5話 謎の2人
エレイシアと別れた後、一人の女性が近づいてきた。
彼女は、オーロラ・グランヴィル公女だ……。
グランヴィル公爵家は、先代皇帝陛下の姪に当たる家系だ。
今でも権力のある公爵家だから、気を付けなければいけない……。
極力話したくない相手だなと思う。
「ご機嫌好う、アルセナーリナ嬢。あら? 珍しいですわね。貴女がお一人でいるだなんて……」
「ご機嫌好う……公女様、いつも誰かと居るという訳ではございませんわ」
「そうですか……今日は、ダンスを踊りませんの? いつも、貴女とスザク公子のダンスを楽しみにしておりましたのに……」
彼女が、私とスザクのダンスを楽しみにしているだなんて嘘だろう……。
公女は、スザクに好意を寄せているようだ。
彼の幼馴染である私を良く思っていないのは明白ね。
「まぁ……! 公女様が、そのように仰ってくださるだなんてとても光栄ですわ。ですが、今日は残念ながらスザク公子の体調が優れないようです……」
「あら……そうでしたか。ですが、体調が優れないだなんて心配ですわね……ところで、アルセナーリナ嬢。貴方は、スザク公子以外の男性とは踊られないのですか?」
「え? いえ、そんな事ありませんわ。誘われれば踊りますよ?」
「そうですか……なら、あちらの男性に応えてあげたらどうです? 先程、アルセナーリナ嬢にダンスを申し込みたいと仰っておりましたわよ? 今も貴女のことをちらちらと盗みみているようですわ」
「そうですね……申し込まれたら受けますわ。ですが、今はダンスを踊りたい気分ではありませんの」
「まぁ! 貴女は、気分が乗らなければ踊って差し上げないのね? それは、流石に失礼ではなくて? 男性に恥を欠かせるというのは、レディにあるまじき行為ですわ……」
「……ご指摘ありがとうございます……公女様の御言葉は肝に銘じておきますわ」
まだ、申し込まれてすらいないのにそのような事を言われても困る。
本当に私にダンスを申し込みたいと言っていたのかすら確かではない。
はぁ……。
ただ単に、嫌味を言いたいだけなのかもしれない……。
「……公女様に指摘させてしまうだなんて……浅慮な私をお許しください。……頭を冷やしたいので、バルコニーに行ってきても宜しいでしょうか? そこで、公女様のご指摘を反芻させていただきたいですわ……」
「ええ、その方が宜しいかと思いますわ。では、失礼!」
久しぶりに、嫌味を言われた……。
今の会話で、どっと疲れが押し寄せてきた。
エレイシア・アスターと話せたのは良いとして、グランヴィル公女との会話は無駄な労力を使わされうんざりする……。
公女に言った手前、本当に行かないと不味いためバルコニーへ出てみた。
そこには、二人の男性の先客がおりなにやら深刻そうに話しているようだった。
構わずにその場に居座ると男性が話しかけて来た。
「やぁ、レディ。君も夜風に辺りに来たのかい?」
突然、二人のうちの一人……銀髪の男性が話しかけて来た。
「はい。ところで貴方は?」
会話などするつもりなど無かったが話しかけられてしまった為、相手に名乗らせる権利はある。
「私はダリウ……」
銀髪の男性が名乗り終えないうちに、突然明るい茶色の髪の男性が会話に割り込んできた。
「ご挨拶遅れてしまい申し訳ありません! 彼はダリウ・スぺンシーです。ダリウ、話し掛けるのであれば先に名乗らなければなりませんよ! そして私もスぺンシー男爵家のポクターと申します! お初にお目に掛かりますね。レディ」
スペンシー男爵といったら超ど田舎の貴族だ。
そんな家紋まで、シュタイン公爵は招待したのかと驚嘆する。
「いえ、ご挨拶ありがとうございます。私はアルセナーリナ伯爵家のフィオーレと申します」
「アルセナーリナ伯爵令嬢ですか!? 先程のダリウの無礼をお許しください」
ポクターは明るくそう謝罪をした。
言葉では、謝っていたが態度の伴わないものであった。
男爵家では、あまりマナーを教えないという噂を聞いた事がある。
それは、真実であったのかもしれない……。
「先程は、失礼しました。これも何かのご縁です。ダンスでも一緒に踊っていただけないですか?」
そんな中ダリウの方は全く懲りていないのかダンスの誘いをしてきた。
身分関係なしにこんな誘いを出来るだなんて、正直好感を持てる。
でも、確かに私は今回ダンスのパートナーが居ない。
断る理由もないが、他の男性と踊っていたら流石にスザクを傷付けてしまうかもしれない……。
でも、ここで誘いを受けたらマルエラへのアピールにもなるわね。
スザクに興味を持っていないふりをする、カモフラージュにはなる……。
「お誘いありがとうございます。私もパートナーを探していた所だったのですよ。喜んでお受けいたしますわ」
何か言いたげだったポクターは、全く聞き取れない声でダリウに耳打ちをしていた。
「……ありがとうございます! アルセナーリナ嬢と踊れるだなんて光栄です」
何かをポクターに耳打ちした後そう返事を返してきた。
「まぁ。そんな風に仰っていただけるだなんて嬉しいですわ」
そう言い二人で会場へ入っていく。
会場に戻ると、スザクが目を見開いてこちらを見てきていた。
スザクには、申し訳ないけれどこれもマルエラを欺く為なのよ……。
「ダンスは、久しぶり過ぎて……踊りには、自信がありませんわ。足を踏んでしまったらご容赦ください」
「そのような事……構いませんよ。レディをリードするのも男の役割なので」
音楽が始まると同時に踊り出したがステップがとても綺麗で本当に男爵家か疑う程だった。
家名を知らなければ皇子と言っても信じてしまうくらいの優雅さであった。
皇子といえば、この国は暗殺防止対策の『皇子・皇女保護法』により皇族は宮殿でパーティを開かないし参席もしないのだ。
皇帝陛下、皇后陛下の顔くらいは知っている……。
この法律は、とても奇妙だ。
皇子、皇女の名前は公開されているのに顔はシークレットなのだ。
親戚である公爵家の方々は、顔を知っているのだと思う。
という事は、スザクも知っている筈よね……。
でも、いくら彼にでもわざわざ皇族の顔を聞くのは不審だろう。
皇女と結婚したという人の話を前に本で読んだ事がある。
最初、出会った時には身分を偽っていたという……。
まぁ、公には皇族はパーティに参加しないというけれども実際は身分を偽って参加しているのでしょうね。
その彼も、パーティで初めて皇女と出会ったと書いてあった。
皇帝にならなかった息子や娘は、海外で婚姻するか公爵位を継ぐかの二択だ。
一般貴族は、そこで初めて皇子・皇女の顔を知れるという事になる。
スペンシー令息があまりにも優雅でこんな事を考えてしまったけれども、彼が皇子という可能性はとても低いだろう。
くだらない事を考えている暇があったら、ダンスに集中しよう。
違うことを考えながら踊るのは相手に失礼よね……。
そんな事を考えていたら、あっという間にダンスが終わってしまった。
「スペンシー令息ありがとうございました。とても素晴らしいダンスでしたわ。また機会がありましたら踊っていただきたいです」
「お褒めに預かり光栄ですよ。こちらこそ、機会があったらまた……」
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