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天使突抜ッ! ~可憐な運び屋の危険な日常~  作者: JUNA
mission1: 最強最速の天使 ~コトリバコを輸送せよ!~
16/95

16, 渋滞


 “コトリバコ”を積んだハイエースは、順調にルート上を走り続けていた。

 田辺西インターで、一般道からバイパスに入ると、アクセルを少し倒して加速。

 自動車専用道を走り抜けるが、すぐに精華学研インターの案内が見えてきて、車を減速させた。


 精華台せいかだいは京都府と奈良県の境目に位置するニュータウン。

 大手企業のラボラトリーや、国会図書館の関西分院もある、文字通りの学研都市だ。


 ここからはまた、一般道だが、あらゆる道を迷走といっていいほど、めちゃくちゃに走らされる。

 学研都市を抜けて南下、ようやく県境を超え、奈良市内へと入ったかと思えば、私立奈良大学前の道路を走り、交差点を左折。

 近鉄京都線と並走して北上し、再び京都府へ。

 右手に、県境が店内を走ってることで有名なショッピングモールが見えてくる。


 「いつになったら、奈良に入れるんだ」

 

 指定ルート以外は走れない。

 仕事を引き受ける条件なのだ、仕方ない。

 

 ようやく奈良市中心部へと入ったと思えば、今度は平城宮跡へいじょうきゅうせきのまわりを走らされる。

 それが終われば、次は東大寺付近。

 近鉄奈良駅前の行基ぎょうき像を横目に見たところで、住宅街の中を縫うように走り、菖蒲池あやめいけ、学園前と。

 30分かけて奈良北部を縦断し、車はようやく生駒市内へと入った。

 西にそびえる生駒山を超えれば、大阪はすぐ先だが、指示されたルート通り、碧は山に沿って北上する。


 竜田川を渡り、国道168号を走り続ければ、すぐに奈良を超え、大阪府交野(かたの)市に出る――はずだ。


 「……ん~」

 

 万念がゆっくりと目を覚ました。

 背もたれをそのままに起き上がると、細めた目で車のナビを見る。

 時刻は午前1時50分。

 

 片側二車線の道路はなぜか、混雑していた。

 テールランプを浴びて動かない様子を見た途端、万念の顔は《《真っ赤》》なのに青ざめていく。


 「あ、起きました?」

 

 横には涼しい顔をしてハンドルを握る、碧の姿。

 

 「事故でもあったんですかね?

  10分くらい、この調子なんですよ~。

  これは、ちょっと別のルート取った方がいい気がするんですけど……どうします?」

 

 ほがらかに質問を投げた彼女に対し、万念は冷や汗を流しながら言った。


 「本当に、なんで渋滞しているのか、分からないんですか?」

 「ハイウェイラジオでもあればいいんですけど、生憎そんなもんは一般道にありませんからねぇ。

  ナビも、渋滞してるって表示しか出ませんし」


 すると声を震わせた万念。


 「この少し先に、コンビニがあります。

  そこに入って、渋滞が無くなるまで待機してください」

 「え? でも――」

 「さっさと、指示にしたがえっ!!」


 今まで見たことが無い、凄まじい剣幕で万念は怒鳴った。

 歯をむき出しに、目をぎらつかせたその姿は、テールランプで照らされてるからか、悪魔のそれに近かった。

 仏に仕える身分とは、到底思えない顔。

 

 碧も、その気迫に驚いてしまう。


 「わ、わかり……ました……」


 車は流れに乗り、三つの交差点が融合する南田原町交差点に差し掛かる。

 彼の言う通り、交差点のすぐ横にコンビニがあった。

 かなり大きい駐車場で、普通車以外に大型トラックが2台。

 運転席にカーテンを閉じて、仮眠を取っていた。


 このコンビニを分岐点に、住宅街を直進する国道と、山側へ右折するバイパスとに分かれる。

 渋滞はバイパス側。

 小型車や中型トラックは、そちらへと流れているのだが、万念はどういう訳か、この場所で沈黙するように指示を出したのだ。

 

 仕事の条件のひとつ、ルートは寺院関係者の指示に従う。

 と、なれば仕方あるまい。


 「この辺に停めますね」 


 コンビニから少し離れた駐車スペースに、ハイエースを止めると、碧はエンジンを切り大きく息を吐いた。

 つかの間の休息だ。

 一方で万念は、頭を抱えながらスマートフォンを取り出し、電話をかけながら車外へと飛び出した。


 大きく身振りを交えて、なにか話しているようだが、運転席からでは聞こえない。

 おまけに薄暗い夜空の下では、唇の動きもよく見えない。


 あの態度はいったい、否、やっぱり。


 碧はイヤホンマイクのスイッチを入れ、独り言のように話し始めた。


 「こちら碧、現在、南田原町みなみたわらまち交差点のセブンイレブン」


 ゆっくりと座席にもたれかかり、前を見ながら。

 生憎、持ってきたコーヒーは、全て飲み切ってしまった。

 ガムはあるが、噛む気にはなれない。

 

 「この渋滞はなんです? 10分前に切り上げて結構ですって……違法改造の車が暴走して横転? 乗ってた少年が重傷?

  そいつはまた、どでかいイレギュラーですねぇ……で、後片付けは?」


 相手の話を聞きながらも、万念を目で追う碧。

 電話を終えたみたいだが、今度は別の相手にかけているようだ。


 「そうです。 このコンビニで渋滞が終わるまでいろって……すごい剣幕でしたよ。 私までブルっちまいそうなほど。

  大阪府警の方は、大丈夫なんですね? ……澪ですか? 順調に行ってれば、もう……」


 イヤホンマイクの相手は、相棒ではない?

 では、誰が?


 「心配いりませんよ、鷹村警部。 この渋滞だけ取り除いてもらえれば、後は順調に行きますから。

  証拠物件も、こうして私の背中にありますし。

  ……それと念を押しますが、予言通りに連中は事を運ぶはずです。 標的となるエリアから、すぐに市民を避難させられるよう、それだけは万全に準備してくださいね……それでは」


 通話を終えると、同時に万念も何度か深呼吸をして、車に戻ってきた。

 助手席のドアを開けると、あの穏やかな顔。


 「先ほどは怒鳴ってしまい、申し訳ございません。

  縁納寺に、夜明け前までに到着できないかもしれないと、連絡を入れておきました」

 「別に、どうってことないですよ」

 「なにか飲み物でも買ってきましょうか? ホットコーヒーでも」

 「いえ、ガムがありますから。 お気遣いありがとうございます」

 

 正直、なにか飲みたいのは確かだった。

 が、碧はもう、万念を信用できない。

 仏の表情すら、嘘っぽい。

 もし、彼がコンビニで買ったものに何かを混ぜられたら……。

 車を離れたすきに、運転席に細工されたら……。


 自分を守るため、彼女は車の中にとどまることを決めたのだった。

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