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天使突抜ッ! ~可憐な運び屋の危険な日常~  作者: JUNA
mission 2 : 疾走!アンダーテイカー ~輸送中の棺桶を取り替えろ~
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25, 取り返しのつかない過ち

 京都縦貫道と舞鶴若狭自動車道が合流する、綾部ジャンクション。

 天使運輸から奪った霊柩車 アンダーテイカーをゆったりと運転しながら、カオルはゴキゲンだった。

 

 後部荷室には本物の父の御遺体。

 追手は誰もいない。

 

 これで、弟の顔を潰して、自分が社長になる。

 下々の者共が頭を上げられない、食卓の女帝として君臨する!


 そんな野望を胸に、ホクホク顔でスマホを取り出すと、片手で電話をかける。

 もちろん、相手は弟の彰だ。


 「おい、ポンコツ社長」

 『いまどこですか?』

 「もうすぐ舞鶴……んなこと、どうでもいいんだ」

 『はぁ』


 気だるい彼に向かって、カオルは自信満々に言い放った。


 「喜べ、父親の本物の遺体を奪い返してきてやったぞ!

  無能な親戚共にも伝えろ! あの山村葬祭は、嘘つきだったってなぁ」

 『どういうことです?』

 「だからな、密葬でお前たちが泣きながら手を合わせていたのはな、父親と瓜二つの下々の死骸だったんだよ。

  山村葬祭は、その事に気づいて、慌てて遺体を交換しようとしたのさ。

  こそこそしくさりやがったところを、私が霊柩車ごと奪ってやったってわけだ。

  ハッハッハ」


 上機嫌な彼女に対して、彰は勿論というべきだろう懐疑的だ。

 そもそも、要領を得ない。

 遺体を取り違える。 それも、本人と瓜二つの遺体と?

 特に彰は、父親が4人兄弟の次男坊であることを知っており、おまけに兄弟全員顔が似ていないことも。


 『証拠はあるんですか?』

 「霊柩車を運転してる、神田ってやつに電話してみなよ。

  土下座しながら説明してくれるよ」


 もちろん、神田には電話済みだ。


 『そんなこと、一言も言ってなかったですよ。

  霊柩車の修理が終わったから、先に舞鶴に行ってほしと、それだけ』

 「んなもん、嘘ついてるに決まってるだろうが」


 半分当たってる。

 一向に信じない彰に、カオルは本来なら、電気ケトルよろしく、この辺で沸騰しているだろう。

 しかし、都合のいいバラ色の未来で、文字通り脳内ピンク色の彼女に、そんなことはお構いなし。 饒舌にペラペラと語りつくす。


 「まあ、いいや。 父の棺桶は私の手元。

  舞鶴に着いたら、せいぜい悔やむんだね。 父親の顔すら見分けられない自分の無能さをなぁ。

  助かったよぉ~。 なんせ、運んでたのがガキ2人。

  あとは山村葬祭から、たんまり賠償金を受け取れば、しばらく左団扇で暮らせるし、彰ぁ、お前も社長をク――」


 途端に、話を遮った彰の声色が変わった。


 『待ってください。 ガキ2人って言いました?』

 「コルァ~! お前は何を聞いてたんだぁ!」

 『どんな人たちです?』

 「あ? ガキか?

  ションベン臭い若い女だよ。

  短髪のいけ好かない奴と、ポニーテールの外人風」

 『その2人から、霊柩車を奪ったんですか!?』

 「気だけは強かったねぇ。 不愉快だから二、三発ぶん殴っとけばよかった」


 ハハハと笑うカオル。

 次の瞬間、彰の口調が一気に変わった。

 

 『国光カオル。

  もうお前は、国見家ウチの人間じゃない。

  金輪際カネも払わないし、電話も、これきりだ!』


 なにが起きた?

 今まで自分より下とする態度を取っていた彼が、一気に乱暴な言いよう。

 弟の彼女を殺してから、ずうっと変わらなかったソレが、秒とかからない時間でぐるりと変わる。


 「おい、ちょっと待てよ! その言い方はなんだっ!」

 『手を出した相手が悪かったな』

 「はぁ? ガキから車奪って絶縁とか、意味わから――」

 『黙れっ!』


 聞いたことのない怒号に、体がびくつく。


 『いいか、よく聞け。 国光カオル。

  父の、いや、会長の棺を運んでいたのは天使運輸。 関西でも名うての運び屋だ。

  報酬とルールを守れば、どんな荷物も完璧に運ぶ、プロ中のプロ。

  それがたとえ、御法に触れるヤバいもんでもな』

 「は、ハッタリはよしなよ」


 あがいてみせるが、彰は淡々と話していく。


 『本当さ。

  お前はロンドンにいたから知らないだろうが、2年前、私は彼女らに仕事を依頼したんだ。

  父の遺作となった、生八つ橋入りチョコレート。

  その試作品を、本社に運んでほしいとね。

  ライバル企業から執拗な嫌がらせを受けていたから、苦肉の策だ。

  案の定、破壊屋が襲ってきたそうだが、チョコは無傷、味も落ちることなく、重役や取引先の手元に届けられた』


 カオルも知っていた。

 確かに2年前、英国の新聞で、クニミツ食品が餅入りチョコレートの開発に成功したという記事があったことを目にした。

 しかし、家業に興味のないカオルは、その裏で何が起きていたかを知ろうともしなかったし、聞くつもりもなかった。

 

 「そんな……あのガキが、裏社会の人間?」

 『連中は荷物を横取りするヤツらも、絶対に許さない。

  まあ、当然だけどな。

  お友達のヤクザを仕向けても無駄だぜ。 あの2人を襲おうだなんて、肝っ玉座ってるか、単なるバカしかやらないって話だ』


 自分を睨みつけた、あの眼光。

 想像の中で、怪物がどんどん大きくなっていく――


 ジャンクション。

 合流へ向かう、長く緩やかなカーブレーン。

 ハンドルを、スマホを握る手が震えてしまい、何度も側面をぶつけそうになった。


 「し、知らなかったのよ! そんな奴らだったなんて!」

 「そんな言い訳、小学生にだってできる。

  お前は天使の羽をもいで、空を飛んだ。

  さようなら、国光カオル。

  二度と……俺の前に顔を見せるなっ!」

 「ねえ! ちょ――」


 弁明することもできず、電話を一方的に切られてしまった。

 あの2人を襲おうなんて考えるのは、バカのすること。

 私は―― バカ!?


 「ああああああああっ!」


 突然奇声をあげたかと思うと、手にしたスマホを力任せにダッシュボードへ叩きつけた。

 何度も何度も。

 モニターは割れ変形し、歴史あるロールスロイスの計器やパネルも、ひび割れ、かけてしまう。

 

 終いには、フロントガラスにひびを入れてしまい、ようやく我に返った。

 ボロボロになったスマホを足元に落とし、急停車。

 合流区間であったために、後続車も何事かとブレーキをかけ、多重事故を引き起こす。


 荒く息を吐き、車を降りると、横転した軽自動車や、慌てて降りてくるドライバーたちをなんとも思わず、ただ拾い上げたスマホを力任せに叩きつけるだけ。


 スマートフォンだったものは、みたこともない電子部品をまき散らしながら、道路を転がっていく。

 満足したのか、大きく息を吐いたカオル―― 安寧など、無かった。


 視界の端っこに、一台の車が姿を現す。

 今さっき降りてきた、合流レーンを走る真っ赤なSUV。

 見覚えのある?

 そりゃあ当たり前だ。

 カオルの愛車、マセラティ レヴァンテがスピードを上げて、アンダーテイカーに迫ってきているのだから。

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