11, KSF- カンサイ・ハコスカ・フリークス
澪が出発したのと、ほぼ同時刻――
大阪府枚方市
AM11:18
「京都 533 り 2X- 3T…… ええ、間違いありません」
差し出されたタブレットを見た中年男性の答えに、鷹村と倉門は顔を見合わせた。
ここは、ひらかたパーク近くにある、ハコスカ専門の整備工場。
スカイライン ハコスカが何台も工場内に置かれ、ジャッキアップした車の周りでは、専門の整備士が部品交換や、オイル漏れが無いかなどを、丁寧に見ている。
2人の刑事の質問に答えていたのが、この工場を経営する柏田という男だ。
KSF- カンサイ・ハコスカ・フリークスという、ハコスカオーナーによる愛好家団体の代表でもある。
無論、彼もハコスカを愛車としており、隣接する事務所に飾られた、レーシングカー仕様の車両がそれである。
「彼の愛車、72年式のハコスカ 2000 GT-Rですね」
彼らが見せていたのは、防犯カメラ映像の切り抜き。
新京極で起きた殺人事件。 女子校生の遺体が遺棄されたのと、同時刻に現場付近を走り去る、ハコスカGT-Rが目撃されていたのは、既に記した通り。
その後の捜査で、三条京阪駅近くの雑居ビルの防犯カメラが、該当する車の姿を捉えていたのだ。
ナンバーを調べると、この愛好家団体にぶつかったと、こういう訳だ。
「間違いありませんか?」
念を押す倉門に、柏田は画面に映し出されたハコスカの一点を指さして、答える。
「車の後ろにステッカーが見えるでしょう?
自作のステッカーだそうで、関西中を探しても、同じ見た目のハコスカは見かけたことがありませんね」
そう言うと、柏田は2人を事務所へと案内し、一冊のアルバムを見せた。
イベントに参加した時に撮ったものらしく、写真の中に、問題のハコスカも映っていた。
映像と同じナンバーで、側面後部、テールランプの近くにホオジロザメのステッカーがタトゥーのように刻まれている。
現場から逃走したハコスカは、これと同じもので間違いないと見ていいだろう。
「お仕事は、何をされてるとか聞いてます?」
「確か助教授だか研究員だか……大学で働いていると言ってましたね。
入ったころは豊中にある萱野大学で、その後、京都の彩加大学に異動になった、って言ってたかなぁ」
ようやく事件の手掛かりを掴んだと思った矢先、柏田は頭を掻きながら、こんなことを口にする。
「でも刑事さん、アイツなら去年クラブを出禁にしましたよ。
私らが話せることも、そんなにありませんけどねぇ」
「出禁? なにかあったんですか?」
鷹村が聞くと、柏田はため息混じりに、このハコスカとオーナーに関わる話をし始めた。
「3年位前ですかね、彼が入ったのは。
長年欲しかったハコスカを、その年の暮れにようやく納車したっていう彼は、クラブのSNSを経由して、KSFに加入したんです。
加盟したての時は、若いのにとても礼儀正しい人だなぁ、っていう印象でした。
しっかりと交通ルールを守り、ミーティングの時には、いつもコーヒーを差し入れてくれて、メンバーの家族が病気になった時には、心配の声をかけてくれる。
大学の研究員という経歴に似合う、それはそれは紳士なふるまいだ、と、その時みんなで頷きあっていました。
あんなことが、起こるまでは」
「なにか、トラブルでも?」
倉門が聞くと、柏田は断りを入れて立ち上がると、工場に向かって誰か従業員の前を叫んでいた。
すぐに、ツナギに身を包んだ、30代くらいの眼鏡の青年がやってくると、柏田は彼を鷹村達に紹介する。
「ウチで働いている栗生です。
申し訳ねぇが、例の事故について、刑事さんたちに話してくれないか?」
「あの黒歴史ですか?」
「そうだ。 警察が彼のことについて、調べているそうでね」
「……分かりました」
栗生と呼ばれたその男は、帽子を取りながら席に座ると、苦虫を噛み潰したような顔を一瞬浮かべ、鷹村と倉門に、その事故について話し始めた。
黒歴史と呼ばれるくらいだから、相当なのものだと思うが――
「去年の冬でしたね。 岡山でクラシックカーイベントが開催されたんですけど、そこに私と例の彼と、同じクラブのメンバーの野際の3人で参加したんですよ。
彼とイベントに参加したのは、これが初めてだったんですが、始まって早々、彼異様でした」
「と、いいますと?」
「ずうっと、イベントに来た女の子に話しかけていたんです。 それも20代前後の女の子にばっかり。
確かにここ数年、レトロブームで、ハコスカのような車にあこがれる女の子も増えてきました。
ですが、イベントというのはあくまで、車を眺め、オーナーやファンと交流する場所で、彼のようにナンパ目的で来るような場所じゃないんです」
まさかナンパしただけで追放か。
あまりにも厳しすぎるし、それを言うためだけに、彼を呼んだのか?
訝しみながらも、最後まで聞くために、鷹村と倉門は耳を傾けづづける。
「それが原因で、出禁に?」
「いえ、それだけじゃないんです……多分、警察の方なら調べればわかると思いますが、彼、ナンパして振られた女の子を、殺そうとしたんです」




