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天使突抜ッ! ~可憐な運び屋の危険な日常~  作者: JUNA
mission1: 最強最速の天使 ~コトリバコを輸送せよ!~
18/95

18, 荷物の正体

突然のことに、万念は目を開いて驚きをあらわにした。

 茶番とは、どういうことか。

 もう、これは万念という人物のお家芸だろう。

 優しい顔で、はにかむ。


 「なにを仰っているのか――」


 碧は聞く耳を持たない。 持つ理由もない。


 「万念さん。 いい加減、本当のコト教えてくれませんかねぇ?」

 「本当の?」


 とぼける万念に、彼女はストレートな質問をかました。


 「私はいったい、大阪まで何を運ばされたのか」


 一瞬狼狽した表情を浮かべたのち、はにかんだ笑いを浮かべた万念。

 碧の顔を見ながら、テンプレートな回答を。


 「ですから、うちの寺でお預かりしたコトリバコを――」

 「持ってきて死んだっていう例の檀家と、その事故とやらを調べさせてもらいました。

  確かに事故は起きていましたが、被害者の男性は、生まれも育ちも大阪。

  瑞奉寺どころか、島根とも何の関係のない人物でした。

  警察の調べによれば、その人、スマホ見ながら運転してたみたいで、それでコントロールを失ってトラックに突っ込んだそうですよ?

  近くを走っていたドラレコと、運転手が握っていたスマホの、SMSのやり取りから判明しています」

 「……」

 「まさか、そこまでするとは思ってなかったでしょ?

  コトリバコの呪いは、スマホか何かで見かけた、ただの事故をベースにした作り話。

  それが本当かどうか、短時間で全て調べられる人は、そうそういませんからねぇ。 なにせこの国では、年間30万件以上の交通事故が発生していますから」

 

 車も入ってこない未明の駐車場は、静けさに支配されている。

 そんな空間に停まるハイエースの車内も、またしかり。

 無表情無言で、彼は一切の反応を見せなくなった。


 「言いましたよね? 私たちに、嘘はつくな、って」

 

 口調は穏やかだが、その端々が鋭いのは馬鹿でも分かる。

 そう、万念は自分がしたことを分かっているのに、何も答えない。


 「もう一度聞きますよ。 私はいったい、何を運んでいたんですか?」

 「……」

 「だんまりですか。 ええ、わかりました」


 最後の弁解のチャンスもふいにした。

 ここからは、碧の攻勢だ。

 短くハァと息を吐き、一転、鋭い眼光を万念に向け、口調も変わる!


 「そんなに隠すなら万念、こっちから言ってあげる」

 「……」

 「嘘をついた時点で、契約はご破算だ。 もう、さん付けする義理も理由もない」

 

 身内で行っていた呼び捨てを、遂に本人にも行う。

 何かがとりついたかのように、万念は無表情の顔をゆっくりと、碧に向けた。

 気味悪さを抑えつつ、彼女は視線を逸らし、ハンドルにもたれかかりながら続ける。


 「この依頼を受けるにあたって示された、3つの条件。

  そのひとつ、寺が指定した輸送ルートを見て、何か違和感を感じたのが最初さ。

  ハイウェイを極力避けて、下道を通って運ぶというのは、呪物を乗せているという点である程度理解はできる。 緊急事態が起きた際に、対処しやすい。

  それでも最短ルートを取らず、なぜか遠回りするところがいくつかあった。

  奈良市内をぐるぐる走らされたのが、いい例だね。

  呪いの道具を運んでいるんなら、早く寺に送り届けた方が絶対にいいはず。 なのに、なぜ?」

 「……」


 ポケットから折りたたんだ地図を取り出し、片手で開くと、それを万念の膝の上に放り投げる。


 「答えはすぐに分かったよ。

  この地図には2つの情報が隠されていたんだ。

  瑞奉寺が指定してきたルート。 これは最近工事で新しく舗装された道を通り、なおかつ、規模の大きい警察署や、検問がよく行われる場所を巧みにかわしている。

  気持ち悪いくらい、綺麗に。

  じゃあ、どうしてここまで舗装された道と、警察を避けることにこだわるのか」


 地図を置いたままの彼を見ることなく、ひとり推理ショーは続く。


 「そこに、もうひとつの条件― “寺の用意した車で運ぶこと” と、出発前にアンタが言った “コトリバコに衝撃を与える無理な運転はしないこと”が重なれば、荷物の本当の正体はおのずと見えてくる」

 「……」

 「今夜寺に着いて車を見た時に、この予感は確証に変わったよ。

  なぜか、後輪が沈んでいたんだ。

  トヨタ ハイエースの積載量は、約1トン。

  噂通り、コトリバコの中身が血と子供の一部で満たされていたとしても、そんなに重たくはならないはず。

  最も、そんなもんが数十と積まれてれば話は別だけど、んなことありえない。

  人か獣でも乗ってる可能性も考えたけど、仕切り越しに気配は感じなかった」

 

 ここまで言っても彼は黙ったまま。

 すべてを畳みかける!

 碧は、男をのぞき込むように、荷の正体を当てに行く。


 「この車に積んでるのは爆弾。

  いや、コイツそのものが、大きな自動車爆弾とでも言った方が正しいかな」

 「……」

 「あと2, 3時間もすれば、街が動き出す。

  心斎橋から船場、淀屋橋を経て、梅田に至る大阪市北部の御堂筋周辺は、関西有数のオフィス街が集中している。

  それに大阪城の北側には、ビジネスパークを構成する高層ビル群。

  通勤ラッシュのピークを狙ってコイツを爆破すれば、想像を絶する被害になるでしょうね」


 彼女の言うように、自動車爆弾の威力はすさまじいものがある。

 1993年2月26日、ニューヨークの世界貿易センタービル地下駐車場で、イスラム過激派が仕掛けた自動車爆弾が炸裂。

 車に積まれた爆薬の量は600㎏。

 地下4階層が吹き飛び、6人の死者と1000人近い重軽傷者を出す大惨事となった。

 その一方、テロリストに資金がなく用意できた爆薬が少量だったため、これだけの被害で収まった、とも言われている。


 ニューヨークと同じか、それ以上の被害になるのは火を見るよりも明らか。


 「アンタは僧侶なんかじゃない!

  瑞奉寺と繋がってる、有珠雅教の人間だ!

  教祖の説く天井からの裁きを具現化するために、この爆弾でテロを起こす。 違う?」

 「……」


 ここまで詰めても、万念はなにも口を開かないどころか、表情すら変えない。

 マネキンのように。

 苛立ちも最大限に達し、渋滞のお返しと言わんばかりに、碧は大声をあげる。


 「どうなの…… はっきり言いなさいっ!」


 刹那。


 「……っ!!」


 今度は万念が碧の腕をつかみ、腹に何かを押し当てた。

 冷たく無機質な感覚。

 もしや。

 そう思い、視線を下に向けた時には、時すでに遅し。

 彼の右手には、拳銃が握られていたからだ。


 「ご名答。私は有珠雅教の幹部。 寺の副住職ではありません」

 

 

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