26, 天満橋チェイス -Joy Ride- 2
両端に車がいることを確認して、口元を緩ませた碧が叫ぶ!
と同時に、セレステは交差点手前の高低差をジャンプ!
着地すると、ハンドルを思いっきり切り、交差点を左折。
なぜか幅の狭い高麗橋通へと入ったのだ。
「……んっ!!」
2人共、横へ激しくかかるGに逆らえず、体を右側へと押し付けられる。
その中でも碧は、歯を食いしばりハンドルを切り続けた。
どうして、こんな無理を?
ドリフトして、左右にいるメルセデスベンツを撒けばいいじゃないか?
その理由が澪には、すぐわかった。
セレステにくっつき、一緒に左折したメルセデスが、真っ先に洗礼を受ける!
「うわああああ!」
右側から大きく回り込みながら、セレステと共に高麗橋通に入ったメルセデス。
目の前に現れたのは道ではなく、路肩に停まる軽自動車だった。
この高麗橋通はビルの立ち並んだ閑静なエリアを走る、一方通行の道。
車2台は並んで走れるほどの幅があるのだが、この両端は時間指定の路上駐車帯になっているのだ。
ブレーキを踏むが、間に合わない。
並走していたメルセデスは、路肩に駐車されていた軽自動車に激突!
大破させながら舞い上がり、勢いそのままま大回転を決めると、すぐ先に並んだ車列を破壊しながら滑る。
左後ろを走っていたGクラスも、同じ運命だ。
こちらはポルシェをジャンプ台にして飛ぶと、4台先に停まった小型車に突き刺さり、ゆっくり転倒。
Gクラス独特の大屋根で前に停まる車を押しつぶすと、車道へ転がり落ちて沈黙。
そこへ止まりきれず、仲間のメルセデスが追突、更に避けようとした別の車両も、ハンドル操作を切りブレーキを響かせて、駐車中の車に衝突。
追いかけてきた車の半分を大破させることに成功し、この時点で連中の戦力を、大きく削ぐことができたのだ。
碧の言った“仕掛ける”とは、この事だったのか。
通りにガソリンの臭いが立ち込め、うめき声は鳴り響く盗難アラームにかき消される。
「まだ、来るの!?」
「しつこいことで……」
それでも、教団幹部たちの進行を止めることができなかった。
生き残ったもう一台のGクラスが、事故車両を強引に押しのけ、セレステの後を追う。
このエリアは高低差が激しい。 4輪駆動のGクラスには利があるか!?
すぐ右側に見える小さな公園を抜けると、道はなだらかな下り坂となる。
ランサーベースのこの車は、約50年前のマシンとは思えない程、軽やかな走りを見せてくれた。
再びセレステは、坂道の頂上でジャンプをかますと、見事に着地。
おかしな挙動を見せることなく、一直線に道路を走る。
Gクラスも、遅れて続くかと思いきや――。
「ん?」
バックミラー越しに見ていた白い車体が、姿を消した。
2人が一瞬の出来事に思考が追い付いていないその時、激しい爆発と共に火の手が上がる。
この時、まさかの展開が起きていた。
実は坂道が始まってすぐの場所、公園横に交差点があり、碧たちが横切った側の道路には、急こう配の坂がそびえていたのだ。
そこを、先回せんと向かっていた1台のメルセデスが、猛スピードでジャンプ!
勢いそのままに、セレステを追いかけていたGクラスの側面に、思いっきり突っ込んだのだ。
Gクラスはそのまま横転。 突っ込んだメルセデスは道路へ真っ逆さまに叩きつけられた直後、大爆発を起こしたという訳である。
いわずもがな後続車も、この様子に驚き急ブレーキ。 2台、3台と立て続けに衝突していく。
これで心斎橋から追いかけ続けていたメルセデス軍団を、ようやく蹴散らしたことになるのだが、安心するのはまだ早い。
ここは教団が占拠した駅周辺。 仲間がどれだけいるのか想像がつかない。
セレステは左折し、松屋町筋に入る。
谷町筋と並行するように走る4車線道路で、北から南に一方通行で走っているのが特徴だ。
ドリフトしながら大通りに戻ったセレステを背後で待ち構えていたのは、これまた2台のメルセデスベンツ。
天満橋駅を制圧した部隊のものだろう。
オレンジ色のセレステを確認すると、ヘッドライトを光らせゆっくりと追いかけ始めた。
「クソっ! ゴキブリみたいにうじゃうじゃと……」
「碧っ! 前っ!!」
バックミラーに気を取られていた碧は、澪の声で我に返り目を向けた。
この道路は先ほども言った通り、一方通行。
そこを逆走する白い壁が迫っていたのだ。
4車線をふさぐ、Gクラスの大きなボディ。
その前を陣取るは、白いフェラーリ F8 トリブート。
もちろん、あの男の車だ。
「万念っ!」
ゆっくり迫る車列に、前を走る一般車はクラクションを鳴らす。
しかし、避ける事も止まることもない。
一列に並んで迫ってくる。
遂に一般車は両端に寄り、ドライバーは車を乗り捨てた。
そこへGクラスが一切の躊躇なく激突。 壊れた車を歩道へと押しのける。
「狂ってやがる! クソっ!」
碧がパッシングをしても、フェラーリ一同、避ける気はないようだ。
彼女はギアを入れ替え、内本町二丁目交差点をドリフトしながら右折、本町通に入った、
そのとたん、フェラーリとGクラスの様子が激変。
万念はアクセルを全開にして交差点を左折。 セレステをバンパーが接触するギリギリまで、後ろから一気に追いかける。
更に待ち受けていたと言わんばかりに、東横堀川に架かる本町橋、それを渡った先の交差点を、一台のGクラスが塞いでいた。
銃でも乱射したのだろう。 窓ガラスがハチの巣になり、乗り捨てられたタクシーやワゴン車が封鎖に加勢している有様だ。
「最悪だ、追いつめられてる!」
仕方なく本町橋を渡り、交差点を右折。 小さな工場や卸問屋のビルが並ぶ箒屋町筋に、逆走する形で入った。
大阪の通りは、一方通行が多い。
万念のフェラーリは、相変わらず後ろをついてくるが、どういったわけか、交差点で見せた迫力を一瞬で無くしてしまっている。
どういうことだ?
そして案の定、逃げ込んだ路地の先でも、別のGクラスが一台、道をふさいでいる。
逃げ道は、次の交差点しかない。
右折し、平野橋に差し掛かった時だ。
碧は、ここで初めてブレーキを踏み、セレステを止めた。
「どうしたの?」
澪が聞くと、碧は静かに悪態をつく。
「Damn it !! そういうことだったか!」




