
車はブルーに、白のストライプのマツダ ロードスター。
なんだったら、ナンバーも教えます?」
電話の向こうで、鷹村は叫んでいた。
『倉門ぉ! 大至急、滋賀県警に連絡! ヤツは長浜に向かってる!
ブルーに白のストライプがはいった、ロードスターだ!
県警の全パトカーを総動員して、検問をしくんだ!』
『了解です。 あの警部、ヤツが高速を走ってたら――』
『んなもん関係ねぇよ! 出られねぇように、インター全部止めちまえっ!』
『はいっ!!』
その行動に、碧もイライラして、怒鳴った。
「なんなんですかっ! 私らの依頼人に、何の用があるって言うんです!?」
再び、声のトーンを落とした鷹村は、碧を諭すように、こういった。
『いいか、落ち着いてよく聞けよ。
今、朝倉と一緒にいるっていう依頼人。 そいつは、京都と大阪で起きた、連続殺人事件の容疑者なんだよ』
「それってまさか、今朝、新京極のトイレで死んでたっていう、あの女子校生の?」
『その、まさかだよ。
しかも手口からして、昨夜、向日市でも女子校生を殺してる』
「ええっ!?」




