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天使突抜ッ! ~可憐な運び屋の危険な日常~  作者: JUNA
mission1: 最強最速の天使 ~コトリバコを輸送せよ!~
14/95

14, 輸送当夜

 PM11:49

 京都市 梅ケ畑地区

 瑞奉寺


 今宵は、百鬼夜行でも巻き起こりそうなほど、月明かりが綺麗な夜だ。

 瑞奉寺へと向かう山道を走るのは、赤のフォード エクスプローラー。

 碧が一人、音楽をかけることもなく、無言でハンドルを握っていた。


 街灯もなく、薄暗い中に浮かび上がる、瑞奉寺の瓦屋根。

 昨日来た時よりも妖しく、そして鳥肌の立つ感覚を碧は覚えた。

 この寺が、カルト宗教の持ち物であると知ったから、というのも理由ではあるが。


 駐車場に入ると、松明が焚かれ、白いバンの周囲を6人の若い僧侶が取り囲んでいた。

 全員手を合わせ目をつぶり、南無阿弥陀仏と唱えている。

 そして万念が出迎えているのだが、何故か、昨日いたフェラーリの姿は無い。


 「まさか、あのフェラーリ本当に檀家の車だった……のか?」


 独り言をつぶやきながら、停車したフォードから碧は降り、万念の元へと歩み寄る。


 「こんばんは、万念さん。 天使運輸の神崎です」


 万念はあった時のように、合掌してあいさつすることもなく、いきなり切り出した。


 「同僚の彼女は、どうなさったんですか?」

 「夕方に飛び込みの仕事が入りましてね、朝倉はそっちの方へ」

 「他の仕事……ですか?」


 万念が何故か、残念そうな声を浮かべる。

 碧はポーカーフェイスを決めつつも、目の前の男に背筋が凍った。

 松明で彼の顔半分が浮かび上がるが、声とは裏腹に目は据わり、能面のように表情が無い。

 この男、何を考えている?


 「ウチも零細企業なのでねぇ。 こういうイレギュラーは、よくあることなんです。

  でも、ご心配なく。 ルートは頭に叩き込んでいますので、私一人でもコトリバコを大阪まで運べます」

 「……」


 なにも答えない。

 碧も、揺さぶりをかけた。


 「それとも、私の相棒に、なにか御用でもあるんですか?

  お坊さんにこんなこと言うのは、いささか罰当たりでしょうが……澪に手出したら、マジ、殺しますよ?」

 「……」


 パチパチと松明の燃えはじける音だけが聞こえる夜空の下で、両者は互いに睨みあう。

 人間ではない、獣の眼で。

 ――先に折れたのは、万念だった。


 「やましい事なんてありませんよ。

  ただ、運んでいただくのは、とても危険な呪物。

  朝倉さんもいれば、何かあった時に対処しやすいのではないか、と思ったまでです」


 声のトーンも、昨日であった時の優しいものへと変わっていた。

 碧も、フッと笑って口を開く。


 「そのお気持ちだけ、受け取らせていただきますよ。

  ……さて、世間話はこれくらいにして、用意した輸送車というのを見せていただけますでしょうか?」

 「かしこまりました。 どうぞ」


 万念に案内されて、先ほど見たバンへと歩いていく。

 車を囲んでいた僧侶たちは、万念の姿を見るとお辞儀をし、山門をくぐって本堂へと行ってしまった。


 「先ほどまで、うちの若い僧侶たちが封印の経をあげていたんですよ。

  ですが、コトリバコを積んでいる後部ドアだけは決して開けないでください。

  昨日もお伝えした通り、封印はあくまで、仮の状態ですから」

 「わかりました」


 ありきたりな国産車のバン。

 碧はすぐさま、車名を言い当てた。

 

 「トヨタ ハイエース、か」

 

 瑞奉寺が用意したのは、後部側面やドアに窓のない商用車タイプで、偽装のためだろう、“有限会社 KT・インターナショナル”というステッカーが貼られていた。

 また、運転席と荷台も、一枚の鉄板で仕切られている。

 積み荷の“コトリバコ”が、全く見えないようになっていた。

 

 「怪しまれないよう、社用車を装いました。

  もっとも、どこにも存在しない架空の会社ですけどね」

 「ま、誰も車に書いてある会社名とか電話番号が、全くのでたらめなんて、思いませんからねぇ」

 「知り合いの整備工場で、メンテナンスも一応済ませてあります。

  確認しますか?」

 「是非とも」

 

 碧は、万念から車のキーを受け取ると、運転席に乗り込み、エンジンをかける。

 空ぶかししても、異常はないようだ。

 更に、ライトを点灯させると一旦降りて、車の周囲をゆっくりと見て回った。

 目で見てわかる整備不良などが、無いかどうかを見るために。


 「……」


 こっちも―― 異常はないようだ。


 「車の確認もできました。

  現在、午前0時2分。 注文通り、午前0時13分に瑞奉寺を出発いたします。

  よろしいですね?」

 「かしこまりました。 よろしくお願いいたします」


 合掌し、お辞儀をした万念。

 すると碧は、唐突に、こんなことを言い出した。


 「どうです、万念さん?

  助手席が空いていますし、一緒に千早縁納寺まで行きませんか?」

 「は、はい!?」


 いきなりの事に、万念は声をうわずらせた。


 「コトリバコの封印は、まだ仮なのでしょ?

  それに万が一があった時、他の人や車を巻き込みかねない。 そう言いましたよね?

  でしたら、これを誰よりも長く取り扱って、封印もした、あなたが一緒に乗っていれば、トラブルが起きた時も対処しやすいと思うのですが。

  もちろん、これは強制ではありません……どうでしょう?」


 さあ、万念はどう出るか。

 その声なら、うろたえ、なにか御託を並べるのが、よくある展開だ。

 しかし、万念はゆっくりとお辞儀をした。


 「ありがとうございます」

 「へ?」

 「確かに、封印した私が全責任を持つというのが筋であります。

  神崎さんのお仕事の邪魔にならないのでしたら、是非」

 「え、ええ……」


 拍子抜けしてしまった。

 彼は絶対に乗らないと、碧は思っていた。

 この車に感じた “アレ”の違和感のせいで。


 「袈裟のままでは怪しまれますので、すぐに着替えてきますね」


 万念はそう言って、急ぎ足で山門の中へと消えていく。

 あとに残されたのは、頭を掻きながらハイエースを眺める碧だけであった。


 「わっかんねぇなぁ……ま、いいや」


 大きく息を吐き、碧はキリッと顔を引きしめた。

 耳にイヤホンマイクを装着して。


 「こちら碧。 準備完了。

  輸送品目、コトリバコ。

  目的地、大阪府河内長野市。

  これより、コンボイ・ミッションを開始します」

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