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天使突抜ッ! ~可憐な運び屋の危険な日常~  作者: JUNA
mission1: 最強最速の天使 ~コトリバコを輸送せよ!~
17/95

17, 大阪へ、そして……


 ―― あれから1時間ほど経ったか。

 渋滞は完全に消え、車の流れがスムーズになっていた。

 山側からは、鷹村警部の情報が本当だと言わんばかりに、パトカー2台に先導されたキャリアカーが降りてくる。

 荷台に、屋根がベコベコに潰れた軽自動車、スズキ ワゴンRを載せて。


 碧は目をつぶり仮眠を、万念はコンビニで買った夜食を、それぞれ取りながら渋滞解消の時を待っていた。


 「そういえば、万念さん」

 「はい」


 唐突に、碧が万念に話しかける。

 丁度、ゴミを捨てて戻ってきたところだった。


 「好きなテレビ番組とかって、あります?」

 「そうですねぇ…… ドラマ、とかはよく見ます」

 「アクション系とか?」

 「いえ、人間ものがメインですよ。 恋愛ものとか、政治ものとか」

 「特撮系は見ないんですか? たとえば……ウルトラマンとか」


 なんの意図がある質問なんだ。

 万念は訝しみながらも、シートベルトをしながら答えた。


 「確かに子供のころはよく見ていましたが、今は、そういうのは……」

 「そうですか」


 とは言うものの、時刻を確認する彼の手元のスマホ画面をチラリと見て、その言葉が嘘であることを確信する。

 ウルトラマンの壁紙。 それも最新作の。

 マニアなのは間違いない。

 ただ、それが一体なんだというのか。 その答え合わせは暫く待ってほしい。


 「では、渋滞も消えたようですし、行きましょうか」

 

 そう言って、碧は椅子を元に戻し、ハイエースのエンジンを始動。 

 同時に、キシリトールガムを口に一枚放り込んで、アクセルを踏み込んだ。

 時刻は午前3時。

 車は再び、国道168号線に戻り、山を縫うバイパスを北上していく。


 人家が少なくなってくると、国道はトンネルを抜け、山肌と川に囲まれた、カーブの連続する道へと姿を変える。

 ヘッドライトだけが、唯一の頼りだが、道路は逆に走りやすかった。

 どうやら少し前に、整備が終わったようで、アスファルトの色が、反対車線と明らかに違った。


 「そういえば……」


 碧には、不思議に感じていたことがあった。

 今まで走ってきた道路、その全てが工事され、真新しい舗装が施された道ばかり。

 偶然なのか、それとも。


 などと考えていると、車は山を抜け、ようやく大阪府交野市に入った。

 木々の代わりに、家やビルが沿道に増えていく。

 JR学研都市線の踏切を超えれば、遂に高架道路が目の前に姿を現す。


 第二京阪道路。

 国道1号線の上を、並走するように伸びている。

 ここも指示通り、私部西きさべにし交差点を曲がり、交野南インターへ。

 京都田辺ぶりの、自動車専用道だ。

 アクセルを踏み込み、速度を上げる。

 

 あとは、門真市、松原市と、大阪南部の各ジャンクションを経て、藤井寺インターを降りれば、河内長野まで一直線。

 そう難しいルートじゃあない。


 大型トラックに交じって、ハイエースが未明の自動車道を駆け抜ける。

 夜は心なしか、その漆黒を薄め始めているようにも見えた。


 寝屋川市を抜け、門真ジャンクションで近畿自動車道へと入る。

 ここから一気に交通量が多くなった。

 大阪市外を南北に結ぶ高速道路だ。 大型トラックがいやに目立つ。

 料金所を抜け、本線に合流した時だ。


 「次の東大阪ジャンクションで、阪神高速13号線に入ってください」


 無言の車内で、突然万念が指示を出してきた。

 彼の言う道路は、東西に走る高速道路。

 大阪市内を突っ切る。

 

 「13号線? 大阪城の方に行っちゃいますよ?」


 碧は間違いじゃないのか、と聞き返したが、万念が彼女の顔を見ることはなかった。

 

 「指示に従ってください」

 「分かりました」


 先ほどのように癇癪は起こさなかったが、声に起伏が無いのが不気味。

 仕事の条件だ。 ジャンクションの標識が見えてきたところで、碧はウィンカーを出し、近畿自動車道の本線から外れた。

 東大阪市役所のタワーの足元に広がる大きなジャンクション。

 これをぐるりと回って、言われた通り、阪神高速13号線へ。

 

 沿道の景色が一気に都会へと様変わり。

 あいにく、大阪城は見えないが、高層ビルの何本かが、防音壁の向こう側から顔をのぞかせる。


 「次の森ノ宮で、高速を降りてください」

 「その先の交差点をまっすぐ」

 「ここを左折してください。 それから、2つ先を右折」


 大阪市内に降り立ったとたん、万念の注文は増えていくばかりだ。

 もう、指定ルートもへったくれもない。

 言うがまま、碧の運転するハイエースは、まだ眠り続ける大阪のビジネス街を走り続けた。


 「ここに、はいってください」


 最後の指示は、長堀ながほり通を走行中。

 この道路はかつて、天下の台所と呼ばれた古の大阪を支えた、川のひとつをつぶして作られた、かなり幅の広い道路だ。

 巨大な中央分離帯の中に姿を現した、地下駐車場の入り口を、万念は指さす。


 大阪市営長堀通地下駐車場。

 御堂筋と堺筋の間、6ブロックにまたがる三層構造の巨大なパーキング。

 同じ地下を、大阪メトロ心斎橋駅と地下街 クリスタ長堀が共有している。

 

 ハイエースは地下へと延びる長い下り坂を走り、駐車場に入ると、これまた万念の指示で地下3階の駐車エリアへと向かうことに。

 年中無休で、ミナミの繁華街が近いということもあるのだろう。

 早朝4時近くでも、ミニバンから高級外車まで、車が何台か停まっていた。

 

 「中央の、吹き抜けになっている駐車エリアに車を止めてください」


 彼の言う通り、周囲に車が一台も止まっていない、大きく開けたスペースが眼前に見えてきた。

 そこにハイエースを頭から突っ込ませ駐車、エンジン停止。

 今日2度目の、イレギュラーな停車を余儀なくされたのであった。

 それを指示した本人は、急ぐようにシートベルトを取り外し、早口で言い放った。


 「コトリバコから異常な霊気が出ています。

  おそらく分からないと思いますが、かなり危険です。

  難波に、私の知り合いのお寺がありますので、今から応援を呼んできます。

  神崎さんは、車の中で待機していてください」


 刹那!


 「!?」


 ドアを開けるより早く、左腕をガッと強く掴む感触があった。

 万念の顔をしっかりと見据え、碧は彼の腕をしっかり捉えて離さない。

 その目は、何もかもお見通しだ、と言わんばかりに冴えわたっていた。


 「もういいですよ、万念さん……茶番は、よしましょう」

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