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天使突抜ッ! ~可憐な運び屋の危険な日常~  作者: JUNA
mission1: 最強最速の天使 ~コトリバコを輸送せよ!~
22/95

22, 絶体絶命

 コンクリートに重圧な音を反射させ、碧の目の前に姿を現したマシン。

 白いフェラーリ F8 トリブート。

 彼女らが瑞奉寺で見かけた、あのスーパーカーだ。

 通路を走り、ハイエースの鼻先で静かに停車すると、運転席からこれまた、先ほど寺で見かけた、若い短髪の僧侶が降りてきたではないか。


 「教祖様、お車をお持ち致しました」

 「ご苦労でした、秀陰しゅういん

  天満橋の方は、どうなっています?」


 そう、名前を呼ばれた僧は、フェラーリに近づいた彼の質問に答える。

 ハンドガンを握る右腕には、シルバーの腕時計が輝いていた。

 デザインからしてクロノマスター。 60万円以上する代物だ。

 

 他の仲間の腕も見ると、高そうな腕時計が、ベンツのヘッドライトでギラギラと輝いていた。

 かくいう万念も、背広のポケットから腕時計を取り出すと、涼しい顔をして左腕に巻き付ける。

 グリーンセラミック製の回転ベゼルに、プラチナをコーティングした目盛り、夜光塗料を配合した文字盤のドットインデックス。

 

 碧は、心の中で叫ぶ。

 「アレはロレックスのグリーンサブマリーナ・デイト!?

  軽く80万は超える、高級腕時計だ。 ここにある車といい、こいつら……」


 「地下エリアはゾディアックによって、既に制圧済みです。

  警備員も催眠ガスで眠らせていますから、通報される心配もありません。

  あとは、この車を駅に運び込めば、カタストロフィはもう成功したも同然ですよ」

 「よくやりました。 いい徳を積みましたね」

 「ありがとうございます。 教祖様」


 頬を赤らめ嬉しがる彼を、万念は優しいまなざしで見下ろし、頭を撫でまわすが、感動もへったくれもありはしない。

 腕を組み、ハイエースにもたれかかりながら、碧は2人の会話に割って入った。


 「ふぅん、そのフェラーリ、アンタのだったんだ」

 「そうです。 いい車でしょう」

 「ええ、それは認めますよ。

  でもフェラーリといい、アンタたち、羽振りがいいみたいだねぇ。

  そこの秀陰ってやつがしてる腕時計見れば分かるよ」


 彼女に指をさされ、秀陰は腕時計を嫌そうに、片手で隠した。


 「軽く百万以上はする、ゼニスのクロノマスター オープン。

  そんなもん身に着けてるってことは、相当な金額を信者から巻き上げてると見たけど?」

 「それ以上喋るなら、本当に地獄へ送りますよ」

 「万念、アンタもかい? スキューバって趣味の顔をしていないのに、サブマリンモデルとはねぇ。

  フェラーリにロレックス、いかにもな成金で吹き出しそう」

 「黙れって、言ってんだよ」


 万念が静かにキレた。

 銃を碧に、再度向けながら。


 「オーケー、オーケー、黙っとくわ」


 すると、秀陰がツカツカと早足で駆け寄ると ――。


 「がはっ!」


 碧の両肩をつかみ、その華奢な腹に一発、強烈な膝蹴りをかましたのだ。

 その衝撃は、もたれかかっていたハイエースも一緒に揺れるほど。

 下腹部を駆け抜ける激痛に、碧は思わずその場に倒れこみ、腹を抱えてえづいた。


 「教祖様にナメた口を利くんじゃない。 このアバズレが!」

 「こいつ……っ!」


 続く暴言。

 さすがの碧も、キレる寸前であったが、見下ろす秀陰の顔を、睨み返すことで、自分の中で噴き出しそうな感情を、なんとか抑えるのだった。

 この状況で暴走すれば、周りにいる幹部たちに撃たれかねない。

 汚物を見るような目で碧を見る秀陰の肩を、万念は優しくたたき語りかけた。


 「秀陰、およしなさい。 私は何も気にしておりませんから。

  それに、今ので爆弾が爆発したらどうするのです?」

 「申し訳ございません。 教祖様」

 「時間がありません。 防水シートの用意を大至急お願いしますね」

 「承知致しました」


 深々と頭を下げ、他の幹部へ指示を出しに行った秀陰を見送りながら、碧もようやく立ち上がった。

 息を整え、ハイエースのバンパーにしがみつきながら。

 

 「防水シート?」

 「そうです。 コンクリートにあなたの血が、染み込まないようにするためです」

 「どうあがいても、私は殺されるって訳か」

 「ご心配なさらず。 相棒も我々が見つけ出して、同じ場所に送り届けてあげますから。

  いや、送り届けるなど、運送屋の神崎碧に投げかける言葉ではありませんね。 失敬失敬」


 うすら笑いを浮かべる万念に、碧のイラつきは最高潮に達しつつある。

 その右手に銃さえなければ――。

 

 そんなことを考えているうちに、ハイエースから少し離れた駐車スペースに、教団幹部たちがブルーシートを隙間なく敷き詰め始めた。

 メルセデスのトランクから取り出したそれを、一糸乱れぬ連係プレーで広げて、並べて。


 「さあ、中央へ」


  車6台分のスペースに広がった、真っ青な空間。

 銃で脅された碧は、くるりと万念に背を向けた。

 ハイエースを取り囲んだメルセデスの間を抜け、幹部に見送られながら、防水シートの上を音を立てて歩く。

 

 「こっちを向いてください。 小細工はナシですよ」


 防水シートの真ん中で立ち止まった彼女は、ゆっくりと時間を稼ぐように振り向いた。

 恐怖に涙することも、怒りに顔をゆがませることもなく、唇を甘く噛み、湿らせながら冷静に。

 一方の万念は、シートの淵まで進み、右腕を伸ばして碧の脳天に銃の照準を合わせる。



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