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天使突抜ッ! ~可憐な運び屋の危険な日常~  作者: JUNA
mission 2 : 疾走!アンダーテイカー ~輸送中の棺桶を取り替えろ~
33/95

3, シャンディ・ガフ・モーター

 AM10:09

 京都市南区


 京都市の南側。

 東寺の五重塔がそびえる、いわゆる洛南らくなんと呼ばれるエリアは観光地のKYOTOから離れ、どこにでもある市街地の風景が広がっている。

 近鉄京都線十条(じゅうじょう)駅から西へ。 国道181号線沿いに、中規模の自動車整備工場がある。


 その名を、シャンディ・ガフ・モーター。


 大手中古車屋にも引けを取らない、近代的な整備ヤードには何台もの車と、整備士の姿。

 軽トラックから、ワーゲン・ビートルまで、幅広い車が並び、皆がせわしなく、そして黙々と働いている。

 裏にある駐車スペースからは、整備工場のトレードマークとなっている、年代物の小型トラックをベースにしたレッカー車が、今出動しようとしていた。

 

 トヨタ スタウト2000。

 ドラマ「北の国から」で主人公一家の愛車としても登場した、ボンネット・トラックである。


 国道に合流し、一路東へ走るスタウトと入れ替わるように、整備工場にグリーンのスポーツクーペが入ってくる。


 薄いフロントに、全ての窓ガラスがつながってるように見える、グラス・トゥ・グラスの独特なサイドウィンドウが特徴のこの車は、スバル アルシオーネSVX。

 1990年代に発売された、スバル初の高級自動車である。

 降りてきたのは、我らが天使、天才的なドラテクを駆使する運び屋 神崎かんざき あおいだ。


 薄手のシャツに、デニムパンツ姿の彼女は、周囲を見回すと、隣接する事務所へ。

 ボブカットの髪を揺らしながら、OPENの札がぶら下がるドアを押す。


 「ん~、いないのかな?」


 受付には誰もいなかったが、ふと部屋の隅にある、小さな商談スペースに目を向けると、碧と同い年くらいの若い整備士が一人、食事をとっていた。


 「おっ、碧さん! 久しぶりっす!」

 

 彼女の存在に気付いた整備士は、急いで立ち上がり、口にしていた食べ物を飲み込みながら、軽く頭を下げた。


 「久しぶりですね、友宏ともひろさん。

  ねえ、長尾さん、今日はお休み?」

 「1時間ほど前に出かけていきましたよ?

  もうすぐ戻るんじゃないっすかね?」

 「タイミング悪かったかなぁ~」


 バツが悪いと、頭を軽く掻いてため息をつくと、その整備士― 友宏へ歩み寄り、テーブルを背伸びで覗く。


 「もう昼食?」

 「いや、朝食っす。

  飛び込みでお得意さんの整備が入ったもんだから、バタバタしちゃって」

 「そう……」


 メニューは、ラップに包まれた大きなおにぎりが2つと、小さなパックの総菜。

 ペリペリと、舞妓さんの絵が描かれたフィルムを剥がすと、おだしの染みた揚げナスが顔を覗かせる。


 「それ、“京のおばんざい”シリーズの新商品?」

 「はい。 ちょっとしたオカズに、マジ丁度いいンすよ。

  でも、意外っすねぇ。 澪さんが、毎日晩飯作ってくれるって聞いてたもんっスから」

 「忙しくて夕飯作れない時とか、それに頼ってるよ。

  味付けが関西風で、サイズも丁度良くていいんだよねぇ」

 「分かるっす!」


 友宏はそう言うと、割りばしでナスの揚げびたしを口に運び、追うように塩にぎりを、大きな口でほおばる。

 美味しそうに、小さく頷きながら。

 

 時間かかりそう、と碧が自分の腕時計を見た時だった。

 

 「あ、社長帰ってきた」


 友宏が口に含んだメシを、お茶で流し込みながら言った。

 窓の外を見ると、碧のアルシオーネの横に、これまた奇抜な車が停車。

 彫りの深い顔立ち、友宏と同じツナギ姿の中年男性が、シルバーの車から降りてくる。


 スポーツカーのフロントだが、全体を見るとステーションワゴン。

 この車の名は、スカージア。

 ニッサン ステージアに、R34型 ニッサン スカイラインGT-Rの顔面を移植したカスタムカーである。

 運転していた彼は、ドアにカギをかけると、隣に停まっているアルシオーネをちらっと見ながら、事務所へと歩いてくる。


 「長尾さん、お久しぶりです」

 「ああ、やっぱりアルシオーネは、碧君の車だったか」


 碧は事務所の扉を開けた彼に、声をかけた。

 やれやれ、といった具合に顔を左右に振る男こそ、シャンディ・ガフ・モーターのオーナー、長尾ながお

 碧と澪が、マシンの整備を任せる、腕利きのエンジニアだ。


 立ち上がった友宏に、そのまま飯を食べてて構わんよ、と声をかけ、碧の方を向いた。

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