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天使突抜ッ! ~可憐な運び屋の危険な日常~  作者: JUNA
mission3: トーテム・フェーズ ~荷物に隠れた秘密の暴露~
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2. 朝の鍛錬

 

 翌日―― AM8:54

 京都府宇治市

 UJIカントリーサーキット


 まだ白けさの残る朝の空は、朝陽が差す中、雲一つなく澄み渡っていた。

 宇治の山中にある、中規模サーキット場で、入り組んだカーブが多いものの、利用料金も安く、初心者にも優しい場所だ。

 週末ともなれば、関西中から、自慢の愛車を持ち寄って、走行会が行われる。


 そんな今日は平日真っただ中だが、車のスキール音が響き渡っていた。

 

 ヘアピンカーブを曲がって現れたのは、ブルーのボディに白のストライプが入ったオープンカー。

 マツダ ロードスター。

 1990年代から販売が続く、世界で最も多く生産された小型スポーツカーである。

 今、目の前を走っているのは、電動ルーフ機能を搭載したRFというモデルだ。

 運転している女性は、サングラスをかけ、シルバーアッシュのポニーテールをなびかせて、気持ちよさそうにドライブ。


 尖ったヘッドライトが流れていくと、カーブの先から、再び別のスポーツカーが、やってくる。

 ゴールドカラーの三菱 スタリオン。

 言わずもがな、コトリバコ編で一気呵成の交差点ドリフトをかました、あの車だ。


 そう、神崎 碧と朝倉 澪の2人は、日の昇り始めたぐらいの早朝から、このサーキット場を走りまくっていた。

 だがそれは、余暇の息抜きではない。

 ここまでの話を読んでいただいた方なら、お判りだろうが、彼女たちの仕事に車は必要不可欠であり、イレギュラーが起きた際には、迅速かつ正確なドライビングテクニックで、危機を乗り越えなければならない。

 そのために、こうして依頼のない日は、サーキット場に繰り出し、お互いのドライビングを磨いているのである。

 

 時にはトラックやバンなど、おおよそ走りこむには似つかわしくない車まで持ち込むが、今日はお互いが仕事以外で使っている、走りやすい車で。

 ロードスターのラインには、まだムダな部分はあるが、それでも綺麗にコーナーを曲がっていく。

 一方のスタリオンは、加減速もラインも完璧で、ロードスターとの車間を、適度に保ちつつ、追いかけていた。


 澄んだ青空と、緑の茂る山々をバックに、思いっきり走り抜ける2台のスポーツカー。

 暫くすると、2台はピットに入りようやく停車。 中から運転手が出てくる。


 ロードスターのドアから伸びる、しなやかな足。

 スタリオンのドアを掴む、綺麗な白い指。

 

 ボブカットを揺らし、イヤホンマイクを取り外した彼女が、神崎 碧。

 そして、振り返った彼女に、微笑しながら近寄るシルバーアッシュのポニーテールこそ、朝倉 澪だ。


 「結構よくなってきてるじゃない。 澪のドラテク」

 「碧に比べたら、まだまだよ」


 謙遜とする澪に、碧は愛車にもたれかかりながら言った。

 

 「そんなことないさ。 ラインの取り方も、ブレーキとアクセルの扱いも、しっかりと様になってきてる。

  だって、出会った頃なんか、ひどいもんだったじゃないか」

 「そうだったっけ?」

 「おいおい、物忘れが来るには、まだ歳若すぎるぜ?

  一か月の間に、ラパンとヴィッツを、解体所送りにしたのが、昨日のことのようだよ」

 「あー、そんなこともあったねぇ」


 澪は視線を逸らすように、手にしていたミネラルウォーターのペットボトルを口にした。


 「ま、それがあったからこそ、今こうして、運転の上手くなった君がいるんだ。

  そう思ったら、あの2台の廃車は安いもんだ」

 「ありがと。 車のことは、碧ほど詳しくはないけど、やっぱ私、この車が一番使いやすいわ」


 そう言うと、自分の愛車へと目を向ける。

 真っ青なボディに、日の光が当たって輝く。


「ロードスターは、スポーツカーの入門書ともいえる車なんだ。

 ATでローパワーだけど、ひとたびハンドルを握れば、走る楽しさを教えてくれるし、マツダが培った先進技術を、他の市販車同様、注ぎ込んでるからな。

 でも、あれだけ綺麗に運転出来たら、他の車に手を出しても、充分いけると思うさね」

 「なら、今度は碧の銃の腕をあげないとね。

  碧ってば、銃持ったら持ったで、変なとこに弾飛ぶんだもん。 あぶないあぶない」


 そう言われると、イタいこと言うな、と碧は天を仰ぐ。

 澪のドラテク同様、碧の射撃の腕も、からっきしダメだ。

 特にこっちは、何度練習しても、的に上手く当たった試しがない。

 当の本人は、いざという時、だいたい当たってるから大丈夫だろう、と言うばかり。


 「ま、精進します……」


 とつぶやくと、強制的に話題を変え


 「さて、今日はこんくらいにして、そろそろ帰りますか」

 

 そう提案したのだが、澪はその前に、と碧に頼み込む。


 「碧の持ってる運転テクニック、なにかひとつ、教えてくれない?」

 「どしたの、急に」


 藪から棒。 碧は驚く。


 「どうっていう訳じゃないんだけど、私も碧の相棒として、いざという時に役に立ちたいの。

  それに、こないだのコトリバコの時に、もっとテクニックを磨かないとって痛感したし、碧がピンチになった時、私はあなたを守りたい」

 「澪……」

 「腕は上手くなったんでしょ? だったら、少しだけでいいから」


 この通り、と手を合わせて頭を下げる澪の熱心さに、碧は押し負けた。

 確かにコトリバコを運んでほしいという依頼の際、澪は碧から預かったランサーセレステを運転して、京都から大阪へと来た。

 その際、スピンターンを決めて碧を守ることはできたが、あの時碧が瀕死の重傷を負って、車を運転できなければ、その後追ってきた信者の車を蹴散らすことは、できなかったろう。

 澪は、その事がどうしても、頭の片隅にあったようだ。


 「オーケー。 じゃあ、いざって時に使えるドラテクを教えるよ」


 そう言うと、碧と澪はサーキット場から200メートルほど離れた場所にある、だだっ広い駐車場へと向かった。

 そこには、2人が乗ってきた、中型のキャリアカーが停まっているだけで、後は車一台、人っ子一人としていない。

 碧はスタリオンを停め、キャリアカーから三角コーンを引っ張り出し、少し離れた位置に置くと、澪のロードスターに乗り込んだ。

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