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天使突抜ッ! ~可憐な運び屋の危険な日常~  作者: JUNA
mission1: 最強最速の天使 ~コトリバコを輸送せよ!~
29/95

29, 天使vs万念 ~谷町筋最終決戦~


 自分たちを殺すと遠回しに、かつクサいセリフで言い放った万念が刺し違えるとは、どういう意味か。


 フロントグラスの向こうを見て、ハンドルをぎゅっと握る碧を見て、澪も恐る恐る、その方向へ目を向けた。


 「っ!!」


 まっすぐ伸びる片側4車線の谷町通り。

 分離帯は背の高い木と鉄製の柵で、歩道は長いガードレールで区切られ、一方通行のレーンとして、彼女らの行く手を導いていた。

 その道に突如現れた真っ白いマシン。

 碧らの乗るランサーセレステと顔を合わせるように、道路を逆走せんと停まっているそいつは――


 「フェラーリ F8 トリブート。 万念の―― っ!」

 「そうさ、澪。

  アイツは力づくで奪い上げた、何もかも失って、手錠をかけられるのも時間の問題だ。

  思いつく限り、組織犯罪処罰法に銃刀法、道路交通法違反。 おまけに私らへの殺人教唆と凶器準備集合。

  そこに詐欺や殺人罪も加われば、無期か、最悪死刑は免れない。

  だから最後に、私らに復讐しつつ、あの世に逃げるつもりなんだろうよ」

 「迷惑な話だこと。

  そんなに死にたいなら、一人山奥で首でも括れっての」


 ごもっとも、とセリフを吐きながら、碧は大きく深呼吸。

 目を瞑り、神経を全集中させていた。

 この先何が起きるのか、詳細に書かなくとも分かる。

 一直線の道路に向かい合う2台の車。 やることはひとつだ。


 「さて、どうしよっかねぇ。

  目の前にいるマシンは、アクセルを踏めば3秒で時速100キロまで加速できて、最高時速は340キロ。 新幹線のぞみ号より速いときた。

  こっちは半世紀前の車で、お世辞にもスーパーカーとは言えない」

 「言いたいことは分かるわよ、碧。

  私も“映画みたいな死に方(デス・プルーフ)”は御免だわ。

  かと言ってここで逃げだせば、狂ったアイツが何をしでかすかわからない。

  おとなしく追いかけて自爆してくれればいいけど、もし大阪のどこかに、私たちも知らない爆弾を仕掛けられていたら……町ごとお陀仏」

 「だよねぇ」


 八方塞がり。

 2人とも頭をポリポリと掻き、歩行者信号に目を向けた。

 横切る青信号が点滅を始める。

 もう、時間がない。


 「……やるしかないか」

 「うん。 このままナメられたんじゃあ、私ら天使の名前が泣くわね」

 「もう一回、私のテクに命預けてもらうけど?」

 「今更そんなこと聞いてどうするの?

  出会った日から、私は碧のドラテクに、ずうっと命預けてるわよ。

  これからも、世界が終るまで一生ね」


 お互い微笑みながら見合う顔。

 自信と一抹の恐怖を含んだ微笑み。

 頷いた碧は、キリっと背を正し、前を向く!


 「よしっ、いっちょやりますか! 神殺しの大罪ってやつを」

 「のった!」

 「つかまってな!」


 エンジンをふかし、パッシングして、眼前のフェラーリを挑発する。

 お前の誘いに乗ると言わんばかりに。

 万念もその様子を見て確信したのだろう。

 パッシングすると、威嚇するようにV8エンジンを唸らせた。


 2台の差は3ブロック。 逃げ場はない。

 アクセルを踏んで、唸りあうエンジン音が、街中に響き渡る。

 遂に自動車用信号も色を変えた。

 この一瞬で、全てが終わる。


 青……黄……赤……―― 青!!


 正面を照らす信号機が一斉に青を照らした直後、ランサーセレステとフェラーリは、同時にギアを入れ替え、アクセル全開!

 タイヤを豪快に鳴らし、相手の鼻先へ向けて一直線に走り始めた!


 距離の縮まる2台。

 フェラーリの加速力が勝り、セレステに鋭いフロントが迫ってくる。

 狂ったように歯を見せギラリと笑う万念。

 碧は機械のように無表情で、それでいて殺意を全開にした漆黒の瞳を向けていた。


 お互い、それは余裕の表れか、それとも恐怖を隠す演出か。

 

 エンジン音が近づき、段々と互いの姿が鮮明に見えてくる。

 

 ヘッドライトの輪郭、フロントグリルの形状、ナンバープレートの数字 ――運転手の顔。

 勝負!

 

 狂気のまなざしとポーカーフェイスが、コンマ数秒車の速度を超えて今、互いの視界に突っ込んだ!

 眼球の中に押し込まれる狂気は、神経より早く脳の内部を壊していき、そして!


 「うわあああああ!!」


 ドライバーの悲鳴と共にハンドルを切ったマシンは、そのまま分離帯の柵に激突し、宙を舞う。

 スピンをかけながら、青空に向かって。

 高速度のチキンレースを制したのは――


 「堕ちろ、ペテン師」


 純白のボディを崩し、朝日に輝く破片の雨を飛び散らせ、天高く舞い上がるフェラーリの下を、ハンドルを切ることなくアクセルを踏み続けたランサーセレステが潜り抜けた。


 碧と澪。

 彼女たちに、恐怖は無かった。

 あったのは、自分たちが必ず勝つという自信、いや、信心とでも表現すべきか。


 急ブレーキをかけ、振り返った2人が見たのは、街路樹の枝を折りながら、反対車線に叩きつけられた、万念の愛車。

 着地したはずみにバウンド、ひっくり返りながら滑走した金属とアルミの塊は、フェラーリだと指摘されても分からない程に壊されつくしていた。

 ガードレールにぶつかって止まったころには、エンジン以外原形をとどめておらず、ガソリンの臭いが立ち込める醜悪なオブジェと化していた。

 その中に人間がいるなど、考えたくもない。


 「正当防衛だよね?」

 「向こうが逆走してきたんだ。 当然でしょ」


 急停車した車からドライバーが駆け寄るのを見て、碧と澪はその場をあとにした。

 助けようなどという情は、かけらもない。

 ミラーも見ず、ただまっすぐ、目を覚ました大阪の街を駆け抜けていくのだった。

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