表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使突抜ッ! ~可憐な運び屋の危険な日常~  作者: JUNA
mission 2 : 疾走!アンダーテイカー ~輸送中の棺桶を取り替えろ~
47/95

17, 響からの報告 ~彰とカオルの過去~

 「高速を降りたぁ!?」


 アンダーテイカーの助手席で、澪は不意に叫んでしまった。

 時刻12時33分。

 彼女たちは、亀岡インターを通過していた。

 時速110キロは出ているが、車の挙動は安定している。

 荷台からもおかしな音は聞こえない。


 一般車も、奇抜な車に道を譲っていくため、スムーズだ。


 「降りたって、どういうことです!?」

 『分かりません。 八木の料金所に差し掛かったとたん、スピードを上げてインターチェンジを降りていったんです。

  我々の車列は、もうすぐ京丹波に差し掛かります!』

 「舞鶴に向かうよう、後ろからずうっとついてきてたのに、なんで今更……」


 スピーカーにしたスマホから聞こえる片平の説明と共に、澪は困惑したが、その思考をすぐにポジティブに切り替え、碧に話しかけた。


 「ま、ともかくこれで、不安要素は消えたってことよね?

  カオルって人、父親の遺言にキーキー文句言って、わざわざそれを無碍にしたじゃん?

  そんな人が、霊柩車が故障したなんて聞いたら、何言いだすか分からないんだから」


 それはそうだ。

 しかし、碧の表情は晴れない。


 「……」

 「碧?」


 彼女は一抹の不安をよぎらせる。

 そう、ずうっと頭の中に、まるで崖から落ちそうなボールのように引っかかっている“最悪の可能性”だ。


 「片平さん。 葬儀会館を出発する前に彼女、なにかおかしなことしていませんでしたか?

  例えば、誰かに電話していたり、スマホをしきりに見ていたり」

 『そういえば、誰かに電話していましたね。

  相手は分からなかったんですけど、丁度お別れの儀を執り行ってる時間でしたね』

 「それ、確かですか?」

 『はい。 それに彼女、出発前に喪主代理の彰社長に対して、変なこと言ってたんです。

  “社長の椅子も今日までだ” って』


 瞬間、碧は全てを理解した。 自然と眉間にしわが寄る。

 釈然としない澪は通話を追えるが、その後碧は、ハンドルを強く握るのに合わせるよう、声を絞り出す。


 「やっぱり、バレてたんだ」

 「ええっ!?」 

 「会館に持ち込まれた御遺体が、自分の父親じゃないって」

 

 澪にはとても信じられなかった。

 赤の他人が見ても、2人の顔はコピーしたかのように同じなのだから。


 「あの御遺体は、国光会長と瓜二つの顔なのよ。

  そんなの、どうして……」

 「実はね――」


 核心を碧が話そうとする同じタイミングで、今度は碧のスマホが鳴った。

 背広の内ポケットから取り出すと、澪に渡してスピーカーにするよう頼む。


 「ひびきさん?」

 「そう、大阪の情報屋。

  国光家とカオルの事が気になってね、調べてもらってたの」


 スピーカーにした途端、電話の向こうから低音のダンディな声がこぼれだす。

 

 『もしもし、碧さん?』

 「なにか分かった?」

 『国光カオルに関してですが、彼女、国見家から半ば絶縁されています』


 いきなりの重大情報である。


 「おいおい、絶縁って……何をしでかしたの?」

 『カオルは18年前、交友関係のあった暴力団組員の男に弟の、つまり現社長の国光彰氏の恋人を、暴行するよう指示したそうです。

  被害者は、彰と同じ高校に通っていた1年生のミヤビ 杏子きょうこさん。

  下校途中に誘拐され、3日後、大津市内で保護されてます。

  全治1か月の大けがを負い……あとは言わずとも、分かりますよね?』


 クズが、と小さく吐き捨てる。


 『その暴力団組員は逮捕され、取り調べで国光カオルの関与を自白。

  彼女は一貫して否認したのですが、このことが問題となり、国見平九郎氏は被害者家族と示談という形で和解した上で、全ての根源となったカオルを絶縁。

  クニミツ食品時期後継者の話も、白紙になったんだそうです。

  その後、カオルはロンドンに移住。 今に至ります』


 すると澪が聞く。


 「杏子さんは、今……」

 『事件後精神を病み、1年後に今出川いまでがわの自宅マンションから、飛び降り自殺を。

  両親もその後、後を追うように病死しています』

 「なんてこと……」


 澪も、壮絶な出来事に言葉を失う。

 国光家に無関係な人間の未来が、奪われてしまったなんて。

 

 「その暴力団員って、誰か分かってるんですか?」

 『関西銀龍会の、佐野さのカズサ』

 

 組織名を聞いた瞬間、碧と澪は更に頭を抱え、同時に大きく息を吐いた。

 

 「よりによって、指定暴力団かよ……」

 「そりゃあ家族も、縁切りたくなるわね」

 「食卓の味方が、ご家庭の敵(パブリック・エネミー)と仲良しこよしとあれば、イメージダウンで会社が潰れかねない。

  ま、経営者としては、ただしい選択だ」


 腕が痛くなったか、スマホをダッシュボードに置くと、左腕をほぐすように右手でもみ始めた。


 「ロンドンに移住したのも――」

 「おそらく、日本から追放するためだろう。

  むしろ、させた、という言い方が正しいかもしれない。

  会社のため、息子のため、そして嬲り者にされた女の子のため」


 2人の会話を聞いてか、響が割って入る。


 『そのとおりですよ。 半ば絶縁状態という言い方も、そこにあります』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ